条文原文
第90条(都道府県議会の議員の定数)
第九十条 都道府県の議会の議員の定数は、条例で定める。
2 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。
3 第六条の二第一項の規定による処分により、著しく人口の増加があつた都道府県においては、前項の規定にかかわらず、議員の任期中においても、議員の定数を増加することができる。
4 第六条の二第一項の規定により都道府県の設置をしようとする場合において、その区域の全部が当該新たに設置される都道府県の区域の一部となる都道府県(以下本条において「設置関係都道府県」という。)は、その協議により、あらかじめ、新たに設置される都道府県の議会の議員の定数を定めなければならない。
5 前項の規定により新たに設置される都道府県の議会の議員の定数を定めたときは、設置関係都道府県は、直ちに当該定数を告示しなければならない。
6 前項の規定により告示された新たに設置される都道府県の議会の議員の定数は、第一項の規定に基づく当該都道府県の条例により定められたものとみなす。
7 第四項の協議については、設置関係都道府県の議会の議決を経なければならない。
第91条(市町村議会の議員の定数)
第九十一条 市町村の議会の議員の定数は、条例で定める。
2 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。
3 第七条第一項又は第三項の規定による処分により、著しく人口の増減があつた市町村においては、前項の規定にかかわらず、議員の任期中においても、議員の定数を増減することができる。
4 前項の規定により議員の任期中にその定数を減少した場合において当該市町村の議会の議員の職に在る者の数がその減少した定数を超えているときは、当該議員の任期中は、その数を以て定数とする。但し、議員に欠員を生じたときは、これに応じて、その定数は、当該定数に至るまで減少するものとする。
5 第七条第一項又は第三項の規定により市町村の設置を伴う市町村の廃置分合をしようとする場合において、その区域の全部又は一部が当該廃置分合により新たに設置される市町村の区域の全部又は一部となる市町村(以下本条において「設置関係市町村」という。)は、設置関係市町村が二以上のときは設置関係市町村の協議により、設置関係市町村が一のときは当該設置関係市町村の議会の議決を経て、あらかじめ、新たに設置される市町村の議会の議員の定数を定めなければならない。
6 前項の規定により新たに設置される市町村の議会の議員の定数を定めたときは、設置関係市町村は、直ちに当該定数を告示しなければならない。
7 前項の規定により告示された新たに設置される市町村の議会の議員の定数は、第一項の規定に基づく当該市町村の条例により定められたものとみなす。
8 第五項の協議については、設置関係市町村の議会の議決を経なければならない。
趣旨・立法背景
第90条及び第91条は、普通地方公共団体の議会を構成する議員の総数、すなわち議員定数の決定方法を定める規定である。両条とも第1項において定数を条例事項とする点は共通しており、地方公共団体の議事機関の規模を、当該団体自らの自治立法である条例によって決定させる仕組みとなっている。
現行の第1項は極めて簡潔であるが、この規定に至るまでには長い改正の経緯がある。昭和22年の地方自治法制定時から平成23年改正前までは、第90条及び第91条は人口段階に応じた法定の上限数を規定し、条例はその上限の範囲内でのみ定数を定めることができるという法定上限方式を採用していた。旧規定では、都道府県は人口70万未満で40人を基準とし、人口の増加に応じて段階的に議員を加算し120人を定限とする方式であり、東京都については特別区の人口を基準に130人を定限とする特則が置かれていた。市町村についても人口区分に応じた法定の議員数が定められていた。
この法定上限方式は、平成23年4月28日成立・同年5月2日公布・同年8月1日施行の地方自治法の一部を改正する法律により撤廃された。全国都道府県議会議長会の資料によれば、法改正前は都道府県議会の議員の定数は、現行法第90条1項に規定する定数に相当する数を超えない範囲で定めることとされていたが、この人口段階別の上限を撤廃し、条例による自由な定数設定に一本化したのがこの改正である。全国市議会議長会の資料は、改正理由について議会制度の自由度を高め、議会機能を充実・強化させる見地から考える必要があり、法定上限制度はもはや不要であり廃止すべきであるとされたとしている。地方分権改革の流れの中で、議会の組織編成に関する国の関与を縮小し、各団体の自主性・自律性を高める趣旨である。
第90条と第91条の構造上の相違は、人口の著しい変動があった場合の取扱いに表れている。第90条第3項は、都道府県の設置に伴う処分により人口が著しく増加した場合に限り、任期中の定数増加を認める。一方、第91条第3項は、市町村の廃置分合等により人口が著しく増減した場合について、増加と減少の双方を任期中に認めている。都道府県は合併等による区域変更の対象となることが想定されにくいのに対し、市町村は市町村合併により区域も人口も大きく変動しうるためである。さらに第91条第4項は、任期中に定数を減少した場合に現に議員の職にある者の数が減少後の定数を超えるときの経過措置を定めており、この規定は市町村にのみ置かれ、都道府県には対応する規定がない。
第4項から第7項(都道府県)及び第5項から第8項(市町村)は、都道府県又は市町村の設置を伴う区域再編の場面において、新たに設置される団体の議会の議員定数をあらかじめ関係団体の協議によって定め、告示によって条例で定めたものとみなす仕組みである。市町村の場合は関係市町村が2以上のときは協議、1のときは当該市町村議会の議決という使い分けがある点が、都道府県には見られない特徴である。都道府県の設置は全都道府県が関与する事案として想定されていないため、協議当事者が単一となる場合の規定は置かれていない。
地方公務員の実務との関係でいえば、議員定数は条例事項であるから、その制定・改廃の議案審査、一般選挙の時期との関係整理、廃置分合に伴う定数協議の事務は、いずれも議会事務局及び首長部局の総務・企画部門が関わる実務である。特に市町村合併を経験した団体では、第91条第5項以下の手続を経て新設団体の定数が告示された経緯を確認しておく必要がある場合がある。
用語解説
一般選挙とは、議会の議員の全員を選び直す選挙をいい、任期満了、議会の解散、設置団体の設置等を原因として行われる。第90条第2項及び第91条第2項が定数変更を一般選挙の場合に限定しているのは、選挙の直前又は選挙後の任期途中に定数を変更することによる恣意的な操作を防ぎ、選挙を通じた住民の意思確認と定数変更の時期を一致させる趣旨である。
第6条の2第1項の処分とは、都道府県の廃置分合又は境界変更の処分をいい、この処分により都道府県の区域及び人口が変動する。第7条第1項又は第3項の処分とは、市町村の廃置分合又は境界変更の処分をいう。廃置分合とは、地方公共団体の新設、廃止、分割、合併など、地方公共団体そのものの数や区域を変動させる処分の総称であり、境界変更は既存の地方公共団体間で区域の一部を移すにとどまる処分である。
設置関係都道府県及び設置関係市町村とは、新たに設置される都道府県又は市町村の区域の全部又は一部が、当該新設団体の区域の一部又は全部となる既存の団体をいう。合併の当事者となる既存団体を指す条文上の呼称である。
条例で定めるとは、地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法である条例によって定数を決定することをいい、首長の規則や議会の内部規程では足りない。
現況データ
令和7年12月31日現在の総務省調査によれば、日本の地方議会は都道府県議会47、政令指定都市を含む市議会792、町議会742、村議会138、東京都特別区議会23から成り、都道府県議会の議員定数は2,599人、市区町村議会の議員定数は28,696人である。
都道府県議会の定数は人口規模に比例する傾向があるが、条例による自主決定であるため人口規模だけでは説明できない差異も生じている。総務省の議員定数に関する調(令和5年4月1日現在)によれば、北海道の議員定数は2,275人であったのに対し、富山県は262人、福井県は300人前後の水準であった。人口の多い東京都は1,677人、神奈川県は771人であり、必ずしも人口順に単純比例していない点は、各団体が地域の実情や議会運営の効率性を踏まえて条例で独自に定数を決定していることの表れである。
市町村議会については、平成の大合併以降、合併に伴う定数の見直しと、その後の人口減少を背景とした定数削減が全国的に進んでいる。第91条第5項以下の設置関係市町村による協議・告示の手続は、この合併時の定数決定過程を規律するものである。
判例・裁判例
第90条及び第91条自体は条例への白紙委任に近い規定であり、定数そのものの多寡を違憲・違法と判断した最高裁判例は見当たらない。もっとも、選挙における投票価値の平等という観点からの司法審査の枠組みは、国政選挙に関する最高裁大法廷判決の考え方が参照される。最高裁判所大法廷は、昭和51年4月14日判決において、衆議院議員選挙に関する選挙無効請求事件を審理し、憲法14条1項、15条1項及び3項、44条但書は、選挙における選挙人の投票の価値が平等であることを要求するものであり、国会が正当に考慮できる政策的目的又は理由に基づく結果として合理的に是認できない投票価値の不平等が存するときは憲法の規定に違反するとの判断枠組みを示した。この判断枠組みは衆議院議員選挙区割りに関するものであるが、地方議会議員の選挙区割り及び定数配分の合憲性が争われる場面でも、投票価値の平等の要請として援用されることがある。
地方自治法第90条・第91条の定数決定自体は条例事項として広範な立法裁量に委ねられており、条例による定数の増減それ自体が司法審査の対象として直接争われた最高裁判例は乏しい。実務上問題となるのは、むしろ公職選挙法上の選挙区割り及び選挙区ごとの議員数配分の平等性であり、この点は公職選挙法第15条の規律する領域である。地方公務員としては、定数そのものの決定は第90条・第91条に基づく条例制定権の範囲内にあるが、選挙区割りの合理性については別途投票価値の平等の観点からの検証が求められうる点を押さえておく必要がある。
出典:総務省「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等」、総務省「議員定数に関する調」、全国都道府県議会議長会「地方自治法等の改正経過」、全国市議会議長会資料、最高裁判所裁判例情報、e-Gov法令検索(地方自治法)


