任用とは、任命権者が特定の人を特定の職に就けることをいう。
民間企業であれば、就職は労働契約の締結である。しかし地方公務員の場合、自治体に採用されることは契約ではない。この違いは観念的な話に留まらず、内定取消しの扱い、条件付採用期間中の身分、分限処分の性質といった実務の場面で具体的な差を生む。
本稿では、任用の定義と4つの類型、成績主義の原則、そして採用が契約ではないとされる理由を、地方公務員法の条文に即して整理する。あわせて、昇任試験でこの論点がどう問われるかにも触れる。
1. 任用の定義と4つの類型
1.1 任用とは
任用とは、任命権者が特定の人を特定の職に就けることをいう。任命権者については地方公務員法第6条が定めており、地方公共団体の長、議会の議長、選挙管理委員会、代表監査委員、教育委員会、人事委員会及び公平委員会のほか、警視総監、道府県警察本部長、市町村の消防長などが含まれる。
「任用」は、この4つの行為を包括する上位概念である。したがって「任用」と「採用」は同義ではない。採用は任用の一形態にすぎない。
1.2 4類型を定める第15条の2
任用の類型は、地方公務員法第15条の2第1項が定義している。
第十五条の二 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 採用 職員以外の者を職員の職に任命すること(臨時的任用を除く。)をいう。 二 昇任 職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。 三 降任 職員をその職員が現に任命されている職より下位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。 四 転任 職員をその職員が現に任命されている職以外の職員の職に任命することであつて前二号に定めるものに該当しないものをいう。
整理すると次のとおりである。
| 類型 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 採用 | 職員以外の者 | 職員の職に任命する。臨時的任用を除く |
| 昇任 | 現職の職員 | 上位の職制上の段階に属する職に任命する |
| 降任 | 現職の職員 | 下位の職制上の段階に属する職に任命する |
| 転任 | 現職の職員 | 昇任にも降任にも当たらない職への任命 |
1.3 「任用」と「採用」の違い
実務でしばしば混同されるが、両者の関係は明確である。
採用は、職員でない者を職員にする行為である。これに対し任用は、採用に加えて昇任・降任・転任を含む。つまり、既に職員である者に対する人事異動も任用である。
この区別が意味を持つのは、地方公務員法第15条の成績主義が「任用」全体にかかるためである。採用試験だけでなく、昇任も降任も転任も、能力の実証に基づいて行わなければならない。
なお、この定義規定は平成26年の地方公務員法改正(平成26年法律第34号、平成28年4月1日施行)により新設されたものである。それ以前は、法律上の定義規定を欠いたまま運用されていた。
2. 成績主義の原則
2.1 第15条が定める任用の根本基準
(任用の根本基準) 第十五条 職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない。
この規定が定めるのが成績主義(メリット・システム)である。人事は、現実に実証された能力と成績に基づいて行われなければならないという原則をいう。
反対概念が猟官主義(スポイルズ・システム)である。所属政党、情実、縁戚関係といった能力とは無関係の要素によって人事が決まる制度を指す。歴史的には19世紀のアメリカ合衆国で顕著に見られ、公務の非効率と腐敗を招いた反省から、成績主義が確立していった経緯がある。
2.2 例外を認めない趣旨
第15条は、一般職のすべての職員に例外なく適用される。臨時的に任用された職員についても、成績主義の適用は除外されていない。
また、この規定は訓示規定ではない。違反には罰則が科される。
地方公務員法第61条は、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めている。第60条の罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)より重い。人事の公正性が、地方公務員法の中でも特に強く保護されていることが分かる。
(なお、刑法等の一部を改正する法律により、令和7年6月1日から懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されている。旧版の解説書やインターネット上の記事には「懲役」の表記が残っているものが多いが、現行法は拘禁刑である。)
2.3 昇任における成績主義
昇任についても第21条の3が同様の趣旨を定めている。任命権者は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づき、その職に係る標準職務遂行能力及び適性を有すると認められる者の中から昇任させなければならない。
さらに第21条の4により、人事委員会規則で定める一定の職への昇任には、昇任試験または選考が必要となる。昇任試験制度の法的根拠はここにある。
3. 採用は契約ではない——法的性質をめぐる議論
3.1 3つの学説
任用行為のうち「採用」の法的性質については、従来3つの見解が主張されてきた。
公法上の契約説 採用は自治体と職員との間の公法上の契約であるとする見解。民間の労働契約に近い理解である。
一方的行政行為説 採用は任命権者による一方的な行政行為であり、相手方の同意を要しないとする見解。
相手方の同意を要する行政行為説(通説) 採用は行政庁の優越的地位に基づく行政行為の一種であるが、一般の行政行為とは異なり、その性質上、相手方の同意を要する行為であるとする見解。これが通説である。
つまり、本人の同意なく公務員にすることはできない。しかし、同意があるからといって契約になるわけでもない。あくまで行政行為である。
3.2 なぜ契約ではないのか
理由は主として次の点にある。
第一に、勤務条件が当事者の合意によって定まらない。給与、勤務時間、休暇といった労働条件は、条例と規則によって一律に定められる。個別交渉の余地がない。
第二に、任用の要件と手続が法定されている。第15条の成績主義、第16条の欠格条項、第17条の2の競争試験・選考。当事者が自由に設計できる領域ではない。
第三に、身分の変動が処分によって行われる。降任、免職、休職、懲戒——いずれも行政処分である。契約であれば、解除や合意変更として構成されるはずである。
3.3 実務上の帰結
この法的性質の違いは、次の場面で具体的に現れる。
採用内定の取扱い
最高裁昭和57年5月27日判決(東京都建設局事件)は、採用内定通知は採用発令の準備手続としてなされる事実上の行為にすぎず、これによって職員としての地位が発生するものではないとした。民間における採用内定が始期付解約権留保付労働契約の成立と解されるのとは、大きく異なる。
不服申立ての方法
処分に不服がある場合、労働審判や民事訴訟ではなく、人事委員会・公平委員会への審査請求(第49条の2)による。行政処分だからである。
労働基準法・労働組合法の適用関係
第58条により、労働組合法及び労働関係調整法は職員に適用されない。労働基準法についても、多数の条項が適用除外とされている。
補論:行政法上の位置づけ
「相手方の同意を要する行政行為」という構成は、行政法学において双方的行政行為と呼ばれる類型に属する。許可の申請や帰化の許可と同様、私人の意思表示を要件としつつ、法効果は行政庁の一方的な意思決定によって生じるという構造である。
契約と行政行為の区別は、公権力の行使に対する司法審査のあり方にも関わる。処分性が認められれば取消訴訟の対象となり、出訴期間の制限に服する。この点は、昇任試験の論文でも問われうる論点である。
4. 条件付採用——採用は発令で完結しない
4.1 6か月の条件付期間
地方公務員法第22条第1項は、職員の採用はすべて条件付のものとし、その職員がその職において6か月の期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式採用になるものとする旨を定めている。
つまり、採用発令を受けた時点では、まだ正式な職員ではない。6か月の勤務を良好な成績で終えて、初めて正式採用となる。
4.2 条件付採用期間中の身分
条件付採用期間中の職員には、第27条第2項(分限処分の事由の制限)及び第28条第1項から第3項までの規定が適用されない(第29条の2第1項第1号)。
すなわち、正式採用職員であれば法定事由がなければ降任・免職できないところ、条件付採用期間中は、より広い裁量のもとで免職が可能となる。ただし裁量が無制限というわけではなく、純然たる自由裁量ではないと解されている。
また、審査請求に関する規定も適用されない。この点は実務上しばしば見落とされる。
5. 会計年度任用職員と任用
平成29年の地方公務員法改正(平成29年法律第29号、令和2年4月1日施行)により、会計年度任用職員の制度が創設された。
従来、臨時・非常勤職員の任用根拠は自治体ごとにばらつきがあり、特別職非常勤(第3条第3項第3号)や臨時的任用(第22条の3)が本来の趣旨を超えて用いられている実態があった。この改正は、一般職の非常勤職員としての任用根拠を明確化したものである。
会計年度任用職員も一般職であり、第15条の成績主義が適用される。「会計年度任用」という名称から契約社員に近いものと理解されることがあるが、法的性質は任用であって契約ではない。
会計年度任用職員制度の詳細は、別稿で扱っている。
6. 昇任試験でこの論点はどう問われるか
任用は、昇任試験において択一・論文の双方で出題される頻度の高い領域である。
択一で問われるのは、第15条の2の4類型の定義、成績主義の適用範囲、条件付採用期間の長さといった条文知識である。ここは暗記で対応できる。
問題は論文である。論文で問われるのは、制度の説明ではない。たとえば次のような形で出題される。
- 人事評価制度を昇任にどう活用すべきか
- 会計年度任用職員の処遇改善と財政制約をどう調整するか
- 人材確保が困難ななかで、成績主義をどう維持するか
いずれも、条文を正確に述べただけでは点にならない。制度の趣旨を理解したうえで、自らの自治体が直面している課題と結びつけ、実行可能な方策を示すことが求められる。
条文は書けるのに論文が通らないという相談を、これまで数多く受けてきた。原因の多くは知識不足ではなく、答案の構成にある。
7. まとめ
- 任用とは、任命権者が特定の人を特定の職に就けることをいい、採用・昇任・降任・転任の4類型を含む(第15条の2)
- 任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならない(第15条)。この成績主義は訓示規定ではなく、違反には第61条の罰則がある
- 採用の法的性質は、相手方の同意を要する行政行為であるというのが通説である。契約ではない
- この違いは、採用内定の効力、不服申立ての方法、労働法規の適用関係といった実務の場面に具体的に現れる
- 採用は条件付であり、6か月の勤務を経て正式採用となる(第22条)
参考資料
- 地方公務員法(昭和25年法律第261号)e-Gov法令検索
- 最高裁昭和57年5月27日第一小法廷判決(東京都建設局事件)
- 総務省「地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律」関係資料
- 【要記入:お手元のコンメンタール等があれば追記】
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