企業を取り巻く環境が複雑化する現代において、労働法務とコンプライアンス態勢の確立は、単なる法遵守に留まらず、企業の持続的成長を支える不可欠な要素となっています。特に労働現場におけるコンプライアンスは、従業員のエンゲージメントと生産性向上に直結する重要な課題であり、その再構築は待ったなしの状況です。

1.労働法務とコンプライアンスの関係性

(1) 疲弊する日本の労働現場が抱える課題

サービス残業、名ばかり管理職、派遣切りといった長年の問題に加え、パワーハラスメントやセクシュアル・ハラスメントの増加、過労による自殺といった悲痛な現状は、日本の労働現場が抱える根深い課題を浮き彫りにしています。これらの問題は個人の尊厳を蝕むだけでなく、企業の生産性低下や社会的信用の失墜にも繋がります。

(2) 労働法務に重点を置いたコンプライアンス態勢の再構築の急務

労働現場のルール遵守を第一義としたコンプライアンス態勢の再構築は、喫緊の課題です。OECDの最新データ(2023年)によれば、日本の時間当たり労働生産性は56.8ドルでOECD加盟38カ国中29位、一人当たり労働生産性は92,658ドルで32位と、依然として低い水準にあります(出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」共同通信PRWire「労働生産性の国際比較」)。これは、労働環境の質が労働生産性に大きな影響を与えることを示唆しています。労働三法や労務管理に関するコンプライアンスの重要事項を深く理解し、実践的な事例演習を通じて、組織全体でコンプライアンス意識を高めることが不可欠です。

2.労働法務コンプライアンス態勢の重要項目

(1) サービス残業などの労働法コンプライアンスのホットテーマの集中理解と対策

サービス残業は、労働基準法第37条に違反する違法行為であり、未払い賃金の発生や企業の社会的信用失墜に直結します。厚生労働省も再三注意喚起を行っており、企業は厳格な労働時間管理が求められます。

■サービス残業の具体的な手口と対応策

  • 労働者に残業申請を行わせない、あるいは申請を阻害する:
    • 対策: 始業・終業時刻の客観的記録(タイムカード、勤怠管理システム、PCログなど)の徹底。従業員に対し、時間外労働が発生した場合はすべて申請するよう社内教育を徹底し、申請を阻害する要因を排除する。
  • 自宅持ち帰りなどの職場外での仕事の強制:
    • 対策: 業務量の適正化と適切な人員配置。業務指示の明確化と、持ち帰り残業を認めない方針の徹底。
  • 柔軟勤務時間体制の裁量労働制の違法利用:
    • 対策: 裁量労働制の適用要件の厳格な確認と、制度の適切な運用。形骸化した「名ばかり管理職」による時間外労働の規制外しは違法行為です。
  • 管理職の帰宅拒否症候群による部下への半強制残業(道連れ残業):
    • 対策: 管理職へのコンプライアンス研修の徹底。定時退社を奨励するノー残業デーの設定や、最終退社時間の取り決めなど、企業文化の変革。
  • 労働者の対策:
    • 労働基準監督署への申告や未払賃金請求訴訟が有効な手段となります。未払い賃金は3年遡って請求可能であり、企業は多額の支払いを命じられるリスクがあります。

(2) 従業員は重要なステークホルダー:インテグリティの重視

コンプライアンスの基本的な考え方として、顧客だけでなく、従業員もまた極めて重要なステークホルダーであることを認識すべきです。従業員の信頼を軽視したコンプライアンス態勢は、形骸化し、やがて組織の根幹を揺るがします。単なる法令遵守に留まらず、「integrity(廉潔性)」をも含めたトータルなコンプライアンス態勢を構築することで、組織の不祥事を未然に防ぎ、従業員のエンゲージメントを高めることができます。

(3) 労働三法や労務管理知識の習得

管理職を含め、すべての従業員が労働法規に関する正しい知識を習得することは不可欠です。

  • 法の知識等: 労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の「労働三法」に加え、労働契約法、男女雇用機会均等法、公益通報者保護法、労働者派遣法、パートタイム労働法といった新労働関係重要法の内容と、労務管理に関する必須のコンプライアンス知識、そして重要判例の知識を習得する。
  • 特に管理職: 管理職は、部下の労働条件やハラスメント防止に関して直接的な責任を負うため、法の知識を深く理解し、常に最新の情報を把握することが重要です。

(4) 労働法務の事例演習:実践的な理解を深める

机上の知識だけでなく、具体的な事例演習を通じて、問題解決能力を高めることが重要です。

  • 重要事例: パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント(厚生労働省のハラスメント対策指針も参照し、優越的関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、就業環境が害されるという3要素の理解と対策が重要。顧客や取引先からの迷惑行為への対応も含む)、内部告発(公益通報者保護法の理解と適切な内部通報制度の運用)、強制解雇、労働条件不利益変更、配置転換など。

(5) 問題社員への対応方法:職業倫理の観点から

コンプライアンスは職業倫理もその内容に含みます。問題社員への適切な対応は、組織の秩序維持と他の従業員の保護のために不可欠です。

  • 具体例: 無断欠勤、言葉遣い、私生活でのトラブル、情報漏洩、SNSでの会社批判など。これらの問題に対しては、就業規則に基づき、公正かつ段階的な対応が求められます。

(6) 労働法チェックリストの作成練習:自律的なコンプライアンス推進

研修を通じて、各職場と個人の状況に応じた労働法務コンプライアンスチェックリストを作成することは、自律的なコンプライアンス推進に繋がります。

  • チェックリストの項目:
    • 労働三法など労働法全般に関する一般的なコンプライアンス項目。
    • 各労働現場の特性に応じた、より具体的なチェック項目。

これらの項目は労働法務に関するコンプライアンス態勢の必須要素ですが、根本的な組織のコンプライアンス意識が欠如している状態では、労務管理のみを強化しても効果は限定的です。抜本的な組織改革とコンプライアンス態勢の構築には、経営層の強いコミットメントと、全従業員の意識改革が不可欠であることを肝に銘じるべきです。



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