はじめに

地方公務員の給与制度は、昭和25年(1950年)に地方公務員法(以下「地公法」という)が制定された当初から、単なる報酬支払いの問題ではなく、議会制民主主義・財政民主主義・労働基本権の代償措置という三層の価値が絡み合う制度として設計されてきた。

地公法第24条から第26条は、その中核に位置する条文群である。第24条が給与・勤務条件の「根本基準」(いわば原則の憲法)、第25条が給与の支給ルールと条例の必要的記載事項(いわば実施の法律)、第26条が人事委員会による給料表の報告・勧告制度(いわば監視の装置)を定める構造になっている。

令和8年(2026年)4月1日施行の改正後の現行法に基づき、各条文を解説する。


第一 地方公務員法第24条(給与、勤務時間その他の勤務条件の根本基準)

一 条文原文

第二十四条 職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。

2 職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。

3 職員は、他の職員の職を兼ねる場合においても、これに対して給与を受けてはならない。

4 職員の勤務時間その他職員の給与以外の勤務条件を定めるに当つては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。

5 職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める。

二 趣旨・立法背景

(一)昭和25年制定時の背景

地公法は、昭和25年12月13日に制定された(昭和25年法律第261号)。制定当時の日本は、GHQ占領下において公務員制度を根本から再編成する過程にあった。民主的かつ能率的な地方行政の実現のためには、職員の給与が情実や恣意によって決定されてはならないという強い問題意識があり、給与決定に明確な原則と法的根拠を設けることが立法の眼目であった。

第24条が定める給与の「根本基準」は、地公法第1条が掲げる「地方自治の本旨の実現に資すること」という目的に直結し、行政の民主的かつ能率的な運営を担う職員の処遇を客観的・合理的に確保するための礎となっている。

(二)三つの原則と条例主義の体系

第24条は、給与決定の根本原則として学説・実務上広く認知される次の三原則を定める。

第一に、第1項に定める「職務給の原則」である。給与は、当該職員が担う職務の複雑・困難の度合いおよびその職における責任の大きさに応じて決定されなければならない。年功序列や個人の生活事情ではなく、職(ポスト)の内容そのものが給与決定の基軸に据えられる。

第二に、第2項に定める「均衡の原則」(比較の原則ともいう)である。地方公務員の給与は、①生計費、②国の職員の給与、③他の地方公共団体の職員の給与、④民間事業の従事者の給与、⑤その他の事情という複数の要素を「考慮して」定めなければならない。この列挙は「勘案」でも「参酌」でもなく「考慮」であり、立法者は各要素に相応の重みを与えつつ、最終的な決定は議会の条例制定権に委ねる構造を採用した。

第三に、第5項に定める「給与条例主義」(勤務条件条例主義ともいう)である。給与・勤務時間その他の勤務条件は「条例で定める」こととされており、長の規則や行政内部の通達によって給与を定めることは許されない。

(三)第3項——兼職無給の原則

第3項は、「他の職員の職を兼ねる場合においても、これに対して給与を受けてはならない」と定める。職員が複数の職を兼務する場合に、その兼務について別途の給与を支給することを禁止したものである。地公法上の「職員の職」を兼ねる場合に適用され、特別職(地公法第3条第3項)を兼ねる場合は別論となる。

実務上は、例えば課長が別の課の課長職務代理者を兼務するケースや、複数の附属機関の委員を兼務するケースなどで問題が生じることがある。兼務先の職に対して別個の給料・手当を支給することは本項に違反し、住民訴訟(地方自治法第242条の2)の対象となり得る。

(四)第4項——給与以外の勤務条件の均衡原則

第4項は、勤務時間・休暇・休日等、給与以外の勤務条件についても、国の職員および他の地方公共団体の職員との間で「権衡を失しないように」適当な考慮を払うことを求める。第2項と異なり民間との比較を要求していないのは、非現業職員の勤務時間等が市場原理に服さないことと整合する。

「権衡」とは均衡・釣り合いを意味する。完全な一致を求めるものではなく、合理的な理由なく著しく乖離することを禁じるものである。

(五)第5項——給与条例主義の法的根拠

第5項は地公法における給与条例主義の根拠規定であり、地方自治法第204条の2(いかなる給与その他の給付も法律またはこれに基づく条例に基づかずには職員に支給してはならない)と相まって、二重の規範的根拠を構成する。

令和2年度から導入された会計年度任用職員制度(地公法第22条の2)においても、その給与は条例で定めなければならず(同条第6項)、この第24条第5項との整合性が立法担保されている。

三 用語解説

職務給の原則:給与を職員の「人」ではなく「職(ポスト)」の性格に応じて決定する原則。職務給制度の下では、同一の職に就く者には原則として同一の給与レンジが適用される。

均衡の原則:地方公務員の給与水準を、国・他の地方公共団体・民間の給与水準と比較衡量して決定することを義務付ける原則。人事院勧告・人事委員会勧告の実施が義務ではなく「代償措置」として機能する根拠でもある。

給与条例主義:職員の給与の種類・支給条件・額の決定について、必ず条例の根拠を要するとする原則。長の規則・予算措置のみによる給与支給を禁止する。

生計費:職員が生活を維持するために必要な費用。消費者物価指数・家計調査等の統計に基づいて評価されるが、それ単独で給与額を決定する法的義務はなく、均衡原則の考慮要素の一つとして位置づけられる。

権衡:均衡・釣り合いを意味する法令用語。第4項では、給与以外の勤務条件が国の職員等との比較において合理的な範囲内に収まることを要求する概念として用いられる。

四 関連する国家公務員法の規定

国家公務員法(昭和22年法律第120号)は、職員の給与について第62条以下で規定し、「給与は、能率、若しくは特別の能力若しくは特別の職務の困難を考慮」して定める旨を基本に、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号、以下「給与法」という)に委任する構造をとる。

地公法第24条との比較において、地方公務員には「条例」が規律手段であるのに対し、国家公務員には「法律」(給与法)が規律手段である点が最大の相違である(勤務条件法定主義と勤務条件条例主義の差異)。均衡・職務給の実質的内容はほぼ同一であるが、規律の法形式が異なることで、国には人事院勧告の不実施という問題が、地方には議会の条例改正拒否という問題がそれぞれ顕在化する。

令和7年(2025年)の人事院勧告に基づく給与法改正により、令和8年4月から国家公務員の給与体系が「職務・職責に見合った給与体系」へと転換され、役職別の差が拡大した。地方公務員については、各自治体の人事委員会勧告に基づく条例改正が順次行われており、国に準拠する形での給与体系の見直しが進んでいる。

五 判例・裁判例

(一)公務員の勤務条件法定主義と労働基本権制約の合憲性

最高裁大法廷昭和48年4月25日判決(全農林警職法事件、刑集27巻4号547頁)は、国家公務員の争議行為禁止規定(国公法第98条第5項)の合憲性を判断した著名判例である。同判決は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性から、労働基本権に対し「必要やむを得ない限度の制限」を加えることができるとしたうえで、勤務条件が法律・予算によって定められることから争議行為が議会制民主主義に反するとした。

さらに、労働基本権の制約の代償措置として人事院制度・人事院勧告制度が整備されていることを合憲性の根拠の一つとした。地方公務員に対応する代償措置が人事委員会勧告制度(地公法第26条)であり、同判決の論理は地方公務員の労働基本権制約の正当化根拠としても援用されている。

(二)給与条例主義違反と住民訴訟

臨時的任用職員に対して条例の根拠なく市長の決裁のみで毎年2回にわたり増給分(一時金)を支給したことが地公法第25条に違反する違法な公金支出であるとして、住民訴訟において元市長に対する損害賠償請求が認容された事例が複数存在する(総務省「住民訴訟制度関連資料」参考資料2参照)。

条例外給与の支給は、支給された職員が善意であっても返還義務(不当利得)の問題を生じさせるとともに、支給を決裁した長等の違法行為として損害賠償責任の根拠となる。


第二 地方公務員法第25条(給与に関する条例及び給与の支給)

一 条文原文

第二十五条 職員の給与は、前条第五項の規定による給与に関する条例に基づいて支給されなければならず、また、これに基づかずには、いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない。

2 職員の給与は、法律又は条例により特に認められた場合を除き、通貨で、直接職員に、その全額を支払わなければならない。

3 給与に関する条例には、次に掲げる事項を規定するものとする。

一 給料表

二 等級別基準職務表

三 昇給の基準に関する事項

四 時間外勤務手当、夜間勤務手当及び休日勤務手当に関する事項

五 前号に規定するものを除くほか、地方自治法第二百四条第二項に規定する手当を支給する場合には、当該手当に関する事項

六 非常勤の職その他勤務条件の特別な職があるときは、これらについて行う給与の調整に関する事項

七 前各号に規定するものを除くほか、給与の支給方法及び支給条件に関する事項

4 前項第一号の給料表には、職員の職務の複雑、困難及び責任の度に基づく等級ごとに明確な給料額の幅を定めていなければならない。

5 第三項第二号の等級別基準職務表には、職員の職務を前項の等級ごとに分類する際に基準となるべき職務の内容を定めていなければならない。

二 趣旨・立法背景

(一)第1項——給与条例主義の具体的実現

第1項は、第24条第5項の原則を実体的に担保する。給与条例に基づかない限り「いかなる金銭又は有価物も」支給してはならないと明示することで、現物支給・商品券・金券等の形態による実質的な給与支給をも禁止する。

「いかなる金銭又は有価物も」という文言は、条例外給与の迂回・潜脱を防ぐための強い表現であり、解釈論上の抜け穴を認めない趣旨で用いられている。実務上は、職員慰労のための物品提供や懇親会費用の公費支出が本条に抵触するとされた事例が散見される。

(二)第2項——支払いの原則(労基法的保護の公務員版)

第2項は、民間労働者に対する労働基準法第24条(賃金支払の5原則)と類似の保護を地方公務員にも与えるものであるが、その法律構造は別建てである。地公法上の支払い原則は、次の三要素から構成される。

第一に「通貨払いの原則」。現金(法定通貨)によって支払わなければならない。法律または条例による特別の認定がある場合に例外が設けられており、例えば口座振込については条例で定めれば可能とされている(多くの自治体では条例により口座振込を原則化している)。

第二に「直接払いの原則」。代理人への支払いは原則として認められない。ただし、差押命令がある場合など、法律・条例が特別に定める場合は除かれる。

第三に「全額払いの原則」。一部だけの支払いを禁止する。税金・社会保険料の源泉徴収は法律による例外であり、本原則と矛盾しない。

(三)第3項——条例の必要的記載事項

第3項は、給与に関する条例が「規定するものとする」として、七つの事項を必要的記載事項として列挙する。「規定するものとする」という文言は、裁量の余地を残す「することができる」とは異なり、立法義務に準じた強い要請を意味する(福島県による解釈運用を参照)。

各号の内容は次のとおりである。

第1号の給料表は、各職員が格付けられる等級と、その等級における給料月額の範囲(レンジ)を示す基幹的なツールである。

第2号の等級別基準職務表は、職員の職務をどの等級に格付けるかの判断基準を示したものであり、給料表と一体をなして職務給の原則を実現する。

第3号の昇給基準は、職員が現在の号給から上位の号給に移行する条件を定める。令和17年(2005年)の成績主義強化改正以降、昇給は勤務成績の評定に基づく制度に移行しており、一律定期昇給ではなく業績連動型が基本となっている。

第4号の時間外勤務手当・夜間勤務手当・休日勤務手当は、通常の勤務時間外の労務提供に対する補償的手当であり、割増率等を条例で明示することが求められる。

第5号は地方自治法第204条第2項に規定するその他の手当(扶養手当・住居手当・通勤手当・単身赴任手当・特殊勤務手当等)を支給する場合のルールを定める。「支給する場合には」とあるため、当該手当を支給しない場合は条例規定が不要である。

第6号は非常勤職員等、勤務条件が特殊な職の給与調整に関する事項を定める。会計年度任用職員制度の導入後、多くの自治体でこの号に基づく条例整備が行われている。

第7号はその他の支給方法・支給条件であり、支給日・支給場所・端数処理等が含まれる。

(四)第4項・第5項——給料表と等級別基準職務表の構造要件

第4項は、給料表が「職務の複雑、困難及び責任の度に基づく等級ごとに明確な給料額の幅」を定めることを要件とする。「幅」という表現は、同一等級内に複数の号給(ステップ)が存在することを示し、昇給の余地が構造的に確保されていることを意味する。

第5項の等級別基準職務表は、どのような職務内容がどの等級に対応するかを示す分類基準であり、任用・格付けの公正性を担保する機能を持つ。

三 用語解説

給料表:職員の給与を等級・号給の二次元マトリクスで表示した一覧表。一般行政職給料表・技術職給料表・消防職給料表など職種別に複数存在することが多い。各号給の月額が明示されており、昇給はその表内での号給の上昇を意味する。

等級別基準職務表:各等級に格付けられる職務の標準的な内容を記述した一覧表。「課長補佐相当の職務」「係長相当の職務」といった形で記述され、任用・昇任の公正な運用を支える。

号給:給料表内で各等級の給与額を細分化した単位。昇給は号給の上昇として実現される。令和17年改正後は、勤務成績による号給の差別的上昇が制度化されている。

時間外勤務手当:正規の勤務時間を超えて勤務した職員に支給される手当。民間の時間外割増賃金に対応する。国の基準では100分の125以上の割増率が設定されており、各自治体の条例もこれに準拠する。

全額払いの原則:法律・条例によって特に認められた場合を除き、支払うべき給与をその全額において支給しなければならないとする原則。使用者(自治体)が一方的に給与の一部を控除することを禁止する。

四 関連する国家公務員法・給与法の規定

国家公務員については、一般職の職員の給与に関する法律(給与法)が地公法第25条に相当する機能を果たす。給与法は、俸給表・俸給調整額・初任給調整手当・各種手当等を詳細に規定し、地公法第25条第3項各号に対応する内容を法律自体に置いている点で、地方の「条例」による規定と法形式を異にする。

また、給与法第12条は、「いかなる給与もこの法律に基づかずには職員に支給してはならない」と規定し、地公法第25条第1項と実質的に同一の趣旨を採用している(総務省「給与法運用方針」参照)。

支払い原則については、給与法第13条が「通貨で、直接職員に」支払うべきことを定め、地公法第25条第2項と同一構造をとる。

五 判例・裁判例

(一)条例外支給の違法性——住民訴訟における責任追及

前述のとおり、臨時的任用職員に対し条例の根拠なく市長決裁のみで一時金を支給したことにつき、住民訴訟で元市長への損害賠償請求が認容された事例が確認されている。この類の事例は総務省が「住民訴訟制度関連資料」においても集積しており、給与条例主義違反は財務会計行為の違法性として住民訴訟(地方自治法第242条の2第1項第4号)の対象となることが確立している。

土地区画整理組合へ派遣した職員2名に給与を支出したことが地公法等に反し違法であるとして、組合に対する不当利得返還請求および元市長に対する損害賠償請求が第1審で一部認容された事例(各1,462万円請求命令)も、派遣と給与支給の法的根拠の明確化が実務上不可欠であることを示している。

(二)全額払い原則と不利益控除の可否

全額払いの原則については、民間労働者に関する最高裁昭和36年5月31日判決(シンガー・ソーイング・マシン事件、民集15巻5号1482頁)が確立した労基法上の法理が参照される。同判決は、労働者の自由な意思に基づく合意がある場合の相殺(控除)については全額払い原則に反しないとしたが、地方公務員については条例外の控除自体が認められないため、この法理の適用場面は限定的である。


第三 地方公務員法第26条(給料表に関する報告及び勧告)

一 条文原文

第二十六条 人事委員会は、毎年少くとも一回、給料表が適当であるかどうかについて、地方公共団体の議会及び長に同時に報告するものとする。給与を決定する諸条件の変化により、給料表に定める給料額を増減することが適当であると認めるときは、あわせて適当な勧告をすることができる。

二 趣旨・立法背景

(一)人事委員会勧告制度の法的位置づけ

第26条は、人事委員会による給料表の報告・勧告制度を定める。本条の制度的意義は、単なる行政内部の情報提供にとどまらず、非現業の地方公務員の労働基本権制約の代償措置として機能する点にある。

全農林警職法事件最高裁大法廷判決(昭和48年4月25日)が国家公務員の人事院勧告制度を労働基本権制約の代償措置として位置づけた論理は、地方公務員にもそのまま妥当する。地公法第14条は「社会一般の情勢に適応するように、随時、適当な措置を講じなければならない」(情勢適応の原則)と定め、第26条の勧告制度はその具体的手続を構成する。

秋田県人事委員会が公開する解説によれば、「一般職(非現業)の地方公務員は労働基本権が制約されており、その代償措置として人事委員会勧告制度が設けられている」(秋田県ホームページ参照)。

(二)「毎年少くとも一回」の報告義務

「毎年少くとも一回」という文言は、法律が報告義務の最低頻度を直接定めた珍しい規定形式である。年に1回の報告は法的義務(義務的報告)であり、人事委員会がこれを怠ることは法的義務の懈怠となる。報告は「議会及び長に同時に」行わなければならず、長にのみ先行して報告したり、議会への報告を遅延させたりすることは本条に違反する。

「同時に」という要件は、給与決定権の実質的な所在について議会と長が等しく情報を持つことを確保するためのものである。

(三)勧告の性質——義務的報告と任意的勧告

条文の構造上、給料表の適否についての「報告」は義務(「報告するものとする」)であるのに対し、給料額の増減が適当と認める場合の「勧告」は権限(「勧告をすることができる」)として規定されている。

人事委員会は毎年の民間給与実態調査・公務員給与調査等に基づいて給料表の適否を評価し、改定が相当と認める場合には具体的な改定内容を勧告として示す。勧告は法的拘束力を持たず、最終的な給与改定の判断は議会の条例改正権に属するが、政治的・実務的には強い影響力を持つ。

(四)人事委員会を置かない団体における取扱い

人事委員会は都道府県・指定都市に設置が義務付けられ、人口15万人以上の市・特別区に設置が可能であるが、一般市町村の多くは人事委員会に代えて公平委員会を置く(地公法第7条)。公平委員会には第26条の報告・勧告権限がないため、一般市町村では国(人事院勧告)および都道府県人事委員会の勧告を実質的な参考として給与条例を改定する運用が定着している。

総務省は、一般市町村の給与については「国の取扱いや都道府県の勧告等を受けて、具体的な給与改定方針が決定され、いずれの場合でも議会の議決により、給与条例を改正することとなる」(総務省「給与・定員の制度概要」)と説明しており、勧告の適用範囲は団体の規模によって実質的に異なる。

(五)令和8年(2026年)時点の状況

令和7年(2025年)8月7日、人事院は国会・内閣に対して給与勧告を行い、月例給の引き上げおよびボーナスの引き上げを勧告した。令和8年4月から、国家公務員の基本給が約3.3%引き上げられ、職務・職責に応じた給与体系への転換が図られている。地方公務員については、各都道府県・指定都市の人事委員会がそれぞれ勧告を行い、条例改正を経て令和8年4月1日から新給与が適用されている自治体が大半である。

三 用語解説

人事委員会:都道府県、指定都市、人口15万人以上の市、特別区等に設置される第三者機関(地公法第7条第1項)。委員3名(非常勤)で構成され、給与に関する報告・勧告のほか、競争試験・選考、審査請求の審理等を担う。

人事院勧告:人事院が国会・内閣に対して行う国家公務員の給与等の改定に関する勧告。地方公務員の人事委員会勧告の対応物であり、国家公務員に対して労働基本権制約の代償として機能する。

情勢適応の原則:地公法第14条に定める原則。給与・勤務条件が社会一般の情勢に適応するように随時適切な措置を講じるべきとする。民間賃金の動向・物価水準・経済情勢等の変化に対応する給与改定の根拠規範として機能する。

勧告の法的性質:人事委員会の勧告は、法令上の拘束力を持たない「準立法的勧告」に位置づけられる。ただし、勧告が存在しながら議会が合理的な理由なく長期にわたり給与改定を行わない場合は、代償措置が「画餅に等しい事態」となり、公務員の争議行為等に関する法的評価に影響を及ぼす可能性がある(全農林判決の補足意見参照)。

四 関連する国家公務員法・人事院勧告制度

国家公務員については、国公法第28条が「給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、国会により社会一般の情勢に適応するように、随時これを変更することができる」とし、「その変更に関しては、人事院においてこれを勧告することを怠つてはならない」と定める。

人事院勧告制度については、最高裁平成12年3月17日判決が、人事院勧告の実施が凍結されても代償措置が機能していないとは言えないとの判断を示している(給与法改定凍結事件)。地方公務員の人事委員会勧告についても、同様の論理が適用される可能性がある。

地公法第26条は「議会及び長に同時に報告する」のに対し、国公法第28条は「国会及び内閣に」勧告するものとしており、議会・内閣への同時報告・勧告の原則は国・地方に共通する構造である。

五 判例・裁判例

(一)全農林警職法事件と人事委員会勧告制度の代償措置性

前述の最高裁大法廷昭和48年4月25日判決は、非現業公務員の争議行為禁止の合憲性根拠として「人事院制度のような代償措置」の存在を重視した。地方公務員に対しては人事委員会がその対応機関であり、第26条の報告・勧告制度が代償措置として機能する。

同判決の補足意見(田中・大隅・小川・坂本・岸各裁判官)は、「この代償措置が実際上画餅に等しいと見られる事態が生じた場合には、その正常な運用を求めて相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様で争議行為を行ったとしても、それは憲法上保障された争議行為というべきである」との立場を示した。この補足意見は、人事委員会勧告が実質的に機能することの重要性を示す規範的メッセージとして現在も参照される。

(二)勧告不実施と法的評価——最高裁平成12年3月17日判決

最高裁平成12年3月17日判決は、昭和57年度に限り人事院勧告が実施されなかったことをもって直ちに代償措置が画餅に等しいとは言えないと判断した。「昭和57年度に限って行われた人事院勧告の不実施をもって直ちに、公務員の争議行為等を制約することに見合う代償措置が画餅に等しいと見られる事態が生じたということはできない」とした(国公労連給与凍結事件)。

この論理は、単年度の勧告不実施では代償措置の機能不全とはならないが、継続的・構造的な不実施は別論であることを示唆している。地方の人事委員会勧告が議会によって長期にわたり無視された場合の法的含意を考える際の参照判例となる。


補論 行政法的論点——勤務条件条例主義と条例制定裁量の限界

一 条例制定裁量の問題

地公法第24条・第25条は、給与を「条例で定める」こととしているが、議会がいかなる給与条例を制定するかについての内容的制約は、地公法の定める各原則(職務給・均衡・給与条例主義)によって規律される。議会の条例制定は立法裁量の範囲に属するが、地公法の根本基準を逸脱した条例は違法(地公法違反)となる可能性がある。

二 給与削減条例の合憲性

財政危機を理由とした給与削減条例については、各地で争われてきた。職務給・均衡の原則からの逸脱が問われるが、裁判所は一般的に議会の裁量の範囲として合憲判断を示す傾向にある。ただし、給与削減が「均衡の原則」を著しく逸脱するレベルに達する場合や、特定の集団を差別的に扱う内容の場合は、違法・違憲の評価を受ける余地がある。

三 人事委員会勧告と「適切な代償措置」の要件

地公法第26条の勧告制度が代償措置として機能するためには、①毎年の実態調査が適正に行われること、②報告・勧告が議会・長に同時に伝達されること、③議会が勧告の内容を実質的に検討すること、という三つの条件が満たされることが必要とされる。これらが形骸化する場合には、上記の全農林判決補足意見が示す論理に従い、職員側の争議行為等の許容範囲が変化する可能性がある。


まとめ

地公法第24条・第25条・第26条は、地方公務員の給与・勤務条件を規律する制度の骨格をなす。

第24条が定める職務給の原則・均衡の原則・給与条例主義の三原則は、給与決定を情実・恣意から切り離し、客観的・制度的な根拠に基づかせるための憲法的基盤である。第25条は、その原則を実体的に担保するために、給与条例に必要的記載事項を課し、通貨・直接・全額の支払いを義務付ける。第26条は、人事委員会による毎年の給料表報告・勧告制度を通じて、労働基本権制約の代償として給与水準の適正性を継続的に監視する仕組みを置く。

三条文はそれぞれ独立した規律対象を持ちながら、全体として「給与は条例のみに根拠を持ち、条例は実態を反映した適正な内容を持ち、その内容は第三者機関が継続的に監視する」という循環的な制度設計を実現している。職員にとっては、この制度の存在と機能を理解することが、自らの権利の根拠を知ることにつながる。

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