条文原文
(提供命令)
第十五条 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
一 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。
イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨
二 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。
2 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、同項第一号イの規定中「に係るもの」とあるのは、次の表の上欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる字句とする。
当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められる場合 に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報
当該特定発信者情報の開示の請求について第五条第一項第三号に該当すると認められない場合 に係る第五条第一項に規定する特定発信者情報以外の発信者情報
3 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(提供命令により二以上の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該他の開示関係役務提供者のうちの一部の者について第一項第二号に規定する通知をしないことにより第二号に該当することとなるときは、当該一部の者に係る部分に限る。)は、その効力を失う。
一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(当該発信者情報開示命令事件についての前条第一項に規定する決定に対して同項に規定する訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了したとき。
二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から二月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第一項第二号に規定する通知をしなかったとき。
4 提供命令の申立ては、当該提供命令があった後であっても、その全部又は一部を取り下げることができる。
5 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。
趣旨・立法背景
第15条は発信者情報開示命令事件(法第8条)に付随する保全的な処分として提供命令の制度を定める。同条は令和3年法律第27号によりプロバイダ責任制限法に新設され、令和4年10月1日に施行された。プロバイダ責任制限法が令和6年法律第25号による改正を経て情報流通プラットフォーム対処法へと題名を変更した後も、条文番号及び内容は維持されている。
匿名の投稿による権利侵害に対して被害者が発信者を特定する場合、投稿が行われたサイトを運営するコンテンツプロバイダに対する開示請求のみでは足りず、投稿時の通信を媒介したアクセスプロバイダに対する開示請求が別途必要になる場合が多い。改正前の手続では、コンテンツプロバイダに対する仮処分及び訴訟でアクセスプロバイダ名の開示を受けた後、あらためてアクセスプロバイダに対する仮処分及び訴訟を提起する必要があり、被害者に多大な時間と費用の負担を強いていた。
提供命令は、この二段階の手続を一つの発信者情報開示命令事件の枠内で完結させるために設けられた。裁判所がコンテンツプロバイダに対してアクセスプロバイダの氏名又は名称及び住所を申立人に提供するよう命じ(第1項第1号)、申立人がそのアクセスプロバイダに対する開示命令を申し立てた旨を通知した後は、コンテンツプロバイダが保有する接続認証記録(IPアドレス及びタイムスタンプ)を申立人を介さずアクセスプロバイダへ直接提供するよう命じる(同項第2号)。この二段構えの仕組みにより、通信記録が消去される前に後続の開示命令の申立てへとつなげることが可能になる。
提供命令の発令要件は、発信者情報開示命令そのものの要件である権利侵害の明白性とは異なり、侵害情報の発信者を特定できなくなることを防止する必要性である。この要件は開示命令の要件より緩やかであり、開示命令事件の審理が完了する前に発令される保全的性格を持つ処分として位置付けられている。
用語解説
開示関係役務提供者とは、発信者情報開示命令の申立ての相手方となる特定電気通信役務提供者をいい、投稿が行われたコンテンツプロバイダと、投稿時の通信を媒介したアクセスプロバイダの双方を含む。
他の開示関係役務提供者の氏名等情報とは、申立ての相手方であるコンテンツプロバイダが保有する発信者情報から特定される、別の開示関係役務提供者すなわちアクセスプロバイダの氏名又は名称及び住所をいう。
特定発信者情報とは、ログイン時のIPアドレスなど、投稿時の通信以外の通信に関する発信者情報のうち総務省令で定めるものをいう。第5条第1項に定義があり、その開示には補充性の要件が別途課される。
電磁的方法とは、書面によらずに情報を提供する方法であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法のうち総務省令で定めるものをいう。裁判所からの命令書の送達を経て、開示関係役務提供者から申立人へ直接情報が提供される点に特色がある。
即時抗告とは、裁判所の決定に対して2週間以内に不服を申し立て、上級の裁判所に再審理を求める手続をいう。提供命令に対しては第5項により開示関係役務提供者に即時抗告の道が用意されている一方、申立人が提供命令の申立てを却下された場合の不服申立て方法は別途検討を要する。
実務上の運用及び裁判例の状況
提供命令は発信者情報開示命令の申立てと同一の書面で申し立てることができ、相手方への審尋を経ずに発令される運用が定着している。東京地方裁判所民事第9部の実務では、申立書に不備がなければ提供命令は短期間で発令される例が多く、発令から数日程度でアクセスプロバイダの名称が判明する運用状況が報告されている。
提供命令そのものの解釈をめぐる公表裁判例は限られているが、実務上は次の点が争点になりやすい。第一に、コンテンツプロバイダが特定発信者情報のみを保有し通常の発信者情報を保有していない場合の第1項第1号ロの「その旨」の通知範囲である。第二に、提供命令により得られたアクセスプロバイダの氏名及び住所の情報を後続の開示命令事件でどのように利用できるかという点であり、提供命令の主文別紙である発信者情報目録の記載が後続事件における発信者情報の特定に直結するため、記載の正確性が実務上重視されている。第三に、第3項第2号に定める2月の通知期間を徒過した場合に提供命令が失効する点であり、申立人側は通知期限の管理を要する。
即時抗告についての公表裁判例は限られるが、提供命令を受けた開示関係役務提供者が発令要件である発信者を特定できなくなる防止の必要性を争う余地は制度上残されている。もっとも提供命令の要件は開示命令の権利侵害の明白性より緩やかであるため、即時抗告が認容された公表裁判例は多くない。
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