条文原文
(著作物の公表)
第四条 著作物は、発行され、又は第二十二条から第二十五条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾(第八十条第三項の規定による公衆送信の許諾をいう。以下同じ。)を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合(建築の著作物にあつては、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者によつて建設された場合を含む。)において、公表されたものとする。
2 著作物は、第二十三条第一項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、公表されたものとみなす。
3 二次的著作物である翻訳物が、第二十八条の規定により第二十二条から第二十四条までに規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信若しくは口述の方法で公衆に提示され、又は第二十八条の規定により第二十三条第一項に規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、その原著作物は、公表されたものとみなす。
4 美術の著作物又は写真の著作物は、第四十五条第一項に規定する者によつて同項の展示が行われた場合には、公表されたものとみなす。
5 著作物がこの法律による保護を受けるとしたならば第一項から第三項までの権利を有すべき者又はその者からその著作物の利用の承諾を得た者は、それぞれ第一項から第三項までの権利を有する者又はその許諾を得た者とみなして、これらの規定を適用する。
趣旨・立法背景
第4条は、著作権法の随所で用いられる「公表」という概念について、その成立要件を定める規定である。同法上「公表」は単なる日常語ではなく、公表権(18条)の対象範囲、無名・変名の著作物や団体名義の著作物の保護期間の起算点(52条、53条)、引用や図書館での複製など権利制限規定の適用条件(32条、31条等)など、条文全体を貫く法律要件として機能する。そのため、いかなる行為をもって「公表」とみなすかを明確にしておく必要があり、本条がその基準を提供している。
立法当初の昭和45年制定時点では、上演・演奏・放送・有線放送・口述・展示・上映という当時のメディア環境を前提とした提示方法が列挙されていた。その後、インターネットの普及に伴い、平成9年改正で公衆送信権及び送信可能化権の概念が導入されたことを受け、本条についても「放送」「有線放送」を包括する「公衆送信」という上位概念に置き換える形で改正が重ねられてきた。現行の条文には、平成26年改正で電子出版に対応した出版権制度(79条、80条)が整備された結果、出版権者による公衆送信許諾も公表の主体として明記されている。
条文の基本構造は、権利者本人による提示だけでなく、正当な許諾を得た者による提示によっても公表が成立するという点にある。これは、著作権法が公表の事実を客観的に判定する制度であって、著作者自身の主観的な公表意思のみに依拠していないことを意味する。ただし適法な提示に限られるため、無許諾での違法な提示は本条にいう公表には該当しない。
用語解説
発行(3条に定義)とは、複製物が権利者又はその許諾を得た者により公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数複製され頒布されることをいう。
上演・演奏・上映・公衆送信・口述・展示(22条から25条まで)とは、著作物の利用方法として著作権法が個別に権利化している行為類型であり、それぞれ演劇等の演技、音楽の演奏、映像の映写、インターネット送信や放送、朗読等の口頭伝達、原作品の展示を指す。
公衆送信許諾(80条3項)とは、出版権者が複製権等保有者の承諾を得たうえで第三者に対して公衆送信を許諾する行為をいう。出版権制度が紙媒体の複製にとどまらず電子出版に対応したことに伴い規定された概念である。
送信可能化(2条1項9号の5)とは、自動公衆送信し得る状態に置くことをいい、サーバへのアップロード等インターネット上で公衆がアクセス可能な状態を作出する行為を広く含む。
出版権(79条)とは、著作物を独占的に複製又は公衆送信する権利を著作権者との設定契約により出版者に付与する制度であり、著作権そのものとは別個の権利として構成される。
二次的著作物(2条1項11号)とは、翻訳、編曲、変形、翻案等により原著作物から創作された著作物をいう。第3項は、翻訳物が公衆に提示された場合には原著作物も公表されたものとみなす規定であり、翻訳を通じてのみ流通する外国語著作物等を想定した規定である。
改正法の内容や変化・関連する裁判例
本条は昭和45年制定以来、公衆送信概念の導入(平成9年)、出版権の電子出版対応(平成26年)という二度の実質改正を経て現行の文言に至っている。令和7年及び令和8年の各改正サイクルにおいては、本条自体を直接改正する規定は確認されていない。もっとも、生成AIの学習用データとしての著作物利用をめぐる議論や、AIが生成したコンテンツの公表主体性をめぐる論点は、本条が定める「公衆への提示」概念の射程と密接に関わる分野であり、文化庁の著作権分科会でも継続的に検討が行われている。
裁判例としては、本条が直接争点となった事案は多くないが、「公衆」の範囲をめぐる解釈は関連する周辺事案において蓄積されている。東京地方裁判所平成20年2月26日判決(平成19年(ワ)第15231号)は、官庁内部のLANシステムの掲示板に著作物を掲載した行為について、内部部局や複数の出先機関にまたがる多数の職員が閲覧可能であった事実を踏まえ、公衆送信権侵害を認めた。この判断は、単なる内部利用であっても対象者の範囲が広範であれば「公衆」に該当し得ることを示すものであり、本条にいう「公衆に提示」の該当性を検討する際にも参考になる考え方である。
また、公表権(18条)に関する裁判例の蓄積からも、本条にいう「公表」の意義を補完的に理解することができる。公表権は未公表の著作物についてのみ成立する権利であり、著作者本人又はその同意を得た者によって本条所定の方法で適法に提示された時点で当該著作物は公表済みとなり、以後は公表権の主張ができなくなる。企業の著作権実務においては、社内資料やドラフト段階の著作物を、権利処理未了のまま外部に広く送信可能な状態に置く行為が、意図せず本条にいう「公表」を成立させ、公表権や保護期間の起算に影響を及ぼす場合があることに留意する必要がある。
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