はじめに:不祥事は「初動」ですべてが決まる

社員の過失、事故、あるいは意図的な不正行為。企業や組織において、不祥事の火種は常に潜んでいます。一度不祥事が発生すれば、その対応、とりわけ「初動対応」の巧拙が、企業の社会的信用、ひいては存続そのものを左右すると言っても過言ではありません。初期対応の失敗は、後々まで深刻な影響を及ぼし続けるのです。

本稿では、リスクマネジメントと危機管理の要諦として、不祥事発生時に企業が断固として実行すべき「情報の整理・文書化」と、それに基づいた「外部への情報発信」について、その具体的な手法と重要性を解説します。

第一章:危機管理の心臓部 ― 「情報ファイル」作成の鉄則

不祥事発生時に最優先されるべきは、「事実関係の迅速かつ正確な把握」です。憶測や伝聞が飛び交う混乱の中で、客観的な事実を迅速に収集し、整理・集約することが、的確な意思決定の礎となります。

(1)5W1Hで事実を捉え、情報を一元化する

まずは慌てず、基本に立ち返ることが肝要です。 「急がば回れ」の精神で、以下の「5W1H」のフレームワークを用いて、客観的な事実を一つひとつ積み上げていきましょう。

  • Who(誰が): 関係者は誰か。
  • What(何を): 何が起きたのか。どのような行為があったのか。
  • When(いつ): それは、いつ発生したのか。
  • Where(どこで): 場所はどこか。
  • Why(なぜ): なぜ、そのような事態に至ったのか。その動機・原因は何か。
  • How(どのように): どのような手段・方法で行われたのか。

収集した情報は、日付を冠した「〇〇〇情報ファイル」として、一つのファイルに集約・一元管理します。これが危機管理における意思決定の生命線となります。

(2)「確認情報」と「未確認情報」の峻別

情報ファイルを運用する上で、極めて重要な原則があります。それは、「確認が取れた客観的な事実(確認情報)」と、「伝聞や推測の段階にある情報(未確認情報)」を明確に区別して記録することです。

情報が錯綜する中でこの二つを混同すると、誤った判断を誘発し、対応をさらに迷走させる原因となります。時系列で情報を整理し、それぞれの情報源と確認状況を明記することが不可欠です。

(3)厳格な情報管理と共有

この「情報ファイル」は、企業の最重要機密文書として扱わねばなりません。社内LAN(イントラネット)などを活用し、アクセス権限を不祥事対応の決定権限を持つ役員やコンプライアンス委員会メンバーなどに限定して共有します。

同時に、情報の取り扱いには細心の注意が必要です。特に、関係者の氏名などが含まれる場合、「個人情報保護法」および「プライバシー」の観点から、情報漏洩は断じて許されません。不適切な情報の取り扱いは、二次的な被害を生み、場合によっては関係者から刑事告訴されるリスクさえ伴うことを肝に銘じておくべきです。

第二章:迅速かつ的確な意思決定の場 ― 緊急会議の運営

「情報ファイル」が整備されたら、速やかに緊急役員会やコンプライアンス委員会を招集します。この会議の目的は、一元化された情報に基づき、組織として統一された方針を決定することにあります。

コンプライアンス担当取締役を中心とした委員会は、この情報ファイルを基に、コンプライアンス違反の事実関係を客観的に調査・認定し、今後の対応策を協議します。事実に基づかない議論は、混乱を助長するだけです。

第三章:ステークホルダーへの説明責任 ― 「個別ステートメント」の戦略的公表

整理された事実に基づき、次に行うべきは、ステークホルダーへの説明責任を果たすための「個別ステートメント」の作成です。これは、マスコミ、主要な取引先、そして自社の従業員など、対象者に応じて内容を最適化し、個別に発信する必要があります。

会社の取締役をはじめとする経営幹部は、このステートメントの内容を完全に熟知し、電話取材など不意の問い合わせにもよどみなく応答できるよう準備しておく責務があります。

情勢は刻々と変化するため、ステートメントには「日付と日時」を必ず明記しましょう。状況に応じて中間報告を出すことも、誠実な姿勢を示す上で極めて重要です。

第四章:災害時にも通ずる普遍的危機管理

本稿で述べた一連のプロセスは、コンプライアンス違反や不祥事だけでなく、自然災害や大規模システム障害といった、あらゆる危機管理の場面で応用できる普遍的なフレームワークです。有事の際にパニックに陥らず、組織的に行動するための礎として、平時からこれらの手順をマニュアル化し、訓練しておくことが望まれます。


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