条文原文
第七条 実演は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律による保護を受ける。
一 国内において行われる実演
二 次条第一号又は第二号に掲げるレコードに固定された実演
三 第九条第一号又は第二号に掲げる放送において送信される実演(実演家の承諾を得て送信前に録音され、又は録画されているものを除く。)
四 第九条の二各号に掲げる有線放送において送信される実演(実演家の承諾を得て送信前に録音され、又は録画されているものを除く。)
五 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに掲げる実演
イ 実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(以下「実演家等保護条約」という。)の締約国において行われる実演
ロ 次条第三号に掲げるレコードに固定された実演
ハ 第九条第三号に掲げる放送において送信される実演(実演家の承諾を得て送信前に録音され、又は録画されているものを除く。)
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに掲げる実演
イ 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(以下「実演・レコード条約」という。)の締約国において行われる実演
ロ 次条第四号に掲げるレコードに固定された実演
七 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに掲げる実演
イ 世界貿易機関の加盟国において行われる実演
ロ 次条第五号に掲げるレコードに固定された実演
ハ 第九条第四号に掲げる放送において送信される実演(実演家の承諾を得て送信前に録音され、又は録画されているものを除く。)
八 前各号に掲げるもののほか、視聴覚的実演に関する北京条約の締約国の国民又は当該締約国に常居所を有する者である実演家に係る実演
趣旨・立法背景
著作権法における著作物の保護は第6条が国籍・発行地・条約という三つの基準で定めるのに対し、実演・レコード・放送・有線放送という著作隣接権の対象については、第7条から第9条の2までが個別に保護要件を規定する。
実演を対象とする第7条は、著作物の保護基準と並行しながらも独自の構造を持つ。
第一号から第四号までは、日本国内における実演、日本国内で最初に固定されたレコードに収録された実演、日本国内の放送事業者による放送で送信される実演、日本国内の有線放送事業者による有線放送で送信される実演という、属地主義に基づく基本類型を定める。これらは条約の有無にかかわらず保護される国内実演の枠組みであり、外国人実演家であっても日本国内で行われた実演であれば第一号に該当する。
第五号以降は、日本が締結した国際条約の相手国で行われた実演や、相手国のレコード製作者・放送事業者が関与した実演について、条約上の内国民待遇義務を履行するために追加された類型である。実演家等保護条約(ローマ条約)、実演・レコード条約(WPPT)、世界貿易機関設立協定(TRIPS協定)、視聴覚的実演に関する北京条約という四つの条約それぞれについて、日本が締約国となった時点で対応する号が条文に加えられてきた。第7条が号を追うごとに複雑化しているのは、単発の立法判断ではなく、複数の多国間条約への逐次加入を反映した結果である。
日本の条約加入の経過を見ると、ローマ条約は1989年(平成元年)に締結、TRIPS協定を含むWTO設立協定は1995年1月1日の世界貿易機関発足時に日本も原加盟国として拘束され、WPPTは2002年7月9日に加入書を寄託し同年10月9日に効力を生じ、北京条約は2014年の国会承認を経て2020年4月28日に発効した。第7条の号の並びは、締約国となった時系列そのものではなく、保護される実演の類型を条約ごとに整理した結果の並びであるが、各号の背後にある条約の発効時期を押さえておくと、なぜ保護要件がこれほど細分化されているかが理解しやすくなる。
用語解説
実演とは、第2条第1項第3号が定めるとおり、著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずることをいい、著作物を演じない場合であっても芸能的な性質を有する行為を含む。第7条の適用を検討する前提として、そもそも問題となる行為が実演に該当するかどうかが争われる場合がある。知的財産高等裁判所平成26年8月28日判決は、ファッションショーにおけるモデルの歩行やポーズが実演に当たるかどうかが争点となった事案において、モデルの動作は実演に該当しないと判断した。この判決は第7条そのものの解釈を扱ったものではないが、国内で行われた行為であっても実演の定義に当てはまらなければ第7条を検討する段階に至らないことを示す点で、実務上参照する価値がある。
内国民待遇とは、条約の締約国が他の締約国の国民に対して自国民と同等の保護を与える義務をいう。第7条第五号から第八号までは、いずれもこの内国民待遇義務を国内法上具体化したものである。
商業用レコードとは、市販の目的をもって製作されるレコードの複製物をいい、レコードとは物に音を固定したものをいう。第7条第二号、第五号ロ、第六号ロ、第七号ロが参照する第8条各号は、レコードの保護要件を製作者の国籍やレコードの最初の固定地・発行地によって定めており、実演がそのレコードに固定された場合には、実演自体の行われた場所を問わず保護対象となる構造をとる。
改正法の内容や変化や最新の裁判例
第7条は、1970年(昭和45年)の現行著作権法制定時には第一号から第四号までの国内実演の類型のみを定めていた。その後、日本の条約加入に合わせて号が追加され、現在の八号構成に至っている。
ローマ条約への加入を受けて追加された第五号は、締約国で行われた実演、締約国のレコード製作者による最初の固定に係る実演、締約国の放送事業者による放送で送信される実演を保護対象に加えた。
TRIPS協定はWTO設立協定の一部として1995年に日本を拘束することとなり、これに対応する第七号は、世界貿易機関の加盟国において行われる実演等を保護対象とした。TRIPS協定第14条は実演家、レコード製作者及び放送機関の保護について定めており、ベルヌ条約上の遡及効に関するTRIPS協定第14条6の適用範囲をめぐって日本が米国及び欧州共同体からWTOに提訴された経緯があり、この提訴を契機とした法改正も行われている。
WPPTへの加入に伴って追加された第六号は、実演・レコード条約の締約国で行われた実演等を対象とする。WPPTは実演家の人格権や録音物に係る財産的権利を定めており、ローマ条約に比べて実演家の保護水準を引き上げる内容を含む。
視聴覚的実演に関する北京条約は2012年6月26日に採択され、日本は2014年の国会承認を経て加入手続を進めたが、条約自体は締約国数が30か国に達するまで発効しなかった。2020年1月28日にインドネシアが30か国目の批准国となったことで、同年4月28日に条約が発効し、日本についても同日から効力を生じた。これに対応する第八号は、北京条約の締約国の国民又は常居所を有する者である実演家に係る実演を保護対象とする。北京条約はそれまでの号と異なり、実演が行われた地やレコードへの固定地ではなく、実演家個人の国籍又は常居所という属人的な基準を採用している点に特徴がある。
企業実務との関係では、生成AIを用いた音声合成やモーションキャプチャーにより実演家の声や動作をデータ化し、二次的なコンテンツを制作する事案が増えている。この場合、まず対象となる素材が第2条第1項第3号の実演に該当するかを判断し、該当するのであれば実演が行われた場所、実演家の国籍、収録されたレコードの製作地、送信された放送の発信地のいずれかを確認し、第7条各号のいずれかに当てはまるかを検討する順序になる。海外の実演家の実演を収録した音源や映像を国内で二次利用する場合、実演家の本国がローマ条約、WPPT、WTO、北京条約のいずれかの締約国であれば、国内で行われた実演でなくとも著作隣接権の保護対象となる可能性が高く、無断利用のリスクを検討する際にはどの条約に基づく保護かを整理しておく必要がある。
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