条文原文

第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。

一 条例を設け又は改廃すること。

二 予算を定めること。

三 決算を認定すること。

四 法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること。

五 その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること。

六 条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。

七 不動産を信託すること。

八 前二号に定めるものを除くほか、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること。

九 負担付きの寄附又は贈与を受けること。

十 法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。

十一 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること。

十二 普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第三条第二項に規定する処分又は同条第三項に規定する裁決をいう。以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において同じ。)に係る同法第十一条第一項(同法第三十八条第一項(同法第四十三条第二項において準用する場合を含む。)又は同法第四十三条第一項において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)に係るものを除く。)、和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。

十三 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。

十四 普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること。

十五 その他法律又はこれに基づく政令(これらに基づく条例を含む。)により議会の権限に属する事項

2 前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものにあつては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる。


趣旨・立法背景

二元代表制における議決権の位置づけ

本条は、普通地方公共団体の議会が有する最も根源的な権限である議決権の対象を定める規定である。憲法第九十三条は、地方公共団体に議事機関としての議会を置き、その議員と長をともに住民の直接選挙によるものとした。ここから、住民から直接選出された執行機関としての長と、同じく直接選出された議員により構成される議事機関とが、独立・対等の立場で相互に牽制する二元代表制が導かれる。議決権は、この構造の中で議会が団体意思を決定する基本的権限であり、地方自治法上、議会に関する諸規定の冒頭に近い位置に置かれている。

令和五年の地方自治法改正(令和五年法律第十九号、公布の日から施行)により、第八十九条第二項として「普通地方公共団体の議会は、この法律の定めるところにより当該普通地方公共団体の重要な意思決定に関する事件を議決し、並びにこの法律に定める検査及び調査その他の権限を行使する」との規定が新設された。これは第三十三次地方制度調査会答申「多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申」を受けたもので、議会の権限を確認的・総則的に明示する規定である。第九十六条は、この第八十九条第二項が総則的に述べる「重要な意思決定に関する事件」の具体的内容を列挙する規定と位置づけられる。

制限列挙主義とその沿革

第一項は「次に掲げる事件を議決しなければならない」として十五の事項を掲げる。この列挙は制限列挙であり、法令又は条例に議決を要する旨の定めがない事項は、原則として執行機関の権限に属すると解される。議会の権限が制限列挙であるのに対し、長の権限は第百四十九条において例示列挙とされ、かつ第百四十七条により統括代表権が与えられている点が対照をなす。

もっとも、この制限列挙主義は当初からの制度ではない。昭和十八年の市制・町村制改正前は、府県会が制限列挙主義であったのに対し、市町村会は概括列挙主義を採り、市町村に関する事件であればすべて議決権を有するものとされていた。昭和十八年改正により市町村会も制限列挙主義に転換したが、この改正は同時に、町村会の予算増額修正権の否定、市町村長への指示権付与、市町村長の任命制化、町内会・部落会の市町村長支配下への編入などと一体で行われたものであり、戦時体制下における中央統制強化という背景を持つ。現行地方自治法はこの方式を承継しているが、沿革上の経緯からすれば、制限列挙主義を根拠に議決事項を狭く読む解釈には慎重さが求められる。

財務関係議決事項の成立経緯

第五号及び第八号に代表される財務関係の議決事項は、昭和二十三年の地方自治法改正で加えられ、昭和三十八年の財務会計制度の全面改正により現行の姿となった。この改正の過程では、地方財務会計制度調査会の答申「地方財務会計制度の改革に関する答申」が、契約の締結や財産の取得は議決により成立した予算の執行にかかる事項であるから執行機関の責任において処理することとし、議会は調査・検査・監査により適正な処理を確保すべきであるとの見地から、これらを議決事項としない方針を示していた。当時の自治省もこれを改正法案に取り入れようとしたが、地方議会側と対立し、協議の結果、条例で定める種類・金額の基準を政令で定めるという形で決着した。現行の政令基準方式は、この政治的妥協の産物である。

第二項の趣旨

第二項は、法定議決事項に上乗せして、条例により議決事件を追加することを認める規定である。条例で定めさえすれば、法令上執行機関限りで処理できる事項についても議会の議決を要するものとすることができる。平成二十三年の地方自治法改正(平成二十三年法律第三十五号)前は、法定受託事務は本項の対象から一律に除外されていたが、第二十八次地方制度調査会答申「地方の自主性・自立性の拡大及び地方議会のあり方に関する答申について」(平成十七年十二月九日)及び第二十九次地方制度調査会答申「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申について」(平成二十一年六月十六日)を受け、国の安全に関することその他の事由により議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除き、法定受託事務についても議決事件として追加できることとされた。


各項各号の解説

第一項柱書 議決の意義と発案権

「議決しなければならない」との文言は、掲げられた事件について議会の議決が必須の要件であることを示す。議決の態様には可決、修正議決、否決があり、法文上は「議決」以外にも「認定」(第二百三十三条第三項の決算)、「同意」(第二百四十四条の二第二項の重要な公の施設の廃止等)、「承認」(第百七十九条第三項の専決処分)、「許可」(第百八条の議長・副議長の辞職)、「決定」(第百二十七条第一項の議員の資格)など多様な用語が用いられる。実務上これらの用語の差異は議会運営上特別の意味を持たないとする理解が一般的であるが、「決定」については一種の審判作用として議決と区別する見解も存在する。

議決事件は、その性質により、条例制定改廃や予算のように団体の意思そのものを決定するもの、第九十九条の意見書提出のように議会が機関として意思決定するもの、第五号・第八号のように執行機関の行為に事前に関与するものに分類される。この分類は発案権の所在に影響する。団体意思の決定に関する議案は原則として長と議員の双方に発案権があるが、予算については長に専属する(第百十二条第一項ただし書、第二百十一条)。機関意思の決定に関する議案は議員に発案権が専属し、長の執行の前提としての意思決定に関する議案は長に専属する。議員が議案を提出するには議員定数の十二分の一以上の賛成を要し(第百十二条第二項)、委員会も所管事務に関する議案を提出できる(第百九条第六項)。

第一項第一号 条例を設け又は改廃すること

条例は、地方公共団体が憲法第九十四条及び地方自治法第十四条第一項に基づき、法令に違反しない範囲で制定する自主立法である。本号は自治立法権の行使を議会の専権とする趣旨であり、議会の権限のうち最も本質的なものにあたる。

住民に義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか条例によらなければならない(第十四条第二項)。条例には二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる(第十四条第三項)。なお、拘禁刑は懲役及び禁錮を一本化した刑種であり、令和七年六月一日施行の刑法等改正により導入されたものである。

条例制定権の限界については、徳島市公安条例事件(最高裁判所大法廷判決昭和五十年九月十日)が、条例が国の法令に違反するかどうかは両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって決すべきであるとの枠組みを示しており、現在も判断基準として機能している。

議決された条例に異議があるとき、長は理由を示して再議に付すことができ(第百七十六条第一項)、この場合の再可決には出席議員の三分の二以上の同意を要する(同条第三項)。条例の制定改廃は直接請求の対象でもあり(第七十四条)、この場合も最終的には議会の議決を経る。

第一項第二号 予算を定めること

予算は一会計年度における歳入歳出の見積りであり、歳入歳出予算のほか、継続費、繰越明許費、債務負担行為、地方債、一時借入金、歳出予算の各項の経費の金額の流用を内容とする(第二百十五条)。

予算の提出権は長に専属し(第百十二条第一項ただし書、第二百十一条第一項)、議員及び委員会は予算案を提出できない。長は年度開始前に、都道府県及び指定都市にあっては三十日、その他の市町村にあっては二十日までに議会に提出しなければならない(第二百十一条第一項)。

議会は予算を増額して議決することを妨げないが、長の予算の提出の権限を侵すことはできない(第九十七条第二項)。減額修正については明文の制限がない。増額修正の限界については、長の予算提案権の趣旨を損なうような修正、すなわち予算の同一性を失わせるような大幅な組替えは許されないと解するのが実務の理解である。

なお、昭和十八年の市制・町村制改正で町村会の予算増額修正権が否定された経緯があり、現行法第九十七条第二項が増額修正を明文で認めたのは、その反省を踏まえた制度設計であるといえる。

第一項第三号 決算を認定すること

長は、決算を出納閉鎖後三箇月以内に会計管理者から提出を受け、監査委員の審査に付し、その意見を付けて議会の認定に付さなければならない(第二百三十三条第一項から第三項)。

決算の認定は、既に執行された収入支出について、議会が事後的にその適法性・妥当性を評価する行為である。したがって、認定が得られなかったとしても、既になされた収入支出行為の法的効力に影響を及ぼすものではないと解されている。認定は政治的・道義的な評価としての意味を持つにとどまる。

もっとも、平成二十九年の地方自治法改正により、決算の認定に関する議案が否決された場合において、長が当該議決を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、速やかにその措置の内容を議会に報告し、これを公表しなければならないこととされた(第二百三十三条第七項)。不認定の実効性を高める趣旨の規定であり、実務上は不認定を受けた事項について是正措置と公表を行う運用が定着しつつある。

第一項第四号 地方税の賦課徴収等に関すること

本号は、地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料、加入金及び手数料の徴収に関する事項を議決事項とする。ただし冒頭に「法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか」との限定が置かれている。

地方税については地方税法第三条第一項が条例で定めるべきものとし、分担金、使用料、加入金及び手数料については第二百二十八条第一項が条例で定めるものとしている。したがって、これらの賦課徴収の根拠は条例により定められ、条例の制定改廃は第一号の議決事項となる。この結果、本号が独自に機能する場面は限定的であり、実務上は確認的規定と理解されている。

第一項第五号 条例で定める契約を締結すること

契約の締結権限は本来執行機関に属する(第百四十九条第二号、第二百三十四条)。本号は、重要な契約が財政運営に及ぼす影響の大きさを考慮し、住民代表である議会の意思により適正に契約が締結されることを担保する趣旨で、一定の契約を議決事項としたものである。最高裁判所判決平成十六年六月一日は、本号の趣旨について、政令等で定める種類及び金額の契約の締結は普通地方公共団体にとって重要な経済行為にあたるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにある旨を判示している。

政令の基準

地方自治法施行令第百二十一条の二の二第一項及び別表第三により、契約の種類は「工事又は製造の請負」に限定され、予定価格の下限は次のとおりとされている。

団体区分予定価格の下限
都道府県五億円
指定都市三億円
市(指定都市を除く)一億五千万円
町村五千万円

各団体は、この基準に従い「議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」を制定する。実際の条例例として、青森県及び徳島県は予定価格五億円以上の工事又は製造の請負、東京都は九億円以上(昭和三十九年東京都条例第十四号第二条)、甲府市及び秦野市は一億五千万円以上と定めている。都のように政令基準を上回る額を条例で設定することは可能である。

条例で政令基準を下回る額を定めうるかについては争いがある。行政実例(昭和三十八年十二月十九日自治丁行発第九十三号各都道府県総務部長宛行政課長通知)は、別表に掲げる契約の種類を増加し、又は同表に掲げる金額を下る条件を定めることはできないとするが、議会の監視機能強化の観点から、金額の下限を引き下げて議決範囲を拡大することは否定されないと読むべきであるとの学説も有力である。

対象となる契約の範囲に関する行政実例

工事の設計監理を請負契約に含めているときは議決の対象となるが、設計監理のみでは工事又は製造にあたらず議決を要しない。測量や道路改良に伴う地質調査の委託も同様に議決の対象外とされている(行政実例昭和四十四年二月六日)。

他方、航空写真をもとに行政一般の事務に供する地図(原図)を作成して納入することを一括して委託する契約は「工事又は製造の請負」に該当するとされている(行政実例昭和五十二年十一月十六日)。実務上、材料から指定して作成する印刷製本、縫製する被服、艤装の割合が大きい消防車両等を製造の請負として取り扱う例がある。

単価契約については、その性質上契約時に総量を確定できず、予算の範囲内で適宜供給を受けて対価を支払うものであることから、要議決額を超えても議決を要しないと解されている(行政実例昭和四十一年七月三十日)。

地方公営企業の業務に関する契約の締結並びに財産の取得、管理及び処分については、地方公営企業法第四十条により、第九十六条第一項第五号から第八号まで及び第二百三十七条第二項・第三項の適用が除外され、条例又は議会の議決によることを要しない。

契約の変更・解除

議会の議決を経た契約の内容が変更された場合、議決事項そのものが変更されるときは改めて議決を要する(行政実例昭和二十六年十一月十五日地自行発第三百九十一号京都市理財局宛行政課長回答)。他方、工事名、契約金額、契約の相手方という議案記載事項に変更がなく、設計内容の一部変更にとどまり総額に変更がない場合は、再度の議決を要しないとされている(行政実例昭和四十五年六月二十二日自治行第三十八号兵庫県総務部長宛行政課長回答)。

議決を経た土地売買契約を解除する場合については、契約の解除は法が議決事項として掲げておらず、財政への影響を生じない解除は議決を要しないとされている(行政実例昭和三十三年九月十九日自丁行発第百五十九号福岡県総務部長宛行政課長回答)。

仮契約と議決

議会の議決を得るには契約の相手方、内容、金額等を具体的に特定した議案を提出する必要があるため、実務上は、長があらかじめ相手方との間で本契約の内容となるべき事項を取り決め、議会の議決を得たときに当該事項を内容とする契約を締結する旨を合意する仮契約の方式が通例である(静岡地方裁判所沼津支部判決平成四年三月二十五日)。同判決は、議会の議決自体が停止条件となっている以上、議会が契約を否決すること自体は違法な侵害行為とはならず、地方公共団体は原則として責任を負わないとしつつ、議会の否決行為そのものが違法であり議員に故意又は過失が認められる場合等には例外的に不法行為責任が生じうるとの枠組みを示した。この例外にあたるとして責任を肯定した例に仙台高等裁判所判決令和四年三月二十二日がある。

事業者側の実務対応としては、議決を要する契約については契約締結日から逆算して議案提出スケジュールを組むこと、議案提出前に契約内容を確定させること、議決前には発注者からの要請がない限り業務に着手しないことが要点となる。

第一項第六号 財産の交換等

本号は、財産の交換、出資の目的とすること、支払手段としての使用、適正な対価なくしての譲渡又は貸付けを議決事項とする。第二百三十七条第二項が同一の内容を財産管理の側から規定しており、両者は対応関係にある。

「適正な対価なくして」とは、無償又は時価に比して著しく低い対価による場合をいう。これらの行為は反対給付を伴わないか、又は対価関係が不明瞭であるため、財政に与える影響を議会の判断に係らしめる必要がある。

「条例で定める場合を除くほか」との文言により、各団体は財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例を制定して類型的に処理することができ、この場合は個別の議決を要しない。逆に、条例で類型化されていない無償貸付等は個別に議決を要する。実務例として、浜松市が廃校となった市立中学校の土地・建物を民間企業に無償貸付する際、所在地、財産の概要、相手方、貸付期間を記載した議案を提出している例がある。

議決を欠く交換契約の効力について、東京高等裁判所判決昭和五十三年十一月十六日(昭和五十二年(ネ)第五四七号)は、地方公共団体の公有財産は条例の定め又は議会の議決がなければ交換に供することができないところ、これらの規定が公有財産の処分を長の単独専行に委ねず議会による抑制を加えることにより地方財政の民主的かつ健全な運営を図る趣旨であることを考えると、これに違反する交換契約は無効と解するのが相当であるとした。同判決は、市議会全員協議会の承認を得ていたとの主張について、全員協議会は地方自治法上の正規の議決機関ではなく、その承認を議会の議決と同視することはできないとし、違法な措置の慣例化や実質的不利益の不存在も無効の結論を左右しないとしている。

第一項第七号 不動産を信託すること

本号は昭和六十一年の地方自治法改正により追加された。第二百三十八条の五第二項は、普通財産である土地(その定着物を含む)について、当該団体を受益者として政令で定める信託の目的により信託することができると定め、地方自治法施行令第百六十九条の六第一項がその目的を限定している。

令和七年の地方自治法施行令改正により、信託の目的に「信託された土地において、森林の施業を行い、かつ、当該土地の管理又は処分を行うこと」が追加された。これは令和六年の地方分権改革に関する提案募集において、財産区の土地を森林の施業・管理を目的として信託可能とすべきとの提案があったことを受けたものである。

第一項第八号 財産の取得又は処分

本号も第五号と同様、本来執行機関の権限に属する行為について、財政運営への影響の大きさを考慮して議決事項としたものである。

政令の基準

地方自治法施行令第百二十一条の二の二第二項及び別表第四により、種類は「不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地については、その面積が都道府県にあつては一件二万平方メートル以上、指定都市にあつては一件一万平方メートル以上、市町村にあつては一件五千平方メートル以上のものに係るものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払い」とされ、予定価格の下限は次のとおりである。

団体区分予定価格の下限
都道府県七千万円
指定都市四千万円
市(指定都市を除く)二千万円
町村七百万円

第五号の金額要件が昭和五十二年及び平成五年の二度にわたり引き上げられているのに対し、第八号の基準は昭和三十九年以来据え置かれている。物価水準との乖離が指摘されており、基準額の見直しは継続的な検討課題である。

種類要件と金額要件の関係

条例が「土地については一件五千平方メートル以上のものに限る」と定め、かつ「予定価格二千万円以上」と定めている場合において、一件五千平方メートル未満の土地の取得・処分は、予定価格が二千万円を超えても議決を要しないとされている(行政実例昭和三十九年四月三十日自治行第五十四号東京都総務局行政部長宛行政課長回答)。逆に種類要件を満たしても金額要件を満たさない場合も議決を要しない(行政実例昭和四十年十月二十一日自治行第百三十三号福島県総務部長宛行政課長回答)。すなわち、種類要件と金額要件の双方を同時に満たすことが議決の要件となる。

「一件」の意義

条例の種類要件に置かれる「一件」の意義については、契約を単位とするのか事業を単位とするのかが争われた。

岐阜地方裁判所判決平成二十四年十二月十九日、名古屋高等裁判所判決平成二十六年五月二十二日、最高裁判所平成二十七年四月十日(上告棄却・上告不受理)の一連の裁判は、市が売買面積九三一一・四一平方メートルの土地を代金一億円で買い受けるにあたり、これを屋外運動場整備事業用地四六八七・八三平方メートルと緑地整備事業用地四六二三・五六平方メートルに分けて設定し、いずれも五千平方メートル未満であるとして議決を経なかった事案である。

第一審は、単に契約の個数のみで判断するとすれば、契約を分割して締結することにより議決を求めた規定の趣旨を容易に潜脱できてしまうとして、契約の個数のみでなく財産取得の目的等諸般の事情を併せ考慮して判断すべきであるとした。

控訴審は、最高裁判所判決平成十六年六月一日を引用して第八号の趣旨を確認したうえで、「一件」は、取得又は処分する財産が土地である場合には、特段の事情がない限り当該土地を取得又は処分する際の契約の単位を意味するとした。もっとも、同一の事業に供する目的で取得する土地を格別の理由もなく恣意的に分割して売買契約を締結する場合には、なお全体として「一件」に該当すると解すべき特段の事情があるとして議決を要するとしている。あわせて、予算の議決及び決算の認定が議決事項とされているため、事業については議会による事前又は事後の審査の仕組みが保障されていることも理由として挙げている。

なお、控訴審は、「一件」を土地の買入れ又は売払いの目的を妨げない限度における単位とする昭和三十八年十二月十九日の行政課長通知の考え方について、議会の議決の要否という重要事項に関する判断基準としての客観性に欠け、運用が恣意的になるおそれが大きいとして採用しなかった。

取得の目的と議決の要否

不良住宅を取り壊す目的で建物を買い受ける場合について、京都地方裁判所判決昭和六十二年二月十八日は、財産の取得がその除却を目的とする場合に議決を要しないとする規定はなく、財務に関する規定はみだりに規定から離れて緩やかに解釈すべきものではないとし、除却を目的とする買受けの場合はその財産が資産として残らないのであるから、より以上に議会による監督を必要とするとして議決を要するとした。明示の除外規定がない以上は議決を要すると読む点で、議決の対象を広く解する裁判例である。

実務上の議決漏れの実例

愛知県西尾市の監査委員が令和四年に実施した随時監査は、本号の実務上の陥穽を示している。同市では、条例が予定価格二千万円以上の動産の買入れを議決事項としていたにもかかわらず、給食用消耗品及び備品の購入(予定価格五三七八万円、七〇七二万一二〇〇円)並びに避難所屋内用テントの購入(予定価格二九三〇万四千円)の三件について議決を欠いていた。原因は、消耗品は財産に含まれないという誤った解釈が関係職員全体に共有されていたことにあった。監査委員は、これらが議決を要する財産の取得にあたり、議決を経ずに締結された契約は違法であるとして、市長に対し追認の議案を提出するよう勧告している。

同監査では、平成二十四年四月から令和四年九月までの全部署の動産買入れを支出負担行為データから網羅的に抽出し、需用費の消耗品費及び備品購入費を対象として、最低落札率を予定価格の五十パーセントと仮定して契約金額一千万円以上のものを抽出するという手法がとられている。議決要否の点検を行う際の実務手法として参照価値が高い。

第二百三十七条第一項は「財産」を公有財産、物品、債権及び基金と定義し、第二百三十九条第一項は「物品」を現金、公有財産に属するもの、基金に属するもの以外の団体所有の動産等と定義する。消耗品及び備品はいずれも物品としての動産であり、財産に含まれる。この基本構造の確認が、議決漏れを防ぐ出発点となる。

第一項第九号 負担付きの寄附又は贈与を受けること

「負担付き」とは、寄附又は贈与を受けることに伴い、地方公共団体が法的な義務を負い、その義務の不履行が寄附等の解除や返還請求を招くような条件が付されている場合をいう。単に使途を指定するにとどまるものや、寄附者の期待にすぎないものは含まれない。

負担付きの寄附を受けることは、将来にわたり団体に義務を負わせ財政負担を生じさせるため、議会の判断に係らしめる必要がある。実務上は、施設の寄附を受ける代わりに一定期間その用途を維持する義務を負う場合や、寄附者に対する顕彰・命名等の義務を伴う場合などが典型例となる。

第一項第十号 権利を放棄すること

権利の放棄とは、団体が有する公法上又は私法上の請求権を一方的な意思表示により消滅させる処分行為をいう。法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合は本号の対象外であり、地方自治法施行令に基づく債権の徴収停止、履行期限の延長、免除等はこれに含まれる。

本号をめぐる最大の論点は、住民訴訟の係属中に議会が損害賠償請求権を放棄する議決を行うことの許否である。最高裁判所第二小法廷判決平成二十四年四月二十日(神戸市外郭団体第二次訴訟。民集六十六巻六号二五八三頁)及び同月二十三日判決(民集六十六巻六号二七八九頁)は、権利放棄議決の適否についての実体的判断は基本的に議会の裁量権に委ねられているとしつつ、当該請求権の性質、内容、原因、経緯及び影響、議決の趣旨及び経緯、放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属経緯、事後の状況その他諸般の事情を総合考慮して、当該議決をすることが地方自治法の趣旨等に照らして不合理であって裁量権の範囲の逸脱又はその濫用にあたると認められるときは、その議決は違法となるとの判断枠組みを示した。

平成二十九年の地方自治法改正により、議会は住民監査請求があった後に、当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならないこととされた(第二百四十二条第十項)。同改正では、長等の損害賠償責任の一部を免責する条例の制定改廃の議決についても、同様に監査委員の意見聴取が義務づけられている。権利放棄議決を一律に禁止するのではなく、監査委員の意見を経由させることにより手続的な統制を加える制度設計である。

第一項第十一号 重要な公の施設の長期かつ独占的な利用

本号は、条例で定める重要な公の施設について、条例で定める長期かつ独占的な利用をさせることを議決事項とする。何が「重要な公の施設」にあたるか、また何が「長期かつ独占的な利用」にあたるかは、いずれも条例で定めることとされている。

これに加えて、第二百四十四条の二第二項は、条例で定める特に重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならないとしている。すなわち、公の施設の重要度に応じて、通常の過半数議決による場合と特別多数議決による場合との二段構えの統制が置かれている。

第一項第十二号 訴えの提起、和解等

本号は、審査請求その他の不服申立て、訴えの提起、和解、あっせん、調停及び仲裁に関することを議決事項とする。争訟の帰趨が団体の権利義務に重大な影響を及ぼすことから、住民代表の意思を反映させる趣旨である。

括弧書による除外は、行政事件訴訟法の平成十六年改正(平成十六年法律第八十四号、平成十七年四月一日施行)により、抗告訴訟の被告が行政庁から行政主体に変更されたことに対応するものである。この改正により、従来は行政庁が被告となっていた処分・裁決の取消訴訟等について地方公共団体自身が被告となることとなったが、これらの応訴及び和解まで一律に議決事項とすると事務処理に支障を生ずるため、処分又は裁決に係る自治体を被告とする訴訟に関するものは本号の対象から除外された。第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項の規定も同じ整理による。

実務上、被告として応訴する行為自体は「訴えの提起」にあたらないため議決を要しないが、控訴又は上告の提起は「訴えの提起」にあたるため議決を要すると解されている。また、第百八十条第一項に基づき、議会があらかじめ指定した軽易な事項について長の専決処分に委任する運用が広く行われており、一定額以下の損害賠償額の決定や和解がその典型である。

議決を欠く和解の効力について、東京高等裁判所判決令和三年三月二十五日(令和元年(行コ)第二五四号)は、本号所定の行為が議会の議決を経ずに行われた場合であっても、事後にこれを追認する議決がされたときは、その瑕疵は治癒され有効となると解するのが相当であるとした。ただし、当該追認議決が損害賠償請求権の放棄を内容とする和解を追認するものである場合には、前掲最高裁判所平成二十四年四月二十日判決及び同月二十三日判決の枠組みにより、裁量権の逸脱・濫用にあたるときは議決は違法となり、和解は無効となるとしている。

第一項第十三号 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること

「法律上その義務に属する」とは、国家賠償法や民法上の賠償義務が団体に生じていることを前提とする趣旨である。したがって本号の議決は、賠償義務の存否を創設するものではなく、既に生じている賠償義務についてその金額を確定する行為である。

実務上は、公用車による交通事故、公の施設の設置管理の瑕疵による事故、職員の職務執行に伴う損害など、比較的軽微な事案が多数を占める。このため、第百八十条第一項に基づき、一定額以下の損害賠償額の決定について長への専決処分の委任を定めている団体が多い。委任の範囲を超える事案について議決を欠いたまま賠償金を支出すれば、当該支出は違法となり、住民監査請求及び住民訴訟の対象となりうる。

本号の議決は、和解と一体で処理されることも多い。この場合は第十二号の和解の議決と併せて議案を構成することになる。

第一項第十四号 公共的団体等の活動の総合調整に関すること

第百五十七条第一項は、長が当該団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整を図るため、これを指揮監督することができると定める。本号は、その総合調整に関する事項を議会の議決にかからしめる規定である。

「公共的団体等」とは、農業協同組合、森林組合、商工会議所、青年団、自治会、社会福祉法人など、公共的な活動を営む団体を広く含むと解されている。もっとも、地方分権改革を経た現在においては、長が公共的団体等を指揮監督するという構図自体が実態と乖離しており、本号が実際に発動される例はほとんどない。沿革的性格の強い規定と評価されている。

第一項第十五号 その他法律又は政令により議会の権限に属する事項

本号は、第一号から第十四号までに掲げるもののほか、法律又はこれに基づく政令(これらに基づく条例を含む)により議会の権限に属するとされた事項を包括的に議決事項とする受け皿規定である。

地方自治法内の例として、都道府県の配置分合又は境界変更の場合の財産処分に関する関係地方公共団体間の協議(第六条第四項)、公の施設の指定管理者の指定(第二百四十四条の二第六項)、一部事務組合及び広域連合の規約の変更に係る協議(第二百八十六条等)などがある。地方自治法以外の個別法の例として、道路法に基づく都道府県道及び市町村道の路線の認定(道路法第七条第二項、第八条第二項)が挙げられる。

本号の存在により、議決事項は第九十六条第一項の十四項目にとどまらず、法令全体に散在することとなる。議決要否の判定にあたっては、第九十六条第一項のみを参照するのでは足りず、根拠法令に議決を要する旨の定めがないかを個別に確認する必要がある。

第二項 条例による議決事件の追加

制度の概要

第二項は、第一項の法定議決事項に加えて、条例により議決事件を追加することを認める。追加された事件は、法令上は執行機関限りで処理できるものであっても、議会の議決を経なければ処理できなくなる。地方分権の進展に伴い、地域固有の政策課題について議会の関与を強化する手段として活用されている。

法定受託事務の取扱い

平成二十三年改正により法定受託事務も追加の対象となったが、国の安全に関することその他の事由により議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものは除外される。

総務省自治行政局行政課長通知「地方自治法第九十六条第二項に基づき法定受託事務を議決事件とする場合の考え方について」(総行行第六十八号、平成二十四年五月一日)は、地方自治法第二百四十五条の四第一項の技術的助言として発出されたもので、各事務について所管府省と個別に検討したうえで次の類型化を示している。

Ⅰ 法律又はこれに基づく政令により執行が義務づけられている事務であって、その執行について改めて団体としての判断の余地がなく、いわば機械的に行わなければならないもの

Ⅱ Ⅰ以外の事務であって、法令によって長その他の執行機関の権限に属することとされているものや、事務の性質等から当然に長その他の執行機関の権限に専ら属すると解されるもの

Ⅲ 国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして、(1) 国家の安全、外交その他国家の存立に直接関わるもの、(2) 緊急時又は切迫している状況における国民の生命、身体、財産等の保護に関するもの

Ⅳ ⅠからⅢ以外の事務

このうち議決事件として追加できるのはⅣのみとされる。なお同通知は、この類型的整理が法定受託事務だけでなく自治事務についても妥当するとの指摘を含んでいる。もっとも、Ⅱには財務関係の事務が含まれており、その範囲をどう画するかは事務ごとの検討を要する。

総合計画の議決事件化

平成二十三年の地方自治法改正により、市町村に基本構想の策定を義務づけていた旧第二条第四項が削除された。これに伴い発出された総務大臣通知(総行行第五十七号・総行市第五十一号、平成二十三年五月二日)は、改正法の施行後も第九十六条第二項の規定に基づき、個々の市町村がその自主的な判断により引き続き基本構想について議会の議決を経て策定することができる旨を明示した。

これを受けて、多くの市町村が「地方自治法第九十六条第二項の規定による議会の議決すべき事件を定める条例」、総合計画条例、又は議会基本条例により、基本構想及び基本計画の策定・変更・廃止を議決事件としている。実例として、亀岡市は基本構想及び基本計画の策定、変更(軽微なものを除く)又は廃止を、北斗市は基本構想の策定等に加えて定住自立圏形成協定の締結・変更・廃止の通告を議決事件としている。横浜市は議会基本条例第十三条に議決事件を規定し、大阪市は株式の売払いで予定価格一億円以上のもの及び特定複合観光施設区域整備法第九条第九項の規定に基づく同意を議決事件としている。

条例設計にあたっては、「軽微な変更を除く」といった除外規定を置き、議決の対象範囲を明確にしておくことが実務上重要である。また、議決事件の追加は執行機関の権限行使に条件を付す性格を持つため、長の予算提出権や執行権を実質的に侵さない範囲での設計が求められる。


補論 議決を欠く行為の効力と追認議決

第九十六条の実務上最も深刻な論点は、議決を要する行為が議決を経ずに行われた場合の効力である。行政法上の重要論点でもあるため、独立して整理しておく。

議決の三分類と効力

議決は、条例の制定改廃や予算のように団体の意思そのものを決定する議決、第九十九条の意見書提出のように議会が機関として意思決定する議決、第五号・第八号のように執行機関の行為に事前に関与する議決に分類される。

団体意思を決定する議決を欠いた執行行為は、原則として無効となる。最高裁判所判決昭和三十五年七月一日(民集十四巻九号一六一五頁)は、学校校舎建築工事資金の調達のための手形振出しについて、予算外に新たな義務を負担する行為で議会の議決を欠くときは、当該手形振出しは無権限の行為として無効となるとした。

執行の前提としての意思決定を欠いた場合については、行為をする権限自体は執行機関に存するため無権限とまではいえず、手続的瑕疵の問題として捉える理解がある。もっとも、議決を欠く契約締結は重大な手続的瑕疵にあたるため、結論としては原則無効となる点で異ならない。実務においても、議会の議決がない間はそもそも長に契約締結権限がないから、議決を欠く契約は無権限者の行為として無効であるとの整理が用いられている。

全員協議会の承認では代替できない

前掲東京高等裁判所判決昭和五十三年十一月十六日は、市議会全員協議会の承認を得ていたとの主張に対し、全員協議会は地方自治法上の正規の議決機関ではなく、その承認を議会の議決と同視することはできないとした。また、違法な措置が慣例化していたことや、当該処分が実質的に団体にとって不利益でないことも、無効の結論を左右しないとしている。「これまでもこうしてきた」「結果的に損害は出ていない」といった説明が通用しないことを示す判示である。

追認議決による瑕疵の治癒

他方、前掲東京高等裁判所判決令和三年三月二十五日は、第十二号所定の行為について、事後に追認する議決がされたときは瑕疵が治癒され有効となると解するのが相当であるとした。同判決は、追認議決が行われたことは住民訴訟の存在意義を無に帰するものではなく、むしろ住民訴訟を通じて行政の適正化を実現するものであるとも述べている。ただし、権利放棄を内容とする和解の追認については、裁量権の逸脱・濫用にあたるときは議決が違法となり和解は無効となる。

前掲西尾市の随時監査でも、監査委員は市長に対して追認の議案を提出するよう勧告しており、議決漏れが判明した場合の実務対応として追認議決が定着している。

実務上の予防策

議決漏れは、条例の解釈を誤ったまま組織全体で共有してしまうことにより発生する。西尾市の事例では、消耗品は財産に含まれないという誤解が関係職員全体に及んでいた。予防のためには、第二百三十七条第一項の財産の定義及び第二百三十九条第一項の物品の定義に立ち返った研修、契約金額の閾値を基準とした支出負担行為データの定期的な網羅点検、議決を要する契約についての締結日から逆算したスケジュール管理、及び第百五十条に基づく内部統制体制への議決要否判定プロセスの組み込みが有効である。


用語解説

議決 議会としての意思を確定する法的行為をいう。可決、修正議決、否決の三態様がある。法文上は認定、同意、承認、許可、決定等の用語も用いられる。

条例 地方公共団体が憲法第九十四条及び地方自治法第十四条第一項に基づき、法令に違反しない範囲で制定する自主的な法規範をいう。

予算 一会計年度における歳入及び歳出の見積りをいう。歳入歳出予算のほか継続費、繰越明許費、債務負担行為、地方債、一時借入金、歳出予算の各項の経費の金額の流用を内容とする。提出権は長に専属する。

決算の認定 終了した会計年度の予算執行実績について、監査委員の審査意見を踏まえ、議会がその適法性及び妥当性を評価する手続をいう。不認定であっても既に行われた収入支出の法的効力には影響しない。

工事又は製造の請負 地方自治法施行令別表第三が定める議決対象契約の種類をいう。設計監理のみ、測量、地質調査の委託はこれに含まれないが、航空写真からの地図作成を一括して委託する契約は含まれる。

予定価格 契約の締結に先立ち発注者が定める契約金額の上限又は基準となる価格をいう。議決要否は契約金額ではなく予定価格を基準に判断する。

単価契約 供給の総量を契約時に確定せず、単価のみを定めて予算の範囲内で適宜供給を受ける契約をいう。総価が確定しないため、議決の対象とならないと解されている。

負担付きの寄附又は贈与 受領に伴い地方公共団体が法的義務を負い、その不履行が寄附等の解除又は返還を招くような条件が付されたものをいう。単なる使途の指定は含まれない。

権利の放棄 団体が有する公法上又は私法上の請求権を、一方的な意思表示により消滅させる処分行為をいう。

議決事件の追加 第九十六条第二項に基づき、条例を制定することにより独自に議会の議決を要するものと定めた事案をいう。自主議決事項とも呼ばれる。

仮契約 議会の議決を停止条件として、あらかじめ相手方と本契約の内容を取り決めておく契約をいう。議決を要する契約における実務慣行として定着している。

追認議決 議決を欠いたまま行われた行為について、事後にこれを追認する内容の議決をいう。瑕疵の治癒が認められるが、その議決自体が裁量権の逸脱・濫用にあたる場合は違法となる。

専決処分 本来議会の議決を要する事項について、議会を招集する時間的余裕がない緊急時(第百七十九条)、又は議会があらかじめ委任した範囲内(第百八十条)で、長が議決を経ずに自ら処理する制度をいう。いずれも第九十六条の議決原則に対する例外的な補完措置である。


改正法の内容や変化や最新の裁判例

近年の法改正

平成二十三年の改正(平成二十三年法律第三十五号)により、第二項の議決事件追加の対象に法定受託事務が含められた。同時に市町村の基本構想策定義務が廃止され、総合計画を第二項により議決事件とする条例が広く制定されるに至った。

平成二十九年の改正により、決算不認定の場合の措置の報告及び公表(第二百三十三条第七項)、住民監査請求後の権利放棄議決に係る監査委員の意見聴取(第二百四十二条第十項)、長等の損害賠償責任の一部免責条例に係る監査委員の意見聴取が導入された。第三号及び第十号の運用に直接影響する改正である。

令和五年の改正(令和五年法律第十九号)により、第八十九条第二項及び第三項が新設され、議会が重要な意思決定に関する事件を議決する機関であること、及び議員が住民の負託を受け誠実に職務を行うべきことが明文化された。あわせて議会に係る手続のオンライン化が可能とされた(第百条第十五項、第百二十三条第四項、第百三十八条の二)。

令和六年の改正(令和六年法律第六十五号)は、国民の安全に係る国の補充的指示や指定地域共同活動団体制度を創設した。第九十六条自体の改正ではないが、新たに創設された制度に関する事務を第二項により議決事件とするかどうかは、各団体の条例設計上の論点となりうる。

令和七年には地方自治法施行令が改正され、少額随意契約の基準額が引き上げられるとともに(第百六十七条の二第一項第一号、別表第五)、不動産の信託の目的に森林の施業に関するものが追加された(第百六十九条の六第一項)。前者は第五号の議決対象そのものを変更するものではないが、契約事務全体の運用に影響する。後者は第七号に直接関係する。

主要な裁判例

最高裁判所判決昭和三十五年七月一日(民集十四巻九号一六一五頁)は、予算外に新たな義務を負担する手形振出しについて、議決を欠くときは無権限の行為として無効であるとした。

東京高等裁判所判決昭和五十三年十一月十六日(昭和五十二年(ネ)第五四七号)は、議会の議決を欠く公有財産の交換契約を無効とし、全員協議会の承認による代替を否定した。

最高裁判所判決平成十六年六月一日(集民二百十四号三百三十七頁)は、第五号の趣旨が、重要な経済行為に関して住民の利益を保障し、事務処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期する点にあるとし、議決を経ない契約締結を違法とした。第八号の解釈においても引用される基本判例である。

最高裁判所第二小法廷判決平成二十四年四月二十日(民集六十六巻六号二五八三頁)及び同月二十三日判決(民集六十六巻六号二七八九頁)は、住民訴訟係属中の権利放棄議決について、諸般の事情を総合考慮して裁量権の範囲の逸脱又は濫用にあたるときは違法となるとの判断枠組みを確立した。

最高裁判所平成二十七年四月十日(上告棄却・上告不受理。控訴審・名古屋高等裁判所判決平成二十六年五月二十二日、第一審・岐阜地方裁判所判決平成二十四年十二月十九日)は、第八号の「一件」について、原則として契約の単位を意味するとしつつ、恣意的な分割については全体として一件と解すべき特段の事情があるとの整理を示した。

東京高等裁判所判決令和三年三月二十五日(令和元年(行コ)第二五四号)は、第十二号所定の行為について追認議決による瑕疵の治癒を認めた。

仙台高等裁判所判決令和四年三月二十二日は、契約締結議案を否決することにおよそ合理的な理由がないとして、議会の裁量権の逸脱・濫用による不法行為責任を肯定した。


参考資料・出典

なお、政令の基準額及び各団体の条例で定める額は改正されることがあるため、実務にあたっては最新の地方自治法施行令別表第三・別表第四及び自団体の条例を必ず確認されたい。


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