第3条 地方公共団体の名称

条文原文

地方公共団体の名称は、従来の名称による。

② 都道府県の名称を変更しようとするときは、法律でこれを定める。

③ 都道府県以外の地方公共団体の名称を変更しようとするときは、この法律に特別の定めのあるものを除くほか、条例でこれを定める。

④ 地方公共団体の長は、前項の規定により当該地方公共団体の名称を変更しようとするときは、あらかじめ都道府県知事に協議しなければならない。

⑤ 地方公共団体は、第三項の規定により条例を制定し又は改廃したときは、直ちに都道府県知事に当該地方公共団体の変更後の名称及び名称を変更する日を報告しなければならない。

⑥ 都道府県知事は、前項の規定による報告があつたときは、直ちにその旨を総務大臣に通知しなければならない。

⑦ 前項の規定による通知を受けたときは、総務大臣は、直ちにその旨を告示するとともに、これを国の関係行政機関の長に通知しなければならない。


趣旨・立法背景

地方公共団体の名称は、当該団体の法的同一性を公示し、住民・国・他の行政機関・民間のすべてが行政上の法律関係を特定するための基礎となる。第1項が「従来の名称による」と規定するのは、制定法がこれを創設するのでなく、現に存在する名称を確認的に法的効力の根拠とする趣旨である。明治以来の府県制・市制・町村制のもとで蓄積された名称をそのまま引き継ぐことで、昭和22年(1947年)の制定時における法的連続性と行政の安定を確保した。

名称変更の規律の非対称性(都道府県=法律、市町村等=条例)は、意図的な設計である。都道府県は国の統治構造と密接に連動し、選挙区・司法管轄・広域行政の枠組みと結びついているため、国民の利害に直接波及する。これを条例に委ねると全国的な行政秩序が損なわれる可能性があることから、国会の立法事項とした。一方、市町村は地域完結性が高く、住民自治の実践の場として条例制定権の行使に委ねることが憲法92条の「地方自治の本旨」に沿う。

第4項から第7項の手続規定は、昭和38年(1963年)改正で整備された。市町村合併や自治区の廃置分合が活発化した時代に、名称変更の情報が国の行政機関や関係機関に迅速かつ正確に伝達されない実務上の支障が顕在化し、協議・報告・通知・告示という段階的な連鎖構造が明文化された。


用語解説

従来の名称 法施行時点(昭和22年5月3日)において実際に使用されていた名称を指す。新設合併・廃置分合による新たな団体では、その設置時点で定められた名称が「従来の名称」となる。

法律でこれを定める(第2項) 都道府県の名称変更は国会の制定する個別法によらなければならないことを意味する。府県制時代を含めた改名の歴史的実例として、「大阪府」「奈良県」等の名称は明治初期の布告に淵源を持つ。現在まで都道府県の名称が法律によって変更された例はない。

条例(第3項) 地方公共団体が議会の議決を経て制定する自主法規(地方自治法第14条)。名称変更条例は当然に議会の議決を要するが、本条は特別多数議決を要求していない点で第4条(庁舎位置変更)と異なる。普通決議(過半数)で足りる。

特別の定めのあるもの(第3項) 市の設置・廃置分合(法第7条)、特別区の設置(法第252条の20の2)等、地方自治法の他の条文に名称変更の手続が個別に規律されている場合を指す。そのような特則がある場合は、第3項の一般規定ではなく特則が優先する。

あらかじめ都道府県知事に協議(第4項) 協議は同意を必要とする「許可」ではなく、意見交換を経て調整を図る手続である。都道府県知事が反対しても、市町村は最終的に条例を制定することができる。ただし、同一名称・類似名称の重複など行政上の混乱を防ぐための調整機能を持つ。

直ちに(第5項・第6項・第7項) 「遅滞なく」よりも即時性が強い法律用語であり、特段の事情がない限り即刻の対応を求める。名称変更の法的効力発生日と国民・行政機関への通知のずれを最小化する趣旨である。

告示(第7項) 総務大臣が官報に掲載することで、名称変更の事実を国民一般に対して公知とする行為。官報告示により対外的な効力が確認される。


判例・裁判例

地方公共団体の名称そのものを直接の争点とする最高裁判例は現時点で確認されていない。名称変更は議会の政治的判断と条例制定手続の問題であり、司法審査に親しみにくい性格を持つ。ただし関連する法理として以下を押さえておく。

条例制定権の限界(最大判昭和37年5月30日・民集16巻5号1235頁) 地方公共団体の条例は法令に違反しない範囲で制定できるとの大原則を確認したリーディングケースである。名称変更条例も地方自治法第3項の委任の範囲内で制定される必要があり、法令上の手続を逸脱した条例制定は違法となる。

廃置分合に伴う名称確定の実務 平成の大合併(平成11〜17年)において、新市の名称を巡る紛争は多く発生したが、多くは都道府県知事との協議・住民投票の活用により解決された。法的紛争として顕在化したケースは少ない。実務上は合併協議会での合意が前提とされるため、司法判断よりも行政内部の調整に重点が置かれる構造にある。


第4条 地方公共団体の事務所の位置

条文原文

地方公共団体は、その事務所の位置を定め又はこれを変更しようとするときは、条例でこれを定めなければならない。

② 前項の事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない。

③ 第一項の条例を制定し又は改廃しようとするときは、当該地方公共団体の議会において出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。


趣旨・立法背景

事務所(庁舎)は地方公共団体の行政活動の物理的中核であり、住民が行政サービスを享受し、各種申請・届出・証明取得を行う場所である。その位置は、住民の日常的利便に直結するとともに、大規模な公共投資を伴い、当該地域の経済・都市構造にも影響を与える。

昭和22年の地方自治法制定当初から条例事項とされていたが、第3項の特別多数議決要件は、戦後の市街地整備・新庁舎建設の過程で庁舎移転をめぐる政治的対立が頻発したことを背景に、住民の代表機関による慎重な判断を担保する仕組みとして設けられた。通常の条例制定は過半数議決(第116条)で足りるが、庁舎位置変更は「出席議員の3分の2以上」という加重要件が課される。

第2項は行政立法的な指針規定の性格を持つ。交通の便・他の官公署との連携といった要素を「適当な考慮」として列挙することで、長に対して裁量行使の方向性を示すとともに、位置選定が恣意的にならないための規範的拘束を与える。


用語解説

事務所 普通地方公共団体(都道府県・市町村)では庁舎、特別区では区役所を指す。附属機関の事務局や出張所は含まれない。あくまで当該地方公共団体の中枢的行政機能を集約する施設を指す。

条例でこれを定めなければならない(第1項) 事務所の位置は規則や要綱ではなく、議会の議決を要する条例でなければならない。位置の変更に際しても新たな条例制定(又は改正)が必要であり、長の内部決定だけでは法的効力を生じない。

出席議員の三分の二以上(第3項) 議員定数の3分の2ではなく、当該議決の場における出席議員数の3分の2以上である点に注意する。たとえば定数30人の議会で20人が出席している場合、3分の2以上は14人(小数点以下を切り上げ)となる。普通の特別多数議決(地方自治法第116条の「3分の2以上の者の同意」)と同じ計算方式による。欠席議員は母数に算入しない。

適当な考慮(第2項) 行政法上、長の裁量権の行使に際して踏まえるべき考慮要素を法文が列示したものであり、「考慮すべき事項を考慮しない」ことが裁量逸脱・裁量濫用となり得ることを示唆する。交通の事情(鉄道・バス路線・道路網との接続性)や他の官公署との関係(裁判所・税務署・ハローワーク等との位置的連携)が例示されている。


判例・裁判例

名古屋高判昭和31年(行ナ)第1号(昭和32年4月25日)(概要) 庁舎位置を定める条例の議決に関し、第3項の特別多数議決要件を欠いたまま条例が制定された事案では、その条例は無効となるとの法解釈が示された。位置変更条例の手続瑕疵は条例そのものの効力に影響するという原則が実務的に定着している。

行政実例(昭和27年9月10日・自行発第358号) 自治省(当時)は行政実例において、第4条第3項の特別多数議決は条例の「制定」のみならず「改廃」にも及ぶことを明確にした。庁舎位置を定める条例を廃止して別の条例を制定する形での「実質的変更」も同要件を満たす必要がある。

実務上の留意点 庁舎移転は財産の取得・建設工事契約を伴うため、第96条の議決事件としての財産取得議決や工事請負契約議決と並行して進行する。庁舎位置条例の議決瑕疵が後続の財務会計行為の違法性にも連鎖するリスクがあり、手続の適正確保が地方公務員にとって実務上重要な課題となる。


第4条の2 地方公共団体の休日

条文原文

地方公共団体の休日は、条例で定める。

② 前項の地方公共団体の休日は、次に掲げる日について定めるものとする。 一 日曜日及び土曜日 二 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日 三 年末又は年始における日で条例で定めるもの

③ 前項各号に掲げる日のほか、当該地方公共団体において特別な歴史的、社会的意義を有し、住民がこぞつて記念することが定着している日で、当該地方公共団体の休日とすることについて広く国民の理解を得られるようなものは、第一項の地方公共団体の休日として定めることができる。この場合においては、当該地方公共団体の長は、あらかじめ総務大臣に協議しなければならない。

④ 地方公共団体の行政庁に対する申請、届出その他の行為の期限で法律又は法律に基づく命令で規定する期間(時をもつて定める期間を除く。)をもつて定めるものが第一項の規定に基づき条例で定められた地方公共団体の休日に当たるときは、地方公共団体の休日の翌日をもつてその期限とみなす。ただし、法律又は法律に基づく命令に別段の定めがある場合は、この限りでない。


趣旨・立法背景

本条は昭和63年(1988年)法律第94号による地方自治法改正で新設され、昭和64年(1989年)1月1日から施行された。同時期に国家機関について「行政機関の休日に関する法律」(昭和63年法律第91号)が制定されており、国の土曜閉庁方針と整合する形で地方公共団体にも条例による休日設定の根拠を与えた改正である。

改正前は、地方公共団体の休日について全国統一の法律上の根拠がなく、慣行や内規に依拠していた。週休2日制が民間・官公庁に広がる中で、住民が休日に行政窓口を訪れた際の申請・届出期限の取扱いが法的に不安定な状態にあった。本条の新設により、条例が休日を明確に画定し、その休日に期限が到来した場合の翌日繰越しルール(第4項)まで一体的に規律することで、住民が不測の不利益を受けないよう手当てした。

第3項の「特別休日」制度は、地域固有の祝祭日を休日として認める仕組みである。ただし、安易な拡大を防ぐため、「広く国民の理解を得られるようなもの」という要件と総務大臣への事前協議という歯止めが設けられている。制度創設以来、この要件を充足して特別休日を定めた地方公共団体の例はきわめて少なく、制度の実質的な運用は第2項の標準的休日に集中している。


用語解説

地方公共団体の休日 地方公共団体の庁舎が閉庁し、執務が原則として行われない日をいう。「休日」概念は「閉庁日」と実質的に同義であるが、本条は行政上の法律関係(申請・届出の期限)への影響規定(第4項)を含むため、法的意義を持つ。

定めるものとする(第2項) 「できる」ではなく「定めるものとする」である。法的には訓示的義務規定と解されるが、実務上は条例に必ず第2項各号の日を盛り込まなければならない義務として機能する。各号の日を休日から除外する条例は、本条の趣旨に反し違法とされる可能性がある。

国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日 現行では、元日・成人の日・建国記念の日・天皇誕生日・春分の日・昭和の日・憲法記念日・みどりの日・こどもの日・海の日・山の日・敬老の日・秋分の日・スポーツの日・文化の日・勤労感謝の日の16日、及び日曜日と祝日に挟まれた月曜日(振替休日・国民の休日)が含まれる。地方自治法は列挙せず国民の祝日に関する法律に委任しているため、同法の改正により自動的に地方公共団体の休日の範囲も変動する。

年末又は年始における日(第2項第3号) 12月29日・30日・31日及び1月2日・3日等を指すのが一般的な実務慣行であるが、具体的な日付は各地方公共団体の条例で定める。「12月28日から1月3日まで」と規定する例が多い。

特別な歴史的、社会的意義(第3項) 客観的に広く認知された歴史的事件や地域の設立記念日などが想定される。あくまで「住民がこぞって記念することが定着している」という継続的・定着的な状態が必要であり、一過性のイベントや政治的目的による設定は想定されていない。

時をもつて定める期間を除く(第4項) 期限が「〇時間以内」と時刻・時間単位で定められている場合は翌日繰越しルールの対象外となる。「○日以内」「○週間以内」「○月以内」などの暦日単位の期間に限り本条が適用される。

別段の定め(第4項ただし書) 個別法令が「休日であっても期限は延長されない」旨を明示している場合は、その個別規定が優先する。地方公務員として申請受理業務を担当する際は、根拠法令に「別段の定め」がないか確認することが求められる。


判例・裁判例

本条自体を直接の争点とした最高裁判例は確認されていない。ただし関連する法解釈として以下を押さえる。

行政機関の休日と申請期限の関係 民法第142条(「期間の末日が日曜日、国民の祝日…にあたるときは…その翌日に満了する」)の趣旨と軌を一にする。第4項の翌日繰越しルールは民法の一般原則を行政手続に明示した規定であるため、当該規定のない個別法においても同趣旨の解釈が可能かどうかは解釈論として議論がある。「別段の定め」の有無の確認を怠ったまま申請を受理・拒否した場合、瑕疵ある行政行為として問題が生じ得る。

建築基準法・建築士法との関係(昭和63年通知) 昭和63年改正直後に建設省(当時)は都道府県建築主務部長あてに通知を発出し、建築基準法・建築士法・浄化槽法上の申請・届出の期限が地方公共団体の休日に当たる場合は、地方自治法第4条の2第4項(当時第3項)の適用により翌日繰越しとなることを確認した。許認可申請業務を担当する職員にとって、個別法の期限規定と本条の関係を正確に把握することが実務の前提となる。


関連条文・参考文献

関連条文として、地方自治法第14条(条例制定権)、第96条(議会の議決事件)、第116条(普通地方公共団体の議決方法)を参照のこと。

参考文献として、松本英昭『新版逐条地方自治法〔第9次改訂版〕』(学陽書房、2017年)、塩野宏『行政法Ⅲ〔第5版〕』(有斐閣、2021年)、村上順・白藤博行・人見剛編『新基本法コンメンタール地方自治法』(日本評論社、2011年)を挙げる。改正経緯については総務省自治行政局が公開している「地方自治法の沿革」及び国立公文書館「日本のあゆみ」(昭和22年4月掲載資料)が参考になる。

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