1. 不祥事が続くJA(農協)とコンプライアンスのやる気度は?
JA(農業協同組合)は、農業者の相互扶助を基本理念とした民間協同組織として、農業指導を中心に経済、信用、共済といった多岐にわたる事業を展開し、農村部の発展に貢献してきました。しかし、近年、マスコミ報道に繰り返し登場する不祥事は、その公共性と社会的責任に大きな影を落としており、極めて憂慮すべき事態となっています。
(1) JAの不祥事の現状と背景
特に金融部門においては、金融庁の検査が強化されており、その厳格化はJAの事業運営に大きな影響を与えています。かねてより、「JAは農家指導に特化すべきで、金融と保険は離脱させるべき」という意見が根強く存在するのは、金融事業におけるリスク管理の難しさと、農業振興という本来の目的とのバランスが問われているためです。
近年の具体的な不祥事としては、以下のような事例が挙げられます。
- 共済事業における「自爆営業」問題: 一部のJA職員が過大な営業ノルマを達成するために、本来不要な共済(保険)に自ら加入したり、親族に加入を促したりする「自爆営業」が問題視され、報道機関でも大きく取り上げられました。これは、過度なノルマが引き起こす倫理観の麻痺と、コンプライアンス意識の欠如を示す典型例と言えるでしょう。
- 農林中央金庫の巨額損失: JAグループの金融の中核を担う農林中央金庫が、外国債投資で巨額の損失(例えば1.5兆円規模の赤字)を計上する見通しとなったことは、リスク管理体制の甘さを露呈しました。これは、JAグループ全体の信用にも関わる重大な問題であり、金融事業の健全性に対する懸念を深めるものです。
- 不公正な取引慣行に対する行政処分: 農林水産省は、JAが地域外の出荷者に対して差別的な取扱いを行ったり、組合員に特定の業者との取引を制限したりする行為に対し、独占禁止法違反の疑いで行政指導や処分を行っています。これらの事例は、JAが組合員や地域社会との関係性において、公正な競争環境を阻害する行為に及んでいる可能性を示唆しています。
- 「天下り」問題: 農林水産省のOBがJA関連団体へ再就職する、いわゆる「天下り」が、米の価格高騰と関連付けて報じられるなど、組織運営の透明性に対する疑念も生じています。
これらの不祥事の発生は、JA幹部の指導力、そして職員一人ひとりのコンプライアンス意識に大きな問題があると言わざるを得ません。
(2) 農協改革の推進と新たな課題
これまで農協は、その歴史の中で、農業者の経済的・社会的地位の向上に尽力してきました。JAグループ(農協系統)は、総合農協を会員とする都道府県や全国段階の連合会、グループの代表機能を持つ中央会等により構成され、日本の農業を支える重要な役割を担っています。
この間、全国農業協同組合連合会(JA全農)は、農林水産省の業務改善命令(2005年10月)に基づき策定された改善計画「新生プラン」(2005年12月)を推進してきました。このプランでは、農薬、肥料等の生産資材手数料や米の流通コストの削減のほか、担い手対策にも重点的に取り組んできました。また、JAグループ全体でも「経済事業改革の徹底と全農『新生プラン』の実践」(2006年10月のJA全国大会での決議)に基づき、抜本的な改革を進めてきました。
しかし、こうした改革努力の裏で不祥事が増加している現状は、改革の実効性や、コンプライアンス推進における課題の根深さを示しています。農林水産省は、JAバンクにおいて、農業者向けの事業融資の強化や関連産業への投融資等に向けた中長期的な戦略策定を含む「自己改革実践サイクル」の構築を強く求めており、金融庁とも連携して指導・監督を強化しています。JAは、事業の持続可能性を確保しつつ、信頼を回復するための経営改善と、実効性のあるコンプライアンス体制の構築が不可欠となっています。
(3) 新農協法および関連法改正の動向
平成27年9月4日に改正農協法(改正農業協同組合法)が成立し、平成28年4月1日に施行されました。この改正法により、理事の過半数を認定農業者や農産物販売のプロとすること、農業者の所得増大を経営目的とすること、農業者への事業利用の強制を禁止すること、そして、従来の全中監査に代わり公認会計士監査を義務付けることなどが規定され、農協組織の改革が順次進行しています。これにより、地域農協の自由な活動を促進し、より組合員に選ばれる農協となることが期待されています。
さらに、近年では、日本の食料安全保障を強化するため、「食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律」が令和6年5月29日に成立し、同年6月5日に公布・施行されました。 この改正は、食料安全保障の確保、環境と調和の取れた食料システムの確立、農業の持続的な発展、農村の振興という四つの柱を掲げ、日本の食料・農業・農村政策の新たな方向性を示すものです。JAは、この新たな法的枠組みの中で、より一層、その事業活動が公共性と透明性を伴うものとなるよう、コンプライアンス態勢を強化していく必要があります。
2. JAコンプライアンス態勢の再構築の高い必要性
JAが組合員・利用者からの信頼を回復し、持続的な発展を遂げるためには、コンプライアンス態勢の抜本的な再構築が不可欠です。以下に、そのための必須プログラムと重要な視点を挙げます。
(1) JAコンプライアンス態勢の現状把握と課題特定
まずは、自組織の現状を客観的に評価することから始めます。
- 現状の評価: 「JAとは何か」という原点に立ち返り、現在のコンプライアンス態勢が、その理念や事業実態に即しているかを確認します。進行中の不祥事の有無や、過去の不祥事の原因を徹底的に分析することが重要です。
- 規定・マニュアルの見直し: コンプライアンス規程やマニュアルは、形骸化していないか、実態に即した内容になっているかを定期的に見直す必要があります。
- 監督官庁への対応: 金融庁や農林水産省からの指導や検査指摘事項について、その履行状況を厳しくチェックし、改善策が実効的に機能しているかを確認します。
- 内部通報制度の機能性: 職員からの内部通報制度が、匿名性の確保や報復措置の禁止など、真に機能する体制になっているかを検証します。組合員からのヘルプライン(内部通報制度)の整備・活用も同様に重要です。
- 未然防止策の徹底: 不祥事未然防止マニュアルの整備や、チェックリストの活用が組織全体で徹底されているかを確認し、形骸化を防ぐためのPDCAサイクルを導入します。
(2) JAコンプライアンスに必要な法令改正点の把握と対応
JAが遵守すべき法令は多岐にわたります。特に以下の法律については、改正点や最新の監督指針を常に把握し、コンプライアンス体制に反映させる必要があります。
- 農業協同組合法、同施行令、同施行規則
- 独占禁止法
- 不正競争防止法
- 景品表示法
- 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
- 食品表示法
- その他、金融商品取引法や個人情報保護法など、事業に関連する法令全般
これらの法令遵守状況を定期的に確認し、特に法改正があった場合には、速やかにコンプライアンス体制を見直すことが求められます。近年、金融庁・農林水産省は、JAバンクやJA共済事業向けの総合的な監督指針を頻繁に改正しており、これら最新の監督指針を常に踏まえたコンプライアンス体制となっているかを確認することが不可欠です。JAは、顧客本位の業務運営に関する原則を採択し、組合員・利用者からの信頼を確保するための取り組みを強化する必要があります。
(3) コンプライアンス規程・マニュアルの実効性確保
コンプライアンス規程(行動規範)とコンプライアンスマニュアルの2点は、コンプライアンス実践の中核をなすものであり、すぐに開示できる状態にしておくべきです。改訂履歴を明確にし、最新の状態に保つことが重要です。これらの規程が、単なる文書ではなく、役職員が日常業務において遵守すべき行動の指針として機能し、JAのコンプライアンス合意を形成していくことで、実効性を高めることができます。
さらに、外部のヘルプライン窓口の設置は、内部では相談しにくい問題を吸い上げる上で極めて有効です。中川総合法務オフィスのようなコンプライアンスに精通した法務事務所や弁護士事務所をコンプライアンス改善委員会に参加させたり、コンサルティングや研修講師を依頼したりすることで、第三者の視点を取り入れ、より客観的で実効性のある体制を構築することが可能になります。
(4) コンプライアンス基本方針の公表と浸透
まずは、各JAの「コンプライアンス基本方針」を作成し、ホームページで公表することが、組織の内外に対するコンプライアンスへの強いコミットメントを示す第一歩となります。また、内部的には、これまでの不祥事事例や今後想定される不祥事への対応策を具体的に検討し、諸規程に落とし込むことで、実践的なコンプライアンス体制を構築します。
中川総合法務オフィスによるコンプライアンス支援のご案内
連続するJAの不祥事は、組織統治の脆弱性とコンプライアンス意識の欠如を如実に示しています。これは、JAに限らず、あらゆる組織が直面し得る課題です。中川総合法務オフィスでは、こうした状況を深く理解し、組織の特性に合わせた実践的なコンプライアンス強化を支援しています。
代表の中川恒信は、長年にわたり850回を超えるコンプライアンス研修やコンサルティングを担当し、数々の不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築に携わってまいりました。組織風土の改善には、社員が安心して意見を言える「心理的安全性」の確保と、部下の相談に乗り、共に解決策を探る「相談型リーダーシップ」の浸透が不可欠であると考えています。また、ハラスメントやクレーム対応においては、アンガーマネジメントの導入など、実践的なスキル指導にも力を入れています。
現に、多くの企業や団体から内部通報の外部窓口を委託されており、第三者としての客観的な視点と専門知識で、組織内の問題を早期に発見し、適切な解決へと導いています。その豊富な経験から、マスコミからも不祥事企業の再発防止策について意見を求められることも少なくありません。
中川総合法務オフィスは、他の誰も真似できない独自の文体と教養を基盤とし、組織の未来を守るための唯一無二のコンプライアンスソリューションを提供します。コンプライアンス研修やコンサルティングを通じて、貴組織の課題を明確にし、具体的な改善策を共に実行してまいります。
費用は1回30万円から承っております。
コンプライアンス体制の強化は、組織の信頼を高め、持続的な成長を実現するための重要な投資です。ぜひ、中川総合法務オフィスにご相談ください。
お問い合わせは、お電話(075-955-0307)または以下のサイトの相談フォームからお気軽にどうぞ。
参考文献
- JAコンプライアンスの新常識|2025年最新の監督指針とリスク管理体制を専門家が徹底解説. (中川総合法務オフィス). Retrieved from https://compliance21.com/ja-scandals-prevention-2025/
- 【共済事業減益JAランキング】自爆営業の自粛で15%減益も!ワースト4位にしみの、1位と2位は福岡の農協. (ダイヤモンド・オンライン). Retrieved from https://diamond.jp/articles/-/360247
- ついに「農協崩壊」がはじまった…農林中金「1兆5000億円の巨大赤字」報道が示す"JAと農業"の歪んだ関係. (キヤノングローバル戦略研究所). Retrieved from https://cigs.canon/article/20240712_8208.html
- 農業協同組合の組合員に対する利用強制の禁止等について. (農林水産省). Retrieved from https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/k_dokusen/attach/pdf/index-23.pdf
- 農協改革の着実な推進について. (内閣府 規制改革推進会議). Retrieved from https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_04local/230428/local06_0101.pdf
- 食料・農業・農村基本法. (農林水産省). Retrieved from https://www.maff.go.jp/j/basiclaw/index.html
- 農協法改正について. (農林水産省). Retrieved from https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/k_kenkyu/pdf/1_nokyohou_kaisei.pdf
- 農協・農事組合法人. (農林水産省). Retrieved from https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/index.html
- コンプライアンス方針. (JA大阪市). Retrieved from https://www.ja-osakashi.or.jp/compliance/
- コンプライアンス. (JA三重). Retrieved from https://www.jamie.or.jp/shinren/disclo/2021pdf/19-22.pdf