1.大阪地裁の判例概要(平28・6・15)
大阪市に対する多数回にわたる濫用的な情報公開請求を含む面談強要行為等の差止請求が認容されるとともに、これらを理由とする損害賠償請求が一部認容された
2.情報公開、不当要求などの事件内容
X(大阪市)が、Xに対して多数回にわたって情報公開請求を行ったり、質問文書の送付や架電等による不当な要求行為を繰り返したりしたYに対し、面談強要行為等の差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、Yへの対応を余儀なくされたXの職員らの給与及び超過勤務手当相当額、弁護士費用等の支払を求めた事案である。
その具体的行為は、「市民の声」制度を利用した質問文書の送付を多数行った上、その対応に当たったXの職員に対して侮蔑的または脅迫的な発言をしたり、大声で暴言を吐いたり、独自の見解に基づく意見を延々と述べるなどして、Xの業務を遅滞または中断させたため、Xの職員の中には、複数回にわたって超過勤務を行わざるを得なくなったり、Yによって繰り返し行われる侮辱的な発言や暴言等によって、精神的な苦痛を覚え体調不良を訴える者もいた。
3.裁判所の判断の概要
大阪市が普通地方公共団体として法人に該当する中で法人の財産権やその業務に従事する者の人格権をも包含する総体としてとらえ、法人の業務を妨害する行為が、当該行為を行う者による権利行使として相当と認められる限度を超えており、当該法人の資産の本来的な利用を著しく害し、かつ、その業務に従事する者に受忍限度を超える困惑・不快を与えるなど、業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復の困難な重大な損害が発生すると認められるような場合には、当該法人は、妨害行為が、法人において平穏に業務を遂行する権利に対する違法な侵害に当たるものとして、前記妨害行為を行う者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができるのみならず、平穏に業務を遂行する権利に基づいて、前記妨害行為の差止めを請求することができるものと解するのが相当であると判示した。
4.判決文の一部引用(ママ)‥‥は略印
「一‥‥弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。(1)被告は、昭和五〇年代から大阪市住吉区内に居住し、平成21年頃、大阪市において不適正資金問題が発覚しかことをきっかけとして、‥‥大阪市長に対する情報公開請求を行うようになった。(2)被告による情報公開請求 ア 被告は、‥‥合計五三件の情報公開請求を行った。‥‥情報公開請求に際して、被告は、‥‥「請求する公文書の件名又は内容」欄に、「~に関する全文言」、「~が分かる全文書」などといった記載‥‥公文書中には、非公開情報とされる特定の個人を識別することができる情報が記載されているものも数多く含まれていたことから、対象文書の選別や、非公開情報のマスキンブ作業のため、相当程度の時間を費やす必要があった。‥‥被告の情報公開請求に応じて交付した文書の総枚数は、‥‥約八三六〇枚に上っていた。‥‥ イ 被告は、被告に対する対応の仕方が悪いと感じた特定の職員(この中には上記刑事事件の際に被告から暴行を受けた職員が含まれている。)等について、その採用から現在までの経歴・略歴、出退勤状況が分かる文書、採用時に署名もした宣言書の写し、市内出張交通費等に係る書類等についての情報公開請求を行った上、当該職員に対して、上記情報公開請求で取得した経歴に関する情報に基づき、「あなたも略歴聞いたわ。(中略)もう大体わかったから、あんたの大体人間性が。」「高校出の人は大きな間違いをするからおれかちっとくんねや。」「高卒のな、おまえ、俺は高卒大嫌いやねん」「高卒女のな、浅知恵や言うねや」などといった発言をするなどした。 ウ 被告は、‥‥六件の情報公開請求をしたが、その対象文言は合計二九七枚にも上るものであった。‥‥にも、対象文書が数百枚にも上る文書についての情報公開請求をした。 エ 原告が閲覧‥‥原告の職員が立ち会った上で、対象となる文書を公開しているが、被告は、対応した原告の職員に対し、「お前には能力がないから辞めてしまえ」「バカ」などと暴言を叶いたり、公開された公文書について、独白の見解に基づく意見等を延々と繰り返し述べるなどすることから、その対応には、一回当たり一時間以上を要するのが通常であった。また、被告は、‥‥誤記等が存在した場合には、当該誤記等が内容に影響がないような些細なものであっても、原告の職員に頻繁に電話をかけ、誤記等を指摘した上で、職員に謝罪を要求したり、罵声を浴びせるなどした。 オ ‥‥(3)被告による質問文書の送付等 ‥‥特定の職員について退職や更迭を要求するもの、区長が使用したキャッチフレーズについて「パクリ」ではないかなどと指摘しこれに対する回答を求めるものなどもあった。 (4)被告による住吉区役所に対する電話 被告は‥‥平均して週に二~三回程度、多い時には一日に連続して五~六回の電話をかけるなど‥‥この際、被告は、特定の職員に対応させるよう執拗に要求したり、応対中の職員に対して、学歴を理由に能力が低いなどとして罵倒したり、容姿等を理由に侮蔑的な発言をしたり、大声で暴言を吐いたり、脅迫的な竃言をしたりすることを繰り返した。 (5)原告の職員は、被告が行う情報公開請求への対応及び送付された質問文書に対する回答の作成、並びに被告がかけてくる電話に対する対応等のために相当の時間を費やさざるを得なくなっており、そのため、当該職員が行うべきその他の業務が滞ったり、中断を余儀なくされるなど‥‥できなかったその他の業務を行うために、複数回にわたって一日当たり一~四時間程度の超過勤務を行うことを余儀なくされた者がいた。また、原告の職員の中には、被告によって繰り返し行われる侮蔑的な発言や暴言等によって、精神的な苦痛を覚え体調不良を訴える者もいた。(6)原告は、大阪地方裁判所に対し、被告を債務者として、‥‥行為の禁止を求める仮処分の申立て‥‥認容する‥‥被告は、‥‥大阪市住吉区から大阪府△△△内に転居した。 二 争点(1)(被告の行為が原告の平穏に業務を遂行する権利を侵害したといえるか、また、被告の原告に対する侵害行為が継続するおそれかおるといえるか)について ‥‥原告は、普通地方公共団体‥‥は、法人とされている(地方自治法二条一項)。法人の業務は、固定資産及び流動資産の使用を前提に、その業務に従事する自然人の労働行為によって構成されているところ、法人の業務に対する妨害が、これら資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、業務に従事する者に受忍限度を超える困惑・不快を与えるときは、これをもって法人の財産権及び法人の業務に従事する者の人格権の侵害と評価することができる。しかしながら、法人の業務に従事する者の使用者である法人は、その業務に従事する者に対し、上記の受忍限度を超える困惑・不快を生じるような事態を避けるよう配慮する義務を負っていることに加え、業務の妨害が犯罪行為として処罰の対象とされていること(刑法ニ三三条、二三四条)等に鑑みると、当該法人が現に遂行し、又は遂行すべき業務は、当該法人の財産権やその業務に従事する者の人格権をも包含する総体として法的保護に値する利益(被侵害利益)に当たるというべきである。‥‥法人に対して行われた当該法人の業務を妨害する行為が、当該行為を行う者による権利行使として相当と認められる範囲を超えており当該法人の資産の本来予定された利用を著しく害し、かつ、その業務に従事する者に受忍限度を超える困惑・不快を与えるなど、業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償を認めるのみでは当該法人に回復困難な損害が発生すると認められるような場合には、当該法人は、上記妨害行為が、法人において平穏に業務を遂行する権利に対する違法な侵害に当たるものとして不法行為に基づく損害賠償を請求することができるのみならず、平穏に業務を遂行する権利に基づいて、上記妨害行為の差止めすることができるものと解するのが相当である。本件において、‥‥その権利行使に付して行われているものとはいえ、その頻度や態様等に照らすと、正当な認められる限度を超えるものであって、‥‥したがって、‥‥行為の差止めを請求するとができると解するのが相当である。‥‥四 結論 以上のとおりであるから、原告の請求のうち、原告の平穏に業務を遂行する権利に基づく差止め請求として、被告に対し、原告の職員に対し、電話での対応や面談を要求して被告の質問に対する回答を強要したり、大声を出したり、罵声を浴かせたりすることの禁止を求めるものについては理由があり、また、不法行為に基づく損害賠償を求めるものについては、被告に対し、八〇万円の支払及び不法行為後の日である訴状送達の日の翌日‥‥民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却‥‥。」
※youtube動画でも解り易く解説しています。