1.地方公共団体の内部統制の導入は、令和2年4月1日
地方自治法に内部統制の内容を意味する明文規定が入った。47都道府県と指定都市は義務的、その他の普通地方公共団体及び東京23区の特別区は任意的であった。
そして、企業の金融商品取引法における財務内容に関する内部統制報告制度などを参考にした地方公共団体の内部統制報告制度も始まった。既に通常の都道府県であれば、令和2年度版、令和3年度版、令和4年度版の内部統制報告書が監査意見を付けて、議会に報告、住民に公表されている。
そのガイドラインが、令和6年3月25日 「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」の改定 となって総務省から公表された。
2.COSO2013年バージョンの影響
内部統制報告制度のデファクトスタンダードは、COSOである。それが、非営利組織などでも使えるようにすることなども含めて、2013年に改訂されて、2023年には、上記の企業版内部統制報告制度も改正された。それらの影響を受けて、今回の改正となったわけである。
3.実際に地方公共団体における初めて内部統制の実施を踏まえた見直し
新しい制度であるがゆえに、総務省もガイドラインを作って、軟着陸を目指したが、数回の実施団体などからの講演依頼でも聞いた通り、問題はこの制度によって、どれだけリスクマネジメントがうまく機能したかである。「最小経費で最大効果」原則は、地方自治法の大切なキャッチコピーであろう。地方自治法2条参照。
そこで、当職も地方公共団体の内部統制のお役に立つように、次のような内部統制の研修実施を公開している。
地方公共団体の内部統制研修 ⇒ https://compliance21.com/lg-internal-control-training-2024/
4.ガイドラインの改定内容について
(1)報告の信頼性は、従来の財務報告と非財務報告を含む。後者は自治体ならば、事業計画や行政評価であろう。企業のアカウンタビリティでは、サステナビリティが最も重要になっているが。
(2)リスクマネジメントに「不正のリスク」として、自治体の違法行為や不適切な事務処理を含む記述を充実。
(3)情報と伝達では、マイナンバーの取り扱いなどを含めた情報システムの有効性が大切。
(4)ICTへの対応では、情報漏えいなどを含めた外部委託先の管理が大切になっている。
(5)地方公共団体における地方自治法が定めた、長、議会、監査、直接請求、予算制度などのガバナンスの見直し。
(6)内部統制の柔軟な構築が可能に変更、監査委員の意見などを聞いて。これまでは「硬い」内部統制であった。
(7)他の統制制度、個人情報保護法の統一的な実施運用があればそれを前提にその有効性を内部統制の対象とする
(8)過年度にお重大な不備が後から分かれば、事実の調査や再発防止策作成等ののちに、議会に翌年度報告で足りる
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このガイドラインの改定は内部統制を実施しない自治体が多すぎるからなされたのでしょうか。
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当然です。知事や市町村長部局だけでなく、所帯のでかい教育委員会や企業部局でも普及はすすんでいませんね。
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例えば、どのような不祥事がありますか。
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2024年12月9日付:熊本県菊池市の(プレスリリース)職員の懲戒処分についてによると、教育委員会所管の施設の使用料、及び教育委員会主催事業における市民からの徴収金の一部を約86万円横領し、私的に流用したとある。その原因はびっくりすることに、金庫に鍵をかけていなかったことに一因ある。一般家庭以下のレベルであろう。恥ずかしい。
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リスクマネジメントゼロですね。先生はこれに根本の他原因があるとのことですが。
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会計年度任用職員が行っているのは、職員の3人に1人が非常勤の時代で、しかも先だっての地方公務員法改正で、同法38条の適用がパートタイム職員には全くないことになっているのです。多様な方が役所にいます。倫理研修は正規中心です。どうするのか。コンプライアンス環境の整備は簡単ではないでしょう。
5.地方公共団体の内部統制の効果的な運用のために
これは、依拠するが依存しないことに尽きる。あくまで、地方公共団体は日本国憲法における制度的な保証がある民主主義組織である。敗戦まえの国とは違うのである。財政面でも、分権面でも、十分な地方自治の保証をすべきなのである。国だけ栄えるのでは困る。
そのためには、地方公共団体も自らの努力で、団体自治を実施していく必要がある。リスクマネジメントの本質をよく理解したうえで、地方公共団体の内部統制を運営していくべきである。かりにも、不正リスクへの対応等住民の信頼を失うことになるリスクマネジメントサイクルを後手に回ってはいけない。また、内部統制報告を12月にやるようなことがあってはいけない。監査委員の指摘を単年度で改善するように努力しよう。
下記の「コンプライアンスの中川総合法務オフィス」HPにある当職の内部統制の論文、論考も参考にされたい。
(1)【内部統制に関する改正地自法150条 その1/8】地方公共団体の内部統制2017…第31次地方制度調査会答申を踏まえて
(2)【内部統制に関する改正地自法150条 その2/8】地方公共団体の内部統制の進め方(大規模自治体と中小自治体のそれぞれの方法)
(3)【内部統制に関する改正地自法150条 その3/8】地方公共団体の内部統制…内部統制法案の内容…不祥事件は首長の責任明確化等
(4)【内部統制に関する改正地自法150条 その4/8】地方公共団体の内部統制…日経スクープの地方公共団体の内部統制法案が第193回国会でついに成立 施行はH32/4/1
(5)【内部統制に関する改正地自法150条 その5/8】地方公共団体の内部統制…改正法内容の4つの重要事項を国から地方自治体へ通知
(6)【内部統制に関する改正地自法150条 その6/8】地方公共団体の内部統制…実例として姫路市の「リスク管理手順書」と「リスク点検シート」ツールの有効性
(7)【内部統制に関する改正地自法150条 その7/8】地方公共団体の内部統制…地方公共団体の内部統制は企業と同じでいい訳がない
(8)【内部統制に関する改正地自法150条 その8/8】地方公共団体の内部統制…地方公共団体は、内部統制を具体的にどのように進めていけばいいのか。
(9)内部統制導入によって直接的影響を受ける部署…監査部門(監査委員の監査事務局・内部監査部署等)
(10)こんなに変わる職員の業務の仕方と損害賠償責任の軽減化