条文
第23条(人事評価の根本基準)
職員の人事評価は、公正に行われなければならない。
2 任命権者は、人事評価を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする。
第23条の2(人事評価の実施)
職員の執務については、その任命権者は、定期的に人事評価を行わなければならない。
2 人事評価の基準及び方法に関する事項その他人事評価に関し必要な事項は、任命権者が定める。
3 前項の場合において、任命権者が地方公共団体の長及び議会の議長以外の者であるときは、同項に規定する事項について、あらかじめ、地方公共団体の長に協議しなければならない。
第23条の3(人事評価に基づく措置)
任命権者は、前条第一項の人事評価の結果に応じた措置を講じなければならない。
第23条の4(人事評価に関する勧告)
人事委員会は、人事評価の実施に関し、任命権者に勧告することができる。
趣旨・立法背景
改正前の制度と課題
地方公務員法は昭和25年の制定以来、職員の勤務成績について旧第40条に「勤務成績の評定」(勤務評定)を規定してきた。勤務評定は「人事の公正な基礎の一つとするために、職員の執務について勤務成績を評定し、これを記録すること」(人事院規則10-2第1条)を目的とするものであったが、評定結果が非公開とされ、その内容や運用方法も各機関の内部慣行に委ねられていたため、客観性・透明性が低く、実際には年功序列的な人事運用が維持されていた。
こうした状況に対し、平成12年5月の「人事評価研究会報告書」(総務庁長官主催)は、能力・実績主義の徹底に向けた人事評価制度への転換を提言した。国は平成19年7月の国家公務員法改正により人事評価制度を導入し、平成21年10月から本格実施に移行した。地方については助言等により導入を促進していたが、法的義務はなく、自治体間で取組水準に大きなばらつきが生じていた。
平成26年5月、「地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律」(平成26年法律第34号)が成立し、人事評価制度の全地方公共団体への義務的導入が規定された。同改正は平成28年4月1日に施行された。改正によって旧第40条の勤務評定規定は廃止され、新たに第23条から第23条の4が設けられた。これにより「公正に」かつ「定期的に」人事評価を実施し、その結果を「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用する」ことが法的義務となった。
改正の立法趣旨
改正の趣旨は、従来の勤務評定と比較して明確な質的転換にある。
第一に、能力・実績主義の制度化である。人事評価は、職員が「発揮した能力」と「挙げた業績」を把握した上で行う勤務成績の評価(法第6条)と定義され、採用年次や在職年数ではなく職務遂行の実態を評価の軸に置く。
第二に、人事管理全般への法的連結である。評価結果を任用(第21条の3・昇任等)、給与、分限(第28条)その他の人事管理の基礎とすることを義務付け、人事管理の客観性・合理性を高める。
第三に、人材育成機能の明確化である。評価結果の開示と上司との面談を通じて職員の成長を促し、組織の人材育成サイクルに組み込む。
令和8年(2026年)4月1日付の現行法は、この平成26年改正の枠組みを維持しており、条文の基本構造に変更はない。
用語解説
人事評価(第6条)
「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」(地方公務員法第6条)。
評価は大きく二種類に分かれる。
能力評価とは、職員が職務遂行の過程で顕在化させた能力を評価するものであり、企画立案力・専門知識・協調性・判断力等が評価項目の典型例となる。業績評価とは、職員が期間中に果たした職務の達成度を評価するものであり、期首に設定した目標の達成状況を期末に確認する目標管理型の運用が多くの自治体で採用されている。
任命権者
地方公共団体の長・議会の議長・選挙管理委員会・代表監査委員・教育委員会・人事委員会及び公平委員会・警視総監・道府県警察本部長・市町村の消防長その他法令または条例に基づく任命権者をいう(法第6条)。任命権者は互いに独立した任命権を有するため、評価の基準・方法も各任命権者が個別に定めることとなる(法第23条の2第2項)。
公正(第23条第1項)
「公正」の文言は法律上の定義がなく、その解釈は行政法の一般原理によることになる。実質的には、(1)評価基準が職務遂行能力・業績に照らした合理的なものであること、(2)評価が定められた基準・方法に則って実施されること、(3)恣意・私情・不当な目的による評価が排除されること、の三要素を含む概念として理解される。
定期的(第23条の2第1項)
「定期的」の具体的頻度は法定されておらず、各任命権者が定める評価基準・方法の中で規定される。国家公務員については「人事評価の基準、方法等に関する政令」(平成21年政令第31号)により能力評価は年1回、業績評価は年2回と定められており、多くの自治体がこれに準じた運用を採用している。
結果に応じた措置(第23条の3)
「措置」の具体的内容は法定されていないが、法第23条第2項が列挙する任用・給与・分限その他の人事管理の各局面がその対象となる。「結果に応じた」との文言は、評価結果と措置の間に合理的な対応関係が存在しなければならないことを意味する。評価結果を全く反映しない措置や、評価結果と全く逆方向の措置は、この規定に反する可能性がある。
各項の解説
第23条第1項「公正原則」
人事評価は「公正に行われなければならない」と規定し、公正性を根本基準として法定する。この規定は訓示規定ではなく義務規定であり、任命権者は公正な評価を実施する法的義務を負う。
公正性の内容として実務上特に問題となるのは、以下の点である。
第一に、評価基準の合理性である。評価項目・基準が職務遂行能力・業績と無関係な事由(例:特定の思想、組合活動、育児休業の取得など)を実質的に反映する構造になっていれば、基準自体の公正性が問われる。
第二に、評価過程の適正性である。評価期間外の事由を評価対象とする、根拠なく最低評語を固定化するなどの運用は、評価手続の公正性を欠く。
第三に、評価結果の開示である。公正性の担保手段として、評価結果の本人開示が機能する。国家公務員については内閣官房令第4条により評価結果の開示が原則として義務付けられており、地方においても同様の実務運用が広がっている。
第23条第2項「活用義務」
「活用するものとする」という文言は、努力義務ではなく義務規定と解される。任命権者は評価結果を任用・給与・分限その他の人事管理の基礎として活用しなければならない。
「基礎として」との文言は、評価結果が唯一・絶対の判断基準となることを意味しない。任用・分限等の各場面では、評価結果以外の諸事情を考慮する余地が残る。しかし評価結果を全く無視した人事措置は、活用義務に反する問題を生じさせる。
第23条の2第2項・第3項「基準・方法の決定と協議義務」
人事評価の基準・方法その他必要な事項は任命権者が定める(第2項)。これは、地方自治体の規模・組織特性・職種構成等に応じた柔軟な制度設計を可能にする趣旨であり、画一的な基準を国が強制しない構造となっている。
第3項は、地方公共団体の長および議会の議長「以外の」任命権者(例:教育委員会、選挙管理委員会等)が評価基準・方法を定める場合には、あらかじめ地方公共団体の長に協議しなければならないと規定する。この協議は当該地方公共団体内における人事評価制度の整合性を確保する手続であり、協議の結果に拘束力はないものの、協議を経ない場合には手続的瑕疵が問われうる。
第23条の3「措置義務」
「措置を講じなければならない」は義務規定であり、評価結果を人事管理に反映させることを法的に義務付ける。措置の具体的内容については任命権者の裁量が認められるが、評価結果を全く無視した措置や、評価結果と合理的な対応関係を持たない措置は義務違反となりうる。
第23条の4「人事委員会の勧告」
人事委員会は人事評価の実施に関し任命権者に勧告することができる。この勧告権は強制力を持つものではなく、任命権者に法的拘束力を及ぼすものではない。しかし人事委員会は職員の給与等について議会や地方公共団体の長に勧告する権限(法第8条第1項第6号)を持つ中立的な第三者機関であり、その勧告は事実上の抑制機能を果たす。なお、人事委員会を置かない地方公共団体(人口15万人未満等)については公平委員会が置かれるが、公平委員会には人事評価に関する勧告権は付与されていない。
国家公務員法との対比
国家公務員については、平成19年改正国家公務員法第70条の2から第70条の4が人事評価に関する規定を置く。
国家公務員法第70条の2は、「人事管理は、職員の採用試験の種類や年次にとらわれず、人事評価に基づいて適切に行うものとする」と規定し、採用試験種別・年次による不合理な差別を明示的に禁止している点で、地方公務員法の「公正」規定より具体的である。
国家公務員法第70条の3は、人事評価の基準・方法等を「人事院の意見を聴いて、政令で定める」とし、「人事評価の基準、方法等に関する政令」(平成21年政令第31号)に委任している。これに対し地方公務員法は各任命権者が定める構造を採用しており、制度設計の集権度に明確な差がある。
国家公務員法第70条の4第2項は、「内閣総理大臣は、勤務成績の優秀な者に対する表彰に関する事項及び成績の著しく不良な者に対する矯正方法に関する事項を立案し、これについて適当な措置を講じなければならない」と規定し、成績不良者への対応を明示的に法定している。地方公務員法にはこれに相当する明文規定はなく、各自治体の制度設計に委ねられている。
また国家公務員は、人事評価の実施について内閣人事局が統一的に管理し、各府省の長は内閣総理大臣との協議を経て人事評価実施規程を策定する。地方公務員の場合は各任命権者が独立して定めるため、自治体間で制度の水準・内容に差異が生じやすい構造となっている。
行政法上の補論
人事評価の処分性
人事評価それ自体が行政処分(取消訴訟の対象)に当たるかは、実務・学説上の論点である。行政処分性の要件は、公権力の主体による行為であって、特定の者に対して直接法的地位を形成・確定するものであることとされる(最高裁昭和39年10月29日判決・民集18巻8号1809頁)。
人事評価は任命権者が行う内部的行為であり、それ自体は職員の法的地位を直接変動させるものではなく、任用・給与等の具体的人事措置の「基礎」にとどまる。したがって、人事評価の評価結果そのものには処分性が認められないというのが通説的理解である。職員が争うべき対象は、評価結果に基づいてなされた降任・降給・分限免職等の個別の人事措置であり、それらが行政処分として取消訴訟の対象となる。
なお、大津市情報公開・個人情報保護審査会の答申(諮問第6号)は、昇任候補者の評価記録について公務員と地方公共団体との関係を「特別権力関係」に言及しつつ、内部行為としての性格を確認しており、評価結果開示に係る不服申立においてもこの枠組みが援用される場面がある。ただし今日では「特別権力関係論」はその適用範囲を縮小する方向で理解されており、基本的人権に関わる場合には司法審査が及ぶことに争いはない。
任命権者の評価裁量と統制
任命権者は人事評価基準・方法の決定において広範な裁量を有する(法第23条の2第2項)。しかし裁量無限定論は採られておらず、以下の統制が及ぶ。
第一に、法律による統制である。地方公務員法第23条が定める「公正」原則および各種差別禁止規定(法第13条等)に反する評価は違法となる。
第二に、不当労働行為規制による統制である。組合活動を理由とする低評価は、労働組合法第7条の不当労働行為に該当しうる。最高裁昭和48年1月19日判決(最高裁昭和48年(行ツ)第23号)は、使用者の人事権行使について正当な理由のない差別的取扱いを違法としており、この枠組みは公務員の人事評価にも及びうる。
第三に、民事的統制である。私法上の法理において、評価権の逸脱・濫用として違法となる典型事例としては、(1)就業規則(評価規程)に定められた評定期間外の事由を評価対象とした場合(広島高裁平成13年5月23日判決・マナック事件:評定期間外の事由を対象とした昇給・賞与査定は裁量権の逸脱として違法)、(2)評価手続を全く経ずに最低評語を固定化した場合、(3)不当労働行為や差別的意図が客観的に認定される場合が挙げられる。これらの裁判例は民間企業を対象とするものであるが、地方公務員の人事評価裁量統制においても参照される論理的基礎を提供する。
第四に、人事委員会の勧告による行政的統制である(法第23条の4)。
評価結果不開示と権利救済
改正前の勤務評定は記録書が非公開とされていたが、人事評価制度への移行後、多くの自治体において評価結果の本人開示が実施されている。国家公務員については評価結果の開示が原則として義務付けられており(内閣官房令第4条)、地方においても開示は公正性担保の実務上の要請となっている。
評価結果の開示がない場合、直ちに違法とはならないが、開示の実施は評価制度の公正性を担保するプラス要素として裁判所・第三者機関での判断においても考慮される。地方公務員が評価結果に不服がある場合の不服申立先は、原則として人事委員会または公平委員会であり、勤務条件に関する行政措置の要求(法第46条)または各自治体の苦情処理制度を通じた救済が主な経路となる。
判例・裁判例
マナック事件(広島高裁平成13年5月23日判決)
使用者が人事考課規程に定められた評定対象期間外の事由を昇給・賞与査定の対象とした事案。使用者は原則として人事考課について広い裁量権を持つものの、評価規程の定めに反する裁量権の逸脱は違法と判断された。評価基準・手続の内容が、結果の適法性審査において決定的な意味を持つことを示す裁判例である。
ゆうちょ銀行事件関連裁判例(東京地裁系)
人事評価が強行法規に反する場合、または就業規則等の労働契約上の定めに照らして是認される範囲を超え著しく不合理かつ濫用にわたると認められる場合に違法となるとの一般的判断枠組みが示されている。裁量の広さを前提としつつも、基準の恣意的運用や合理性を欠く評価は違法性を帯びるという法理は、地方公務員の人事評価にも参照しうる。
大津市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第6号)
昇任候補者の評価記録の開示請求が問題となった事案。「評価者が情実や圧力等のため公平な判断ができなくなり、人事管理に係る事務において公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」として開示が制限された。行政内部行為としての性格と開示請求権との緊張関係を示す実例である。
実務上のポイント
職員の立場から人事評価制度を理解する上で、以下の点を押さえておく必要がある。
第一に、評価基準・方法は各自治体・任命権者が定めるため、勤務する自治体の評価規程を確認することが出発点となる。評価項目・評価期間・評価回数・開示手続・不服申立先が規程に明記されているはずである。
第二に、評価結果は任用・給与・分限に法的に連結している。特に分限処分(法第28条)との関係では、「人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合」が降任・免職事由とされており(法第28条第1項第1号)、人事評価は職員の身分保障に直結する。
第三に、不当な評価を受けたと考える場合の救済ルートは、人事委員会・公平委員会への申立て(勤務条件に関する行政措置要求、または各自治体が定める苦情処理制度)が主な経路となる。評価結果それ自体への取消訴訟は処分性の問題から困難であるが、評価結果に基づく具体的な人事措置(降給・降任等)については行政処分として争う余地がある。


