第5条 条文
第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。
五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。
1 第5条の位置づけと構造
第5条は本法の取引適正化規定の中核をなす「禁止行為規定」である。第3条(明示義務)・第4条(支払期日)が「すべき義務」を課すのに対し、第5条は「してはならない行為」を列挙する。
条文は二層構造をとる。第1項(第1号〜第5号)は「フリーランスの責めに帰すべき事由がない」場合の5つの絶対的禁止行為を定める。第2項(第1号・第2号)は「フリーランスの利益を不当に害する」場合の2つの禁止行為を定める。合計7つの禁止行為となる。
適用対象:「1か月以上の業務委託」という期間要件
第5条は第3条・第4条とは異なり、適用に期間要件がある。第5条の禁止行為は、1か月以上の業務委託の場合(当該業務委託に係る契約の更新により1か月以上継続して行うこととなるものを含む)に適用される。
この「政令で定める期間」が1か月であることは施行令で確定している。1か月未満の単発業務委託には第5条は適用されないが、継続的に更新されて結果的に1か月以上になる場合は適用される。建設現場への一人親方の継続的な投入や、フリーランスエンジニアの月単位以上の稼働は当然に対象となる。
役務提供委託における特則
役務の提供委託(準委任型・SES型)の場合は、第1号(受領拒否)と第3号(返品)が適用除外となる(第1項括弧書き)。役務の提供は物品や成果物と異なり、提供された後に「受け取らない」「返す」という概念が観念しにくいためである。一方、報酬減額(第2号)・買いたたき(第4号)・購入利用強制(第5号)は役務提供委託にも適用される。
2 第1項第1号 受領拒否
条文の内容
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと」が禁止される。
解釈
受領拒否とは、フリーランスの責めに帰すべき理由がないのに、発注した物品等を納期までに受け取らないことをいう。納期を延期して受け取らなかったり、一部分だけ受け取らないことも受領拒否に該当する。
「受領を拒む」という行為には、納入物を物理的に受け取らないことのみならず、発注の取消しや納期の一方的な変更によって実質的に受け取れない状況を作り出すことも含まれる。
「フリーランスの責めに帰すべき理由」があるとして受領を拒否できるのは、①フリーランスの給付の内容が委託内容に適合しない場合や、②フリーランスの責任により納期遅れがあり不要になった場合である。例えば、発注事業者が発注日から1週間後であった納期を、発注日から2日後に一方的に変更して、フリーランスが短縮された納期に間に合わなかったことを理由に商品の受領を拒否するような場合は、受領拒否になる。
建設業・IT業界の実務例
建設業では、施主都合による工事の中断・工期延長を理由に、一人親方が施工した部分の確認・受領を引き延ばすケースがある。これは受領拒否に該当しうる。IT業界では、クライアント都合でプロジェクトが延期になり、納品直前のシステムを受け取らないケースも同様の問題を生じる。
3 第1項第2号 報酬の減額
条文の内容
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること」が禁止される。
解釈
報酬の減額とは、フリーランスの責めに帰すべき理由がないのに、発注時に決定した報酬を、発注後に減額することをいう。どんな名目であっても、発注時に定めた金額から差し引くことは減額に該当する。
発注時に定めた額から1円でも差し引けば減額になる。例えば、発注事業者(ゲーム開発会社)が、顧客(ゲームメーカー)の業績悪化により制作予算を削減されたことを理由に、フリーランスの報酬をあらかじめ定めた金額より引き下げて支払う場合は減額になる。フリーランスが同意していても違法となる点に注意が必要である。また、振込手数料をフリーランス負担とすることは、その旨を発注前に書面又は電磁的方法で合意し、振込手数料実費の範囲内で差し引く場合には適法であるが、合意なく差し引くのも減額に当たる。
この点は取適法(中小受託取引適正化法)の「減額の禁止」と共通する規律であり、フリーランスが合意した場合でも違法となるという点が重要である。交渉力の劣るフリーランスが「同意してしまう」ケースを防ぐための強行規定的な性格を持つ。
建設業・IT業界の実務例
建設業では「ちょっと端数切ってくれ」という口頭での値引き要求が慣行化している場面がある。これは本号違反となりうる。IT業界では、プロジェクト遅延を理由とした一方的な月額単価の引き下げも同様である。協賛金・負担金・販促費等の名目で徴収することも「名目を問わず」禁止される。
4 第1項第3号 返品
条文の内容
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること」が禁止される。
解釈
返品とは、フリーランスの責めに帰すべき理由がないのに、発注した物品等を受領後に返品することをいう。取引先の事情で不要になったとして返品することも該当する。
契約不適合があった場合でも、常に返品できるわけではない。検査で直ちに発見できる不適合の場合は、発見後速やかに返品する必要がある。直ちに発見できない不適合の場合は、原則として受領後6か月以内(一般消費者に対して6か月を超える保証期間を定めている場合には、当該保証期間内で最長1年まで)に返品が可能である。ただし、発注事業者が受入検査をしていない場合や、フリーランスに受入検査を委託しているものの書面や電磁的方法で委託していない場合には、不適合があっても返品できない。
※商法の商行為既定の参照
(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
なお、役務の提供委託については本号が適用除外となることは前述の通りである。
5 第1項第4号 買いたたき
条文の内容
「特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること」が禁止される。
解釈
買いたたきとは、類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めることをいう。例えば、一方的に〇%減などのように単価を引き下げて報酬を決めることも該当する。
本号は第1号〜第3号と異なり、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がない」という要件がない。つまり、発注時の報酬決定の場面で問題となる規定である。「著しく低い」かどうかは、同種・類似給付に対して通常支払われる市場価格との比較で判断される。また「不当に」という要件があるため、合理的な理由がある場合(大量発注による単価割引など)は直ちに違反とはならない。
建設業・IT業界の実務例
建設業では、元請会社が特定の一人親方を長期継続して使用し、その依存度の高さを背景に市場単価を大幅に下回る工賃を設定するケースがこれにあたる。IT業界では、複数のフリーランスエンジニアを常時確保したいがために、市場相場より著しく低い月額単価を一方的に提示するケースも該当しうる。
6 第1項第5号 購入・利用強制
条文の内容
「特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること」が禁止される。
解釈
購入・利用強制とは、正当な理由がないにもかかわらず、発注事業者が指定する製品やサービスなどの購入、利用を強制することをいう。自分は任意のつもりでお願いしていると思っていても、相手はそう思っていないこともあるので注意が必要である。
「正当な理由がある場合」として認められるのは、給付内容の均質化・品質改善のために必要な材料・ツール等の指定である。例えば、建設現場で安全基準を満たした特定の資材の使用を指定することは正当な理由がある。一方、発注事業者との資本関係にある会社のクラウドサービスを割高な条件で強制的に利用させることは本号に抵触しうる。
7 第2項第1号 不当な経済上の利益の提供要請
条文の内容
「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
解釈
不当な経済上の利益の提供要請とは、発注事業者のために、金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることで、フリーランスの利益を不当に害することをいう。例えば、運送のみを委託しているのに、委託していない倉庫整理もついでにやってもらうことなどが該当する。
「利益を不当に害してはならない」という要件があるため、第1項第1号〜第5号と異なり、「利益を害するか否か」という結果の判断が伴う。フリーランスが利益を受けている場合や、正当な協力関係の範囲内である場合は本号に該当しない。
建設業では現場清掃や資材運搬といった委託範囲外の作業を無償で行わせる慣行がある。IT業界では、委託業務の合間に別のプロジェクトの調査・分析を「ちょっとお願い」する形で無償提供させるケースも本号に該当しうる。
8 第2項第2号 不当な給付内容の変更・やり直し
条文の内容
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること」によって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
解釈
不当な給付内容の変更・やり直しとは、フリーランスの責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、受領した後にやり直しや追加作業を行わせる場合に、フリーランスが作業に当たって負担する費用を発注事業者が負担しないことをいう。
本号も「利益を不当に害してはならない」という結果要件がある。やり直しが発生した場合でも、追加費用を発注事業者が適切に負担する場合は本号違反とはならない。問題となるのは、費用負担なく変更・やり直しを強いることである。
IT業界においてとりわけ問題になりやすい類型である。仕様変更を「まあちょっとついでに直してよ」という形で費用精算なしに行わせること、受領後に「やっぱりこっちの仕様に変えて」と一方的に要求することは本号違反となりうる。建設業でも、施工後の追加工事を無償で行わせることは同様の問題を生じる。
9 合意があっても違反となる点
禁止行為に該当する行為は、たとえフリーランスとの間での合意に基づき行う場合でも、フリーランス法違反となることに注意が必要である。
この点は実務上きわめて重要である。フリーランスが「わかりました」「合意します」と言った場合でも、それは交渉力の格差から生じた不本意な合意である可能性が高く、本条違反が免責されるわけではない。発注事業者側は「相手が同意した」という主張が通らないことを十分認識しておく必要がある。
10 違反の効果と行政の執行状況
第5条違反については、公正取引委員会が勧告(第8条)・命令(第9条)を行うことができ、命令違反には50万円以下の罰金(第24条)が科せられる。法人両罰規定(第25条)もある。
行政の執行は着実に進展している。公正取引委員会は、放送業及び広告業の事業者について集中的に調査を行った結果、令和7年10月までの間に、フリーランス・事業者間取引適正化等法第22条の規定に基づき、128名の事業者に対して是正を求める指導を行った。
さらに、令和7年12月5日、公正取引委員会はグロービジョン株式会社に対し、第3条第1項(取引条件の明示義務)及び第4条第5項(期日における報酬支払義務)の規定に違反する事実が認められるとして勧告を行った。これはフリーランス法施行後初の勧告事案となった。
また2025年6月には、小学館と光文社に対しても、発注時の取引条件の明示義務違反と期日における報酬支払義務違反が認められ、勧告が出た。
これらの事例は第5条の禁止行為に直接かかるものではなく第3条・第4条に関するものであるが、公正取引委員会が施行後早期から積極的に執行を行っている姿勢を示しており、第5条違反についても今後同様の執行が行われることは確実である。
11 取適法(中小受託取引適正化法)との比較
第5条の禁止行為の多くは取適法の禁止行為(受領拒否・減額・返品・買いたたき・購入強制・経済上の利益の提供要請・不当な給付内容の変更・やり直し)と対応している。両法が並行して適用される取引では、どちらの法律の要件を満たすかを個別に確認する必要がある。主な相違点として、取適法は「受入検査期間(60日以内)」という要件があるが、フリーランス法にはこれに対応する明示的な規定がなく、取引実態に応じた個別判断となる点がある。
まとめ
第5条は本法の取引適正化規定の中心であり、「1か月以上の業務委託」という期間要件を充たす発注者にとって最も慎重な対応が求められる条文である。7つの禁止行為のうち第1項の5つは「フリーランスの責めに帰すべき事由がない場合」の行為が対象であり、第2項の2つは「フリーランスの利益を不当に害する」行為が対象となる。いずれも、フリーランスが合意した場合でも違反となる強行的な性格を持つ。
建設業の口頭での値引き要求・無償の追加作業要求、IT業界の費用負担なしの仕様変更・やり直しといった業界慣行は、本条により正面から違法と評価される。取引実務の棚卸しと社内規程・発注手順の見直しが急務である。
次回は第6条(申出等)・第7条(中小企業庁長官の請求)を解説する。フリーランス自身が行政機関に直接申し出ることができる申告制度と、報復措置の禁止について取り上げる予定である。
参考リンク
公正取引委員会 フリーランス法特設サイト
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/index.html
公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく指導等について」(令和7年12月10日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/251210_fl_shido.html
公正取引委員会「グロービジョン株式会社に対する勧告について」(令和7年12月5日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/251205_fl_glovision.html
公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」 https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf
フリーランス法対応のコンプライアンス研修・コンサルティングのご相談は
「発注担当者に禁止行為の研修を実施したい」「既存の業務委託慣行が第5条に抵触しないか点検してほしい」「一人親方との継続取引について契約プロセスを見直したい」――第5条の禁止行為は、長年の業界慣行の中に知らず知らずのうちに潜んでいることが多い。研修と実務点検の組み合わせによって初めてリスクを可視化できる。
中川総合法務オフィスは、全国850回以上のコンプライアンス研修を実施してきた実績を持ち、建設業のコンプライアンス体制整備を長年にわたって支援してきた。上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有し、内部通報の外部窓口を現に担当している。企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められることも多く、社会的な信頼のある立場でコンプライアンス実務に取り組んでいる。
フリーランス法の禁止行為に特化した管理職・発注担当者向け研修の設計・実施、業務委託プロセスの適法性チェック、社内ルールの整備支援など、貴社の実態に即した対応をご提案する。
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