1.地方公務員の働き方改革
働き方改革の一環として「同一労働同一賃金原則」による格差是正の取り組み政府方針のもとで、民間のみならず地方公務員においても格差是正の一環として、地方公務員法・地方自治法等が改正された。
中川総合法務オフィスでは、毎年多数の地方公共団体において、地方公務員法の指導を行っている関係で、別稿に続いて、連続して論考を進めている。
以下関係者は、拙稿も是非参考にされたい。
2.「地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律案」(平成29年第193回国会で成立、施行は令和2年度)
(1)一般職の非常勤職員である会計年度任用職員について、その採用の方法は、競争試験又は選考によるものとし、その任期は、その採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任命権者が定める。
この職員には、期末手当の支給を可能とする
(2)特別職の地方公務員について、臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職は、専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であって、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る。
(3)地方公務員の臨時的任用について、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿がないときに行うことができることに加え、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合に該当することを要件に追加し、その対象を限定する。
3.地方公務員法改正法の条文内容
(1)特別職に属する地方公務員
臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職は、専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であって、当該知識経験又は識見に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る。(第三条第三項第三号関係)
(2)会計年度任用職員の採用の方法等
1イ及びロに掲げる職員(以下「会計年度任用職員」という。)の採用は、第十七条の二第一項及び第二項の規定にかかわらず、競争試験又は選考による。(第二十二条の二第一項関係)
イ一会計年度を超えない範囲内で置かれる非常勤の職(第二十八条の五第一項に規定する短時間勤務の職を除く。)(ロにおいて「会計年度任用の職」という。)を占める職員であって、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時間であるもの
ロ会計年度任用の職を占める職員であって、その一週間当たりの通常の勤務時間が常時勤務を要する職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間と同一の時間であるもの
2会計年度任用職員の任期は、その採用の日から同日の属する会計年度の末日までの期間の範囲内で任命権者が定める。(第二十二条の二第二項関係)
3任命権者は、会計年度任用職員を採用する場合には、当該会計年度任用職員にその任期を明示しなければならない。(第二十二条の二第三項関係)
4任命権者は、会計年度任用職員の任期が2の期間に満たない場合には、当該会計年度任用職員の勤務実績を考慮した上で、当該期間の範囲内において、その任期を更新することができる。(第二十二条の二第四項関係)
5任命権者は、4により会計年度任用職員の任期を更新する場合には、当該会計年度任用職員にその任期を明示しなければならない。(第二十二条の二第五項関係)
6任命権者は、会計年度任用職員の採用又は任期の更新に当たっては、職務の遂行に必要かつ十分な任期を定めるものとし、必要以上に短い任期を定めることにより、採用又は任期の更新を反復して行うことのないよう配慮しなければならない。(第二十二条の二第六項関係)
7会計年度任用職員の採用は、全て条件付のものとし、当該会計年度任用職員がその職において一月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になる。(第二十二条の二第七項関係)
(3)臨時的任用
人事委員会を置く地方公共団体においては、任命権者は、人事委員会規則で定めるところにより、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿(昇任候補者名簿を含む。)がないときは、人事委員会の承認を得て、六月を超えない期間で臨時的任用を行うことができる。この場合において、任命権者は、人事委員会の承認を得て、その任用を六月を超えない期間で更新することができるが、再度更新することはできない。(第二十二条の三第一項関係)
(4)営利企業への従事等の制限
職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び(2)の1のロに掲げる職員を除く。)については、この限りでないものとすること。(第三十八条第一項関係)
(5)人事行政の運営等の状況の公表
任命権者は、条例で定めるところにより、毎年、地方公共団体の長に対し、二の1のロに掲げる職員の任用、人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、休業、分限及び懲戒、服務、退職管理、研修並びに福祉及び利益の保護等人事行政の運営の状況を報告しなければならない。(第五十八条の二第一項関係)
4.会計年度任用職員導入及び切替えの地方公共団体へのソフトランディング
※会計年度任用職員制度の導入等に向けた必要な準備等について(平成29年8月23日総行公)会計年度任用職貝制度の導入等に向けた事務処理マニュアルより引用参照
5.会計年度任用職員における論点
(1)地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査の概要(平成28年4月1日現在)総務省参照
地方公務員の非正規化は2016年4月1日現在で64万人となり,約10年で4割増えた。
住民に身近な自治体である市区町村では,3人に1人は,臨時職員,非常勤職員といわれる非正規公務員である。
図書館、保育所,給食調理では,その従事する職員の半数以上が非正規公務員であり,消費生活相談員、女性相談員では、その9割が非正規公務貝である。
非正規公務員の4人中3人にあたる48万1,596人は女性である.
継続雇用年数(期間更新回数)が一定数に達していることのみを捉えて.一律に応募制限を設ける自治体が1割あり、任期の更新にあたり,雇用されていない期間(空白期間)を置く自治体は,臨時職員の場合,約半数である。
最も深刻なのは、臨時職貝の報酬水準は時給換算で845円で、フルタイムで働いても年収で162万円にしかならない。
とりわけ非正規公務員が最も人数が増えたのは教員・講師で,倍増している。
(2)地方公務員法制定趣旨は、すべて「任期の定めのない常勤職員」が原則
地方公務員法の制定趣旨からいっても、非常勤は例外で本格的,恒常的,常用的な業務は定数内の常勤職をもって充てるべきであり、まして守秘義務の刑罰によるサンクション等もない特別職採用はアブノーマル極まりない。
なお、臨時・非常勁職貝の任期は概ね1年以内であり,そうすると歳入歳出予算を通じて議会の統制が及ぷから,その数字を定数条例で定めるまでの必要はない。
無期雇用等は予算単年度を超えて財政を拘束するので、定数による条例化を要するので、会計年度内で任期が設定される会計年度任用職員は定数外扱いとなろう。
(3)改正地方公務員法の下での「地方公務員」の種類の多さ
会計年度任用職員のフルタイム型とパートタイム型、
新臨時的任用職員、
3号特別職職員
の他にも「任期の定めのない常勤職員」でない職員には、従来から
「高齢再任用短時間勤務職員」や「任期付短時間勤務職員」がいるが、この2つの短時間勤務職員は,勤務時間上も,定数条例上も非常勤職員であるが,常勤職員と同様の本格的業務に従事するから,特例として地方自治法は常勤の職員扱いである。条件付き採用規定の適用もない。
会計年度任用職貝をフルタイム型とパート型の二つに区分されたので、
前者には地方自治法204条が適用され。生活給としての給料と扶養手当や退職手当等の手当が支給され、
後者の会計年度任用職員には,地方自治法203条の2の適用により,生活保障的な要素を含まない報酬と費用弁償及び法により6か月以上勤務の者に期末手当が支給されうる。
【地方自治法】…………………………………………………………………………………………………………………
第二百三条の二 普通地方公共団体は、その委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
○2 前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。
○3 第一項の職員は、職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる。
○4 報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。
第二百四条 普通地方公共団体は、普通地方公共団体の長及びその補助機関たる常勤の職員、委員会の常勤の委員(教育委員会にあつては、教育長)、常勤の監査委員、議会の事務局長又は書記長、書記その他の常勤の職員、委員会の事務局長若しくは書記長、委員の事務局長又は委員会若しくは委員の事務を補助する書記その他の常勤の職員その他普通地方公共団体の常勤の職員並びに短時間勤務職員に対し、給料及び旅費を支給しなければならない。
○2 普通地方公共団体は、条例で、前項の職員に対し、扶養手当、地域手当、住居手当、初任給調整手当、通勤手当、単身赴任手当、特殊勤務手当、特地勤務手当(これに準ずる手当を含む。)、へき地手当(これに準ずる手当を含む。)、時間外勤務手当、宿日直手当、管理職員特別勤務手当、夜間勤務手当、休日勤務手当、管理職手当、期末手当、勤勉手当、寒冷地手当、特定任期付職員業績手当、任期付研究員業績手当、義務教育等教員特別手当、定時制通信教育手当、産業教育手当、農林漁業普及指導手当、災害派遣手当(武力攻撃災害等派遣手当及び新型インフルエンザ等緊急事態派遣手当を含む。)又は退職手当を支給することができる。
○3 給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない
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(4)国家公務員の非常勤職員との比較による落差
なお、国においては,勤務時間が常勤職員と同等の期間業務職員だけでなく,勤務時間が常勤の4分の3未満のその他の非常勤職員にも「一般職の職員の給与に関する法律」が適用され、同法22条2項「常勣を要しない職員については,各庁の長は。常勤の職員の給与との権衡を考慮し,予算の範囲内で,給与を支給する」より,常勤職員と同様に給料と手当が支給される。
会計年度任用職貝は,年度ごとに最初の1か月は,条件付き採用なので地方公務員法上はその意に反して任命権者の任意で免職にされうるが、非正規の教育公務員には適用がない。教育公務員特例法12条2項参照。
なお、地方公務員には、労働契約法が適用されない。また、パートタイム労働法も適用がない。
(5)労働安全衛生法適否
2014年7月に出された上記の総務省通知では,「労働安全衛生法…等の労働関係法令は,適用除外が定められていない限り臨時・非常勤職員についても適用があることから,各法令に基づく制度の適用要件に則った対応が求められることに留意すべきである」としている。
しかし、一部の地方公共団体では、対象職員から臨時非常勤職員が排除されている規程があるようである。
また、国家公務員の一般職ならば,常勤職員と臨時非常勤職員取り扱い上の区別はなく,等しく国家公務災害補償法が適用されているが、上記の事務処理マニュアルでは,災害補償に触れているが、突っ込んだ補償の提案はない。
公務災害の補償は,地方公務員災害補償法適用の場合は,地方公務員災害補償基金,労働者災害保険制度の適用職員の場合は,民間と同じ労災として支払われるが、地方公務員災害補償法第69条の規定にもとづく条例による補償では,これまでの実績では地方公共団体が全額補償すべきにもかかわらず、紛争が多発している。
6.これからの地方公共団体を支える地方公務員への期待
今後は、まだ詰めいていない会計年度採用職員における法関係の安定化が地方公共団体の適正な住民サービスと福祉の実施には不可欠である。
とりわけ、中川総合法務オフィス・当方のような地方公共団体職員への講演や研修講師を務めているものにとっては、すべて職員が職務の公益性と職務の権力性などから地方公務員法の服務規定等適用有無が今回のパートタイムにおける営業規制の例外のみならず周知徹底できるかが問題となろう。