「業界団体の活動」は独占禁止法の主要な規制対象である

業界団体の役員や事務局担当者から、こんな言葉を聞くことがある。「うちは会員企業の交流と情報共有が目的の団体だから、独禁法とは関係ない」「価格を決めているわけじゃないから大丈夫」。

しかし、こうした認識こそが、独占禁止法第8条違反を招く最大のリスクである。

独占禁止法は、個々の事業者の行為だけでなく、事業者団体の活動を直接の規制対象としている。建設業協会、IT関連団体、農業協同組合、保育協会、商工会議所の業種別部会、医師会・歯科医師会――これらすべてが「事業者団体」として第8条の射程に入る。

私は長年にわたり全国で850回を超えるコンプライアンス研修を担当してきたが、業界団体の役員・事務局がこの条文を正しく理解していないために、重大なリスクにさらされているケースを繰り返し目にしてきた。本稿では第8条を逐条解説し、実務に直結する形で整理する。


第8条(事業者団体の禁止行為)逐条解説

条文

第8条 事業者団体は、次の各号のいずれかに該当する行為をしてはならない。

一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

二 第六条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること。

三 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること。

四 構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること。

五 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。


第8条の構造―5つの禁止行為類型

第8条は、事業者団体が行ってはならない行為を5号に分けて列挙している。各号の内容と実務上のリスクを順に解説する。


第1号:一定の取引分野における競争を実質的に制限すること

第1号は、第3条(私的独占・不当な取引制限の禁止)の事業者団体版ともいえる規定である。

第2条第6項の「不当な取引制限」(談合・カルテル)と異なり、第1号には「事業者が共同して」「相互にその事業活動を拘束し」といった行為態様の限定がない。競争を実質的に制限する結果が生じれば、行為の形態を問わず違反となる。

公正取引委員会の指針によれば、事業者団体が構成事業者の供給する商品・役務に関して価格の決定・維持・引上げや数量制限を行い、一定の取引分野における競争を実質的に制限した場合に該当する。

建設業協会が会合において「来期の工事単価はこの水準以下では受けないようにしよう」と決定した場合や、IT団体が「会員各社のシステム開発の標準価格表」を策定して実質的に最低価格を固定した場合などが典型例となる。

なお、第1号違反(不当な取引制限に相当する行為に限る)には課徴金が課される。ただし課徴金の納付を命じられるのは事業者団体そのものではなく、構成事業者(各会員企業)である点が重要である。


第2号:国際的協定または国際的契約をすること

第2号は、外国の事業者・事業者団体との間で、不当な取引制限または不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定・契約をする行為を禁じる。

グローバルに展開するIT企業や建設業大手が加盟する国際的な業界団体における価格協定・市場分割協定などが対象となる。国内中小企業が主体の団体には現実的なリスクは低いが、国際的な業界標準や調達に関わる団体については注意が必要である。


第3号:一定の事業分野における事業者の数を制限すること

第3号は、新規参入の阻止や既存事業者の排除によって、一定の事業分野における事業者の数を制限する行為を禁じる。

具体的には次のような行為が問題となる。

  • 業界団体への加入を不当に拒絶することで、新規参入者が業界全体の取引から排除される状況を作り出す行為
  • 資格・免許・認定制度を業界団体が運営する際に、参入障壁として機能するよう要件を不当に厳格化する行為
  • 既存会員企業に対し、団体非加入の新規参入者と取引しないよう働きかける行為

建設業界では、特定の工事種別について「協会会員でなければ発注しない」という慣行が存在した事例があり、第3号違反として問題視されてきた。保育協会やIT団体においても、会員資格の取得・更新要件の設定にあたっては、競争制限的な効果が生じないか慎重な検討が必要である。


第4号:構成事業者の機能または活動を不当に制限すること

第4号は、実務上最も広範囲にわたる規制類型であり、業界団体の日常的な活動の中に潜在するリスクが最も高い条文でもある。

「機能または活動を不当に制限すること」とは、競争の実質的制限には至らないが、競争阻害的な効果が生じる構成事業者への拘束行為をいう。

公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年・改正平成18年)が詳細な参考例を示しており、実務上の判断基準として重要である。

【違反となる具体的な行為】例は以下の通りである。

■価格に関する行為として、構成事業者が顧客に提示する見積書の「標準書式」を団体が作成し、その標準単価からの逸脱を事実上制限する行為、「適正価格」「最低入札価格」の設定・勧告が挙げられる。

■営業活動に関する行為として、構成事業者の営業地域・顧客・取引先を団体のルールによって制限する行為、会員企業に対し他会員の顧客への営業活動を自粛させる行為が問題となる。

■生産・供給量に関する行為として、会員の生産量・受注量・販売数量の上限を団体が設定・管理する行為も該当する。

第4号違反に対しては課徴金は課されないが、排除措置命令の対象となり、団体名と違反内容が公表される。業界団体の信頼・評判へのダメージは甚大となる。


第5号:事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること

第5号は、業界団体が構成事業者または非構成事業者に対し、第19条が禁止する「不公正な取引方法」に当たる行為を実行させるよう働きかけることを禁じる。

「させるようにすること」には、強制のみならず勧告・要請・誘導といった形も含まれる。典型的な違反例は以下の通りである。

  • 業界団体が会員企業に対し、特定の業者(団体非加入者・新規参入者)との取引を拒絶するよう促す(共同取引拒絶の実行させ行為)
  • 団体が顧客との取引条件について、一方的に顧客に不利な条件を受け入れさせるよう会員企業に指示する(優越的地位の濫用の実行させ行為)
  • 競合する他業種の事業者や新技術を提供する企業との取引を会員が行わないよう事実上の圧力をかける(排他条件付取引の実行させ行為)

第5号違反については、被害を受けた事業者が差止請求(第24条)を行える点も重要である。


第8条の2:違反に対する措置

排除措置命令(第8条の2第1項)

第8条違反があるときは、公正取引委員会は、事業者団体に対して当該行為の差止め、当該団体の解散その他の排除措置を命ずることができる。

「団体の解散命令」という措置が明文で規定されている点は注目に値する。違反の程度が著しい場合、業界団体そのものの存続が問われる事態となりうる。

構成事業者・役員への措置命令(第8条の2第3項)

特に必要があると認めるときは、公正取引委員会は、事業者団体だけでなく、当該団体の役員・管理人または構成事業者に対しても、必要な措置を命ずることができる。

これは非常に重大な規定である。業界団体の理事長・副理事長・専務理事・事務局長といった役員個人が、排除措置命令の対象となりうる。「団体の決定に従っただけ」という弁明は通らない。


第8条の3:課徴金(構成事業者への賦課)

第8条の3により、第8条第1号違反(不当な取引制限に相当する行為)には課徴金制度が適用される。

注意すべき点は、課徴金を納付するのは事業者団体そのものではなく、構成事業者(各会員企業)であることだ。業界団体の会合で決まったことに従っただけの会員企業が、自社の売上額に基づく多額の課徴金を個別に課される。

課徴金の算定基準は第7条の2が準用される。違反行為に係る商品・役務の売上額の10%(中小企業は4%)が基本算定率であり、違反行為の実行期間が最長10年さかのぼって計算される。業界団体が長年にわたって価格調整を行っていた場合、各会員企業が負担する課徴金は巨額に上りうる。


公正取引委員会による実際の執行事例

公正取引委員会は、事業者団体規制について継続的に執行を行っている。

建設分野では、地方の建設業協会が発注機関別・工事種別に受注調整を行い、排除措置命令と構成事業者への課徴金納付命令が発令された事例が複数存在する。

また、水先人会が水先料金に関して構成員の行為を拘束したとして排除措置命令を受けた事例がある(東京湾水先区水先人会・伊勢三河湾水先区水先人会に対する排除措置命令)。

農業分野では、農業協同組合が構成員の販売価格に関与したとして問題とされた事例がある。

これらは特定業界の特殊な問題ではない。業界団体が存在するあらゆる業種において、第8条違反のリスクは潜在している。


業界団体の「合法的な活動」と「違反行為」の境界線

業界団体の活動がすべて違法というわけではない。公正取引委員会の指針は、適法な活動と違法な活動の境界線を示している。

適法な活動の例として次のものが挙げられる。業界統計の収集・公表(各社の個別データが特定されない形での集計)、安全基準・品質基準の策定(競争制限的効果を持たない技術的基準)、共同研究開発・標準化活動(競争促進的な効果を持つもの)、行政機関への意見表明・政策提言活動、会員向けの法令遵守・コンプライアンス教育がある。

違法となりやすい活動の例として次のものが問題となる。「適正価格」「標準価格」「最低価格」の設定・周知・勧告、受注調整・入札調整の慣行化、会員の顧客・営業地域の分割、非会員・新規参入者との取引拒絶の要請、個別企業の価格・取引条件・原価情報の共有が挙げられる。

「うちの業界は昔からこうやっている」という慣行が、実は長年にわたる独占禁止法違反であったという事例は、建設業・医療・農業など多くの分野で発覚している。


業界団体の役員・事務局が今すぐ取り組むべき実務対応

第8条リスクを管理するため、業界団体の役員・事務局は以下の点を点検する必要がある。

会合・総会の運営について、価格・数量・顧客・営業地域に関する情報の共有や取決めが行われていないか確認する。議事録に競争制限的な内容が記録されていないかを見直す。会合に参加した後で各社が同様の価格設定を行うという状況が生じていないかを確認する。

会員向けルール・規約の見直しとして、定款・会則・細則に競争制限的な条項が含まれていないかを点検する。価格表・標準見積書・工事単価表が会員企業の価格決定を実質的に拘束していないかを確認する。

情報管理として、会員企業の個別の価格・取引条件・原価情報を団体事務局が収集・共有する仕組みになっていないかを確認する。

専門家への相談として、既存の活動に競争法上の問題がある可能性を感じた場合は、早期に弁護士・コンプライアンス専門家に相談する。問題が発覚する前に自主的に是正することが、制裁の軽減につながる。


建設業協会・IT団体・農協・保育協会へのメッセージ

第8条は、業界団体の役員・事務局にとって最も身近でありながら、最も見落とされがちな独占禁止法の規定である。

建設業協会の理事が「受注状況の確認会合」を設けることの意味、JA・農協の担当者が「出荷価格の統一基準」を会員農家に示すことのリスク、保育協会が「地域内の保育料水準」について意見交換することの法的問題、IT業界団体が「標準的な開発単価」を公表することの危険性――これらはすべて第8条の問題として問われうる。

業界団体は、それ自体が社会的に有用な存在である。会員企業の技術水準向上、安全基準の整備、業界の健全な発展に貢献する活動は、競争を阻害しない限りにおいて奨励される。

しかし、「業界のため」「会員のため」という動機が、競争制限という結果を正当化することはない。競争の促進を通じて消費者・社会に貢献するという独占禁止法の目的に照らし、業界団体の活動を絶えず点検していくことが、役員・事務局の責任である。


中川総合法務オフィスのコンプライアンス支援サービス

中川総合法務オフィスでは、代表・中川恒信が、850回を超えるコンプライアンス等の研修実績に基づき、業界団体・協会向けの独占禁止法コンプライアンス研修・コンサルティングを提供している。

建設業協会・農業団体・IT業界団体・保育協会など、多様な業界団体への研修実績を有しており、単なる法令解説にとどまらない、団体の実態と活動内容に即した実践的な研修が強みである。

「事業者団体コンプライアンス研修」「業界団体の独禁法リスク点検・コンサルティング」「役員・事務局向けコンプライアンス研修」などのご依頼については、下記よりお問い合わせいただきたい。


次回予告

次回は第19条(不公正な取引方法の禁止)を解説する。優越的地位の濫用・排他条件付取引・不当廉売など、建設業の下請取引・IT企業の調達現場に直結するテーマである。取適法との関係についても整理する。

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