地方自治法逐条解説 第92条 議会の議員の兼職禁止
条文原文
第九十二条 普通地方公共団体の議会の議員は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない。
2 普通地方公共団体の議会の議員は、地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二十二条の四第一項に規定する短時間勤務の職を占める職員(以下「短時間勤務職員」という。)と兼ねることができない。
趣旨・立法背景
本条は、普通地方公共団体の議会の議員について、国会議員との兼職及び他の地方公共団体の議会の議員並びに地方公共団体の常勤職員・短時間勤務職員との兼職を禁止する規定である。
第1項は、国政と地方自治とを担う機関を人的に分離することを目的とする。日本国憲法93条は普通地方公共団体に議事機関としての議会を設置し、その議員を住民が直接選挙することを定めており、国会議員と地方議会議員とは、それぞれ異なる選挙区の住民の負託を受けて別個の代表機関を構成する立場にある。両者を兼ねることを認めれば、住民代表としての職責を全うできないおそれがあるため、国会議員との兼職は一律に禁止されている。なお、公職選挙法89条は国若しくは地方公共団体の常勤の公務員が公職の候補者となる場合の届出制限を定めており、地方議会議員が衆議院議員又は参議院議員の候補者となったときは、その届出の日に議員の職を辞したものとみなす仕組み(公職選挙法90条)と対応関係にある。
第2項は、議会という合議体の構成員である議員の地位と、執行機関の指揮命令に服する職員の地位とを分離する趣旨に基づく。議員が同時に自らが属する団体の常勤職員であれば、議会による執行機関の監視機能(自治法96条の議決権、98条の検査権、100条の調査権等)が形骸化するおそれがあり、また、他の地方公共団体の議会の議員との兼職も、それぞれの議会における職責の専念を損なうため禁止される。
第2項の「短時間勤務職員」に関する部分は、当初の条文にはなく、平成29年の地方公務員法改正により創設された会計年度任用職員制度に伴って追加された経緯を持つ。この改正で地方公務員法に定年前再任用短時間勤務職員の任用根拠規定(当時の条番号は28条の5第1項)が新設され、自治法92条2項はこれを引用する形で改正された。その後、国家公務員の定年引上げに合わせて地方公務員法が改正され(令和3年法律第63号、施行令和5年4月1日)、定年前再任用短時間勤務職員の任用根拠規定の条番号が28条の5第1項から22条の4第1項へと繰り上げられたことに伴い、自治法92条2項の引用条番号も現行の「第二十二条の四第一項」に改められた。条文上の実質的な禁止対象に変更はなく、引用先の条番号整理にとどまる改正である。
地方公務員向けの視点で付言すると、地方公務員法上、職員は一般職・特別職を問わず地方公共団体の議会の議員の職を兼ねることが認められていない点で、地方公務員法36条の政治的行為の制限や地方公務員法35条の職務専念義務と目的を共通にする部分がある。もっとも地方公務員法の規定は職員側からの制約であるのに対し、自治法92条は議員側からの兼職禁止という形で同じ帰結を規定している点に留意する必要がある。
用語解説
普通地方公共団体 都道府県及び市町村を指す(自治法1条の3第2項)。特別地方公共団体である特別区、地方公共団体の組合、財産区とは区別される。
常勤の職員 勤務時間の全部を勤務に充てるべきものとされる職を占める職員を指す。一般職であるか特別職であるかを問わない。
短時間勤務職員 地方公務員法22条の4第1項に規定する定年前再任用短時間勤務職員の任用に係る短時間勤務の職を占める職員をいう。定年前に退職した者を、従前の勤務実績等に基づく選考により、通常の勤務時間より短い勤務時間の職に採用する制度であり、令和3年の地方公務員法改正による定年引上げと一体で導入された。
兼職 同一人が同時に二つ以上の公職又は職を占めることをいう。本条における兼職禁止は、いずれかの職への就任時点で他方の職を失うという効果を伴う。
判例・裁判例
第92条第1項及び第2項は、該当する職に議員が就いているか否かという客観的な事実関係によって適用の有無が定まる規定であり、解釈上の争いが生じにくい構造を持つため、最高裁判所判例として直接この条項の解釈が争われた事案は乏しい。実務上の適用は、地方自治法127条1項に基づく議会の資格審査の手続を通じて行われる。同項は、議会の議員が被選挙権を有しない者であるとき、又は92条の2の規定に該当するときはその職を失うと定めるが、92条自体に該当する事実(衆参議員との兼職、常勤職員又は短時間勤務職員との兼職)が生じた場合も、当該地位への就任と同時に議員の職を失うと解されており、資格審査の対象となる。出席議員の3分の2以上の多数による議会の決定を要する点は127条1項後段に明記されている。
以上のとおり、第92条は適用の有無が比較的明確な規定であるため、争訟に発展する事案は、後述する92条の2(請負禁止規定)と比較して少ない。
地方自治法逐条解説 第92条の2 議会の議員の兼業禁止
条文原文
第九十二条の二 普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負(業として行う工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入その他の取引で当該普通地方公共団体が対価の支払をすべきものをいう。以下この条、第百四十二条、第百八十条の五第六項及び第二百五十二条の二十八第三項第十二号において同じ。)をする者(各会計年度において支払を受ける当該請負の対価の総額が普通地方公共団体の議会の適正な運営の確保のための環境の整備を図る観点から政令で定める額を超えない者を除く。)及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
趣旨・立法背景
本条は、議会の議員が自らの所属する普通地方公共団体との間で経済的な取引関係に立つことを制限し、議員の職務執行の公正及び議会運営の適正を確保することを目的とする規定である。
沿革をたどると、昭和22年制定当初の地方自治法には議員の兼業禁止規定は置かれていなかった。独任制の機関である長は契約締結権及び支出命令権を有するため兼業による弊害が生じやすいのに対し、議会は合議体でありその構成員たる議員個人が地位を利用して利益を図る危険は相対的に小さいと考えられていたためである。その後、昭和31年改正により本条が新設され、議員がその属する普通地方公共団体に対して請負をする者又は主として同一の行為をする法人の役員等であることを禁止する規定が置かれた。
長期にわたり、「請負」の意義については民法上の請負契約に限定されず、業として行われる経済的又は営利的な取引契約であって、一定期間継続する取引関係に立つものを広く含むと解釈・運用されてきた(総務省行政課長通知「地方議会に関する地方自治法の解釈等について」平成30年4月25日総行行第94号)。もっとも、この解釈は条文上明確ではなく、立候補を検討する者にとって該当性の予測が困難であるとの指摘や、議員のなり手不足の一因になっているとの指摘が第32次地方制度調査会等でなされてきた。
これを受け、令和4年法律第101号(議員立法)により本条が改正され、令和5年3月1日から施行された。改正の要点は二つある。第一に、「請負」の定義を条文上に明記し、「業として行う工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入その他の取引で当該普通地方公共団体が対価の支払をすべきもの」という文言を導入した。この定義は従来の解釈運用を実質的に踏襲したものであり、民法上の請負契約に限らず、業として行われる経済的取引を広く含む。第二に、個人による請負について、各会計年度に支払を受ける対価の総額が政令で定める額を超えない場合には兼業禁止の対象から除外する規律を新設した。この政令で定める額は、地方自治法施行令121条の2により年間300万円と定められている。したがって、議員個人が普通地方公共団体から一会計年度に受ける請負の対価の総額が300万円以内であれば、本条に抵触しない。ただし、施行日である令和5年3月1日より前の取引については従前の例によるため、適用関係の確認に注意を要する。
本条の規律は、法人の役員等に関する部分(支配人、無限責任社員、取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずべき者、清算人)には金額基準が適用されず、「主として同一の行為をする法人」に該当するか否かという実質判断による点で、個人請負とは規律の構造を異にする。
なお、本条にいう「請負」の定義は、長の兼業禁止を定める142条、委員会の委員等の兼業禁止を定める180条の5第6項、地方独立行政法人の役員等に関する252条の28第3項第12号においても引用され、同一の意義を有する。
用語解説
請負 業として行う工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入その他の取引で、当該普通地方公共団体が対価の支払をすべきものをいう。民法632条以下に定める請負契約に限定されず、業務委託契約、物品納入契約等、対価が支払われる継続的な経済的取引を広く含む。
政令で定める額 地方自治法施行令121条の2に定める300万円を指す。各会計年度において議員個人が普通地方公共団体から支払を受ける請負の対価の総額がこの額を超えない場合、個人による請負は兼業禁止の対象から除外される。
支配人 商法上の支配人(商法20条以下)に相当する地位にある者をいい、営業主に代わって事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する使用人を指す。
無限責任社員 合名会社の社員及び合資会社の無限責任社員のように、会社の債務について直接かつ無限の責任を負う社員をいう。
主として同一の行為をする法人 当該普通地方公共団体に対する請負が、当該法人の業務の主要部分を占める場合をいう。具体的な判断基準は後述の判例による。
清算人 解散した法人の残余財産の整理及び債権債務の処理に当たる者をいう。
判例・裁判例
「主として同一の行為をする法人」の該当性について、最高裁判所昭和62年10月20日判決は、長の兼業禁止を定める地方自治法142条に関する事案において判断基準を示している。同判決は、普通地方公共団体に対する請負量が当該法人の全体の業務量の半分を超える場合には、そのこと自体において当該法人は「主として同一の行為をする法人」に当たるとした。他方、請負量が半分を超えない場合であっても、当該請負が当該法人の業務の主要部分を占め、その重要度が長の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度に至っている事情があるときは、同様に「主として同一の行為をする法人」に当たるとした。142条と92条の2とは請負の定義及び規律の構造を共通にすることから、この判断基準は議員の兼業禁止についても同様に妥当するものとして実務上運用されている。
この基準の適用事例として、留寿都村議会議員に関する事案では、村に対する請負量が当該法人の業務量の約48パーセントであった事例が問題となり、半分を超えない場合の実質判断基準に沿った検討が行われた。また、大川村では、公益的法人について兼業禁止の対象とならない範囲を明確化するため、請負が法人の業務の主要部分を占め、その重要度が議員の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度に至っていない法人は「主として同一の行為をする法人」に該当しないことを定める条例(大川村議会議員の兼業禁止を明確にする条例)を制定し、該当しないとされた法人名を村長が毎年度議会に報告し公表する仕組みを設けている。
函館市議会における資格審査の事案では、議員が理事又は会長を務める団体が市から受託した業務について、過去の任期における請負量の平均が業務量の51.25パーセントに達しており、東京高等裁判所の判例が45.61パーセントでも「主として同一の行為をする法人」に該当するとした例があることも踏まえ、当該団体が「主として同一の行為をする法人」に該当するとの結論に至った。これに対し、村に対する取引割合が25.1パーセントにとどまった森林組合の事案のように、業務量に占める割合が低い場合には「主として同一の行為をする法人」に該当しないと判断された例もある。ある町村における資格審査事案でも、議員が取締役に就任していた企業と当該町村との取引について、業務の主要部分を占めるとまでは言えないとして、92条の2に該当しないとの決定がされている。
これらの事案から、「主として同一の行為をする法人」の該当性は、請負量が業務量の半分を超えるか否かを一次的な基準としつつ、半分を下回る場合でも業務の主要部分を占め、議員の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いといえるかという実質的な観点から個別に判断されていることが分かる。数値のみで一律に線引きできる規定ではなく、地方公共団体の議会運営委員会や資格審査委員会が個々の事案において取引割合、業務の性質、継続性等を総合的に考慮して判断している点に留意する必要がある。
■議員の二親等以内の親族が経営する企業は市との請負契約等を辞退しなければならず、当該議員に、その辞退届を徴して提出する努力義務を課す市議会議員政治倫理条例の規定は、議員の職務執行の公正を確保する等の正当な目的を達成するための手段として必要かつ合理的であって、憲法二一条一項、二二条一項及び二九条に違反しない。(最判平26・5・27判タ一四〇五・八三、重判平26憲四)


