第1章 建設業を取り巻く事業環境

※はじめに

建設業は、社会資本の整備や維持管理、防災・減災対策など、国民生活を支える極めて重要な産業である。一方で、建設業を取り巻く経営環境は年々厳しさを増している。

公共工事や民間工事の需要は一定程度存在するものの、建設現場では慢性的な人手不足、高齢化、若年入職者の減少、資材価格の高騰、働き方改革への対応など、多くの課題を抱えている。

特に令和6年(2024年)から適用された時間外労働の上限規制は、工事現場の管理方法を大きく変える契機となった。従来のように長時間労働で工程の遅れを取り戻すことは難しくなり、「限られた時間で成果を上げる」ことが求められている。

そのため、国土交通省は「i-Construction2.0」や「インフラDX」を推進し、ICT施工、BIM/CIM、ドローン、AIなどのデジタル技術を活用した生産性向上を重要な政策として位置付けている。

しかし、生産性向上とは、高価なICT機器を導入することだけではない。

朝礼の進め方、現場の整理整頓、作業手順の見直し、コミュニケーションの改善など、小さな改善の積み重ねも生産性向上につながる。

中川総合法務オフィスの建設業研修では、

  • 建設業を取り巻く環境
  • 生産性向上の考え方
  • 工事現場で実践できる改善方法
  • 建設会社の成功事例
  • 支援制度の活用方法

について、自社で実践できる改善策を考えることを主眼に研修を組み立てている。その際に重要なのは、コンプライアンスの視点を入れてステークホルダーの求めるものを追求することが大切である。


 

第1章 建設業を取り巻く事業環境① 人手不足・高齢化・担い手不足

1 深刻化する人手不足

建設業では、長年にわたり技能労働者の不足が大きな課題となっている。景気回復や災害復旧工事、インフラの老朽化対策などにより工事量は一定の水準を維持しているものの、現場で働く人材の確保が追いついていない。

人手不足は、単に「人数が足りない」という問題にとどまらない。工程の遅延、品質管理の負担増、安全管理の不徹底、長時間労働など、多くの経営課題につながる。

さらに、熟練技能者が不足すると、若手職員への技術継承が困難となり、将来的な企業競争力の低下を招くおそれがある。


2 高齢化の進行

建設業では、技能労働者の高齢化が進行している。

長年培われた経験や技能は企業にとって大きな財産である。しかし、高齢化が進むことで、退職や体力の低下による離職が増え、技術やノウハウが失われるリスクが高まっている。

そのため、ベテラン社員の経験を「個人の技能」にとどめず、マニュアル化や動画による記録、若手へのOJTなどを通じて組織の知識として継承することが重要である。


3 若年入職者の減少

建設業は社会に不可欠な仕事であるにもかかわらず、若年層からは「きつい・危険・休みが少ない」といったイメージを持たれることが少なくない。

近年では、完全週休二日制の導入や処遇改善、ICT施工の普及などにより職場環境は改善しつつあるが、他産業との人材獲得競争は依然として厳しい状況にある。

若年人材を確保するためには、給与や福利厚生だけでなく、「働きやすい職場」「成長できる職場」「社会に貢献できる仕事」であることを積極的に発信することが重要である。


4 人手不足への対応

人手不足への対応としては、次のような取組が求められる。

  • 作業の標準化による効率化
  • ICT施工の導入
  • 現場管理のデジタル化
  • 多能工の育成
  • 女性や高齢者が働きやすい職場環境の整備
  • 外国人材との適切な協働
  • 技術継承の仕組みづくり

これらを組み合わせることで、限られた人員でも高い生産性を実現することが可能となる。


【現場で考えるポイント】

自社では次のような状況はないだろうか。

  • ベテラン社員に仕事が集中している。
  • 若手社員が定着せず、数年で退職してしまう。
  • 技術やノウハウが個人任せになっている。
  • 現場監督の負担が過大となっている。

これらの課題を一つずつ改善することが、生産性向上への第一歩である。

 

第2章 建設業を取り巻く事業環境② 「2024年」問題、働き方改革と生産性向上


1 2024年問題とは何か

令和6年(2024年)4月から、建設業においても時間外労働の上限規制が本格的に適用された。これまで建設業は、他業種に比べて長時間労働が常態化していることから適用が猶予されてきたが、働き方改革関連法により、その猶予措置が終了した。

この制度改正は、労働者の健康確保やワーク・ライフ・バランスの実現を目的としている。一方で、建設会社にとっては、従来のように残業時間を増やして工期を守ることが難しくなり、工事の進め方そのものを見直す必要が生じている。

したがって、「労働時間を減らしながら、生産性を高める」ことが、建設業の重要な経営課題となっている。


2 働き方改革が求めるもの

働き方改革とは、単に労働時間を短縮することではない。

限られた時間の中で成果を上げるために、仕事の進め方そのものを改善する取組である。

例えば、次のような改善が考えられる。

  • 朝礼や打合せを短時間で効率的に行う。
  • 書類作成をデジタル化し、重複入力をなくす。
  • 工程管理を見直し、待ち時間や手戻りを減らす。
  • 情報共有をクラウドサービスで行い、移動時間を削減する。
  • ICT施工を活用し、測量や施工管理を効率化する。

このような改善を積み重ねることで、労働時間の短縮と生産性向上を両立させることができる。


3 生産性向上は経営改善につながる

生産性向上は、単に作業を速く行うことではない。

同じ人数、同じ時間で、より高い価値を生み出すことである。

例えば、

  • 手待ち時間を削減する。
  • 手戻り工事を減らす。
  • 品質不良を防止する。
  • 災害を防止する。
  • 現場監督の事務作業を減らす。

これらはすべて生産性向上につながる。

また、生産性が向上すれば、利益率の改善、労働環境の改善、人材確保、企業の競争力向上など、多くの効果が期待できる。


4 国土交通省が進める施策

国土交通省は、建設業の生産性向上を実現するため、次のような施策を推進している。

  • i-Construction 2.0による建設現場のデジタル化
  • ICT建設機械の活用
  • ドローンによる測量・点検
  • BIM/CIMの普及
  • インフラDXの推進
  • 遠隔臨場や電子納品の活用

これらの施策は、大規模企業だけでなく、中小建設業者にとっても、生産性向上の有効な手段となる。


【現場で考えるポイント】

次のような業務は、自社でも見直すことができないだろうか。

  • 毎日同じ内容の書類を手書きしている。
  • 現場と事務所を何度も往復している。
  • 打合せに長時間を費やしている。
  • 「昔からこのやり方だから」という理由だけで続けている作業がある。

現場の「当たり前」を見直すことが、生産性向上の第一歩である。

第3章 建設業を取り巻く事業環境③ 国土交通省が推進する i-Construction 2.0 とインフラDX


1 i-Constructionとは

国土交通省は、建設業における人手不足や高齢化などの課題に対応するため、ICTやデジタル技術を積極的に活用し、建設現場全体の生産性向上を図る「i-Construction」を推進している。これは、測量・設計・施工・維持管理までの建設生産プロセス全体をデジタル化し、より安全で効率的な建設現場を実現するための取組である。


2 i-Construction 2.0への進化

令和6年(2024年)、国土交通省は「i-Construction」をさらに発展させたi-Construction 2.0を公表した。

その目的は、デジタル技術を最大限に活用し、2040年度までに建設現場の省人化を30%以上、生産性を1.5倍に向上させることである。


3 i-Construction 2.0の3つの柱

(1)施工のオートメーション化

ICT建設機械、自動施工、遠隔操作などを活用し、人が危険な場所で作業する時間を減らす取組である。

例えば、

  • ICTブルドーザー
  • ICTバックホウ
  • 自動運転建設機械
  • ドローンによる測量

などがある。

これにより、安全性と施工精度の向上が期待される。


(2)データ連携のオートメーション化

現場ごとに管理されていたデータをクラウドで共有し、設計・施工・維持管理で一元的に活用する取組である。

例えば、

  • BIM/CIM
  • クラウド管理
  • 電子納品
  • 電子黒板
  • タブレットによる図面閲覧

などである。

紙資料の削減、情報共有の迅速化、手戻り防止などの効果が期待できる。


(3)施工管理のオートメーション化

施工管理にAIやICTを活用し、監督業務を効率化する取組である。

例えば、

  • 遠隔臨場
  • AI画像解析
  • Web会議
  • デジタル写真管理
  • 工程管理システム

などが挙げられる。

現場監督の移動時間や書類作成時間を削減し、本来の現場管理業務に集中できるようになる。


4 中小建設業でも取り組めるDX

DXというと、多額の投資が必要と思われがちである。

しかし、中小建設業でも比較的導入しやすい取組は数多くある。

  • タブレット端末による図面閲覧
  • クラウドによる写真共有
  • 電子黒板の利用
  • Web会議による打合せ
  • ドローンによる簡易測量
  • 工程表のクラウド管理

これらは比較的少ない投資で導入でき、効果も大きい。

重要なのは、「すべてを一度に変える」のではなく、小さな改善から始めることである。


【現場で考えるポイント】

次の業務は、デジタル化によって効率化できないだろうか。

  • 紙図面を何度も印刷している。
  • 写真整理に毎日時間を費やしている。
  • 打合せ資料を紙で配布している。
  • 現場確認のために長距離を移動している。

一つでも改善できれば、年間では大きな時間削減につながる。

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