第6条・第7条 条文
第六条 業務委託事業者から業務委託を受ける特定受託事業者は、この章の規定に違反する事実がある場合には、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 公正取引委員会又は中小企業庁長官は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
3 業務委託事業者は、特定受託事業者が第一項の規定による申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
第七条 中小企業庁長官は、業務委託事業者について、第三条の規定に違反したかどうか又は前条第三項の規定に違反しているかどうかを調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 中小企業庁長官は、特定業務委託事業者について、第四条第五項若しくは第五条第一項(第一号に係る部分を除く。)若しくは第二項の規定に違反したかどうか又は同条第一項(同号に係る部分に限る。)の規定に違反しているかどうかを調査し、その事実があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。
1 第6条・第7条の位置づけ
第6条は「フリーランス側の権利」を定め、第7条は「中小企業庁の役割」を定める、一対の執行支援規定である。
第3条〜第5条が義務・禁止行為の実体規定であるとすれば、第6条・第7条はそれらの実効性を担保するための「申告制度」と「行政間連携」の仕組みである。フリーランスが発注事業者の違反行為に直接対峙することなく、行政機関を通じて是正を求めることができる点が本条の本質的意義である。
2 第6条第1項 申出の権利
(1)申出とは何か
フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)に基づき、特定受託事業者(フリーランス)は、業務委託事業者・特定業務委託事業者(発注事業者)に本法の違反と思われる行為があった場合は、行政機関(公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)に対してその旨を申し出ることができる。
「申出」とは、フリーランスが行政機関に対して法違反の事実を通報し、適当な措置をとるよう求める制度である。独占禁止法・取適法における「申告」に相当するフリーランス法固有の仕組みであり、フリーランスが単独で発注事業者と交渉することの困難さを補完する制度設計となっている。
(2)申出の対象と管轄機関
申出の対象となる違反の種類によって、申出先の行政機関が異なる。本法の取引適正化関係(第2章:第3条〜第5条、第6条第3項)の申出については公正取引委員会・中小企業庁が、就業環境整備関係(第3章:第12条〜第14条、第16条、第17条第3項)の申出については厚生労働省が担当する。
本シリーズで解説してきた第3条〜第5条違反(取引条件の未明示・報酬支払遅延・禁止行為)および第6条第3項違反(報復措置)については、公正取引委員会または中小企業庁に申し出ることになる。
(3)申出の方法
発注事業者(業務委託事業者)による法違反行為についてフリーランス(特定受託事業者)が申し出ることができる窓口をオンラインや各行政機関に設置するとともに、能動的な違反事件調査も実施している。
申出はオンラインと郵送の双方で受け付けている。オンライン申出の場合、厚生労働省のホームページ上の申出受付フォームに入力した内容が公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の三機関に共通して届く。郵送の場合は、申出の内容(取引適正化関係か就業環境整備関係か)によって送付先が異なるため注意が必要である。
申出受付フォーム(オンライン):https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/freelance_moushide.html
郵送用申出書(PDF/Word)・申出受付事前確認表:https://www.jftc.go.jp/soudan/shinkoku/freelance.html
(4)申出制度の限界と留意事項
申出制度は強力な権利である一方、その性質をよく理解しておく必要がある。申出があった場合、本法に違反する事実を調査し、違反する事実がある場合には違反を是正するよう措置を講じるが、当事者同士の話し合いの仲裁や和解など、民事的な紛争解決のための仲介等を行うことはできない。また、調査の結果、本法の違反を認定するに至らない場合には、行政指導を行うことはできない。さらに、申出後、具体的な事案の調査方法や進捗状況についてお答えすることはできない。
すなわち申出制度は、行政機関による公法上の是正措置を求めるものであり、民事上の損害賠償請求や報酬の直接回収を行政が代わって行うものではない。未払い報酬の個人的な回収は、弁護士への相談や少額訴訟等の民事手続によることになる。
「フリーランス・トラブル110番」(0120-532-110、https://freelance110.mhlw.go.jp/)は弁護士による無料相談窓口であり、法違反かどうか不明な段階や民事的解決を希望する場合はこちらを活用することが適切である。
3 第6条第2項 行政機関の調査・措置義務
第6条第2項は、申出を受けた公正取引委員会または中小企業庁長官が「必要な調査を行い、事実であると認めるときは措置をとらなければならない」と定める。
「措置をとらなければならない」という文言は義務規定であり、申出があった場合に行政機関が漫然と放置することは許されない。もっとも、調査の結果として違反が認定されなければ行政措置を行うことはできない。
公正取引委員会、中小企業庁および厚生労働省が連携してフリーランス法を運用し、能動的な違反事件調査も実施している。 行政機関は申出を受けた事案だけでなく、業界・業種を指定した能動的な調査も行っており、申出がなくても調査が開始される場合がある。
4 第6条第3項 報復措置の禁止
(1)報復措置禁止の意義
第6条第3項は本条の中でも特に実務上の重要性が高い規定である。フリーランスが行政機関に申し出たことを理由として、発注事業者が不利益な取り扱いをすることを禁止する。
この規定がなければ、申出制度は「申し出たら取引を切られる」という恐れから実質的に機能しない。フリーランスという弱い立場にある取引者が安心して申し出できるようにするための保護規定である。取適法や公益通報者保護法における「不利益取り扱いの禁止」と同じ発想に基づく。
(2)禁止される「不利益な取扱い」の範囲
条文が列挙するのは「取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱い」である。「その他の不利益な取扱い」という包括的な文言が含まれており、解釈上は以下のような行為も禁止の対象となりうる。
単価の一方的な引き下げ、他の業務委託の打ち切り、申出者に対する嫌がらせ的な行為(過剰な検査・難癖等)、申出者の情報を業界内で共有する行為(いわゆる「ブラックリスト化」)などである。
「申し出たことを理由として」という因果関係が要件となる。申出の直後に取引を停止した場合は因果関係が推認されやすい。発注事業者としては、申出の有無と取引条件の変更を切り離した合理的な記録を整備しておくことが、誤解を避けるためにも重要となる。
(3)第6条第3項違反の効果
第6条第3項(報復措置の禁止)に違反した場合、公正取引委員会は当該発注事業者に対して勧告(第8条第6項)を行うことができ、勧告に従わない場合は命令(第9条)・命令違反は50万円以下の罰金(第24条)となる。
注目すべき点として、報復措置の禁止は「継続的業務委託」という期間要件を必要としない。第6条第3項は業務委託全般に適用されるため、1か月未満の単発業務委託においてフリーランスが申し出た場合でも、報復措置は禁止される。
5 第7条 中小企業庁長官の請求
(1)第7条の構造と意義
第7条は中小企業庁長官が独自に調査を行い、違反の事実があると認めるときに公正取引委員会に対して適当な措置をとるよう求めることができる規定である。
本法における行政執行の主体は公正取引委員会であるが、中小企業庁は中小企業政策の観点からフリーランスへの取引適正化を支援する役割を担っており、第7条はその位置づけを明確にする。
(2)第7条第1項:第3条・第6条第3項に関する請求
第1項は、中小企業庁長官が業務委託事業者について「第3条(取引条件の明示義務)違反かどうか」または「第6条第3項(報復措置の禁止)違反かどうか」を調査し、事実があれば公正取引委員会への請求を行う権限を定める。
「業務委託事業者」(従業員の有無を問わないすべての発注者)を対象としている点に注意が必要である。第3条の取引条件明示義務はすべての業務委託事業者に課されるため、中小企業庁の調査権も同様に広い射程を持つ。
(3)第7条第2項:第4条・第5条に関する請求
第2項は、特定業務委託事業者について「第4条第5項(報酬支払期日までの支払義務)違反かどうか」「第5条第1項(受領拒否を除く禁止行為)または第2項違反かどうか」を調査し、公正取引委員会への請求を行う権限を定める。
受領拒否(第5条第1項第1号)に限っては、中小企業庁長官ではなく公正取引委員会が直接調査する構造(「違反しているかどうか」という現在進行形の表現が用いられている)となっている点は、条文上の細かい技術的差異として把握しておくとよい。
6 発注事業者側から見た「自発的申出」制度
(1)自発的申出とは
第6条・第7条はフリーランス側からの申出・行政調査を定めるが、発注事業者側が自ら違反を申し出る「自発的申出制度」も公正取引委員会が整備している。
公正取引委員会は、業務委託事業者の自発的な改善措置がフリーランスが受けた不利益の早期回復に資することに鑑み、法第8条に基づく勧告の対象となる違反行為に関する自発的な申出が業務委託事業者からなされ、かつ所定の事由が認められた場合には、違反行為について勧告するまでの必要はないものとする。
(2)自発的申出の要件
勧告を免れるための自発的申出には、以下の五要件をすべて満たす必要がある。①公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に自発的に申し出ていること、②当該違反行為を既に取りやめていること、③当該違反行為によってフリーランスに与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じていること、④当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講ずることとしていること、⑤当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力していること。 jftc
(3)自発的申出の実務的意義
社内コンプライアンス調査でフリーランス法違反が発覚した場合、行政の調査着手前であれば自発的申出によって勧告を回避できる可能性がある。これは独占禁止法における課徴金減免制度(リニエンシー)に類似した発想であり、企業が自浄作用を発揮することを行政が積極的に評価する仕組みである。
ただし、自発的申出は「勧告を行わない」ことが保証されるにとどまり、フリーランスへの不利益回復(追加払い・謝罪等)は前提として行う必要があることに留意が必要である。また、自発的申出を行っても、公正取引委員会による指導そのものは行われうる。
自発的申出の申出先・記載事項:https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html
7 コンプライアンス上の実務対応
発注事業者が整備すべき体制
第6条第3項の報復措置禁止を踏まえ、発注事業者は以下の社内整備を行うことが重要である。
第一に、フリーランスからの行政申出の有無と取引条件の変更を分離管理するルールの整備。発注担当者が申出の事実を知ってはならないというものではないが、申出を理由とした取引変更の意思決定が行われたと疑われないよう、意思決定プロセスの文書化が必要である。
第二に、発注担当者へのコンプライアンス研修の実施。「申し出られたら困る」という発想ではなく、「申し出が来た場合は適切に対処する」という法令遵守の意識を醸成することが基本である。
第三に、自発的申出の検討手順の整備。社内調査で違反が発覚した場合の報告ルート・法務への相談フロー・公正取引委員会への自発的申出の判断プロセスをあらかじめ決めておくことで、迅速な対応が可能となる。
フリーランス側が知っておくべきこと
フリーランスとして取引している発注事業者から違反を受けた場合、まずは「フリーランス・トラブル110番」(0120-532-110)に相談することが第一歩となる。弁護士による無料相談を通じて、申出制度の活用が適切か、民事的解決を求める方が有効かを判断できる。
申出を行った後、発注事業者から取引数量の削減・停止等の不利益を受けた場合は、それ自体が第6条第3項違反となるため、速やかに追加の申出を行うことが重要である。
まとめ
第6条は、フリーランスが行政機関を通じて違反是正を求めることができる「申告制度」と、申告を理由とした報復措置を禁止する「保護規定」を定める。第7条は中小企業庁が独自調査を行って公正取引委員会に是正を求める「行政間連携」の仕組みを定める。
この二つの条文は単独では目立たないが、本法の実効性を根本から支える基盤規定である。申告を恐れない社内環境づくりと、万一の違反発覚時の自発的申出を含む危機対応手順の整備が、発注事業者側の実務対応の核心となる。
次回は第8条(勧告)・第9条(命令)・第10条(独占禁止法の準用)・第11条(報告及び検査)を解説する。違反した場合に行政がどのような手順で制裁を加えるか、その全プロセスを解説する予定である。
参考リンク
公正取引委員会 フリーランス法違反被疑事実の申出窓口 https://www.jftc.go.jp/soudan/shinkoku/freelance.html
公正取引委員会 自発的申出 https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html
厚生労働省 申出受付フォーム https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/freelance_moushide.html
フリーランス・トラブル110番 https://freelance110.mhlw.go.jp/ 電話:0120-532-110
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