近年、JA(農業協同組合)を取り巻く環境は、法改正や社会からの要請により、常に変化しています。組合員の信頼を揺るぎないものとし、地域社会に貢献し続けるためには、実効性のあるコンプライアンス体制の構築と運用が不可欠です。本記事では、改正農協法の内容を踏まえつつ、農林水産省の監督指針の最新動向、その他JA運営に関わる重要法令、そしてこれからのJAに求められるコンプライアンスの考え方について、専門家の視点から解説します。

1.改正農協法とコンプライアンス体制の最新動向

(1) 平成27年改正農協法の成立・施行と農協改革の継続

平成27年9月4日に改正農協法(改正農業協同組合法)が成立し、平成28年4月1日に施行されました。これを受け、改正法の趣旨に沿った農協組織の改革、いわゆる「農協改革」が現在も進行中です。この改革は、JAがより組合員の声に耳を傾け、地域農業の発展に貢献するための基盤となるものです。

(2) 平成27年改正法の主要内容

平成27年の改正法における変革は多岐にわたりますが、特に以下の3点が組織改革の中心であり、「組合員のためのJA」という方向性を明確にするものです。

  1. 理事の過半数を原則として認定農業者等とすること: 営農者の意見がJAの運営により一層反映されることを目指しています。
  2. 公認会計士監査の義務付け: 全国農業協同組合中央会(全中)による監査から移行し、財務面の不正防止と会計処理の適正化を徹底します。
  3. 中央会制度の見直し: 権限が集中していた中央会制度を改め、全国中央会は一般社団法人へ、都道府県中央会は農協連合会へと組織変更されました。

(3) 最新の法改正:令和5年施行の改正点

農協法は、社会経済情勢の変化に対応するため、その後も改正が重ねられています。直近では、令和4年5月27日に公布され、令和5年4月1日から施行された改正農業協同組合法があります。この改正には、農地等の権利取得における下限面積要件の廃止や、農業委員会に関する見直しなどが含まれており、JAの事業運営や組合員の活動にも影響を与える可能性があります。常に最新の法令情報を把握し、適切に対応していくことが求められます。

(4) コンプライアンスの徹底:組合員からの信頼を揺るぎないものに

コンプライアンスは「信頼の原則」そのものです。JAにとって最大のステークホルダーである組合員からの信頼を得るためには、徹底した不正のないコンプライアンス態勢の構築が、これまで以上に真剣に求められる時代となっています。法改正の趣旨を深く理解し、組織全体でコンプライアンス意識を醸成することが、JAの持続的な発展に不可欠です。

2.農林水産省による監督・検査の継続的強化

JAグループは、JAグループの概要(JAグループウェブサイト参照) に示されるように(サイト内の図は2015年および2020年のデータに基づく)、その組織規模が非常に大きく、国民生活への経済的影響も甚大です。そのため、JA自身のコンプライアンス態勢強化に加え、国の関与による監督・検査の必要性は依然として高いと言えます。(下記図解はJAのHP https://life.ja-group.jp/message/about/ より一部引用 上が2020年、下が2024年 )

 

国による監督・検査は、主に以下の指針に基づいて行われています。

  • 農業協同組合、農業協同組合連合会及び農事組合法人向けの総合的な監督指針(信用事業及び共済事業のみに係るものを除く。)
  • 系統金融機関向けの総合的な監督指針
  • 共済事業向けの総合的な監督指針
  • 「農林水産省協同組合等検査規程」及び「農林水産省協同組合等検査基本要綱」等

これらの監督指針は、JAの業務の健全かつ適切な運営を確保し、組合員等の保護を図るために、定期的に見直し・改正が行われています。実際に、農林水産省は令和6年(2024年)末から令和7年(2025年)初頭にかけても、JAの一般事業、信用事業、共済事業に関する各監督指針の改正を行うなど、継続的に監督体制の強化を図っています。 JAとしては、これらの最新の指針を常に確認し、遵守していくことが極めて重要です。

3.農協コンプライアンスにおけるその他の重要法令

農協法に加え、JAの多岐にわたる事業運営においては、以下のような法律の遵守が不可欠です。

  • 民事法: 民法、商法、会社法など
  • 経済法: 独占禁止法、不正競争防止法、景品表示法、農産物価格安定法など
  • 関連法規:
    • 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
    • 食品表示法、食品安全基本法、食品衛生法
    • 種苗法、肥料取締法、農薬取締法、毒物及び劇物取締法
    • 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律
    • 宅地建物取引業法、旅行業法、貨物自動車運送事業法
    • 老人福祉法、介護保険法
    • 農業倉庫業法
    • 特定農地貸付けに関する農地法の特例に関する法律
    • 農用地の土壌汚染防止等に関する法律
    • 郵政窓口事務の委託に関する法律
    • 古物営業法 等

近年、特にJAの現場で問題発生のリスクが高まっているのが、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法) です。マイナンバー制度への対応も含め、組合員や利用者の情報を適切に管理・保護する体制の整備は喫緊の課題です。 さらに、公正な取引慣行の観点から、下請法遵守や取引の適正化への取り組みも、JAが社会的な責任を果たす上で重要度を増しています。

4.JAにおけるコンプライアンス研修の推進と体制構築の真の必要性

これまで見てきたように、JAが遵守すべき法令は多岐にわたり、かつ社会情勢に応じて変化し続けています。これらの法令を正しく理解し、日々の業務に的確に反映させるためには、役職員一人ひとりがコンプライアンスに関する知識を深め、意識を高めることが不可欠です。

JAは、自組織の特性やリスクを十分に踏まえた上で、実効性のあるコンプライアンス態勢を構築し、それを継続的に強化していく必要があります。その獲得目標として、全役職員を対象とした質の高いコンプライアンス研修を定期的に実施し、コンプライアンス意識の浸透と知識のアップデートを図るべきです。

5.【中川総合法務オフィス】専門家によるJAコンプライアンス強化・組織風土改革サポート

JAにおけるコンプライアンス体制の構築・強化、そして真に信頼される組織づくりは、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。専門家の知見を活用し、自組織の課題に即した具体的な対策を講じることが成功への近道です。

中川総合法務オフィスの代表、中川恒信は、JAの皆様が抱えるコンプライアンスに関する課題解決を全力でサポートいたします。

  • 組織風土の抜本的改善: 心理的安全性と相談型リーダーシップを組織内に浸透させ、風通しの良い、ものが言える職場環境づくりを支援します。
  • ハラスメント・クレーム対応: アンガーマネジメントの手法を導入し、ハラスメントの予防と発生時の適切な対応、そして顧客からのクレームに冷静かつ建設的に対応できる人材を育成します。
  • 豊富な研修実績: JAを含む各種団体・企業にて、コンプライアンス、ハラスメント防止、リーダーシップ、アンガーマネジメント等をテーマに、これまで850回を超える研修を担当してまいりました。
  • 不祥事対応・体制再構築の経験: 不祥事が発生した組織のコンプライアンス態勢の再構築支援にも豊富な経験を有しており、実効性のある再発防止策の策定・導入をお手伝いします。
  • 信頼される外部窓口: 現に複数の組織の内部通報外部窓口を担当しており、公正中立な立場で通報を受け止め、問題の早期発見と解決に貢献します。
  • メディアからの信頼: 不祥事企業の再発防止策について、テレビや新聞等のマスコミからしばしばコメントを求められるなど、その専門性には高い評価をいただいております。

コンプライアンス研修やコンサルティングの費用は、1回30万円(税別、交通費別途) を目安としておりますが、ご要望に応じて柔軟に対応いたします。 まずはお気軽にご相談ください。JAの皆様と共に、組合員そして地域社会から一層信頼される組織づくりを目指します。

【お問い合わせ】 中川総合法務オフィス 電話:075-955-0307 または、ウェブサイトの相談フォーム よりご連絡ください。

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