はじめに - なぜ心理的安全性がコンプライアンスに不可欠なのか

組織内のコンプライアンス違反が表面化する前に、なぜ誰も声を上げなかったのか——。多くの企業不祥事において、この問いが浮かび上がります。心理的安全性は、チームにも、それを率いる人にとっても、重要な概念であり、コンプライアンス体制の実効性を左右する重要な要素です。

心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱された概念で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」として定義されています。この概念は、組織のコンプライアンス体制強化において極めて重要な役割を果たします。

現在、公益通報者保護法という法律により、公益通報に当たる通報であれば、通報者は内部通報をしたとしても、通報したことを理由とする不利益な取扱いから保護されているものの、制度の実効性を高めるには心理的安全性の向上が不可欠です。

1. 組織内の心理的安全性を高め、コンプライアンス違反の早期発見・対応を促進する研修の概要

コンプライアンスのレベルアップを目的とした心理的安全性研修を下記のような内容で行っています。あなたの組織でもやってみませんか。中川総合法務オフィスで実施しているスタンダードなカリキュラム案も掲載しました。対象は主にコンプライアンス委員会メンバーや管理職で、ワークや質疑応答を含めて、2時間半くらいがベストでしょう。

※なお「心理的安全性」とは、第一人者のエドモンドソン教授によると、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」のことです。

心理的安全性研修がもたらす大きなメリット

あらかじめ申し上げると、次のような大きなメリットがこの心理的安全性研修にはあります。

問題の早期発見と報告の促進:心理的安全性が高まると、従業員はトラブルやミス、不正や違反を報告することへの心理的障壁が低くなり、組織はコンプライアンス上の問題を早期に発見し、対処することが可能になります。コンプライアンス・リスク管理が向上して、中川総合法務オフィスのこのサイトにもある通り、「不祥事防止は隠さないのが9割」、オープンなコミュニケーションが促進されていきます。声を上げられない組織文化が改善されていくでしょう。また、これまでに適切な利用がなかった内部通報も増加してくるでしょう。

事業者内部からの通報を契機として、企業不祥事が相次いで明らかになったことを契機に、法令違反行為を労働者が通報した場合、解雇等の不利益な取扱いから保護し、事業者の法令遵守経営を強化するため、「公益通報者保護法」が平成18年4月から施行されており、法的な保護制度は整備されているものの、実際に通報するための心理的ハードルを下げることが重要です。

2. 心理的安全性研修カリキュラム(スタンダード版)

(1) 心理的安全性とコンプライアンスの関係

  • 心理的安全性の概念とコンプライアンス体制強化のための重要性
  • コンプライアンス違反と組織文化の関連性
  • 沈黙のスパイラルとその打破方法
  • 公益通報者保護法によって、内部通報制度のルールが定められているが、その実効性を高める心理的安全性の役割

(2) 所属部署・組織の心理的安全性の自己診断と現状分析

  • 組織の心理的安全性レベル自己診断
  • 現在のチーム/部署における課題の特定
  • 心理的安全性のギャップ分析のグループワーク
  • 調和を重んじる日本の組織や社会の中で実行するのはとても難しい「率直な意見表明」の障壁分析

(3) 心理的安全性を高めるコミュニケーションスキル

  • 積極的傾聴とオープンな質問技法
  • 非難ではなく問題解決に焦点を当てた対話の実践
  • ロールプレイ:困難な状況での効果的なコミュニケーション
  • 上司に反対意見を言うことや、失敗や間違いについて話せること、そして自分の手に負えないときに助けを求めることこそが、心理的安全性の具体的実践

(4) 心理的安全性の導入のアクションプラン策定

  • 部署/チームごとの心理的安全性向上計画の立案
  • コンプライアンス違反を発見・報告しやすい仕組みの検討
  • KPIと評価方法の設定
  • 内部通報制度(公益通報制度)は、この指針の内容に準拠して正しく制度設計することが重要な制度整備との連携

(5) 心理的安全性を高めるだけでは生産性ダウン

  • エドモンドソン教授の警告
  • 心理的安全性と業績基準のバランス
  • 「なれ合い」や「ぬるま湯体質」を防ぐための仕組み
  • パフォーマンスとイノベーションを両立させる組織づくり

3. 最新の法制度動向と実務への影響

公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)が成立し、今後さらに内部通報制度の実効性向上が求められています。組織においては、法的要請に応えるだけでなく、心理的安全性の向上により自発的な問題発見・解決能力を高めることが重要です。

改正後の公益通報者保護法が履行されない要因として指摘される問題の多くは、制度の存在は知っていても「実際に使える」と感じられない組織風土にあります。心理的安全性の向上は、この課題解決の根本的アプローチとなります。

4. 研修の特色と実施上の工夫

備考

  • 実際の企業事例を用いたケーススタディ
  • 心理的安全性測定ツールの活用
  • 研修6ヶ月後の定着度調査と公表が望ましい
  • 同業他社の事例も含めた心理的安全性導入の成功例と失敗例も研修に盛り込む

追加の実践的要素

  • 業界特有のコンプライアンスリスクと心理的安全性の関係分析
  • 管理職向けの具体的な声かけ技法の演習
  • 内部通報制度との連携強化のための具体的手順
  • デジタル時代のコミュニケーション課題への対応

まとめ - 持続可能なコンプライアンス体制の構築に向けて

心理的安全性とコンプライアンスの融合は、単なる問題対応から予防型の組織運営への転換を意味します。心理的安全性が高まると、チームがミスを恐れず、有用なフィードバックを交換し、学習や成長を促進することが実証されており、これこそがコンプライアンス違反の根本的予防につながります。

法的保護制度の整備が進む中、組織の自律的な問題解決能力を高める心理的安全性の向上は、持続可能な経営基盤の構築に不可欠な要素となっています。




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  • 内部通報の外部窓口を現に担当し、実務に精通
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