条文原文
(営利企業への従事等の制限)
第三十八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。
趣旨・立法背景
地方公務員法第38条は、職員が私企業その他の営利事業に関与することを、任命権者の許可がない限り禁止する規定である。地方公務員は地方公務員法第30条により全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する義務を負い、同法第35条により勤務時間及び職務上の注意力の全てを職責遂行に用いる職務専念義務を負う。
営利企業の役員等の地位や自営業、報酬を伴う事業・事務への従事は、これらの義務と利益相反を生じさせる可能性があり、また職務の公正性に対する住民の信頼を損なうおそれがある。
第38条はこの利益相反防止と職務専念確保という二つの要請を制度化したものである。
条文の構造は昭和22年制定の国家公務員法第103条及び第104条を母法としている。国家公務員法では役員兼業(第103条)と自営及び報酬を伴うその他の兼業(第104条)を別条に分けて規定しているのに対し、地方公務員法第38条は両者を一箇条にまとめて規定した点に立法上の相違がある。この一本化により、地方公務員における兼業規制は国家公務員よりも条文構造上は単純だが、規制対象自体は国家公務員法の103条・104条を合算した範囲と実質的に同一である。
ただし書により非常勤職員は原則として第38条の適用対象から除外される。
もっとも令和2年施行の会計年度任用職員制度導入に伴う改正により、短時間勤務の職を占める職員及び第22条の2第1項第2号に掲げるフルタイム会計年度任用職員は、非常勤職員であっても第38条の適用対象に含まれることとされている。これは、フルタイムに近い勤務形態を持つ会計年度任用職員について、常勤職員と同様の職務専念確保と利益相反防止の要請が及ぶという政策判断による。
用語解説
営利企業 商業、工業、金融業その他営利を目的とする私企業を指す。会社形態に限られず、営利を目的とする団体一般を含む。
役員その他人事委員会規則で定める地位 取締役、監査役、理事等の役員のほか、顧問、相談役、評議員、支配人など、企業経営に参加し得る地位を人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体では当該地方公共団体の規則)で個別に指定する。名義のみの就任であっても、報酬の有無を問わず該当する。
自ら営利企業を営む いわゆる自営兼業を指す。不動産賃貸業や太陽光発電による売電事業など、一定規模を超える場合には自営に該当し許可を要する。多くの地方公共団体の規則では、貸室・貸地の規模が一定の棟数・室数・面積、年間賃料収入額を超える場合に許可対象とする基準を置いている。
報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事 継続的又は定期的に労務、仕事の完成又は事務処理の対価として金銭その他の有価物を受け取る行為をいう。単発的な講演や執筆に対する謝礼は、継続性・反復性を欠くため原則としてこれに該当しない。
非常勤職員 地方公務員法上、常時勤務を要しない職を占める職員をいう。ただし短時間勤務の職を占める職員及び第22条の2第1項第2号に掲げるフルタイム会計年度任用職員は、ただし書の除外対象から除かれ、第38条の規制を受ける。
任命権者 地方公務員法第6条に定める地方公共団体の長、議会の議長、教育委員会、警視総監、道府県警察本部長等、職員の任命、休職、免職及び懲戒等の権限を有する機関をいう。第38条の許可権限もこの任命権者に帰属する。
人事委員会規則 人事委員会を置く地方公共団体において、第38条第2項に基づき任命権者の許可基準を定める規則をいう。人事委員会を置かない地方公共団体では、地方公共団体の規則がこれに代わる。
許可制度の運用
第38条第1項の許可は任命権者が行い、同条第2項に基づき人事委員会規則又は地方公共団体の規則で許可基準を具体化するのが通例である。多くの地方公共団体の規則に共通する不許可事由は、おおむね次の三類型に整理できる。
第一に、兼業のため勤務時間を割くこと等により職責遂行に支障を及ぼすおそれがある場合である。第二に、兼業先の営利企業等が職員の勤務する機関と密接な関係にあり、職務の公正な遂行に不当な影響を及ぼすおそれがある場合である。第三に、その他全体の奉仕者たる公務員として兼業することが適当でないと認められる場合である。
近年は職員の自律的なキャリア形成や人材確保の観点から、地域貢献活動や個人のスキルを生かした自営兼業を許可する運用を明確化する地方公共団体が増えている。総務省は、職務遂行上の能率低下のおそれがないかを確認した上で、個別の事案に応じて許可に条件を付し、許可後も定期的に兼業状況の報告を求めるなど丁寧な運用を求める通知を発している。
国家公務員については兼業時間数の目安として、内閣官房内閣人事局の通知(平成31年3月28日付け閣人人第255号)で週8時間、1か月30時間、勤務日1日3時間という基準が示されており、地方公務員の許可基準を検討する際の参考値として引用されることがある。
補論 第38条許可の行政法上の法的性質
第38条第1項の許可の法的性質をめぐっては、行政法上の裁量論の適用が問題となる。一般に行政行為は、法律の要件を充足すれば行政庁が必ず特定の効果を発生させなければならない覊束行為と、行政庁に判断の余地が認められる裁量行為とに分類される。裁量行為はさらに、裁判所による通常の司法審査(判断代置審査)が及ぶとされてきた覊束裁量行為と、裁量権の逸脱・濫用がある場合に限り違法となる自由裁量行為とに区別されてきた。
第38条の許可基準は、人事委員会規則等において職責遂行への支障の有無、営利企業との密接関係の有無、全体の奉仕者としての適否といった評価的要件で構成されている。これらの要件は数値等による一義的な確定が困難であり、任命権者に一定の判断の幅を認めざるを得ない。
もっとも、行政事件訴訟法第30条が裁量処分についても裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があった場合には取消しの対象となる旨を定めていることから、現在の行政法学では覊束裁量と自由裁量の二分論自体が相対化しており、要件の各要素を分節した上で、どの段階にどの程度の裁量が認められ、いかなる密度の司法審査が及ぶかを個別に検討する解釈が主流となっている。
第38条の許可についても、要件裁量の存在を前提としつつ、判断過程に着目した審査(考慮すべき事項を考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないか)が及ぶと解するのが穏当である。
第38条違反は地方公務員法第29条第1項第1号(法律違反)に該当し、懲戒事由となる。懲戒処分(戒告、減給、停職、免職)の種類及び程度の選択については、懲戒権者に裁量が認められるが、その判断が社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合には違法となるという判断枠組みが、公務員に対する懲戒処分一般について確立している。第38条違反を理由とする懲戒処分の適法性が争われる場合も、この一般的な裁量統制の枠組みに従って審査されることになる。
判例・裁判例
第38条そのものの解釈が最高裁判所で正面から争われた著名判例は多くない。これは、無許可兼業の多くが懲戒処分の対象として内部的に処理され、処分を受けた職員が取消訴訟にまで及ばない事案が大半であることによる。もっとも、第38条違反を理由とする懲戒処分も地方公務員法第29条に基づく懲戒処分である以上、懲戒権者の裁量統制に関する確立した判断枠組みの適用を受ける。
懲戒処分に係る裁量統制の基本的な判断枠組みを示した判例として、神戸税関事件に関する最高裁判所昭和52年12月20日判決がある。同判決は、懲戒権者の裁量に基づく処分が違法となるのは、それが社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限られるとした。この枠組みは第38条違反を理由とする懲戒処分にもそのまま及ぶ。
実務上報告されている無許可兼業の事例としては、相続等により取得した不動産の賃貸規模が許可を要する基準を大きく超えていたにもかかわらず許可申請を怠っていた事案や、太陽光発電による売電収入が一定規模を超えていたにもかかわらず自営の承認を得ていなかった事案がある。人事院が公表する国家公務員の兼業に関する資料では、株式会社の設立目的を認識した上で名義貸しを行い取締役に就任した事例が国家公務員法第103条違反の例として紹介されており、地方公務員についても同様の名義貸しの事案は第38条第1項前段の役員兼業に該当すると解される。
国家公務員法との対応関係
地方公務員法第38条に対応する国家公務員法の規定は、第103条(私企業からの隔離)及び第104条(他の事業又は事務の関与制限)である。
国家公務員法第103条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならないと定める。役員兼業は、人事院規則の定める要件を満たし承認を受けた場合を除き認められない。自営兼業についても、人事院が定める承認基準を満たし所轄庁の長等の承認を得た場合に限り行うことができる。
国家公務員法第104条 職員が報酬を得て、営利企業の役員等との兼業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要すると定める。
地方公務員法第38条は、この第103条が扱う役員兼業・自営兼業と、第104条が扱う報酬を伴うその他の兼業とを一箇条に統合した規定である。規制対象の実質は国公法と地公法とでほぼ共通するが、許可権者の構造に相違がある。国家公務員では第103条の役員兼業・自営兼業は人事院の承認、第104条の兼業は内閣総理大臣及び所轄庁の長の許可というように許可権者が分かれているのに対し、地方公務員では第38条の全ての類型について任命権者が一元的に許可権限を有する。
国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程との関係
第38条自体は倫理法規ではなく服務規律の一種であるため、国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程との間に条文上の直接の対応関係はない。もっとも、兼業に伴う報酬受領が利害関係者からのものである場合には、倫理法上の規律が別途及ぶ点に留意が必要である。
国家公務員については、本省課長補佐級以上の職員が利害関係者から依頼を受けて講演や原稿執筆等を行い報酬を得る場合、その報酬が5000円を超えるときは原則として贈与等報告書の提出が必要となる。また依頼元が利害関係者である場合には、あらかじめ倫理監督官の承認を要する。地方公務員については国家公務員倫理法の直接適用はないが、多くの地方公共団体が職員倫理条例又は職員倫理規程を独自に制定しており、利害関係者からの報酬受領について国家公務員倫理法に準じた報告・承認手続を設けている例が多い。第38条に基づく兼業許可の審査に際しては、兼業先が利害関係者に該当しないかを併せて確認することが、職務の公正性を確保する観点から重要である。
本記事は中川総合法務オフィスが地方公務員法第1条から第65条までを順次逐条解説するシリーズの一部である。地方公共団体における兼業許可制度の設計、職員倫理条例の整備、コンプライアンス研修に関するご相談は、下記までお問い合わせいただきたい。

