著作権法第2条第1項は「著作物」「著作者」など著作権法全体を貫く基本用語を定義する規定であるが、同条第2項以下は、第1項で定義された個々の用語の意味をさらに拡張し、あるいは補充するための規定群である。企業の知的財産部門や自治体のコンプライアンス担当者が著作権法を読む際、第1項の定義だけを把握して終えてしまうことが多いが、実務上の争点は第2項以下の拡張規定、とりわけ美術工芸品や「公衆」の解釈に集中している。本稿では第2条第2項から第9項までを順に取り上げる。
第2条第2項 美術の著作物と美術工芸品
条文原文
「この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。」
趣旨・立法背景
第1項第1号は著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義する。この「美術」という言葉は、本来は絵画・彫刻のような純粋美術(鑑賞目的のみで作られる作品)を想定したものであり、実用品の意匠やデザインは、産業財産権である意匠法の保護対象として切り分けられてきた。立法当時の担当者の説明では、本項は一品制作の手工的な工芸品(美術工芸品)に限って純粋美術と同視し、量産される実用品のデザインは美術の著作物に含めないという趣旨であったとされる。
用語解説
美術工芸品とは、壺や調度品のように実用性を備えつつ、専ら美的鑑賞の目的で一品製作される工芸的な作品を指す。第10条第1項第4号が著作物の例示として「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を挙げ、美術工芸品はこの例示に準じるものとして本項で明文化されている。
判例の展開・実務上の重要論点
立案当初の狭い理解(美術工芸品以外の応用美術は一律に著作物性を否定する)は、その後の裁判実務によって大きく修正された。応用美術(実用に供され、または産業上の利用を目的とする表現物)が美術の著作物として保護されるかという論点について、知財高裁平成27年4月14日判決(いわゆるTRIPP TRAPPⅡ事件、平成26年(ネ)第10063号)は、本項を「美術の著作物」の例示規定にすぎないと位置づけ、美術工芸品に該当しない応用美術であっても第1項第1号の要件を満たせば美術の著作物として保護されるとした上で、「作成者の個性が発揮されているか否かを個別具体的に検討すべき」という基準を示した。これは、従来の裁判例が要求していた「純粋美術と同視できる程度の高度の創作性・芸術性」という高いハードルを緩和する判断であった。
しかし、応用美術の著作物性については下級審判断が分かれた状態が長く続き、令和6年9月25日の知財高裁判決(令和5年(ネ)第10111号)は同一製品(TRIPP TRAPP)について再び著作物性を否定するなど、判断基準の不統一が実務上の予測可能性を損なってきた。この対立に決着をつけたのが、令和8年4月24日の最高裁判所第二小法廷判決(令和7年(受)第356号)である。最高裁は「個性の発揮」を基準とした知財高裁平成27年判決の立場を採らず、機能と分離して把握できる創作的表現であるかという観点を基準に据え、結論としてTRIPP TRAPPの著作物性を否定した。判決は、「美的鑑賞」という言葉を基準にすると裁判所が芸術性の高低を直接評価することになりかねず、それは適当でないとの考慮も示している。量産される実用品の著作権保護について最高裁が判断を示したのは今回が初めてであり、家具・家電・雑貨・玩具など実用品のデザインを展開する企業にとって、意匠登録という産業財産権による保護を確保する必要性が一段と高まったといえる。
企業実務への影響として、自社製品のデザインを著作権のみで守ろうとする戦略は、本判決以後はリスクが大きい。プロダクトデザインについては意匠法に基づく出願・登録を基本線とし、著作権法上の保護は美術工芸品に該当する一品製作品や、機能から明確に分離できる装飾的表現に限定して期待すべきである。
第2条第3項 映画の著作物の拡張
条文原文
「この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」
趣旨・立法背景
映画というメディアそのものを固定的に定義すると、技術の進展によって登場する新しい表現形式(ビデオ作品、ゲームの映像表現等)を取り込めなくなる。そこで本項は、フィルムという物理的媒体に限定せず、映画と同様の視覚的・視聴覚的効果を生じさせる表現方法であって、何らかの物に固定されているものを広く「映画の著作物」に含める機能的な定義を採用している。
用語解説
「物に固定されている」とは、録画テープ、DVD、ハードディスク、ゲームのプログラムが記録された記録媒体など、再生可能な状態で何らかの媒体上に記録されていることを意味する。生放送のように固定されていない映像は、本項の映画の著作物には該当しない。テレビゲームの映像についても、最高裁平成14年4月25日判決(中古ゲームソフト事件、いわゆる「パックマン」等の著作物性が問題となった事案の系譜)をはじめ、一連を成す映像が継続的に表示されるゲームソフトは映画の著作物に該当するとの理解が裁判実務上確立している。
企業実務では、自社の教育用動画コンテンツやプロモーション映像のみならず、ゲーム、VR・AR上の映像コンテンツ、ドライブレコーダーの記録映像なども本項の対象となり得る点に注意が必要である。映画の著作物については職務著作(第15条第1項)や著作者の推定(第16条)など特殊な規定が連動するため、制作委託契約における権利帰属条項の設計時に本項の射程を意識する必要がある。
第2条第4項 写真の著作物の拡張
条文原文
「この法律にいう「写真の著作物」には、写真の製作方法に類似する方法を用いて表現される著作物を含むものとする。」
趣旨・立法背景
写真を銀塩フィルムによる撮影に限定すると、デジタルカメラやスキャナーなど技術的に異なる方式で生成される画像表現を捉えられなくなる。本項は、撮影手法そのものではなく、写真と類似の製作方法という機能的観点から定義を拡張し、技術中立的に写真の著作物の範囲を画している。
用語解説
「写真の製作方法に類似する方法」とは、光学的・電子的に対象物の像を機械的に記録する手法を広く指す。グラビア印刷や複写機による複製のような単純な再製行為は対象に含まれないが、デジタル一眼レフカメラやスマートフォンによる撮影、さらには静止画として固定される一部の電子的な画像生成手法も射程に入り得る。なお、写真の著作物として創作性が認められるためには、被写体の選択、構図、シャッタータイミング、光線の調整など、撮影者の個性が表れていることが要件となる(東京地裁平成11年5月12日判決ほか多数の裁判例で確認されている考え方である)。単なる記録目的の証明写真や機械的な複写は、創作性を欠くものとして著作物性が否定される場合がある。
生成AIとの関係では、AIが生成した静止画像が本項にいう「写真の製作方法に類似する方法」に該当するかという論点があるが、現時点での実務上の整理は、画像生成の手法そのものではなく、人間の思想・感情の創作的表現が認められるかという第1項第1号の著作物性要件のレベルで判断されるべきものとされている。AIガバナンスに取り組む企業や自治体としては、生成AIで作成した画像をどのような名目で利用するかにかかわらず、創作的表現性の有無を個別に検討する姿勢が求められる。
第2条第5項 公衆の定義
条文原文
「この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。」
趣旨・立法背景
著作権法上の多くの権利(上演権、演奏権、公衆送信権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権等)は「公衆」に対する利用行為を規制する。「公衆」という言葉を一般用語の語感どおり「不特定の者」に限定すると、会員制サービスや特定の団体内での大規模な利用行為が規制の網から外れてしまう。そこで本項は「不特定の者」のほか「特定かつ多数の者」を含めることを明文化し、特定の会員であっても人数が多数に及ぶ場合には公衆に対する利用として規律する趣旨である。
用語解説
公衆に該当するかどうかは「不特定/特定」という人的結合関係の軸と、「多数/少数」という人数の軸の組み合わせで判断される。不特定であれば少数でも公衆に該当し、特定であっても多数であれば公衆に該当する。特定かつ少数の場合のみ公衆から除外される。条文上、具体的な人数のしきい値は定められていないが、文化庁の著作権テキストでは目安として50人程度という数字が紹介されることがある。ただし、これは固定的な基準ではなく、事前の人的結合関係の強弱、著作物の種類・性質、利用態様等を総合的に考慮して社会通念に従って判断するという裁判実務の枠組みが定着している。
裁判例・実務上の留意点
集合住宅の住人のみに向けた録画配信サービスについて、知財高裁平成19年6月14日判決(平成17年(ネ)第3258号)は、マンションの住人という限定された範囲であっても「特定かつ多数の者」として公衆に該当すると判断した。また、宗教団体の信者という特定の集団内における著作物の配布についても、事前の人的結合関係の強弱や利用態様を踏まえて公衆性が判断されている。
企業のコンプライアンス担当者にとって特に注意すべき場面は、社内LANや社内ポータルでの記事・資料の共有である。東京地裁平成20年2月26日判決(平成19年(ワ)第15231号)は、行政機関の内部LANシステムの電子掲示板に著作物である記事を掲載した行為について、複製権制限規定(第42条第1項、行政の内部資料としての複製)の適用範囲外であるとして公衆送信権侵害を認めた。社内であっても部署をまたいで多数の職員がアクセスできる環境への著作物の掲載は、特定かつ多数の者への送信として公衆送信権侵害を構成し得る。自治体や企業がニュース記事の社内回覧、研修資料への第三者著作物の転載を行う場合は、アクセス可能な人数や範囲を踏まえた慎重な検討が必要である。
第2条第6項 法人の拡張
条文原文
「この法律にいう「法人」には、法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含むものとする。」
趣旨・立法背景
著作権法には職務著作(第15条)など法人を著作者とする規定があるが、町内会、同窓会、研究会、業界団体のように法人格を取得していない団体であっても、代表者や管理人が定められ組織的に活動している場合には、実質的に法人と同様の活動実態を有する。本項は、こうした権利能力なき社団・財団についても、職務著作その他の法人に関する規定を適用できるようにする趣旨である。
用語解説
権利能力なき社団・財団とは、法人登記をしていない団体のうち、代表者や管理人が定められ、規約等に基づいて団体としての意思決定や財産管理が行われているものを指す。任意のスポーツ団体や町内会のような組織は、構成員が交代しても団体としての同一性が維持される限り、本項の対象となり得る。スポーツガバナンスの観点からは、地域のスポーツ少年団や任意団体の競技連盟が作成した指導要領やルールブックなどの著作物について、職務著作の成立を検討する際に本項の射程が問題となる。
第2条第7項 上演・演奏・口述の拡張
条文原文
「この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」
趣旨・立法背景
上演権・演奏権・口述権(第22条、第24条)は、本来、生の演奏や朗読といったライブの行為を念頭に置いた権利である。しかし、録音・録画された演奏や朗読を再生する行為や、構内放送のように電気通信設備を用いて伝達する行為についても、著作物が公に提供される実態は生演奏と変わらない。本項は、こうした録音・録画の再生や構内伝達についても上演・演奏・口述に含めることで、権利の実効性を確保する趣旨である。
用語解説
括弧書きで「公衆送信又は上映に該当するものを除く」「公衆送信に該当するものを除く」とされている点が重要である。インターネット配信のように不特定の者への送信に該当する行為は公衆送信権(第23条)の問題として処理され、映像の上映は上映権(第22条の2)の問題として処理される。本項が適用されるのは、店舗内でCDやBGMを再生する行為、学校の校内放送で朗読を流す行為など、公衆送信や上映のいずれにも該当しない限定的な場面である。企業実務では、店舗や事業所でのBGM再生について、JASRAC等の著作権管理団体との利用許諾契約の対象範囲を検討する際の根拠規定となる。
第2条第8項 貸与の拡張
条文原文
「この法律にいう「貸与」には、いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。」
趣旨・立法背景
貸与権(第26条の3)は、複製物の貸与によって著作物が広く利用される実態に対応する権利である。しかし、形式的に「販売」「会員制サービスの利用」などの名目を用いることで、実質的な貸与行為が貸与権の規制を免れるおそれがある。本項は、名義や方法を問わず、貸与と同様の使用権限を取得させる行為を広く貸与に含めることで、形式による規制回避を防止する趣旨である。
用語解説
レンタルCD・レンタルDVD店のように明示的に「貸与」と称するサービスのほか、買取り保証付きの販売契約や、一定期間後に返却することを前提とした会員制の図書頒布サービスなど、実質的に一時的な利用権限を付与するに留まる取引形態は、本項によって貸与権の対象に取り込まれる。サブスクリプション型の電子書籍・電子コンテンツの提供方法を検討する企業は、利用規約上の名称にかかわらず、利用者に付与される権限の実質をもとに貸与権の適用可能性を検討する必要がある。
第2条第9項 動詞語幹としての用法
条文原文
「この法律において、第一項第七号の二、第八号、第九号の二、第九号の四、第九号の五、第九号の七若しくは第十三号から第十九号まで又は前二項に掲げる用語については、それぞれこれらを動詞の語幹として用いる場合を含むものとする。」
趣旨・立法背景
著作権法は条文の中で「公衆送信」「上映」「貸与」「翻案」のような名詞形の用語を多用するが、実際の条文や裁判例では「公衆送信する」「上映する」「貸与する」のように動詞として用いる場面が頻出する。本項は、こうした名詞形の用語を動詞の語幹として用いる場合についても、各号で定義された名詞の意味がそのまま及ぶことを明確にする技術的な規定である。
用語解説
対象となるのは、第1項第7号の2(公衆送信)、第8号(上映)、第9号の2(送信可能化)、第9号の4(特定侵害複製)、第9号の5(リーチサイト関連)、第9号の7、第13号から第19号まで(複製、上演、演奏、上映、公衆送信、伝達、口述、展示、頒布、譲渡、貸与等)、及び前二項(第7項の上演等の拡張、第8項の貸与の拡張)に掲げられた用語である。これらを動詞として使用する場合、例えば「著作物を貸与する」という表現における「貸与する」は、本項により第8項で定義された拡張後の貸与の意味を含むことになる。
実務上のポイントとしては、条文の中で名詞形と動詞形が混在して使用されていても、定義の射程に齟齬が生じないという点である。第9号の4・第9号の5は令和2年改正(リーチサイト規制、侵害コンテンツのダウンロード違法化関連)で追加された比較的新しい号であり、本項もこれに対応して条文番号が更新されている。条文の沿革を追う際には、本項に列挙された号番号の変遷自体が、著作権法の制限規定・侵害規定がどのように拡張されてきたかを示す指標となる。
まとめにかえて 企業・自治体が押さえるべき視点
第2条第2項から第9項までは、いずれも第1項の基本概念を実務の必要に応じて拡張する技術的な規定であるが、その射程の理解を誤ると、自社の知的財産戦略やコンプライアンス体制に直接の影響が及ぶ。プロダクトデザインを展開する企業は、令和8年最高裁トリップ・トラップ判決によって、著作権法のみに依拠したデザイン保護のリスクが明確になったことを踏まえ、意匠法による保護を基本に据える必要がある。社内資料の共有や研修教材の作成に携わる担当者は、「公衆」概念が会員制・社内限定の利用にも及ぶことを念頭に、第三者著作物の転載範囲を慎重に設計すべきである。
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