情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律。平成13年法律第137号)第20条により総務大臣から指定を受けた事業者は、そこで直ちに全ての義務を負うわけではない。指定と義務発生との間に置かれているのが第21条の届出であり、届出を済ませた事業者が最初に果たすべき作為義務が第22条の申出受付方法の公表である。
本稿は令和8年5月21日施行の条文に基づく。なお、同日施行分は民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)の残余部分の施行(令和7年12月17日政令第414号)に伴うものであり、第4章の裁判手続に関わる。第21条および第22条の条文自体に変更はない。
第二十一条(大規模特定電気通信役務提供者による届出)
条文原文
(大規模特定電気通信役務提供者による届出)
第二十一条 大規模特定電気通信役務提供者は、前条第一項の規定による指定を受けた日から三月以内に、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を総務大臣に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 外国の法人若しくは団体又は外国に住所を有する個人にあっては、国内における代表者又は国内における代理人の氏名又は名称及び国内の住所
三 前二号に掲げる事項のほか、総務省令で定める事項
2 大規模特定電気通信役務提供者は、前項各号に掲げる事項に変更があったときは、遅滞なく、その旨を総務大臣に届け出なければならない。
趣旨・立法背景
第5章の規律は、総務大臣が特定の事業者を名指しで指定し、その事業者に削除対応の迅速化と運用状況の透明化を義務づける仕組みである。指定は総務大臣の一方的な行政行為であるから、指定された側が誰であり、どこに連絡すればよいのかを行政庁が正式に把握する手続がなければ、その後の報告徴収(第29条)、勧告および命令(第30条)、書類の送達(第31条、第33条)はいずれも機能しない。第21条はこの接点を確保する規定である。
背景として無視できないのが、規律対象の相当部分が外国法人である点である。令和7年4月30日に最初に指定された5者のうち、Google LLC、Meta Platforms, Inc.、TikTok Pte. Ltd.、X Corp. の4者は外国法人であり、日本国内に本店を持たない。従来、被害者が海外のプラットフォーム事業者に削除を求めようとしても、誰を相手方とすればよいのか、書面はどこへ送ればよいのかという入口の段階で行き詰まる事例が多かった。第1項第2号が国内における代表者または国内における代理人の氏名と国内の住所を届出事項としたのは、行政庁による処分の通知の宛先を国内に固定する趣旨である。
届出事項に連絡先と公表方法が含まれる点も、この法律の設計を反映している。総務省は、届け出られた削除申出窓口と削除基準を一覧の形で公表しており、被害者は事業者ごとにサイト内を探し回らずとも窓口にたどり着ける。届出は行政庁の内部手続にとどまらず、被害者の到達可能性を高める公示機能を併せ持つ。
文理解釈
「前条第一項の規定による指定を受けた日から三月以内」の起算点は、第20条第1項の指定を受けた日である。民法の期間計算の規定によるならば初日は算入されず(民法第140条)、起算日の応当日の前日に満了する(民法第143条第2項)。令和8年8月31日に指定を受けた事業者であれば、9月1日が起算日となり、令和8年11月30日が届出期限となる計算である。
「総務省令で定めるところにより」は届出の方式に係る委任であり、施行規則第11条および同規則の様式第2がこれを受ける。方式が法定されている以上、記載事項を欠く書面の提出では届出を了したことにならない。
第1項第1号は「氏名又は名称」と並べており、自然人が指定される場合を排除していない。実際、令和8年8月31日には「個人」が好き嫌い.comの提供者として指定されている。法人の場合に代表者の氏名を要求するのは、法人自体には行為能力の担い手が必要だからである。
第1項第2号は「外国の法人若しくは団体又は外国に住所を有する個人」を対象とする。日本法人であっても外国資本であるかどうかは問われず、準拠法と住所地で切り分けられる。届け出るのは「国内における代表者又は国内における代理人」であって、いずれかを選択すれば足りる。代表者を置くか代理人を選任するかは事業者の判断に委ねられている。
第2項の「遅滞なく」は、正当な理由があれば多少の遅れが許容される概念であり、「直ちに」より緩やかである。もっとも、変更の届出が遅れれば総務大臣からの通知が届かない状態が生じるため、運用上は速やかな届出が求められる。変更届出は第1項各号の事項に限られ、たとえば削除申出窓口のURLを変更した場合は第1項第3号の事項の変更として届出を要する。
用語解説
大規模特定電気通信役務提供者 第20条第1項の指定を受けた特定電気通信役務提供者をいう(法第2条第14号)。指定基準は、平均月間発信者数(平均月間アクティブユーザ数)1000万超または平均月間延べ発信者数(平均月間投稿数)200万超であることに加え、送信防止措置が技術的に可能であること、不特定の利用者間の交流を主たる目的とするものであることである。
国内における代表者・国内における代理人 外国法人等に代わって日本国内で行為する者をいう。様式第3(権限証明書)によれば、付与される権限として「情報流通プラットフォーム対処法の規定により総務大臣が行う処分の通知を受領する権限」が掲げられている。個別の削除判断を行う権限まで含むものではない。
届出 行政庁に一定の事項を通知する行為であって、法令上その通知が義務づけられているものをいう(行政手続法第2条第7号)。行政庁の応答を要件とせず、形式上の要件に適合していれば提出先に到達した時点で手続上の義務が履行されたものとなる。許可や認可と異なり、審査を経て効力が生じるものではない。
施行規則および様式
第1項第3号の「総務省令で定める事項」は、様式第2(第11条第1項関係)の記載欄から次のとおり読み取れる。
- 電話番号および電子メールアドレス(担当部署がある場合は当該部署に連絡のとれるもの)
- 外国法人等である場合の国内代表者等の氏名または名称および国内の住所
- 第22条第1項の申出を行うための方法の公表の方法(インターネットを利用する場合はウェブサイトのアドレスを含む)
- 第26条第1項の基準の公表の方法(同上)
外国法人等が届け出る場合、施行規則第11条第1項第4号に係る添付書面として様式第3の権限証明書を提出する。第2項の変更届出には様式第4(第12条関係)が用いられ、変更前、変更年月日、変更後を対照する形式で記載する。
指定と届出の実例
| 指定日 | 大規模特定電気通信役務提供者 | 参考サービス名 |
|---|---|---|
| 令和7年4月30日 | Google LLC | YouTube |
| 令和7年4月30日 | LINEヤフー株式会社 | Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、LINEオープンチャット、LINE VOOM |
| 令和7年4月30日 | Meta Platforms, Inc. | Facebook、Instagram、Threads |
| 令和7年4月30日 | TikTok Pte. Ltd. | TikTok、TikTok Lite |
| 令和7年4月30日 | X Corp. | X |
| 令和7年5月30日 | Pinterest Europe Limited | |
| 令和7年5月30日 | 株式会社サイバーエージェント | Amebaブログ |
| 令和7年5月30日 | 株式会社湘南西武ホーム | 爆サイ.com |
| 令和7年5月30日 | 株式会社ドワンゴ | ニコニコ |
| 令和8年8月31日 | 株式会社ジェイスクエアード | ガールズちゃんねる |
| 令和8年8月31日 | ピクシブ株式会社 | pixiv |
| 令和8年8月31日 | note株式会社 | note |
| 令和8年8月31日 | 個人 | 好き嫌い.com |
令和8年8月31日に指定された4者については、届出期限が令和8年11月下旬に到来する。届出が完了した時点で第22条以下の義務が発生し、削除申出窓口と削除基準が総務省の一覧に追加されることになる。ガールズちゃんねる、pixiv、note、好き嫌い.comの利用者は、この時期以降に各社の窓口が整備されたかどうかを確認するとよい。
罰則と監督
第38条が過料の対象として列挙するのは、第20条第3項の報告義務違反と第24条第3項の侵害情報調査専門員に係る届出義務違反であり、第21条の届出はここに含まれない。第21条の履行は、報告の徴収(第29条)および勧告・命令(第30条)という監督権限によって担保される構造である。命令に違反した場合には第35条の罰則が適用される。
第二十二条(被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表)
条文原文
(被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表)
第二十二条 大規模特定電気通信役務提供者(前条第一項の規定による届出をした者に限る。以下同じ。)は、総務省令で定めるところにより、その提供する大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者(次条において「被侵害者」という。)が侵害情報等を示して当該大規模特定電気通信役務提供者に対し侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出を行うための方法を定め、これを公表しなければならない。
2 前項の方法は、次の各号のいずれにも適合するものでなければならない。
一 電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること。
二 申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと。
三 当該大規模特定電気通信役務提供者が申出を受けた日時が当該申出を行った者(第二十五条において「申出者」という。)に明らかとなるものであること。
趣旨・立法背景
旧プロバイダ責任制限法には、削除の申出を受け付ける窓口を設ける義務も、その方法を公表する義務もなかった。同法第3条第2項第2号は、削除に応じた事業者が発信者に対して負う損害賠償責任を制限する要件を定めていたにすぎず、事業者が窓口を置くかどうかは自主的な判断に委ねられていた。その結果、窓口が存在しない、存在しても見つけられない、日本語で申請できない、申請しても受け付けられたかどうか分からないという状態が放置され、被害者は削除仮処分や発信者情報開示という司法手続に頼らざるを得なかった。時間と費用の負担が救済の障壁となっていたわけである。
総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」の第三次とりまとめ(令和6年2月公表)は、この状況を踏まえ、一定規模以上の事業者に削除申出窓口と手続の整備・公表を求めるべきであると提言した。第22条はこれを法定化したものであり、第23条(調査)、第24条(侵害情報調査専門員)、第25条(申出者に対する通知)と連続する削除対応迅速化の入口に位置する。
省令の検討過程では、削除申出窓口において日本語での申請が困難であったという被害者側の指摘が取り上げられ、日本語による申出を受け付けられるものであることが省令に明記された。外国事業者が規律対象の多数を占めるという実態への対応である。
文理解釈
柱書冒頭の括弧書「(前条第一項の規定による届出をした者に限る。以下同じ。)」は、第22条以降に現れる「大規模特定電気通信役務提供者」の語をすべて届出済みの者に絞り込む。第20条の指定を受けただけで届出をしていない段階では、第22条から第28条までの義務は発生しない。もっとも、第21条第1項の届出義務そのものは指定によって発生するため、届出を怠ることで第5章の義務を免れるという構図にはならない。
「自己の権利を侵害されたとする者」は、実際に権利が侵害されている者ではなく、侵害されたと主張する者である。事業者は申出を受け付ける段階で権利侵害の有無を判定してはならず、まず受け付けたうえで第23条の調査に進む。この文言があるため、権利侵害が認められなかった申出も受付件数として第28条の公表対象に含まれる。
「侵害情報等を示して」の「侵害情報等」は、侵害情報、侵害されたとする権利、および権利が侵害されたとする理由の三つを指す(法第2条第7号)。申出の際に何を示せばよいかを示す指標であり、投稿のURLだけでなく、どの権利がどのような理由で侵害されているのかを記載する必要がある。
第2項各号は「いずれにも適合するもの」とされており、三つの要件はすべてを満たす必要がある。第1号の「電子情報処理組織を使用する方法」は、ウェブフォームやオンラインの申請画面を指す。郵送や電話のみの窓口は要件を満たさない。第3号の「申出を受けた日時」が申出者に明らかとなることを求めるのは、第25条の通知期限が申出を受けた日から起算されるためである。受付日時が分からなければ、申出者は期限徒過を把握できない。
用語解説
被侵害者 大規模特定電気通信役務を利用して行われる特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者をいう(法第22条第1項の括弧書)。第23条でも同じ意味で用いられる。
侵害情報等 侵害情報、侵害されたとする権利および権利が侵害されたとする理由をいう(法第2条第7号)。
侵害情報送信防止措置 侵害情報の送信を防止する措置をいう(法第2条第8号)。第20条第1項第2号の定義により、第5章では侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度で行われるものに限られる。
送信防止措置 侵害情報送信防止措置その他の特定電気通信による情報の送信を防止する措置をいい、当該情報の送信を防止するとともに発信者に対する特定電気通信役務の提供を停止する措置(役務提供停止措置。アカウント停止)を含む(法第2条第9号)。
電子情報処理組織 行政機関や事業者の使用するコンピュータと利用者の使用するコンピュータとを電気通信回線で接続した仕組みをいう。オンラインでの申請・届出を法令上表現する際の定型的な用語である。
申出者 第22条第1項の方法により申出を行った者をいう(同項の括弧書)。第25条の通知の名宛人となる。
省令が定める要件
施行規則第13条は、申出方法と公表方法について次の要件を定める。
- 申出方法は、被侵害者が日本語による申出を行うことができるものであること(第1項)
- 公表は、インターネットを利用することにより行われるものであること(第2項)
インターネットによる公表が求められる結果、紙のパンフレットや店頭掲示による公表では足りない。公表方法は第21条第1項第3号の届出事項でもあるため、総務大臣に届け出たURLと実際の公表場所が一致している必要がある。
ガイドラインが示す「過重な負担」の判断
総務省「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン」(令和7年3月11日制定)は、第2項第2号の「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」の具体例として次の5点を挙げている。
- トップページから少ないクリック数でアクセスできるなど、申出フォームが見つけやすいこと
- 文字制限のない文章記入欄が設けられている、証拠が添付可能であるなど、十分に情報提供が可能な申出フォームとなっていること
- アカウント非保有者であっても申出を行うことができること
- 申出先以外の第三者との関係で、申出者のプライバシーその他の権利・利益の侵害を生じさせない形で、申出を行うことができること
- 申出を行ったことを理由として、申出以後のサービス利用に当たって不利益を受けないこと
3点目は実務上の意味が大きい。誹謗中傷の標的となるのは、その場にいない者、すなわち当該サービスに登録していない者である場合が少なくない。アカウント登録を削除申出の前提条件とする設計は、この類型の被害者を救済から排除することになる。年齢制限によりアカウントを保有できない未成年者についても同様である。
ガイドラインはさらに、利用者からの意見を踏まえて申出方法のあり方を不断に見直すことを事業者に求めている。公表して終わりではなく、使いにくさの指摘を受けて改善する継続的な作業が想定されている。
第22条から第25条までは被侵害者本人からの申出を対象とするが、ガイドラインは、被害者救済の観点から、被侵害者以外の者による削除申出についてもこれらの規定に準じて速やかに対応することが望ましいとしている。ただし、事業者に過度な負担を強いることにならず、発信者の表現の自由に対する萎縮につながらない限度での対応が期待されるという留保が付されている。法務省の人権擁護機関や地方公共団体からの削除要請は、この枠組みで受け止められることになる。
公表された削除申出窓口の実例
法第21条に基づき総務省へ届け出られた削除申出窓口は、次のとおり公表されている。
| 事業者 | 削除申出窓口 |
|---|---|
| Google LLC(YouTube) | https://support.google.com/youtube/topic/6154211?hl=ja |
| LINEヤフー株式会社 | https://support.yahoo-net.jp/formly/s/diridp-act |
| Meta Platforms, Inc.(Facebook) | https://help.meta.com/requests/473742855795688/ |
| Meta Platforms, Inc.(Instagram、Threads) | https://help.meta.com/requests/1905988783530981/ |
| TikTok Pte. Ltd. | https://www.tiktok.com/legal/information-distribution-platform-act-jp |
| X Corp. | https://help.x.com/ja/forms/japan-report |
| 株式会社ドワンゴ(ニコニコ) | https://qa.nicovideo.jp/category/show/468?site_domain=default |
| 株式会社サイバーエージェント(Amebaブログ) | https://www.cyberagent.co.jp/sustainability/info/detail/id=20456 |
| 株式会社湘南西武ホーム(爆サイ.com) | https://bakusai.com/legal_gateway/ |
| Pinterest Europe Limited | https://www.pinterest.com/about/japan/ |
TikTokとPinterestが本法専用のページを設けている点、LINEヤフーが複数サービスを単一フォームに集約している点など、設計には差がある。いずれもインターネット上で公表されており、総務省の一覧からたどることができる。
窓口の使いにくさや、公表されている窓口が機能していない状況に気づいた場合、総務省は違法・有害情報相談センターを通じて大規模特定電気通信役務提供者の義務の履行状況に関する報告を受け付けている(https://houkoku.ihaho.jp/ )。削除そのものの相談は同センター(http://www.ihaho.jp/ )が受け付けている。
旧法時の判例・裁判例
第22条を直接適用した公表裁判例は、現時点では見当たらない。施行から日が浅く、同条が定めるのは行政上の義務であって、被侵害者が事業者に対して窓口設置を訴求する私法上の請求権を創設したものではないためである。以下は、旧プロバイダ責任制限法およびそれ以前の法状況の下で、削除の申出を受けた事業者の責任がどのように判断されてきたかを示す裁判例である。
東京高判平成13年9月5日判時1786号80頁(ニフティサーブ現代思想フォーラム事件) パソコン通信の会議室における名誉毀損的な書き込みについて、フォーラムの運営者が発言を削除すべき条理上の作為義務を負う場合があることを認めた。プラットフォーム事業者の削除義務を条理から導く判断手法の出発点に位置する。
東京高判平成14年12月25日判時1816号52頁(動物病院事件) 匿名掲示板の管理者について、名誉毀損に当たる書き込みを削除する義務を認めた。削除の申出を受けながら放置した場合に管理者自身が不法行為責任を負い得ることを示したもので、窓口の不存在や不対応が事業者のリスクとなる法的構造を明らかにした。
知財高判平成24年2月14日判タ1404号217頁(チュッパチャプス事件) インターネットショッピングモールの運営者が商標権侵害の事実を知った時から8日以内に出品を削除したことについて、合理的期間内の是正であると判断した。総務省は、施行規則第16条が申出者への通知期限を7日とした根拠の一つとして、この判断を挙げている。申出を受けてから対応までの期間について、司法判断と行政規律が接続している例である。
最判平成22年4月13日民集64巻3号758頁 発信者情報開示請求における権利侵害の明白性の要件について、被害回復の必要性と発信者のプライバシー・通信の秘密・表現の自由との調和を図るために厳格な要件が置かれたものと解した。削除の申出に対する事業者の判断が、常にこの緊張関係の中で行われることを示す。
これらの裁判例は、いずれも事後的な損害賠償の可否を判断したものであり、事前の窓口整備を義務づけたものではない。第22条は、司法判断の積み重ねによって事後的に形成されてきた事業者の作為義務を、行政規律として事前の手続に組み替えたものと位置づけられる。
SNS利用者・法人が押さえておく点
投稿による被害を受けた個人および法人の立場からは、次の順序で確認するのが実際的である。
第一に、問題の投稿があるサービスの提供者が指定を受けているかどうかを、総務省の一覧で確認する。指定を受けていれば、第22条の窓口が公表されており、アカウントを持っていなくても申出ができる。
第二に、申出の際には投稿を特定する情報に加えて、侵害されたとする権利と、それが侵害されたとする理由を記載する。名誉権、名誉感情、プライバシー、私生活の平穏、肖像権、氏名権、パブリシティ権、著作権および著作隣接権、商標権、営業上の利益が、違法情報ガイドラインで対象として整理されている。
第三に、受付日時の記録を保存する。第2項第3号により受付日時は申出者に明らかとなる仕組みでなければならず、これが第25条の通知期限の起算点となる。
第四に、指定を受けていないサービスの場合、第22条以下の義務は及ばない。この場合は第3条の枠組みを前提とした任意の削除依頼、または削除仮処分などの司法手続によることになる。
なお、投稿が削除されても発信者が特定されるわけではない。損害賠償や刑事責任の追及を視野に入れるのであれば、削除と並行して第5条以下の発信者情報開示を検討する必要がある。削除によってログが失われると開示請求が困難になる場合があるため、順序の設計には注意を要する。
SNSや掲示板の運営者に対する「投稿の削除請求」や「発信者情報開示請求」に必要な書類作成や代理提出のサポートを受任します。まずは無料相談をご利用ください。 https://compliance21.com/contact/
参考資料
- 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai.html
- 総務省「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン」(令和7年3月11日制定) https://www.soumu.go.jp/main_content/001001530.pdf
- 総務省「情報流通プラットフォーム対処法第21条に基づき届け出られた削除申出窓口及び削除基準(一覧)」 https://www.soumu.go.jp/main_content/001031570.pdf
- 総務省「情報流通プラットフォーム対処法の省令及びガイドラインに関する考え方」(令和6年11月) https://www.soumu.go.jp/main_content/000978031.pdf
- 総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則の一部を改正する省令案等に対する意見募集結果」(令和7年3月11日) https://www.soumu.go.jp/main_content/000996605.pdf
- 総務省報道資料「情報流通プラットフォーム対処法第20条第1項に基づく大規模特定電気通信役務提供者の指定」(令和7年4月30日、令和7年5月30日、令和8年8月31日)
- 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号)様式第2から様式第4まで
- 違法・有害情報相談センター https://www.ihaho.jp/

