第20条は、同法第5章「大規模特定電気通信役務提供者の義務」の入口に置かれた規定である。第21条以下で課される削除対応の迅速化と運用状況の透明化の義務は、すべてこの条文による総務大臣の指定を受けた者にのみ及ぶ。SNSや掲示板の利用者からみれば、自分が被害を受けたサービスがこの指定を受けているかどうかで、削除を求めるときの道筋が大きく変わる。事業者からみれば、指定は届出義務と公表義務、そして過料の適用を伴う地位の発生を意味する。

本稿は令和8年5月21日現在の法令に基づく。

1 条文原文

(大規模特定電気通信役務提供者の指定)

第二十条 総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。

一 当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。

イ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると推定される者を除く。ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

ロ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

二 当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること。

三 当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。

2 総務大臣は、大規模特定電気通信役務提供者について前項の規定による指定の理由がなくなったと認めるときは、遅滞なく、その指定を解除しなければならない。

3 総務大臣は、第一項の規定による指定及び前項の規定による指定の解除に必要な限度において、総務省令で定めるところにより、特定電気通信役務提供者に対し、その提供する特定電気通信役務の平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数を報告させることができる。

4 総務大臣は、前項の規定による報告の徴収によっては特定電気通信役務提供者の提供する特定電気通信役務の平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数を把握することが困難であると認めるときは、当該平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数を総務省令で定める合理的な方法により推計して、第一項の規定による指定及び第二項の規定による指定の解除を行うことができる。

2 趣旨・立法背景

旧法には規模による切り分けがなかった

旧プロバイダ責任制限法は全19か条であり、その内容は、プラットフォーム事業者の損害賠償責任の制限と、発信者情報開示請求権および開示命令事件の裁判手続に尽きていた。事業者に対し、削除の窓口を設けよ、判断結果を通知せよ、削除基準を公表せよといった行為規範を課す規定は置かれていなかった。

その結果、誹謗中傷を受けた人が削除を求めても、窓口が見当たらない、日本語で申し出られない、申し出ても何の返答もないまま放置される、という事態が広く生じた。総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」は、令和2年8月の緊急提言および令和6年1月の第三次とりまとめでこの点を指摘し、大規模な事業者に対して行政上の規律を課す方向を示した。これを受けた令和6年法律第25号により、条文数は19か条から38か条に増え、第5章と第6章が新設された。第20条はその新設部分の起点にあたる。

なぜ全事業者ではなく指定制なのか

削除窓口の整備、専門員の選任、年次の実施状況公表といった義務は、履行に相応の人的・技術的資源を要する。個人が趣味で運営する掲示板にまで一律に課せば、サービスの停止を招き、表現の場そのものを狭める。他方、被害の規模と拡散の速度は、そのサービスの利用者数と比例する傾向がある。

そこで第20条は、規模(第1号)、削除の技術的可能性(第2号)、権利侵害の生じやすさというサービスの性質(第3号)の三つをすべて満たすものだけを大規模特定電気通信役務とし、これを提供する者を指定する構造をとった。柱書が「必要性が特に高いと認められるもの」と限定を重ねているのは、規制の対象を過度に広げないための歯止めである。

指定は義務ではなく裁量

柱書の文末は「指定することができる」である。三つの要件を満たしても、総務大臣が当然に指定しなければならないわけではない。これに対し第2項の解除は「解除しなければならない」であり、要件を欠くに至れば裁量の余地なく解除される。義務を課す側は慎重に、義務を解く側は迅速にという非対称な設計になっている。

3 用語解説

大規模特定電気通信役務」とは、第1項各号のすべてに該当し、削除手続の迅速化と実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるサービスをいう。指定を受けるのは、サービスではなく、これを提供する事業者である。

大規模特定電気通信役務提供者」とは、上記のサービスを提供する者として総務大臣の指定を受けた特定電気通信役務提供者をいう。報道では大規模プラットフォーム事業者と呼ばれることが多い。

平均月間発信者数」とは、1か月間に発信者となった者と、これに準ずる者として総務省令で定める者の数を、総務省令で定める期間について平均した数をいう。日本国外にあると推定される者は算入しない。ここでいう「これに準ずる者」は、施行規則第8条第1項により、その月にそのサービスを利用した者とされる。総務省のガイドラインは、リポスト、シェア、「いいね」といった反応をした者に加えて、閲覧しているだけの者も含むと明示した。閲覧が増えれば被害者の社会的評価の低下も拡散も進むためである。したがって平均月間発信者数は、実質的に平均月間アクティブユーザー数と同義になる。

平均月間延べ発信者数」とは、1か月間に発信者となった者の延べ数を平均したものをいう。同一人が10回投稿すれば10と数える。ガイドラインはこれを平均月間投稿数と同義であると説明している。

侵害情報送信防止措置」とは、侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度で行われる措置をいう。第2号かっこ書がこの限定を置いた意味は大きい。アカウントの全面凍結や利用契約の解除ではなく、問題となった情報だけを不特定の者から見えない状態にする措置を指す。技術的可能性は、この限度での措置ができるかどうかで判断される。

4 総務省令が定めた具体的な数値と除外範囲

第20条は要件の骨格だけを定め、数値と除外範囲を総務省令に委ねている。これを受けたのが施行規則(令和4年総務省令第39号)であり、令和7年3月11日に改正内容とガイドラインが公表され、同年4月1日から適用されている。

指定の閾値

  • 平均月間発信者数が1000万を超えること(第1号イ)
  • 平均月間延べ発信者数が200万を超えること(第1号ロ)

いずれか一方を満たせば第1号の要件を充足する。算定は総務省令の定める期間について平均する方式であり、単月の急増だけで指定されることはない。

報告を求められる水準

第3項の報告徴収は、指定の閾値の9割にあたる水準で線が引かれた。すなわち、平均月間発信者数900万以上、または平均月間延べ発信者数180万以上のサービスを提供する者が報告の対象となる。電気通信事業法の報告規則における考え方に倣ったものである。報告は様式第1(特定電気通信役務に係る平均月間発信者数及び平均月間延べ発信者数報告書)による。

第3号で除外されるサービス

権利の侵害が発生するおそれの少ないサービスとして省令が定めるのは、次の二類型である(施行規則第8条第6項第1号・第2号)。

第1号 不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものでないもの。ガイドラインはECサイト、検索サイト、アプリストアを挙げる。

第2号 不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものであって、前号のサービスに専ら付随的に提供されるもの。ECサイトのコメント欄、ゲーム内のチャット機能が例示されている。

交流そのものを目的とするサービスでは、交流に伴って権利侵害情報が生まれ拡散しやすい。これに対し、主たる機能が売買や検索であるサービスに付いているコメント欄は、権利侵害が起きる蓋然性の高さと被害の深刻さの両面で差があるという整理である。

第4項の推計

事業者が報告に応じない場合や、サービスの仕様上そもそも正確な数値を出せない場合に、指定制度が空転しては困る。第4項は、総務省令で定める合理的な方法による推計に基づいて指定と解除を行う権限を総務大臣に与えた。報告に応じないことが規律を免れる手段にならないよう塞いだ規定である。

なお、正当な理由なく第3項の報告をせず、または虚偽の報告をした者は、第38条第1号により過料に処せられる。ガイドラインは、この「正当な理由」の例として、サービスの特性上、求められた数値を直ちには把握できない場合を挙げている。

5 実際に指定された事業者

第20条第1項に基づく指定は、令和7年4月30日に最初に行われた。

事業者対象サービス
Google LLCYouTube
LINEヤフー株式会社Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、LINEオープンチャット、LINE VOOM
Meta Platforms, Inc.Facebook、Instagram、Threads
TikTok Pte. Ltd.TikTok、TikTok Lite
X Corp.X

続いて令和7年5月に、次の4者が追加指定された。

事業者対象サービス
株式会社ドワンゴニコニコ(施行規則第8条第6項に定めるものを除く)
株式会社サイバーエージェントAmebaブログ
株式会社湘南西武ホーム爆サイ.com
Pinterest Europe LimitedPinterest

指定は令和8年8月現在、この9者である。三つの示唆が読み取れる。

第一に、外国法人が正面から対象になっている。日本国内に法人格を持たない事業者であっても、日本語話者に向けてサービスを提供する以上は指定を免れない。指定を受けた者は、第21条により指定の日から3か月以内に届出を行い、国内における代表者を定める必要がある。

第二に、指定はサービス単位で切り出される。ドワンゴの例では、ニコニコの中でも不特定の利用者間の交流を主たる目的としないサービスは除かれた。事業者名で一括して規律されるのではなく、第1項各号の該当性がサービスごとに判断されている。

第三に、地域の話題を扱う匿名掲示板である爆サイ.comが指定された点は、この制度が世界的な大手SNSだけを想定したものではないことを示す。誹謗中傷の相談実務では地域密着型の掲示板の比重が高く、平均月間発信者数の基準はそこに届く水準に設定されている。

6 旧法時の判例・裁判例

第20条に対応する規定は旧プロバイダ責任制限法に存在しない。したがって本条それ自体を解釈した裁判例はまだない。旧法の下で削除がどのように扱われてきたかをみると、本条が置かれた理由がはっきりする。

最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定(民集71巻1号63頁)

検索事業者に対し、逮捕歴に関する検索結果の削除を求めた事案である。最高裁は、検索結果の提供が検索事業者自身の表現行為の側面を有し、現代社会において情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを指摘したうえで、削除が認められるのは、その事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとした。結論として削除請求は認められなかった。

最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(民集76巻5号1170頁)

旅館の浴場脱衣所への侵入で逮捕され罰金刑に処せられた者が、逮捕当日の報道記事を転載したツイートの削除をツイッター社に求めた事案である。第一審の東京地裁令和元年10月11日判決(判時2462号17頁)は比較衡量により削除を認め、控訴審の東京高裁令和2年6月29日判決(判タ1477号44頁)は平成29年決定の「明らか」という要件を用いて請求を棄却した。

最高裁は控訴審判決を破棄し、削除を認めた。ツイッターが提供するサービスの内容や利用の実態を考慮しても、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解することはできないとして、検索エンジンについて示された加重要件をSNSには及ぼさなかった。あてはめでは、逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、刑の言渡しが効力を失っていること(刑法34条の2第1項後段)、転載元の報道記事が既に削除されていること、投稿が140字の速報を目的としたもので長期の閲覧を想定していないことが考慮された。

この2件が示す旧法の限界

いずれも被害者が訴訟を提起し、上告審まで争って初めて削除に至った事案である。平成29年決定は最終的に削除を認めず、令和4年判決は削除を認めたが、逮捕から判決までに10年近くを要した。事業者の規模は判断要素ではなく、大手であるほど手厚い対応が求められるという法的な仕組みも存在しなかった。

第20条以下の規律は、この司法救済とは別の層に置かれている。指定を受けた事業者に対し、窓口の公表(第22条)、専門員の選任(第24条)、原則7日以内の通知(第25条と施行規則)、削除基準の公表(第26条)、実施状況の年次公表(第28条)を義務づけ、訴訟に至る前の段階で処理が進むようにした。ただし第20条は被害者に新たな削除請求権を与えるものではない。事業者が申出に応じない場合、最終的な救済はやはり仮処分や訴訟によることになる。

7 SNS利用者と企業にとっての実務上の意味

自分が被害を受けたサービスが指定を受けているかどうかを最初に確認したい。指定されていれば、事業者は削除申出の受付方法を公表し、総務省に届け出ている。総務省のウェブサイトには各社の削除申出窓口と削除基準の一覧が掲載されており、そこから申し出れば原則として7日以内に判断結果の通知を受けられる。

指定を受けていないサービスでは、この手続保障は働かない。事業者の任意の対応に委ねられるか、発信者情報開示命令の申立てや削除の仮処分といった裁判手続に進むことになる。

企業が自社サービスを運営している場合は、平均月間発信者数900万または平均月間延べ発信者数180万という報告の水準を意識し、ログから両方の数値を算定できる社内体制を先に整えておく必要がある。数値の算定単位はサービスごとであり、報告を怠れば過料の対象となる。自社サービスが第3号の除外類型にあたると考える場合も、その根拠を説明できる形で整理しておきたい。

企業が被害者の立場に立つ場合、指定事業者の窓口はアカウントを持たない者でも利用でき、証拠の添付が可能な形で設計されていることがガイドラインで求められている。法人名義での申出も、この設計の範囲で行える。

8 令和8年5月21日施行法における位置づけ

令和8年5月21日は、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)の全面施行日であり、民事訴訟手続のデジタル化に伴う整備が本法にも及んでいる。もっとも、その整備の対象は発信者情報開示命令事件の裁判手続に関する部分であり、第20条の規定内容に変更はない。第20条は令和6年法律第25号によって新設されて以降、条文の文言に改正はない。

参考資料


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