はじめに:なぜ今、遺言書が重要なのか

人生の終焉を意識したとき、自らの貴重な財産を誰に、どのように遺したいのかを明確にする「遺言」。それは、遺された家族への最後の思いやりであり、無用な争いを防ぐための叡智の結晶です。

私たち中川総合法務オフィスは、京都、大阪を中心に1000件を超える相続のご相談に対応し、多くのご家族の円満な相続を実現してまいりました。その豊富な経験から断言できるのは、法律に則った適切な遺言書こそが、相続を「争続」にしないための最も有効な手段であるということです。

2020年に全面施行された改正相続法は、私たちの相続実務に大きな影響を与えました。特に、これまで最も確実とされてきた公正証書遺言のあり方さえも、その価値を問い直すほどの変更が加えられています。

この記事では、法改正が遺言実務に与えた具体的な影響と、せっかく作成した遺言書が反故にされないための基礎知識を、豊富な実務経験と、法律や経営といった社会科学のみならず、哲学や思想といった人文科学の深い知見を持つ当オフィスの代表が、独自の視点で徹底的に解説します。

1.相続法改正で高まった「公正証書遺言」の優位性

遺言にはいくつかの方式がありますが、なぜ専門家は「公正証書遺言」を推奨するのでしょうか。それは、他の方式にはない圧倒的なメリットがあるからです。今回の法改正は、その優位性をさらに際立たせることになりました。

(1) 相続手続きの迅速性:検認が不要という絶大なアドバンテージ

公正証書遺言最大の利点は、遺言者の死後、家庭裁判所での「検認手続」が不要である点にあります。検認とは、遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きですが、申立てから完了まで1〜2ヶ月を要することも珍しくありません。

この期間、相続人は預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きを進めることができません。しかし、公正証書遺言であれば、この時間を省略できます。遺言執行者が定められていれば、直ちに職務を開始でき、当オフィスでは通常1〜2週間で遺産目録の作成・通知まで完了させています。

【重要】法改正で「迅速な執行」がより重要に!

2020年の法改正(民法899条の2)により、この「迅速性」の価値は飛躍的に高まりました。

例えば「自宅不動産を長男Aに相続させる」という遺言があったとします。改正前は、この遺言があれば長男Aは登記なくして第三者に権利を主張できました。しかし改正後は、遺言の内容に基づいた登記を完了する前に、他の相続人Bが自身の法定相続分を登記し、第三者に売却してしまった場合、長男Aはその第三者に権利を主張できなくなってしまったのです。

これは実務を根底から揺るがす重大な変更です。遺言の存在を知った相続人が、悪意をもって自己の利益を図る行為に出るリスクが生まれた今、検認手続きで時間を要する自筆証書遺言に比べ、速やかに執行に着手できる公正証書遺言の重要性は、かつてなく高まっています。

(2) 自筆証書遺言との比較:緩和されたが、本質的な差は埋まらない

今回の法改正で、自筆証書遺言の作成要件が一部緩和され、財産目録をパソコン等で作成できるようになりました。これにより、全文を自書する必要があった「秘密証書遺言」との差はほとんどなくなりましたが、依然として家庭裁判所の検認は必要です。法務局で自筆証書遺言を保管する制度も創設されましたが、執行の迅速性という観点では、公正証書遺言の優位性は揺るぎません。

2.【実例】特殊な状況下での遺言:経験こそが真実を語る

法律家の中には、教科書的な知識のみで「あり得ない」と断じる者もいますが、現実は小説より奇なり。私たちは、15年以上にわたる無料法律相談といったプロボノ活動などを通じ、極めて稀なケースにも立ち会ってきました。

「経験のないものの言葉を信じるな」 - 夏目漱石

文豪・漱石のこの言葉は、法律実務の世界においても真理です。

(1) 死期が迫った者の遺言(危急時遺言)

先日、億単位の資産を持つ方の「危急時遺言」に関するご相談がありました。病状が急変し、死が目前に迫る中、ご親族が手配した弁護士3名以上の立会いのもと、民法976条の規定に従って口頭で遺言を伝え、作成されたものです。その荒々しい筆跡は、当時の緊迫した状況を雄弁に物語っていました。

これは、死の危急に瀕した人の最後の意思を実現するための特別な方式ですが、証人の確保や家庭裁判所での確認請求(20日以内)など、厳格な要件が課せられています。

(2) 伝染病や船舶事故と遺言

2019年末に始まったパンデミックは、民法が想定する特殊な状況が、現代社会でも起こり得ることを示しました。伝染病で隔離された状況(隔絶地遺言)や、大型クルーズ船内での事故(在船者遺言)など、万が一の事態に備えた条文も存在するのです。

これらの特殊な遺言は、まさに人生の不条理と、それでもなお個人の意思を尊重しようとする法の精神の表れと言えるでしょう。豊富な人生経験と、社会のあらゆる事象への深い洞察なくして、このような極限状況にある方の真意を汲み取ることはできません。

3.その遺言、破られるかもしれません:無効化する3つのケース

公正証書遺言でさえも、絶対ではありません。相続人間の感情的な対立や、法律知識の欠如が、故人の最後の意思を無に帰すことがあります。

(1) 「遺留分」という名の権利主張

特定の相続人に多くの財産を遺す内容の遺言に対し、他の相続人が「遺留分(いりゅうぶん)」を主張するケースです。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の遺産取得分であり、これを侵害する遺言は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求される可能性があります。(法改正により「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変わりました)

(2) 遺言能力の不存在

遺言作成時に、本人が認知症などで正常な判断能力(遺言能力)を欠いていたと主張されるケースです。公証人が関与する公正証書遺言でさえ、稀に争点となることがあります。これは、人の意思能力という、哲学的な問いにも通じる根源的な問題を含んでいます。

(3) 複数の遺言書の出現と「エンディングノート」の罠

人の心が変わるように、遺言の内容も変わり得ます。自筆証書遺言の場合、日付の新しいものが有効とされますが、複数の遺言書が出てくると相続人は混乱し、争いの火種となります。遺言書を書き直す際は、必ず「これまでに作成した遺言はすべて撤回する」との一文を加え、古い遺言書は破棄すべきです。

ここで警鐘を鳴らしたいのが、安易な「エンディングノート」の利用です。「エンディングノートに書いておけば遺言の代わりになる」と考えるのは、致命的な誤解です。「生兵法は大怪我のもと」であり、法的な要件を満たさないノートは、あくまで本人の希望を記したメモに過ぎません。かえって相続の現場を混乱させる原因にもなりかねませんので、遺言書を作成した後は、エンディングノートの関連記述は削除することをお勧めします。

まとめ:確実な相続のために、今すぐ専門家にご相談ください

相続法改正により、遺言執行の迅速性がこれまで以上に重要となりました。検認不要で速やかに手続きを進められる公正証書遺言の優位性は、ますます高まっています。

しかし、どのような方式の遺言であっても、法律の専門知識なくして完璧なものを作成するのは困難です。せっかくの思いが詰まった遺言書が、無用な争いを引き起こすことのないよう、私たち専門家にご相談ください。

中川総合法務オフィスでは、京都や大阪を中心に、豊富な知識と経験を持つ専門家が、あなたの状況に最適な遺言作成から執行まで、責任をもってサポートいたします。

初回のご相談(30分~50分)は無料です。 ご自宅、病院、介護施設への出張相談や、オンラインでのご相談も承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。

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