1 条文(令和8年12月1日施行)

(労働者に対する不利益取扱いの禁止等)

第三条 前条第一項第一号に定める事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報

 二 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報

  イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所

  ロ 当該通報対象事実の内容

  ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由

  ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

 三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報

  イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合

  ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

  ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合

  ニ 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合

  ホ 書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合

  ヘ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第六条第一項第二号ロ及び第三号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

2 前項の規定に違反して前条第一項第一号に定める事業者が行った解雇その他不利益な取扱い(解雇以外の不利益な取扱いにあっては、懲戒(労働基準法第八十九条(第九号に係る部分に限る。)の規定に基づき事業者が就業規則に定めた制裁又は事業者と労働者との間の労働契約に定めた制裁をいう。)としてされたものに限る。次項及び第二十一条第一項において「解雇等特定不利益取扱い」という。)は、無効とする。

3 公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが第一項各号に定める公益通報をした日(前条第一項第一号に定める事業者が第一項第二号又は第三号に定める公益通報がされたことを知って当該解雇等特定不利益取扱いをした場合にあっては、当該事業者が当該公益通報を知った日)から一年以内にされたときは、前項の規定の適用については、当該解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報をしたことを理由としてされたものと推定する。

(令二法五一・令七法六二・一部改正)


2 新旧対照 ― 令和7年改正で第3条はどこが変わったか

令和7年法律第62号による第3条の改正は、条文の見出し・柱書き・項構成のすべてに及ぶ。改正点は次の6点に整理できる。

項目改正前(令和4年6月1日施行版)改正後(令和8年12月1日施行版)
章名(第2章)公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いの禁止等
見出し解雇の無効労働者に対する不利益取扱いの禁止等
第1項「……事業者が行った解雇は、無効とする。」(効果規定)「……解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」(行為規範)
主体の限定「当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。」の括弧書きあり括弧書きを削除し、「その使用し、又は使用していた公益通報者」と表現を統一
旧第5条第1項「第三条に規定するもののほか、……降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いをしてはならない。」第3条第1項に統合(旧第5条は特定受託事業者に関する規定へ全面改正)
第2項・第3項規定なし第2項(解雇等特定不利益取扱いの無効)、第3項(立証責任の転換)を新設

第1項第3号ヘの「第六条第二号ロ及び第三号ロ」という引用は「第六条第一項第二号ロ及び第三号ロ」に改められた。第6条が役員に関する規定として項の構造を持つに至ったことに伴う整理であり、内容の変更ではない。

第1項第1号から第3号までの保護要件(イからヘまでを含む)は、この引用整理を除いて改正前後で同一である。すなわち、どのような通報が保護されるかという「入口」の要件は動いておらず、動いたのは保護の「中身」と「効き方」である。

2-1 効果規定から行為規範への転換が持つ意味

改正前の第3条は、「解雇は、無効とする」と定めるにとどまり、事業者に対して何をしてはならないかを直接には命じていなかった。禁止規範は旧第5条に置かれ、第3条は解雇の私法上の効力だけを扱っていた。この二元構造が、令和7年改正で一本化された。

一本化の実質的な理由は、第21条第1項の直罰規定にある。同項は「第三条第一項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたとき」を構成要件とする。刑罰の構成要件が参照する以上、第3条第1項は「〜してはならない」という明確な作為義務・不作為義務の形をとる必要があった。罪刑法定主義の要請が条文の形を規定したと読むのが素直である。

この転換により、第3条第1項は三つの機能を同時に担うことになった。第一に、事業者に対する行為規範(禁止規範)としての機能。第二に、第2項を通じた私法上の無効原因としての機能。第三に、第21条第1項および第23条第1項第1号を通じた刑罰法規の構成要件としての機能である。


3 趣旨と立法背景

3-1 平成16年制定時の設計思想

平成16年制定時の第3条は、英国1998年公益開示法(Public Interest Disclosure Act 1998)を参照しつつ、通報先を三段階に分け、外部に向かうほど保護要件を厳しくする「段階的保護」の枠組みを採用した。内部(役務提供先等)への通報は「思料」で足り、行政機関への通報は真実相当性を要し、報道機関等への通報は真実相当性に加えて特別の事情を要する。この骨格は令和8年12月1日施行版でも維持されている。

もっとも、制定時の効果は「解雇の無効」に限られていた。配転・降格・減給・人事考課上の不利益といった、実務で圧倒的多数を占める報復類型は条文の射程外に置かれ、通報者は民法709条の不法行為や人事権濫用法理といった一般法理に頼らざるを得なかった。

3-2 令和2年改正までの積み残し

令和2年法律第51号は、通報者の範囲に退職者(通報の日前1年以内)と役員を加え、従事者の守秘義務と体制整備義務を導入した。制度の「入口」と「体制」は前進したが、不利益取扱いを受けた通報者の「出口」、すなわち救済の実効性は積み残された。同改正の附則第5条が「不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方及び裁判手続における請求の取扱いその他新法の規定について検討を加え」ることを政府に求めていたのは、この積み残しの自覚を示すものである。

3-3 立証責任という壁

通報者が民事訴訟で敗れる典型的な理由は、通報の存在でも不利益の存在でもなく、その間の因果関係の立証である。事業者は人事評価資料・勤怠記録・懲戒記録を保有し、通報者は保有しない。「通報したから解雇された」という事実は、事業者内部の意思決定過程に属し、外部からの立証は構造的に困難である。

トナミ運輸事件やオリンパス事件で通報者が最終的に救済されたのは、いずれも極めて長期の訴訟と、外形的事実の異常さ(20年以上の昇格停止、通報直後の連続的配転)に支えられた結果であり、通常の事案で再現できる救済経路ではない。

令和7年改正の第3条第3項は、この構造的な非対称に立法的に介入したものである。事業者に近接する期間内に生じた解雇・懲戒については、通報を理由とするものと一応推定し、そうでないことの立証を事業者に負わせる。証拠との距離に応じて立証責任を配分するという、民事訴訟法上オーソドックスな発想の適用といえる。

3-4 地方公共団体をめぐる立法事実

改正の議論と並行して、地方公共団体における通報対応の失敗が社会的な争点となった。兵庫県の告発文書問題では、県議会調査特別委員会(百条委員会)が令和7年3月4日の調査報告書で県の一連の対応を公益通報者保護法に違反している可能性が高いと総括し、同月19日に公表された第三者調査委員会の報告書は、告発内容を調査しないまま作成者を特定した対応を同法に照らして違法と認定し、作成・配布を理由とする懲戒処分については裁量権を逸脱した無効なものと結論づけた。

この事案は、第3条との関係で二つの論点を含んでいる。第一に、通報者探索と範囲外共有が、その後の不利益取扱いを可能にする前提行為として機能したこと。第二に、通報を理由とする懲戒処分が、通報から短期間のうちに行われたこと。前者は令和7年改正で第11条の2・第11条の3として明文の禁止規定となり、後者は第3条第3項の推定規定が正面から捕捉する類型である。

なお、一般職の地方公務員には第3条第2項および第3項は適用されない(第9条)。地方公務員の身分保障は地方公務員法の分限・懲戒制度が担うためである。ただし第3条第1項の禁止規範と第21条第1項の直罰は、読替えを伴って適用される。この点は後述する。


4 第1項の構造 ― 誰が、誰に対して、何をしてはならないか

4-1 名宛人

第1項の名宛人は「前条第一項第一号に定める事業者」、すなわち労働者を自ら使用し、または通報の日前1年以内に自ら使用していた事業者である。派遣先は第2条第1項第2号に該当するため第4条が、業務委託元は第3号に該当するため第5条が、それぞれ受け持つ。

保護される側は「その使用し、又は使用していた公益通報者」であり、在職中の労働者と退職後1年以内の元労働者の双方を含む。退職金の減額・不支給、再雇用の拒否、退職後の競業避止義務を口実とした損害賠償請求などが、退職者に対する典型的な不利益類型となる。

4-2 三つの通報先と保護要件

通報先保護要件
第1号(1号通報)役務提供先等(勤務先、勤務先があらかじめ定めた者=外部窓口を含む)通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料すること
第2号(2号通報)処分または勧告等をする権限を有する行政機関等真実相当性があること、または思料しかつイからニまでの記載事項を備えた書面を提出すること
第3号(3号通報)被害の発生・拡大の防止に必要と認められる者(報道機関、消費者団体、労働組合、被害者等)真実相当性があり、かつイからヘまでのいずれかに該当すること

第1号の「役務提供先等」には、事業者があらかじめ定めた外部窓口(法律事務所、通報受付の受託事業者等)が含まれる。社外窓口への通報も1号通報であり、「思料」で保護される。

第2号後段の書面提出ルートは、令和2年改正で追加された経路である。真実相当性を裏付ける証拠を持たない通報者であっても、氏名・住所、通報対象事実の内容、そう思料する理由、措置がとられるべきと思料する理由の4点を記載した書面を提出すれば保護される。電磁的記録も書面に含まれる。

第3号ホの20日ルールは、内部通報を書面で行った後、20日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合、または正当な理由なく調査が行われない場合に外部通報を解禁するものである。内部通報を受け付けた事業者が受理通知と調査着手の通知を怠ると、通報者に3号通報の道を開くことになる。窓口運用における通知の期限管理が、報道リスクの管理と直結する。

4-3 「解雇その他不利益な取扱い」の外延

第1項が禁止する行為は「解雇その他不利益な取扱い」であり、その範囲は第2項の「解雇等特定不利益取扱い」より広い。指針(内閣府告示第118号・令和8年3月31日一部改正)は、用語の定義において「不利益な取扱い」を法第3条第1項、第4条第1項、第5条および第6条第1項により禁止される行為の総称とし、令和7年改正に伴って次の4分類の例示を明記した。

  • 地位の得喪に関すること 解雇、退職の強要、正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと、あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に当該回数を引き下げること、本採用・再採用の拒否、懲戒解雇、休職、労働者派遣契約の解除、業務委託に係る契約の解除等
  • 人事上の取扱いに関すること 降格、不利益な配置の変更・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと、不利益な自宅待機を命ずること、けん責等の懲戒処分、派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと、公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めること等
  • 経済待遇上の取扱いに関すること 減給、賞与・一時金・退職金等において不利益な算定を行うこと、業務委託に係る取引の数量の削減、業務委託に係る取引の停止、業務委託に係る報酬の減額、役員報酬の減額等
  • 精神上・生活上の取扱いに関すること 事実上の嫌がらせ等

指針の解説(令和8年3月31日最終改正・令和8年12月1日施行)は、第3のⅡの2(1)において、指針本文・趣旨・遵守するための考え方や具体例・その他に推奨される考え方や具体例の四層構成でこの措置を説明する。第三層では、精神上・生活上の取扱いの例として、公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させることが挙げられている。トナミ運輸事件の事実関係がそのまま類型化されたものと読める。

同じく第三層は、不利益な取扱いを防ぐための措置として、労働者等および役員に対する周知・啓発、内部公益通報受付窓口における不利益取扱いに関する相談の受付、被通報者が公益通報者の存在を知り得る場合における被通報者への注意喚起を挙げる。さらに、不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置として、公益通報者に対して能動的に確認すること、不利益な取扱いを受けた際の連絡先をあらかじめ伝えておくことを示している。第四層では、関係会社・取引先からの通報を受け付けている場合に当該関係会社・取引先へフォローアップや保護を要請することが望ましいとされる。

第二層(指針の趣旨)は、不利益取扱いの禁止だけでは足りず、あらかじめ防止する措置と、発生時の救済・回復の措置、行為者への厳正な対処の三点が揃って初めて、通報しても不利益を受けないという認識を組織構成員に持たせられると述べる。第3条第1項の禁止規範と、第11条第2項の体制整備義務とが、指針を介して接続する構造である。


5 第2項 ― 無効となるのは「解雇等特定不利益取扱い」に限られる

5-1 定義の射程

第2項は、第1項違反の行為のうち、次の二つを「解雇等特定不利益取扱い」と名付け、これを無効とする。

  • 解雇
  • 解雇以外の不利益な取扱いのうち、懲戒としてされたもの

ここでいう懲戒は、労働基準法第89条第9号(制裁の定めをする場合における種類および程度に関する事項)に基づき就業規則に定められた制裁、または労働契約に定められた制裁をいう。公益通報ハンドブックは、懲戒として行われるものであれば戒告やけん責等、懲戒処分の種類を問わず含まれるとする。譴責・戒告・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇のいずれもが対象になる。

5-2 射程外に置かれた不利益類型

裏を返せば、次の類型は第2項による無効の対象にならない。

  • 業務命令としての配置転換・出向・転籍
  • 人事考課における低評価とそれに伴う昇給・昇格の停止
  • 業務を与えない、雑務のみに従事させるといった事実上の取扱い
  • 賞与査定における不利益な算定(懲戒としてされたものを除く)

これらは第1項の禁止規範には違反するが、私法上の効力は第2項ではなく、労働契約法第3条第5項(権利濫用)、配転命令権の濫用に関する判例法理、民法第709条の不法行為によって処理される。第8条第2項が「第三条の規定は、労働契約法第十四条から第十六条までの規定の適用を妨げるものではない」と定めているのも、この重層構造を前提としている。

実務上の含意は明快である。オリンパス事件型の配転による報復は、令和8年12月1日以降も、第2項の無効と第21条第1項の直罰のいずれの対象にもならない。第3条第1項違反ではあるが、救済経路は従前どおり人事権濫用法理と不法行為である。一方、同じ事案で「業務命令違反」を理由に譴責処分を付加すれば、その瞬間に懲戒=解雇等特定不利益取扱いとなり、無効・直罰・法人重科の三点セットが起動する。処分の形式選択が法的効果を分岐させる点に、設計上の注意を要する。

5-3 懲戒の「理由」と外形

第2項の適用には「第一項の規定に違反して」行われたこと、すなわち公益通報をしたことを理由とすることが必要である。通報者に真に非違行為があり、それを理由として懲戒がされた場合には第2項は働かない。問題は、その切り分けを誰が立証するかであり、それを扱うのが第3項である。


6 第3項 ― 立証責任の転換

6-1 規定の性質

第3項は、解雇等特定不利益取扱いが一定期間内にされたときは、それが公益通報を理由としてされたものと推定する。民事訴訟法上の法律上の事実推定であり、推定を覆すためには、事業者側が「公益通報を理由としたものではない」ことを本証によって立証しなければならない。通報者側が因果関係を立証する必要はなくなる。

推定が働く効果の範囲は「前項の規定の適用については」に限定されている。第2項の無効判断の場面で推定が働くという構造であり、第21条第1項の刑事責任の認定に直接及ぶものではない。刑事手続では、検察官が構成要件該当事実を合理的な疑いを容れない程度に立証する原則が維持される。

6-2 起算日の二本立て

推定の起算日は、通報の類型に応じて二通りに分かれる。

場合起算日
原則(第1項各号に定める公益通報)公益通報をした日
事業者が第1項第2号または第3号に定める公益通報がされたことを知って解雇等特定不利益取扱いをした場合当該事業者が当該公益通報を知った日

1号通報(内部通報)の場合、事業者は通報を受け付けた時点で通報の事実を知っているから、通報日が起算日となる。これに対し2号通報(行政機関)・3号通報(報道機関等)は、事業者が通報の存在を知らないまま時が経過することがある。行政機関の調査や報道により事業者が通報を知った時点から1年間、推定が及ぶ。通報から1年以上が経過していても、事業者が知ったのが直近であれば推定が働く。

この二本立ては、外部通報者にとっての保護の実質を左右する。行政機関への通報から2年後に立入検査で通報の存在が判明し、その3か月後に懲戒解雇がされた場合、推定は働く。

6-3 推定を覆すために事業者が備えるべきもの

推定の反証は、実務上は「通報とは無関係の懲戒事由が独立して存在し、通報の有無にかかわらず同じ処分をした」という主張立証になる。そこで要求されるのは、次のような資料である。

  • 懲戒事由に該当する事実の客観的記録(日時・場所・行為内容・被害の特定)
  • 調査手続の記録(本人の弁明機会の付与、供述録取、証拠の収集経緯)
  • 過去の同種事案における処分例との比較(処分量定の均衡)
  • 懲戒手続に通報の事実を知る者が関与していないこと(利益相反の排除)
  • 処分の検討開始時期が通報より前であることを示す記録

このうち最後の点は見落とされやすい。通報の前から進行していた懲戒手続が、たまたま通報後に処分に至った場合、その時系列を示す記録がなければ推定を覆すのは難しい。人事部門は、懲戒案件の起案日・決裁日・関係者会議の議事録を、通報受付台帳とは独立に保全しておく必要がある。

6-4 一般職の国家公務員等への不適用

第9条は、一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法の適用を受ける裁判所職員、国会職員法の適用を受ける国会職員、自衛隊法第2条第5項に規定する隊員および一般職の地方公務員について、第3条第2項および第3項を適用しないと定める。これらの者の身分保障は国家公務員法・地方公務員法等の分限・懲戒制度が担い、処分の効力は行政不服審査および取消訴訟の枠組みで争われるため、私法上の無効規定と推定規定を重ねる必要がないという整理である。

他方、第9条は第3条第1項および第21条第1項については読替え適用を定める。第3条第1項の「解雇」は「懲戒免職、分限免職」と読み替えられ、第21条第1項の「解雇等特定不利益取扱い」は「分限免職又は懲戒処分」と読み替えられる。すなわち、公益通報を理由として一般職の地方公務員を分限免職または懲戒処分に付した者は、直罰の対象となる。処分の効力そのものは地方公務員法の枠組みで判断されるが、処分を行った者の刑事責任は本法が直接に問う。

改正前の第9条が「第三条から第五条までの規定にかかわらず、国家公務員法……の定めるところによる」として本法の民事効を全面的に排除していたことと比較すると、令和7年改正は公務員部門に対して刑事責任という新たな規律を導入したことになる。地方公共団体のコンプライアンス担当にとって、この読替えは第3条を読む上での中心的な着眼点である。

6-5 経過措置

令和7年法律第62号の附則は、第3条について次の経過措置を置く(附則第3条)。

  • 第1項:新法第3条第1項および第2項は、施行後にされた解雇その他不利益な取扱いについて適用し、施行前にされたものについては、なお従前の例による。
  • 第2項:新法第3条第3項は、解雇以外の不利益な取扱いについては、施行後に懲戒としてされたものについて適用する。
  • 第3項:施行前にされた解雇に係る新法第3条第3項の適用については、同項中「前項」とあるのは「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和七年法律第六十二号)による改正前の第三条」とする。

第3項の読替えは技巧的だが、意味は明確である。施行前にされた解雇についても、新法第3条第3項の推定規定は働き得る。ただしその推定は、新法第3条第2項ではなく旧法第3条(解雇の無効)の適用場面で働く。令和8年12月1日より前にされた解雇であっても、施行後に提起された訴訟では推定の利益を受けられる余地がある。

なお附則第2条は、罰則を除く新法の規定を施行前にされた旧法上の公益通報にも適用すると定める(経過措置の原則)。附則第7条は、施行前にした行為に対する罰則の適用については従前の例によるとする。刑罰不遡及の原則の確認である。


7 第21条第1項の直罰との連動

7-1 法定刑の構造

第21条第1項は、第3条第1項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたときは、当該違反行為をした者を6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると定める。

第23条第1項第1号は両罰規定を置き、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関し第21条第1項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人に3000万円以下の罰金刑を科す。個人に対する法定刑(30万円以下の罰金)と法人に対する法定刑(3000万円以下の罰金)が100倍の開きを持つ重科型の両罰規定である。

第23条第2項は、同条第1項のうち第1号に係る部分を国および地方公共団体には適用しないと定める。国・地方公共団体そのものに3000万円の罰金を科すことはしないという趣旨であるが、第21条第1項による行為者個人の処罰は排除されていない。第9条の読替えと併せ読めば、公益通報を理由に職員を懲戒処分に付した任命権者や決裁権者は、地方公共団体が法人重科を免れることとは無関係に、個人として刑事責任を問われ得る。

7-2 「当該違反行為をした者」は誰か

第21条第1項は行為者を処罰する。ここでいう行為者は、解雇や懲戒処分を決定し、または実行した自然人である。取締役会・懲戒委員会・人事部長・任命権者など、当該処分の意思決定に実質的に関与した者が対象となり得る。法人の意思決定に埋没させて責任を分散させる構造は取れない。

故意については、刑法の原則により、公益通報がされたことの認識と、それを理由として解雇・懲戒をすることの認識が必要となる。第3条第3項の推定は民事の規定であり、刑事の故意認定に転用されるものではない。ただし、民事訴訟で推定が覆せず不利益取扱いが認定された事実は、刑事手続における嫌疑の端緒となり得る。

7-3 実務への影響

直罰の導入は、内部通報対応の意思決定に個人責任を持ち込む。従来、通報者に対する処分の是非は「訴訟リスク」という組織のコストとして計算されていたが、今後は決裁者本人の刑事リスクとして計算される。通報者に対する解雇・懲戒の起案について、人事部門の判断だけで完結させず、法務・コンプライアンス部門の事前審査を経る仕組みを、施行日までに規程化しておく実益は大きい。


8 用語解説

思料 主観的にそう考えることをいう。客観的な裏付けを要しない。1号通報の保護要件がこれで足りるのは、事業者内部の自浄作用を働かせるためには、確証のない段階での申告こそが有用だからである。内部窓口が「証拠を出せ」と要求して受付を拒むことは、法の想定に反する。

信ずるに足りる相当の理由(真実相当性) 通報対象事実が生じているとの認識に客観的な根拠があることをいう。地方公共団体向けガイドラインは、真実相当性の要件について、通報内容を裏付ける内部資料や関係者による供述等の存在のみならず、通報者本人による供述内容の具体性・迫真性等によっても認められ得ることを十分に踏まえ、柔軟かつ適切に対応するよう求めている。行政機関が受付段階で高い立証水準を課すことへの牽制である。

役務提供先等 役務提供先(勤務先である事業者)と、役務提供先があらかじめ定めた者(外部窓口等)の総称。第2条第1項の括弧書きで定義される。

行政機関等 通報対象事実について処分または勧告等をする権限を有する行政機関と、当該行政機関があらかじめ定めた者の総称。「処分」は命令・取消しその他公権力の行使に当たる行為、「勧告等」は勧告その他処分に当たらない行為をいい、いずれも第2条第1項で定義される。

解雇等特定不利益取扱い 解雇と、懲戒としてされた解雇以外の不利益な取扱いの総称(第3条第2項)。第2項の無効、第3項の推定、第21条第1項の直罰は、いずれもこの概念を単位として動く。第1項が禁止する「不利益な取扱い」より狭い。

懲戒 労働基準法第89条第9号に基づき就業規則に定められた制裁、または労働契約に定められた制裁(第3条第2項括弧書き)。就業規則に懲戒事由と種別を定めていない中小事業者が、事実上の制裁を科した場合、第2項の対象から外れる可能性がある。この点は制度上の隙間として意識しておく必要がある。

推定 一定の事実(前提事実)が証明されたときに、別の事実(推定事実)が証明されたものとして扱う法技術。反対事実の立証によって覆すことができる点で、「みなす」(擬制)と区別される。第3条第3項では、通報から1年以内の解雇・懲戒という前提事実から、通報を理由とすることが推定される。

両罰規定 行為者を処罰するほか、その事業主である法人または人にも罰金刑を科す規定(第23条)。行為者処罰と事業主処罰が並列する。


9 判例・裁判例

9-1 トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日・労判891号12頁)

運送会社の従業員が、昭和49年頃に新聞社・公正取引委員会・運輸省等に対し、同業者間のヤミカルテルの存在を告発した事案である。告発者であることが判明した後、当該従業員は教育研修所に異動となり、他の職員と離れた個室に席を置かれ、研修生の送迎等の雑務のみを与えられる状態が20年以上続き、その間一度も昇格しなかった。

判決は、使用者が信義則上、雇用契約に付随する義務として合理的な裁量の範囲で人事権を行使すべき義務を負うとし、正当な内部告発を理由とする不利益な処遇は裁量を逸脱するとして債務不履行責任を認めた。慰謝料200万円と、差別がなければ得られたであろう賃金との差額の一部が認容された(一部は消滅時効により失当とされた)。

第3条との関係では、本件の不利益類型(配転・昇格差別・雑務従事)はいずれも懲戒ではないため、令和8年12月1日以降であっても第2項の無効および第21条第1項の直罰の対象にはならない。第3条第1項違反として位置づけられ、救済は不法行為・債務不履行によることになる。指針の解説が精神上・生活上の取扱いの例として「業務に従事させないこと」「専ら雑務に従事させること」を挙げるのは、この事案類型を体制整備の側から捕捉しようとするものである。

9-2 大阪いずみ市民生協事件(大阪地堺支判平成15年6月18日・労判855号22頁)

生協の役員による資産の私物化を、職員らが総代ら500人以上に告発文書を送付する形で告発した事案。生協は職員らを出勤停止・自宅待機とした上、配転や懲戒解雇を命じた。職員らは地位保全の仮処分を得て復職し、その後、生協役員に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した。

判決は、内部告発の内容の根幹的部分が真実であるかまたは真実と信じるにつき相当な理由があるか、目的が公益性を有するか、内容の当該組織にとっての重要性、手段・方法の相当性等を総合考慮して当該告発が正当と認められる場合には、名誉・信用の毀損を理由とする懲戒解雇は許されないと判示した。手段・方法に相当性を欠く面があったとしつつ告発自体の正当性を認め、処分を主導した役員の共同不法行為責任を認容した。

本判決が示した総合考慮の枠組みは、公益通報者保護法の保護要件を満たさない通報についても、判例法理によって保護される余地があることを示す。第8条第1項が「他の法令の規定の適用を妨げるものではない」と定める趣旨は、この判例法理の余地を確認するものと理解されている。

9-3 オリンパス事件(東京地判平成22年1月15日・判時2073号137頁/東京高判平成23年8月31日・判時2127号124頁/最一小決平成24年6月28日)

社員が、上司が取引先企業から営業秘密を知る技術者を引き抜こうとしていることを知り、平成19年6月に社内のコンプライアンス窓口に通報したところ、窓口担当者が通報者の氏名と通報内容を当該上司に伝え、以後3回にわたり専門外の部署への配転が命じられた事案である。

第一審は請求を棄却したが、控訴審は、通報に反感を抱いた担当部長が業務上の必要のない配転をしたと認定し、動機が不当であり、内部通報による不利益な取扱いを禁じた社内規定に反する人事権の濫用に当たると判断した。配転後の人事評価も不当に低く、昇格・昇給の機会を事実上失わせたとして、精神的苦痛と賞与減額分について損害を認めた。上告審は会社側の上告を退け、控訴審判決が確定した。控訴審は公益通報者保護法違反の成否には直接言及していない。

本件の核心は、窓口担当者による通報者情報の共有が、その後の不利益取扱いを可能にした点にある。令和8年12月1日施行版でいえば、範囲外共有(指針第3のⅡの2(2))の防止措置と、被通報者への注意喚起(同(1))の双方が機能していれば防げた事案である。従事者の守秘義務違反は第12条・第22条の対象となり得る。

9-4 神社本庁事件(東京地判令和3年3月18日/東京高判令和3年9月16日)

宗教法人の職員が、代表者らによる不動産売買に関する背信行為があるとして理事に文書を交付したこと等を理由に懲戒解雇された事案。

判決は、公益通報者保護法の適用およびその趣旨から、労働者が使用者の役員・従業員等による法令違反行為の通報を行った場合において、通報内容が真実であるかまたは真実と信じるに足りる相当な理由があり、通報目的が不正の目的でなく、通報の手段方法が相当であるときは、当該行為が法人の信用を毀損し組織の秩序を乱すものであったとしても懲戒事由に該当せず、または該当しても違法性が阻却されると判示した。背任行為があったとまでは認定できないとしつつ、そう信じるに足りる相当の理由があったとして、懲戒処分を無効とした。控訴審も同旨で、上告は棄却されている。

高裁判決が、疑惑が生じているにもかかわらず法人側から十分な説明が尽くされなかったことを、真実と信じるに足りる根拠のひとつとして挙げた点は、実務上の示唆に富む。疑義が呈された段階で組織が説明を尽くさなければ、その不作為が通報者側の真実相当性を基礎づける方向に働く。

9-5 公立大学法人岡山県立大学ほか事件(岡山地判平成29年3月29日)

入試結果の改ざんに関する情報提供が報道された後、内部告発者とされた職員に停職処分がされた事案で、情報提供を理由とする懲戒は無効と判断された。公立大学法人という、地方公共団体に準ずる組織における通報者処分の裁判例として参照価値がある。

9-6 配転法理の前提としての東亜ペイント事件(最二小判昭和61年7月14日)

配転命令の効力は、業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要性が存する場合であっても他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときに、権利濫用となるとされる。オリンパス事件控訴審は、この枠組みのうち「不当な動機・目的」の要素に通報への報復を位置づけた。

第3条第1項が配転を含む広い不利益取扱いを禁止しながら、第2項が無効の効果を懲戒に限定したことにより、配転型の報復については引き続きこの判例法理が救済の中心を担う。


10 企業における内部通報と不利益取扱いの事例

10-1 通報者情報が被通報者に伝わった事例

オリンパス事件は、内部通報制度を設置していながら、窓口担当者が通報者の氏名と通報内容を被通報者である上司に伝達したことで機能不全を起こした。制度の存在ではなく運用が問われた事案である。令和8年12月1日施行版の下では、従事者の指定(第11条第1項)、従事者の守秘義務(第12条)、範囲外共有の防止措置(指針第3のⅡの2(2))、通報者探索の禁止(第11条の3)が重層的に規律する。

10-2 通報が上位者で止まった事例

自動車の認証試験不正をめぐる各社の第三者委員会報告書では、現場から問題提起があったにもかかわらず上位の管理職層で情報が止まり、経営層に到達しなかった構造が共通して指摘されている。通報が握りつぶされる組織では、通報者は3号通報(報道機関等)に向かう。第3条第1項第3号ホの20日ルールは、この経路を法的に正当化する装置として機能する。

内部通報を受け付けながら20日以内に調査着手の通知を出さない運用は、通報者に対して外部通報の切符を渡すのと同義である。受付から通知までの標準処理期間を規程に明記し、期限管理をシステム化しておくことが、報道リスクの管理として実効的である。

10-3 保険金請求をめぐる不正と代理店・取引先からの通報

中古車販売事業者の保険金不正請求事案では、取引関係にある損害保険会社の側にも情報が到達していたことが問題とされた。令和7年改正で通報者の範囲に特定受託業務従事者(フリーランス)と業務委託終了後1年以内の者が加わり(第2条第1項第3号)、取引先側からの通報に対する不利益取扱いは第5条が禁止する。指針の解説第四層は、関係会社・取引先からの通報を受け付けている場合に、当該関係会社・取引先に対して公益通報者へのフォローアップや保護を要請することが望ましいとする。

10-4 施行日前後の実務対応

令和8年12月1日をまたぐ懲戒案件については、附則第3条の適用関係を確認する必要がある。施行前にされた懲戒には第3条第3項の推定は及ばないが(附則第3条第2項)、施行前にされた解雇については読替えを介して推定が及び得る(同条第3項)。施行日直前に処分を駆け込みで行うという発想は、解雇については機能しない。


11 地方公共団体における事例

11-1 兵庫県告発文書問題

令和6年3月、県の県民局長であった職員が知事のパワーハラスメント疑惑等7項目を挙げた文書を作成し、報道機関等に送付した。同年4月には県の公益通報窓口にも通報したが、県は公益通報者保護法の対象外と判断し、内部調査で誹謗中傷文書と認定して同年5月に停職3か月の懲戒処分とした。

県議会調査特別委員会(百条委員会)は令和7年3月4日の調査報告書で、一連の対応が同法に違反している可能性が高く、客観性・公平性を欠き行政機関の対応として大きな問題があったと総括した。同月19日に公表された第三者調査委員会の報告書は、告発内容を調査しないまま作成者を特定した対応を同法に照らして違法と認定し、告発文書には真実相当性が認められるとした上で、作成・配布を理由とする懲戒処分は懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものであり効力を有しないと結論づけた。県は令和8年1月、公益通報制度の県要綱を改正し、外部通報の通報者保護を明記した。

第3条の観点から本件を整理すると、次のようになる。第一に、処分の対象とされた行為が第3条第1項各号のいずれかの公益通報に当たるかという保護要件の判断を、県は誤ったと第三者委員会に評価された。第二に、通報から懲戒処分までの期間は約1か月であり、令和8年12月1日以降であれば第3条第3項の推定が働く典型的な時系列である。第三に、一般職の地方公務員であるため第3条第2項および第3項は適用されないが(第9条)、同条の読替えにより、公益通報を理由とする懲戒処分をした者は第21条第1項の直罰の対象となる。

地方公共団体のコンプライアンス担当にとって、本件は「通報該当性の判断を誤ると刑事責任に直結する」という新しい規律環境を象徴する事案である。通報該当性の一次判断を、被通報者や被通報者の指揮下にある部署が行わない体制の確保が、施行日までの必須課題となる。

11-2 通報該当性判断の手続保障

指針の解説は、公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置(第3のⅡの1(4))において、「事案に関係する者」を公益通報対応業務に関与させない措置を求める。事案に関係する者とは、公正な公益通報対応業務の実施を阻害する者をいい、法令違反行為の発覚や調査の結果により実質的に不利益を受ける者、公益通報者や被通報者と一定の親族関係がある者が典型例として挙げられる。首長や幹部職員が被通報者となる事案では、当該幹部の指揮命令下にある人事部門を通報対応から外す仕組みを、あらかじめ内部規程に書き込んでおく必要がある。

地方公共団体向けガイドラインは、通報対応の必要性を検討するに当たり、真実相当性の要件について、通報内容を裏付ける内部資料や関係者の供述の存在のみならず、通報者本人の供述内容の具体性・迫真性等によっても認められ得ることを踏まえ、柔軟かつ適切に対応することを求める。加えて、真実相当性の充足が直ちに明らかでない場合であっても、個人の生命・身体・財産その他の利益に重大な影響を及ぼす可能性が認められる場合には同様に対応するとしている。受付段階での門前払いを抑制する規範である。

11-3 通報者のフォローアップ

同ガイドラインは、通報対応の終了後においても、通報者からの相談等に適切に対応するとともに、通報者が通報したことを理由として事業者から不利益な取扱いを受けていないかを把握するよう求める。第3条第3項の推定が働く1年間は、自治体側にとってもモニタリング期間として意識すべき期間となる。


12 令和8年12月1日に向けた実務チェックリスト

  1. 就業規則・懲戒規程を点検し、懲戒事由と懲戒の種別が労働基準法第89条第9号に沿って明記されているかを確認する。懲戒の定めが不備な状態は、第3条第2項の適用関係を不明確にする。
  2. 内部通報規程に、通報者に対する解雇・懲戒その他の不利益取扱いの禁止を、第3条第1項の4分類(地位の得喪/人事上/経済待遇上/精神上・生活上)に沿って例示列挙する。
  3. 通報者に対する解雇・懲戒の起案について、法務・コンプライアンス部門による事前審査を必須とする決裁フローを整備する。審査記録を保全する。
  4. 通報受付台帳と人事情報システムのアクセス権限を分離し、人事評価・懲戒手続の担当者が通報者の氏名を知り得ない設計とする。
  5. 通報受付から調査着手の通知までの標準処理期間を20日より短く設定し、期限管理をシステム化する。第3条第1項第3号ホによる3号通報の解禁を回避する。
  6. 被通報者が通報者の存在を知り得る事案について、被通報者に対する不利益取扱い禁止の注意喚起を書面で行う運用を定める(指針の解説第3のⅡの2(1)③)。
  7. 通報者に対する能動的なフォローアップ(一定期間経過後の状況確認)を制度化し、実施記録を残す。推定が働く1年間を最低限のモニタリング期間とする。
  8. 懲戒案件の起案日・検討開始時期を示す記録を、通報受付記録とは独立に保全する。推定の反証資料となる。
  9. 過去の同種懲戒事案の処分量定を一覧化し、均衡の説明ができる状態にしておく。
  10. 派遣労働者(第4条)、特定受託業務従事者(第5条)、役員(第6条)についても、それぞれの禁止規定に対応した規程整備を並行して進める。
  11. 地方公共団体においては、首長・幹部職員が被通報者となる場合の通報対応体制(外部窓口への一元化、利益相反の排除)を要綱・内部規程に明記する。第9条の読替えにより、任命権者個人が直罰の対象となり得る点を管理職研修に組み込む。
  12. 令和8年12月1日をまたぐ懲戒・解雇案件について、附則第3条の適用関係(施行前の解雇には推定が及び得ること、施行前の懲戒には及ばないこと)を個別に確認する。

第3条は、通報者保護の実効性を「無効」「推定」「直罰」の三層で組み立て直した条文である。次回は第4条(派遣労働者に対する不利益取扱いの禁止等)を取り上げ、派遣先による労働者派遣契約の解除と交代要求が、第3条とどのように接続するかを検討する。

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