はじめに
近年、企業コンプライアンスやガバナンス、内部統制、リスクマネジメントの理論は目覚ましい進化を遂げています。平成10年頃の会社法改正案の議論から現在に至るまで、COSOレポートやISO31000の導入、そしてコーポレートガバナンス・コードの改訂など、企業を取り巻く環境は大きく変わりました。こうした理論の進化を実務にどう落とし込むかが、今や国際競争力の根幹となっています。

(1) 進化した理論体系の理解

過去10年で、コンプライアンス、ガバナンス、内部統制、そしてリスクマネジメントの各理論は目覚ましい進化を遂げました。平成10年頃の会社法改正案が出された当時と比較すると、その様相は大きく変化しています。

COSOフレームワークとリスクマネジメントの深化

1992年に発表されたCOSOレポートが日本社会に浸透し始め、大蔵省(現在の財務省および金融庁)が銀行への行政指導にコンプライアンスを導入した当時とは隔世の感があります。COSOフレームワーク自体も進化し、「COSO ERM 2017」バージョンでは、もはや従来のキューブ型ではなく、リスクマネジメントを「組織がリスクを管理するために依拠する文化、能力、および実践」と定義し、相互に関連する構成要素と原則が二重らせん(DNA類似モデル)を形成しています。これは、リスクマネジメントが単なるプロセスではなく、組織の戦略とパフォーマンスに統合されたものであることを示しています。

ISO 31000の最新動向

リスクマネジメントに関する国際規格であるISO 31000も2018年に改訂されました。この改訂版では、リスクマネジメントの原則がより簡潔に記述され、「価値の創出および保護」を大原則として明確に打ち出しています。また、リスクマネジメントプロセスの一層の整理が行われ、統合、体系化、動的な繰り返し、継続的改善の促進などが強調されており、現代の複雑なリスク環境に対応するための柔軟性と実効性が高められています。

日本におけるコーポレートガバナンス改革の「実質化」

このような進化を遂げた理論を組織に実装しない企業は、もはや国際競争において後塵を拝することになるでしょう。金融庁は2023年度以降、コーポレートガバナンスを「実質化」の時代に入ると明確に示しており、2024年の「アクション・プログラム」では、単なる検討や開示に留まらず、中長期的な企業価値向上に向けた具体的な「実践」と「対話」の重要性を強調しています。コーポレートガバナンス・コードも欧米に追い付け追い越せとばかりに、社外取締役の設置はもとより、多様なステークホルダーとの対話、特にいわゆる「物言う株主」との建設的な対話が求められています。これはかつての総会屋時代とは全く逆の方向性を示しています。

地方公共団体における内部統制の導入

令和2年4月1日からは、地方公共団体にも地方自治法第150条に基づき、二段階制内部統制の導入が開始されました。総務省の「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」(平成31年3月)は、リスクマネジメントをその中核に据えています。この経緯は、社会情勢の変化に鑑み、総務省が会社法等の改正後に地方公共団体への内部統制・コンプライアンス・リスクマネジメント導入を模索し、平成合併後の課題として、地方制度調査会や審議会等で東京大学のトップ行政法の学者(碓井 光明、小早川光郎等)がリードして、「地方公共団体内部統制レポート」がまとめられたことにあります。COSO理論を踏まえ、大蔵省の審議会で「日本版COSO」も公表され、これにISO 31000理論が加わることで、企業や自治体において、内部統制、その目的であるコンプライアンス、その実質化であるリスクマネジメント、そしてその根底にある職業倫理という一連の理論体系が確立されました。中川総合法務オフィスの代表は、これらの最先端理論を深く研究し、噛み砕いて研修や講演で伝えています。NTTドコモ本社役員研修や都道府県管理職研修、その他の地方公共団体等研修でも「新鮮である」という感想が多く寄せられるのは、最前線の理論を提供しているからに他なりません。

(2) 理論の実践と組織風土の重要性

上場企業においては、コーポレートガバナンス・コードの対象企業が3,868社(2023年2月1日現在)と、会社全体の約0.1%弱に過ぎません。金融商品取引法の対象は上場企業であるため、これらの企業には内部統制の規定が適用されます。しかし、株式会社である限り、会社法が適用され、会社法にはガバナンス、内部統制、コンプライアンスの遵守、リスクマネジメント等の規定が存在します。

したがって、いかなる規模の会社であっても、上記の理論をどのように組織に当てはめていくかの議論は不可欠です。実際、最近では中小企業からもコンプライアンス研修の依頼が増加傾向にあります。これは、地方公共団体の法改正の動きとも連動しており、自治体実務でも地方自治法第150条に基づき、二段階制内部統制が導入されました(小早川案)。47都道府県と20指定都市には義務付けられ、その他の約1700地方公共団体には努力義務として、財務を優先した内部統制が求められています。

しかし、肝要なのは、このようなコンプライアンスや内部統制の体制、企業リスクマネジメントの実践等によって、実際にミスや不祥事がどれだけ減少したかの実証的な側面でしょう。

本当に不祥事は減っているのでしょうか。例えば、トヨタ自動車のグループ会社である日野自動車、豊田自動織機、ダイハツ工業などでは、立て続けに不祥事が発覚しました。これは、組織全体が構造主義的に見れば、不祥事が再発する構造になっており、不正を発生させない構造に切り替わっていない可能性を示唆しています。形だけのコンプライアンスに陥っていることが、これらの問題の根底にあると指摘されています(令和4年10月2日東京新聞朝刊の筆者コメント参照)。企業研修の現場では、コンプライアンス規定、リスクマネジメント規定、職業倫理規定、個人情報保護規定などの雛形が求められることが多くありますが、それらはインターネット上に溢れています。重要なのは、形式を整えることではなく、その中身を組織の末端まで浸透させることです。法令遵守、リスク管理、そして職業倫理の三拍子が揃った強固で風通しの良い組織構造を形成しなければ、トヨタのような「一流企業」であろうとなかろうと、不祥事は繰り返されるでしょう。

(3) 人生経験と実効性のあるリーダーシップ

組織は、AIなどのツールがどれほど進歩しても、人が動かすことに変わりはありません。人と人との関係は倫理に基づいています。いかなる秩序で組織を作っていくかは、いかなる人間関係で作っていくかと同義です。ピラミッド型であろうとフラットな組織であろうと関係ありません。上に立つ者、下で働く者、支配する者、支配される者、協働する者、連携する者、対立する者。これらの人生経験が、コンプライアンスのような人間に深く関わる場面では極めて重要です。指導する者にそれが備わっているかどうかが決定的な要素となります。中川総合法務オフィスの公式ページで、代表の経歴をご参照ください。

事例を豊富に取り入れた考える実践的研修

中川総合法務オフィスが行う「企業の役員研修」は、取締役、監査役が中心となりますが、部長級の執行役員を含めることも可能です。コンプライアンスが研修の中心テーマです。新任取締役のみを対象とする研修は少なく、ベテラン取締役との混合型が多く、基礎を確認しながら事例を中心に学ぶ実践的な研修となります。

ほとんどの企業集団では、何らかの形で取締役を兼任していることが多いため、利益相反や取締役会議決不参加時の不利益決議問題は、常に取締役責任に影響します。会社への善管注意義務違反、取締役会の基本的機能である監視義務違反、任務懈怠責任、第三者への責任等、役員の責任は重いものです。ダスキン事件では、不祥事における監査役の責任も最高裁で確定しました。

また、大和銀行事件以降は、担当している業務に関する上記の二つの責任に加え、内部統制構築義務違反が問われるようになり、内部統制についても、通常と特別に分けて、その構築だけでなく運用義務違反も問われるようになりました。したがって、コンプライアンス理論、リスクマネジメント理論、職業倫理理論は当然として、1992年のCOSOレポートを知らずしていかなる企業の役員も務まらないと断言できます。中川総合法務オフィスの役員研修は現在1回200万円もしません。ぜひ受講をご検討ください。

それでもやはり、コンプライアンスが現代社会において組織体の基本であることは、どんなに新しい理論が出てきても変わりません。企業の組織的運営において、いかなる場合もルールを優先して守り、何が正しいかを考えて行動すること。さらに法令遵守、企業倫理を守るだけでなく、企業活動がサステナブルであるかどうか、いかなる影響を社会に与えるかなどを考えて行動すること。コンダクト・リスク管理も含めたコンプライアンス体制になっているのか。不祥事やミス発生時に職業倫理の基礎にあるインテグリティに基づいて行動できるのか。隠蔽しようとするのか。これまでの様々な企業不祥事を他山の石として学ぶことが最重要です。

◆役員研修の内容項目(講義と最新トピックを取り入れた事例演習)

【役員研修で人事担当取締役等のよくあるご要望】

  • 実務でよくある事例中心の研修を受けさせたい
  • 新しい取締役に短時間で効率よく知識を与えたい
  • コーポレートガバナンス、内部統制、コンプライアンス、会社法等の知識をバランスよく与えたい
  • リモート研修や集合研修を臨機応変で開催したい
  • 研修を通じて新任役員の実力も見たい 等々

【そこで、中川総合法務オフィスで実施している次の研修内容はいかがでしょうか】

  1. ガバナンス 令和3年改訂版コーポレートガバナンス・コード – Corporate Governance Internal control –
  2. マネジメント COSO内部統制-2013、COSO-ERM-2017、ISO31000-2018、コンプライアンス・リスク管理 – Compliance Risk Management –
  3. 法律知識 取締役の法的地位と義務並びに責任、取締役会の職責、株主総会の運営、M&A、インサイダー取引リスク、3種の上場会社機関構成と運営、金商法と内部統制報告書、親子会社 – Director Legal Knowledge –
  4. リーダーシップ 組織の牽引、業務の改善と割り振り、部下の管理とミス・不祥事防止指導、4つのシチュエーション対応指導、相談型リーダーシップの展開の仕方 – leadership –
  5. 倫理 「何が正しいか」判断して仕事する方法、制度化された倫理規定と承認プロセス -ethics-

◆以上の5つの基礎知識を前提に、企業不祥事の最新事例を基にした「事例演習」を質疑応答で続けて行います。– practice case (Judgement) –

上記のうちのコンプライアンス部分の主な内容は次の通りです。 (1) コンプライアンスの勘どころ…コンプライアンス態勢の構築と現場への浸透 (2) 不祥事の事例と発生時の対応…情報ファイル作成・マスコミの取材と記者会見の仕方及びその後の対応 (3) パワーハラスメントとセクハラの最新動向…相次ぐ法改正と判例変更の新潮流と実務動向(アンガーマネジメント導入によるクレーム対応強化) (4) 反社会的勢力への対応…事前の排除、取引や交渉中の排除、賠償請求や訴訟リスク (5) 平成及び令和に発生した企業不祥事の類型別把握…品質管理違反・インサイダー取引・個人情報漏えい等 (6) コンプライアンス違反防止の新しい潮流⇒現代心理学・AI活用・SDGsやESGリスク・内部通報体制義務化等(組織風土改善における心理的安全性と相談型リーダーシップの浸透)



研修・コンサルティングのお問い合わせ

中川総合法務オフィスは、単なる法務知識の提供に留まらず、組織風土の改善に心理的安全性と相談型リーダーシップを浸透させ、ハラスメントやクレーム対応におけるアンガーマネジメントの導入を支援するなど、実践的なアプローチで貴社のコンプライアンス体制を強化します。

代表の中川恒信は、これまでに850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当し、多くの企業で不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築を成功させてきました。現在も内部通報の外部窓口を担当しており、マスコミからも不祥事企業の再発防止意見をしばしば求められるなど、その実績と専門性は高く評価されています。

貴社の組織の強靭化と持続的成長のために、中川総合法務オフィスのコンプライアンス研修やコンサルティングをぜひご検討ください。

費用は1回30万円から承っております。

お問い合わせは、お電話(075-955-0307)または以下のサイト相談フォームよりお気軽にご連絡ください。 お問い合わせフォーム (※URLは統合後のサイトに置き換えてください)

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