条例・規則作成等政策法務のコツ(地方分権手上げ方式時代、自治体消滅回避生き残り戦略)

1.条例・規則作成等政策法務のコツ

―地方分権手上げ方式時代、自治体消滅回避生き残り戦略―

(1)政策法務とは

政策法務とは、自治体が、法令の解釈運用、条例、規則の改正や新規制定、訴訟など様々な法務活動を通じて、政策を実現させるこという。

「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号、「地方分権一括法」)の平成12年施行以来、地方公共団体の法務は、「政策法務」概念にリードされている。

例えば、先だって、ある情報企業の講演で長岡市へ行くと、日本酒の乾杯条例があった。地域の酒造産業の育成という産業政策のためである。

地方都市へ行くと、この頃はこういう政策のための条例作りが一般的になってきている。

(2)政策法務を活用している自治体とそうでない自治体の差

平成30年現在、義務付け枠付の撤廃政策も、菅内閣時代から数えて8回目になっている。

中川総合法務オフィスへの政策法務研修講師依頼も増えているが、600回も地方公共団体等でコンプライアンス研修講師などを務めていると、地方公共団体の「勝ち組と負け組」がハッキリとしてきた。

負け組の地方公共団体は消滅していくしかないであろう。

住民の大移動が次の10年で始まるであろう。

それを踏まえた政策法務が求められているのである。

2.政策法務のための条例作成のコツ

(1)地方公共団体の事務(自治事務・法定受託事務)執行の基本原則を守る

①平等原則違反

行政は合理的な理由なくして国民を差別的に取り扱うことは許されない原則(憲法14条1項参照)を平等原則という。

法の下の平等である。

公の施設の利用について定めた地方自治法第二百四十四条第3項「普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。」は平等原則の具体化規定である。

入り口の「立法事実」でこれが問題となれば条例化は困難であろう。

②表現の自由は基本的人権カタログの中で優越的地位を持つ

表現の自由は民主制過程の要になる基本的人権であるがゆえに、違憲審査が厳しくダブルスタンダードが妥当する。

ア 「厳格な基準」

「厳格な基準」は立法目的が必要不可欠であり達成手段がやむをえない必要最小限度のものであることを要するとする基準である。

これを具体化したものに「明白かつ現在の危険の基準」があり、違法行為を煽動する集会など、行動の前段階としての言論に対しては「明白かつ現在の危険」の基準が併せて用いられることがある。

その表現によって生じる害悪が切迫し、危険性も重大である場合には、これを規制することも許されるとする。

イ 「厳格な合理性の基準」

「厳格な合理性の基準」は、立法目的が重要であり、達成手段が目的との実質的関連性を有していなければならないとする基準である。

これを具体化したものに「LRAの基準 Less Restrictive Alternatives(より制限的でない他の方法)」がある。

表現内容中立規制の審査においてしばしば用いられる基準であるが、当該表現を規制するにつき、より緩やかな手段が想定しうるのであれば、緩やかな手段を選択する必要性があるとする。

許可制でなくて届け制で足りないか等の事前規制でしばしば問題となる。

ウ 「明確性の理論」

「明確性の理論」とは、精神的自由を規制する立法はその要件が明確でなければならないという理論で、法律や条例規制が漠然不明確な場合は表現行為に対して萎縮効果を及ぼすので、原則として無効となる。

漠然性ゆえに無効の理論とも言う。

今日的には「ヘイトスピーチ規制」がしばしば問題になる。

従来からは、公安条例がよく問題になった。

東京都公安条例の合憲性が争われた最大判昭和35年7月20日、徳島市公安条例判決(最大判昭和50年9月10日)等は合憲判断をしている。

検閲禁止との関係では、最判平成元年9月19日は、有害図書に指定された本の自動販売機での販売を禁じた岐阜県青少年保護育成条例について

「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるもの」という「検閲」の定義(札幌税関検査事件最大判昭和59年12月12日)に該当しないとした。

③比例原則

行政による権限の行使は、行政目的を達成するために必要な範囲でのみ許されるという原則である。

条例による制約は、制約を行う目的が正当であるか(立法目的の正当性)、および制約のための手段が目的達成のために必要な限度を超えていないか(手段の相当性)ということである。

軽微な食中毒事件を発生させた飲食店に対して営業停止処分(食品衛生法55条1項)を下す目的は、原因の究明と再発防止のためなのでそれに不相応な数か月の営業停止処分を違法になる。

3.条例の実効性確保のための措置

(1)行政自身が直接に、義務が履行されたのと同じ状況を作出する

①代執行:代替的作為義務のみ、行政代執行法

②強制徴収:金銭支払義務のみ、国税徴収法の準用

※「滞納処分」の可能な債権
地方税を含めた租税債権は、裁判所の民事執行手続に頼ることなく、財産の差押え、公売等による換価、換価代金の配当という滞納処分で自力執行の方法で強制徴収することが可能である(国税通則法40条、国税徴収法、地方税法48条1項など)。

社会保険料関係の金銭債権(健康保険法180条4項、国民年金法95条、96条、厚生年金保険法86条、89条)、地方公共団体は下水道法に基づく使用料、漁港漁場整備法に基づく漁港の利用の対価などに限られる(地方自治法附則6条)。

公営住宅の家賃、公立学校の授業料、上水道料金などは民事訴訟・民事執行手続を通じて徴収する以外にない。

③直接強制(条例で用いること不可)

(2)罰則等の不利益な措置で威嚇して、義務者が義務を履行するように仕向ける(間接強制機能)

ア 執行罰 (条例で用いること不可)

イ 行政罰 行政刑罰(懲役罰金など)、秩序罰(過料など)

ウ 違反事実の公表、行政サービスの拒否・停止等

(3)即時強制:義務の賦課を前提としない

放置自転車や放置船舶について即時強制を用いる条例が多い。

ピンクちらし条例でピンクちらしを除去・廃棄してもよいとされるものもある。

条例作成に当たっては、相手方の身体や財産に制約を加えてまで、公益上望ましい状態を実現するので、

①即時強制を行う必要性・緊急性(即時強制によって守られる法益)、

②執られる手段の相当性、

③制約が加えられる法益(身体・財産)といった諸要素を総合的に考慮する。

(4) 行政代執行法

行政代執行法は、行政上の強制執行方法の一つである行政代執行の要件と手続を定めた一般法である。

代執行ができる場合を、他の手段では義務の履行の確保が困難でその履行の放置が著しく公益に反するときに限定する。

また、行政庁が自ら行い、または第三者に行わせる手続として戒告、通知、費用の徴収等の規定をおいている。

代執行のほかに執行罰、直接強制を手段として認めていた従前の行政執行法(1900年)に代わって制定された。

 

◆参考判例:浦安町ヨット係留杭強制撤去事件(最二小判平成3年3月8日)

事案:不法にヨット係留施設を設置されて、夜間や干潮時には航行が危険な状態になった。

町は、県の建設事務所(出先機関)に撤去を要請したが、即座の実施は不可能という返事しか得られず、単独で撤去をすることとし、建設会社と工事請負契約を締結して、ヨット係留施設を撤去した。

住民は、撤去に従事した町の職員に時間外勤務手当が支払われたこと、および撤去工事請負契約の代金が支払われたことを問題として、住民訴訟を提起した。

最高裁判所第二小法廷は、原告住民の主張を全て退ける判決を下した。

主な判決理由は、本件の撤去について、漁港法や行政代執行法に照らして適法と認めることはできないが、撤去されなければ船舶航行の安全や住民の危難の防止を保障しがたい状況にあり、緊急避難法理などの民法第720条を参考にしつつ、違法性は存在しないからとしたのである。

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【行政代執行法】
第一条  行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。
第二条  法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。 …
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