1 条文原文

(助言及び指導) 第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、助言又は指導をすることができる。

本条は第4章「雑則」の冒頭に置かれる。第3章「事業者がとるべき措置等」が事業者に対する行為規範を定めるのに対し、第4章は行政の権限と手続を定める。第15条から第16条までの三箇条が行政措置の体系を構成し、第17条が関係行政機関への照会等、第18条が情報の収集・整理・提供、第19条が権限の委任、第20条が適用除外を規定する。

引用条文の理解に必要な範囲で、第11条第1項から第3項までを掲げる。

第十一条 事業者は、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(第十二条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(第十二条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。 2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置をとらなければならない。 3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。


2 新旧対照

令和7年法律第62号による第15条の改正内容は、次表のとおりである。

項目改正前(令和2年改正後)改正後(令和8年12月1日施行)
見出し(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)(助言及び指導)
主体内閣総理大臣内閣総理大臣(変更なし)
対象規定第11条第1項及び第2項(同条第3項による読替え適用を含む)同左(変更なし)
発動要件施行に関し必要があると認めるとき同左(変更なし)
権限の内容報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすること助言又は指導をすること
関連する罰則旧第22条(報告懈怠・虚偽報告に過料20万円)第15条に対応する罰則なし

改正前の第15条は、次のとおりであった。

第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

前段の主体・対象規定・発動要件はそのまま維持され、末尾の権限列挙から「報告を求め」と「勧告」が削られた。削られた二つの権限は消滅したのではなく、第16条と第15条の2に移し替えられ、それぞれ適用対象を絞り込んだうえで強化された。

第15条以外の関連条文についても、次の改正が加えられている。

改正前改正後
第15条の2(規定なし)勧告、命令、命令の公表、努力義務事業者等への勧告、勧告不服従の公表を新設
第16条(公表)勧告不服従の場合の公表(報告及び検査)報告徴収及び立入検査
第20条第15条及び第16条を国及び地方公共団体に適用しない第15条から第16条までを国及び地方公共団体に適用しない
第24条(旧第22条)第15条の報告に係る過料20万円第16条第2項の報告に係る過料20万円

第20条の改正は、第15条の2の新設によって適用除外の対象条文が三箇条となったことに伴う条文引用の技術的な調整であり、適用除外の実質的範囲は動いていない。


3 立法の沿革と趣旨

3-1 原始法には行政措置の規定がなかった

平成16年に制定された原始法は、公益通報を理由とする解雇の無効と不利益取扱いの禁止という民事的効果を中心に構成され、事業者に体制整備を義務付ける規定を持たなかった。事業者の通報対応は、消費者庁が策定した民間事業者向けガイドラインによる自主的取組の促進に委ねられ、行政が事業者の体制に介入する法的な根拠は存在しなかった。

3-2 令和2年改正による行政措置の導入

令和2年法律第51号は、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者に対して従事者指定義務と体制整備義務を課した。公益通報者保護制度検討会報告書(令和6年12月27日)は、この改正の趣旨について、事業者の体制整備義務の適切な履行を促すため、内閣総理大臣の行政措置権限が規定されたと整理している。義務を課すだけでは履行が担保されないという判断が、旧第15条及び旧第16条の背景にある。

もっとも、令和2年改正で用意された手段は、報告徴収、助言、指導、勧告、勧告不服従の公表にとどまり、いずれも命令や刑事罰に接続しない。公益通報ハンドブックは令和2年改正について、内部公益通報対応体制整備義務違反等の事業者に対しては、行政措置として助言・指導、勧告及び勧告に従わない場合のその旨の公表をとることができることとされた旨を説明する。制裁の終端が公表であるという設計は、事業者の自主的な改善を前提とした穏当な仕組みであった。

3-3 令和7年改正における権限の分割

検討会報告書は、従事者指定義務の履行が徹底されず、義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在することを立法事実として挙げ、令和5年度の消費者庁の実態調査に基づき、非上場の義務対象事業者の10.7パーセントが従事者指定の義務を知りながら担当者を指名していないと回答し、その約半数が理由として上司などに情報が共有されており特段不都合もないためを選択したことを指摘した。同報告書は、対応の方向として、現行法の報告徴収、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表に加え、立入検査権や勧告に従わない場合の命令権を規定し、是正命令を行っても違反が是正されない場合には刑事罰を科すべきであるとした。

新設される命令権と立入検査権は、事業者に対する侵害の度合いが従前の権限と質的に異なる。命令違反には刑事罰が接続し、立入検査は事業場への立入りを伴う。これらを、努力義務にとどまる300人以下の事業者にまで及ぼすことは、義務と担保手段の均衡を失する。そこで改正法は、権限ごとに適用対象を書き分ける必要に迫られた。旧第15条は四つの権限を一つの括弧書きで一括して受けていたため、権限ごとの書き分けができない。条文を三つに割ったのは、この書き分けを可能にするための立法技術上の要請でもある。

分割の結果、第15条は改正前と同じ適用範囲を保ちながら、権限の内容だけが助言と指導に絞られた。他の二箇条が対象を限定して強度を上げたのに対し、第15条は対象を限定せずに強度を抑えた条文として残った。これが本条の改正後における位置づけである。

3-4 指針の解説における位置づけ

公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(令和8年3月31日最終改正)は、その冒頭で法律と指針と行政措置の関係を次のように述べる。

内閣総理大臣は、これらの事項に関する指針を定め(同条第4項)、必要があると認める場合等には事業者に対して助言・指導・勧告・命令等をすることができる(法第 15 条、第 15 条の2及び第 16 条)。

改正前の解説が「必要があると認める場合には事業者に対して勧告等をすることができる(法第15条)」と記していたのに対し、改正後は根拠条文を三箇条列挙し、権限として命令を加えた。指針の解説の記述自体が、権限体系の分割を反映して改められている。

なお、同解説の脚注は、指針において定める事項が法第11条第1項及び第2項に定める事業者の義務の内容を、その事業規模等にかかわらず具体化したものである旨を明記する。指針の名宛人が規模を問わない点と、第15条の適用対象が規模を問わない点は対応している。


4 用語解説

用語意味と法文上の位置
内閣総理大臣本法における行政権限の帰属主体。第19条により、政令で定めるものを除く権限が消費者庁長官に委任される。実務上、助言・指導は消費者庁の名において行われる
助言相手方に情報又は知見を提供して判断を助ける非侵害的な働きかけ。法文上の定義規定はない
指導相手方に一定の作為又は不作為を求める働きかけ。助言と同じく法文上の定義はなく、両者は行政手続法第2条第6号の行政指導に含まれる
行政指導行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって、処分に該当しないもの(行政手続法第2条第6号)
読み替えて適用する場合を含む第11条第3項により義務が努力義務に読み替えられる場合、すなわち常時使用する労働者の数が300人以下の事業者に対する適用の場合を含むという趣旨
施行に関し必要があると認めるとき第11条第1項及び第2項の規定の施行を確保するために必要と判断される場合。違反の存在を要件としない
事業者第2条第1項に定める法人その他の団体及び事業を行う個人。指針第2は、法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれるとする。ただし第20条により国及び地方公共団体には第15条が適用されない

5 条文の構造分析

5-1 主体――内閣総理大臣と消費者庁長官

条文上の主体は内閣総理大臣である。第19条は次のとおり定める。

第十九条 内閣総理大臣は、この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。

委任は「することができる」ではなく「委任する」と規定されており、行政庁の裁量に委ねられた任意的委任ではない。検討会報告書も、令和2年改正で規定された行政措置権限について、消費者庁長官に権限が委任されている旨を注記する。したがって、事業者が実際に接するのは消費者庁である。第15条の解釈にあたって内閣総理大臣と消費者庁長官を区別する実益は乏しいが、権限の根拠が委任にある以上、委任の範囲を画する政令の内容が変更されれば主体も変わり得る。

5-2 客体――規模を問わないすべての事業者

第15条の括弧書きは「これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む」とする。第11条第3項は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者について、従事者指定義務と体制整備義務を努力義務に読み替える規定である。読替え適用の場合を含むということは、努力義務にとどまる小規模事業者に対しても助言・指導ができるという意味になる。

これに対し、第15条の2第1項と第16条第1項は、いずれも「同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を除く」と規定し、義務対象事業者に限定する。

第十五条の二 内閣総理大臣は、第十一条第一項(同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を除く。)の規定に違反していると認めるときは、事業者に対して、その違反を是正するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項(同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を除く。)の規定の施行に必要な限度において、事業者に対し、報告をさせ、又はその職員に、事業者の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

括弧書きの「含む」と「除く」の対比が、規模による適用の切り分けを担っている。条文を読む際にこの括弧書きを飛ばすと、権限体系を取り違えることになる。

小規模事業者にとっての実務上の含意は明快である。従事者指定も体制整備も努力義務にとどまるが、努力義務であることは行政の関与が及ばないことを意味しない。消費者庁は、体制の不備を認識した場合、規模にかかわらず助言又は指導をすることができる。努力義務だから何もしなくてよいという理解は、第15条の括弧書きによって否定されている。

5-3 対象となる義務――第11条第1項及び第2項の双方

第15条は第11条第1項と第2項の双方を対象とする。第1項の従事者指定義務については、書面による指定その他従事者となる者自身に地位が明らかとなる方法によることが指針第3の2で求められており、口頭のみの指定や指定台帳の未整備は助言・指導の典型的な対象となる。第2項の体制整備義務については、指針第4が定める内部公益通報受付窓口の設置、組織の長その他幹部からの独立性の確保、利益相反の排除、不利益な取扱いの防止、範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止、是正措置等の通知、記録の保管と運用実績の開示、労働者等に対する周知、質問・相談への対応、従事者に対する教育、内部規程の策定及び運用という各項目が、それぞれ助言・指導の切り口となる。

令和7年改正により第11条第2項に「労働者等に対するその周知」が明文で加わったため、周知の不十分さも第15条の対象に含まれることが条文上明確になった。検討会報告書は、従業員数300人超の事業者に勤める就労者のうち内部通報制度を理解している割合や内部通報窓口を認知している割合が全体の半数に届いていないことを指摘しており、周知は指導が向けられやすい領域である。

5-4 発動要件――違反を要しない

第15条の要件は「規定の施行に関し必要があると認めるとき」である。第15条の2第1項が「規定に違反していると認めるとき」と定めるのと対比すると、要件の性格の差が浮かび上がる。第15条は違反の認定を前提としない。体制に不備があると評価される段階に至っていなくても、施行の確保のために必要と判断されれば助言・指導ができる。

この構造には二つの帰結がある。第一に、助言・指導は予防的・先行的に用いることができる。実態調査への回答内容や、報道された不祥事、行政機関からの情報提供を端緒として、違反の有無を確定させないまま働きかけることが可能である。第二に、助言・指導を受けたこと自体は、義務違反の認定を意味しない。事業者が助言・指導を受けた事実をもって直ちに法令違反の事実があったと評価するのは、条文の読み方として誤りである。

「必要があると認めるとき」という文言は行政庁に広い判断余地を与えるが、無制約ではない。行政手続法第32条第1項は、行政指導に携わる者が当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならない旨を定める。第15条に基づく助言・指導は、第11条第1項及び第2項の施行という目的の枠内でのみ許される。通報された法令違反そのものの是正や、労使紛争の調整、個別の公益通報者の救済を目的とする働きかけは、第15条の授権範囲を超える。

5-5 効果――助言又は指導

助言と指導の区別について法文上の定義はない。一般的な用語法によれば、助言は相手方の判断を助けるための情報提供であり、指導は一定の対応を求める働きかけである。両者はいずれも行政手続法第2条第6号の行政指導に該当し、法的な拘束力を持たない。

区別の実益は、行政手続法第36条の2との関係で生じる。同条は「法令に違反する行為の是正を求める行政指導」の相手方に、当該行政指導が法律に規定する要件に適合しないと思料するときの中止等の求めを認める。是正を求める内容を含まない純粋な助言はこの類型に当たらないと解される一方、体制の不備の是正を求める指導は該当し得る。事業者が争う手段を持つかどうかは、名称ではなく働きかけの実質によって決まる。

5-6 罰則が存在しないこと

改正前の第22条は、旧第15条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者に対する20万円以下の過料を定めていた。報告徴収が第16条に移されたことに伴い、改正後の第24条は次のとおり第16条第2項を引用する。

第二十四条 第十六条第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

第15条に対応する罰則は存在しない。助言・指導に従わなくても、それ自体を理由として過料も罰金も科されない。第15条の実効性は、事業者の自主的な対応と、第15条の2及び第16条への接続可能性という背景的な圧力に依存する。


6 行政指導としての法的性質

6-1 行政手続法の適用

第15条に基づく助言・指導は、消費者庁という国の行政機関が、第11条の施行という行政目的を実現するため、特定の事業者に一定の作為を求める行為であって処分に当たらないから、行政手続法第2条第6号の行政指導に該当する。同法第4章(第32条から第36条の3まで)の規律が及ぶ。

第32条第1項は、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意すべきことを定める。同条第2項は、相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをすることを禁ずる。第15条の指導に従わなかったことだけを理由に、第15条の2の勧告や第16条の立入検査を発動することは、この規律に抵触する疑いがある。勧告は第11条第1項違反という別個の要件によって基礎づけられるべきものであり、指導不服従それ自体は勧告の要件ではない。

第35条第1項は、行政指導に携わる者が相手方に対して当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示すべきことを定め、同条第3項は、口頭でされた行政指導について相手方から書面の交付を求められたときは、行政上特別の支障がない限りこれを交付すべきものとする。電話や面談で指導を受けた事業者は、内容と根拠と責任者を書面で受け取ることを求めることができる。指導の内容を社内で共有し、取締役会に報告し、是正計画を組み立てるうえで、書面化は出発点となる。

6-2 中止等の求めと処分等の求め

行政手続法第36条の2は、法令に違反する行為の是正を求める行政指導であって根拠規定が法律に置かれているものについて、その相手方が、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときに、当該行政指導をした行政機関に対する中止その他必要な措置の求めを認める。第15条は法律に根拠を置く規定であるから、体制の不備の是正を求める指導はこの類型に当たり得る。申出を受けた行政機関は、必要な調査を行い、要件に適合しないと認めるときは中止その他必要な措置をとらなければならない。

同法第36条の3は、何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導がされていないと思料するときに、権限を有する行政庁又は行政機関に対する申出をすることができる旨を定める。労働者、退職者、特定受託業務従事者その他の者は、勤務先又は取引先が第11条の義務を履行していないと考えるとき、消費者庁長官に対して第15条の助言・指導を求める申出ができる。申出は、氏名又は名称及び住所又は居所、法令に違反する事実の内容、求める行政指導の内容、根拠となる法令の条項、そう思料する理由等を記載した申出書によることを要する。

この申出制度は、公益通報の枠外にある別個の手続である点に注意を要する。申出書に氏名の記載が求められるため匿名では利用できず、公益通報者保護法上の保護要件とも連動しない。もっとも、第11条第1項及び第2項の義務違反そのものは、命令違反に刑事罰が接続することとなった結果として通報対象事実となり得る。検討会報告書も、命令違反時に刑事罰を規定することの副次的な効果として、従事者指定義務違反の事実が法の通報対象事実となり、義務を履行していない事業者に関する内部の労働者等からの公益通報が増えることが見込まれると述べ、消費者庁において十分な法執行体制を確保すべきであるとした。第15条の運用は、この通報の受け皿としても機能することになる。

6-3 処分性を欠くこと

助言・指導は行政事件訴訟法第3条第2項の処分に当たらず、取消訴訟の対象とならない。行政不服審査法に基づく審査請求もできない。事業者が争う手段は、行政手続法第36条の2による中止等の求めと、違法な指導によって損害を被った場合の国家賠償請求に限られる。

比較の対象となるのが、医療法上の病院開設中止勧告について処分性を認めた最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁である。同判決は、勧告に従わない場合には相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けられなくなるという法的仕組みを考慮して、勧告の処分性を肯定した。この枠組みを本法に当てはめると、第15条の助言・指導には後続する法的不利益が制度上結び付いていないから、処分性を肯定する余地は乏しい。他方、第15条の2第1項の勧告は、不服従が同条第2項の命令の要件となり、命令違反が第21条第2項第1号の罰金に接続する。勧告の処分性は、次回の第15条の2の解説で改めて検討する。


7 第15条・第15条の2・第16条の役割分担

改正後の行政措置の体系は、権限の強度と適用対象の広狭が反比例する構造をとる。整理すると次のとおりである。

権限根拠対象となる義務対象事業者不服従等の効果
助言・指導第15条第11条第1項及び第2項(読替え適用を含む)規模を問わない全事業者なし
勧告第15条の2第1項第11条第1項(読替え適用を除く)301人以上第2項の命令に接続
命令第15条の2第2項同上301人以上第21条第2項第1号により30万円以下の罰金、第23条第1項第2号により両罰
命令の公表第15条の2第3項同上301人以上
勧告第15条の2第4項第11条第1項(読替え適用に限る)及び第2項(読替え適用を含む)300人以下の従事者指定努力義務、及び全規模の体制整備義務第5項の公表に接続し得る
勧告不服従の公表第15条の2第5項第11条第2項(読替え適用を除く)301人以上
報告徴収・立入検査第16条第1項第11条第1項(読替え適用を除く)301人以上第21条第2項第2号により30万円以下の罰金、第23条第1項第2号により両罰
報告徴収第16条第2項第11条第1項(読替え適用に限る)及び第2項(読替え適用を含む)全事業者第24条により20万円以下の過料

消費者庁が公表した改正概要は、この構造を、従事者指定義務違反のある事業者には報告徴収・立入検査、助言・指導、勧告、勧告に従わない場合の命令、命令をした場合の公表があるとし、従事者指定義務以外の体制整備については、事業者に対する報告徴収、助言・指導・勧告、勧告に従わない場合の公表があると整理している。従事者指定義務の系統だけが命令と刑事罰まで貫通し、体制整備義務の系統は公表で止まるという二本立てが、改正法の骨格である。

事案の進行を時系列で見ると、消費者庁はまず第16条第2項の報告徴収によって事実を把握し、第15条の助言・指導によって是正を促し、応じない場合に第15条の2の勧告に移行するという流れが標準となる。第15条は、この流れの中間に位置しながら、他の権限の発動を要件としない独立の権限である。報告徴収を経ずにいきなり助言・指導をすることも、法文上は妨げられない。


8 第20条による国及び地方公共団体の適用除外

8-1 条文と範囲

第二十条 第十五条から第十六条までの規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

「第十五条から第十六条まで」には、条文の配列上、第15条、第15条の2、第16条が含まれる。国の行政機関及び地方公共団体は、事業者として第11条の従事者指定義務及び体制整備義務を負いながら、これらの義務の履行について消費者庁から助言・指導・勧告・命令・報告徴収・立入検査を受けることがない。義務は課されるが行政的な担保手段は用意されていないという構造である。

指針第2は、事業者の定義に法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれるとし、指針の解説も、法第11条第1項及び第2項が事業者(国の行政機関及び地方公共団体を含む。)に義務付けるものであると明記する。義務の名宛人であることは疑いがない。適用除外は、義務の存否ではなく担保手段の適用範囲に関する規律である。

8-2 代替する統制手段

第20条によって空白となる部分を、実務上は次の仕組みが補っている。

第一に、地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言としてのガイドラインである。公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)(平成29年7月31日制定、令和8年5月29日最終改正)は、その位置づけを次のように述べる。

なお、本ガイドラインは、地方自治法第 245 条の4第1項の規定に基づく技術的な助言として位置付けられるものであり、各地方公共団体において一層充実した通報対応の仕組みを整備及び運用すること、又は各地方公共団体の規模等の実情に応じた適切な取組を行うことを妨げるものではない。

技術的な助言は、地方公共団体の自主性及び自立性への配慮を定める地方自治法第245条の3の下で、従うべき法的義務を伴わない関与である。第15条の助言・指導と同じく非権力的であるが、根拠法令も名宛人も異なる。

第二に、同ガイドラインが定める消費者庁の役割である。

消費者庁は、地方公共団体における内部公益通報対応体制の適切な整備及び運用並びに個別の通報事案に対する適切な対応を確保するため、各地方公共団体に対して必要な助言、協力、情報の提供その他の援助を行うものとする。

同ガイドラインは続けて、消費者庁が法の施行状況を把握するため、各地方公共団体における内部公益通報受付窓口の設置及び運用状況、通報への対応状況、職員等への研修の実施状況等について調査を行い、その結果を公表することを定める。行政措置に代わる統制は、個別の命令ではなく、調査と公表による横並びの可視化に置かれている。

第三に、都道府県の役割である。同ガイドラインは、各都道府県が区域内の市区町村における内部公益通報対応体制の適切な整備及び運用並びに個別の通報事案に対する適切な対応を確保するため、市区町村相互間の連絡調整及び市区町村に対する必要な助言、協力、情報の提供その他の援助を行うよう努めるものとする。国から市区町村への直接の関与に代えて、都道府県を経由する経路が用意されている。

8-3 代替手段が実際に機能した例

令和5年度の行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査では、301人以上の職員を擁し窓口設置の法的義務を負いながら窓口を設置していない市区町村が存在することが明らかとなった。消費者庁は、調査後にこれらの市区町村に個別に連絡し、その結果、窓口設置の法的義務を負う市区町村のすべてにおいて窓口が設置済みとなったことが、令和7年の改正法をめぐる国会審議の過程で説明されている。第20条により助言・指導の権限が及ばない相手方に対しても、調査結果に基づく事実上の働きかけによって是正が実現した例である。

消費者庁は、令和7年5月22日付けで「行政機関における公益通報者保護法に係る対応の徹底について」と題する通知を発出しており、行政機関に対する働きかけは通知という形式によっても行われている。

8-4 立法論としての課題

令和7年改正の国会審議では、行政機関において法に違反する対応が行われた場合に消費者庁がとり得る手段が一般的な助言や地方自治法上の技術的助言にとどまることの実効性が問題とされた。衆議院消費者問題に関する特別委員会(令和7年4月24日)及び参議院消費者問題に関する特別委員会(同年6月2日)の各附帯決議は、施行後の検討課題を列挙しており、行政措置の対象から行政機関を除外する第20条の撤廃も検討対象として挙げられている。改正法附則は、施行後3年を目途として施行状況を勘案し検討を加える旨を定めており、第20条は次の改正論議における主要な論点の一つとなる。

地方公共団体の実務担当者にとって、この状況は二重の意味を持つ。現時点では消費者庁の助言・指導を受ける立場にないが、義務の内容は民間事業者と同一であり、将来の制度改正によって行政措置の対象となる可能性がある。加えて、公表された施行状況調査の結果は住民と議会の目に触れる。行政措置がないことは、統制がないことを意味しない。


9 判例・裁判例

第15条それ自体を正面から扱った公表裁判例は見当たらない。行政指導一般に関する判例法理と、内部通報体制の不備が民事責任の判断に組み込まれた事例が、本条の運用を理解する手がかりとなる。

9-1 行政指導の任意性――品川マンション事件

最判昭和60年7月16日民集39巻5号989頁は、建築確認申請をめぐる近隣紛争について行政指導が行われていた事案において、建築主が処分の留保されたままでは行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明して直ちに応答すべきことを求めたときは、不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで処分を留保することは国家賠償法第1条第1項所定の違法な行為となる旨を判示した。

本法に置き換えると、事業者が助言・指導に応じない意思を明確に示した場合、消費者庁は指導を漫然と継続するのではなく、第15条の2の勧告に進むか、権限を行使しないかを判断すべきことになる。指導が事実上の膠着状態を作り出し、事業者の活動を制約し続けることは、この判例の趣旨に照らして許容されない。

9-2 行政指導に事実上の強制力を持たせることの限界――武蔵野市の事案

最判平成5年2月18日民集47巻2号574頁は、指導要綱に基づく教育施設負担金の寄付を求める行政指導について、指導に従わない事業者に対して上下水道の供給を拒否する等の制裁措置を背景としていた点を捉え、任意の寄付とはいえず違法であるとして市の損害賠償責任を認めた。関連する刑事事件である最決平成元年11月8日判時1328号16頁は、指導要綱に従わないことを理由とする給水契約の締結拒否について水道法上の正当の理由を認めず、市長らの罪責を肯定した。

第15条の助言・指導が、他の法令に基づく許認可や補助金交付、入札参加資格等と結び付けられて事実上の強制力を帯びることがあれば、これらの判例の射程に入る。消費者庁自身が許認可権限を広く持たないため直接の危険は小さいが、地方公共団体が契約相手方や補助金交付先に対して法・指針に基づく取組の実施を求める場面では、同様の緊張が生じ得る。ガイドラインは、この働きかけを、法令遵守及び不正防止を図るために必要と認められる場合に取組の実施を求めることなどに努めるものとして、努力義務の形で規定している。

9-3 内部統制構築義務と行政指導の受止め

最判平成21年7月9日判時2055号147頁(日本システム技術事件)は、従業員による架空売上計上について代表取締役のリスク管理体制構築義務違反が問われた事案において、通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制が整えられていたか、発生した不正が通常容易に想定し得るものであったか、これを予見すべき特別の事情があったかを検討し、義務違反を否定した。大阪地判平成12年9月20日判時1721号3頁(大和銀行株主代表訴訟)が、取締役の善管注意義務の内容としてリスク管理体制の構築を明示したのに続く判断である。

これらの枠組みの下では、消費者庁から助言又は指導を受けたという事実は、当該事業者において体制の不備が具体的に認識され得たことを示す事情として作用する。指導を受けながら是正せず、その後に内部通報が機能せずに不祥事が拡大した場合、予見可能性を基礎づける事情の一つとして評価される可能性がある。第15条には罰則がないが、指導を放置することの法的リスクは行政法の外側にある。

9-4 体制の不備が現実の被害に転化した事例

富山地判平成17年2月23日労判891号12頁(トナミ運輸事件)は、闇カルテルを報道機関等に告発した従業員が長期にわたり研修所勤務や昇格停止等の処遇を受けた事案において、会社の不法行為責任を認めた。東京高判平成23年8月31日労判1035号42頁(オリンパス事件)は、内部通報窓口への通報を契機として行われた配転命令等を人事権の濫用として違法と判断し、その後確定した。

いずれも内部通報対応体制が機能しなかったことが不利益取扱いに直結した事例であり、消費者庁の行政措置が想定する是正の対象がどのような実害に結び付くかを示している。第15条の助言・指導が向けられる体制上の欠陥は、放置されれば民事責任として顕在化する。


10 企業実務への影響

10-1 想定される端緒

消費者庁が助言・指導に至る端緒として想定されるのは、実態調査への回答内容、第16条第2項に基づく報告の内容、行政機関相互の情報共有、報道された不祥事に関する調査報告書の記載、行政手続法第36条の3に基づく申出、そして従事者指定義務違反を内容とする公益通報である。第17条は、内閣総理大臣がこの法律の規定に基づく事務に関し関係行政機関に対して照会し、又は協力を求めることができる旨を定めており、他省庁が把握した情報が端緒となる経路も開かれている。

10-2 連絡を受けた場合の初動

消費者庁からの連絡を受け付ける窓口を、法務・コンプライアンス部門に一元化しておく必要がある。現場部門が個別に対応すると、事実関係の説明が不統一となり、後の是正計画の整合性を損なう。

口頭で指導を受けた場合、行政手続法第35条第3項に基づき、趣旨、内容及び責任者を記載した書面の交付を求めることを検討する。書面がなければ、社内での共有と取締役会への報告が不正確になり、是正の範囲も曖昧になる。

指導の内容が第11条第1項及び第2項の施行という目的の枠内にあるかを確認することも初動の一部である。目的の範囲を超えた要求であれば、行政手続法第36条の2の申出を検討する余地がある。

10-3 是正のサイクル

指導を受けた事項について、現状の把握、原因の分析、是正措置の設計、実施、実施状況の確認という一連の流れを文書として残す。指針第4の3(2)ロは、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて改善を行うことを求めており、指導への対応はこの評価・点検の枠組みに組み込むのが合理的である。

是正の完了を消費者庁に報告する法律上の義務は、第16条第2項による報告要求がない限り生じない。もっとも、任意の報告によって、第15条の2の勧告に進む必要がないことを示すことができる。

10-4 300人以下の事業者

常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は、従事者指定も体制整備も努力義務にとどまる。しかし第15条の適用は及ぶ。検討会報告書は、令和5年度の実態調査において従業員数300人以下の事業者の内部通報制度の導入率が46.9パーセントであり、1,488者のうち53.1パーセントが導入していないと回答したことを記録している。同報告書は、消費者庁が努力義務対象事業者に対しても窓口設置の必要性と重要性について一層の周知啓発を行うべきであるとしており、この周知啓発の延長線上に第15条の助言が位置づけられる。

中小規模の事業者にとって、助言は制裁の前段階ではなく、外部の専門的知見を無償で得る機会でもある。指針の解説は、中小企業の場合には何社かが共同して法律事務所や民間の専門機関等に内部公益通報窓口を委託することや、事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の内部公益通報受付窓口を設けることを推奨事項として挙げており、こうした選択肢の提示が助言の内容となり得る。

10-5 開示との関係

第15条に基づく助言・指導について、法令上の公表制度は存在しない。公表が予定されているのは、第15条の2第3項の命令をした場合と、同条第5項の勧告不服従の場合に限られる。したがって、助言・指導を受けたこと自体が直ちに社会に知られる仕組みにはなっていない。

もっとも、指導を受けた事実が有価証券報告書における事業等のリスクや、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載事項との関係で開示を要するかは、内容と重要度に応じた個別の判断となる。指導の対象が全社的な体制の欠落に及ぶ場合と、運用上の細部にとどまる場合とでは扱いが異なる。

10-6 グループ経営

指針の解説は、関係会社・取引先を含めた内部公益通報対応体制を整備することや、関係会社・取引先における内部公益通報対応体制の整備・運用状況を定期的に確認・評価した上で必要に応じ助言・支援をすることを推奨事項として挙げる。親会社が受けた指導は、同種の体制を採用するグループ会社にも同じ論点が存在することを示唆する。指導への対応をグループ全体に横展開する運用が、次の指導を避ける現実的な方法となる。


11 地方公共団体における取扱い

11-1 適用がないことの正確な理解

地方公共団体は第15条の名宛人とならない。この点を庁内で説明する際、義務そのものが緩やかであるという誤解を招かないよう注意を要する。第11条第1項及び第2項の義務は民間事業者と同一の内容であり、常時使用する労働者の数が300人を超える団体では法的義務として課される。指針の解説は、指針において定める事項が事業規模等にかかわらず義務の内容を具体化したものであると述べており、団体の規模による指針の内容の差は設けられていない。

11-2 内部統制体制との接続

地方自治法第150条は、都道府県知事及び指定都市の市長に内部統制に関する方針の策定と体制の整備を義務付け、その他の市町村長には努力義務を課している。内部公益通報対応体制は、財務に関する事務等のリスク管理と並ぶ内部統制の構成要素として位置づけることができる。内部統制評価報告書の作成過程に通報対応体制の評価・点検を組み込めば、消費者庁の助言・指導が及ばない領域を、団体自身の統制サイクルによって補うことができる。

11-3 監査委員・外部監査・議会

行政措置が及ばない以上、外部からの点検は監査委員による監査、包括外部監査、議会による調査に依存する。ガイドラインが定める運用状況の定期的な公表は、これらの点検の前提となる情報基盤である。通報受付件数、通報事案の概要、調査結果の概要、とった措置、対応に要した期間等を公表する運用を確立しておくことが、統制の実質を担保する。

11-4 契約相手方・補助金交付先への働きかけ

ガイドラインは、各地方公共団体が、契約の相手方又は補助金等の交付先における法令遵守及び不正防止を図るために必要と認められる場合には、当該事業者に対して法、指針及び指針の解説に基づく取組の実施を求めることなどに努めるものとする。必要と認められる場合の例として、過去に不正が発生し同種の事案の再発防止の必要性が高い場合、事業者の専門性に大きく依存する事業など外部からの監督だけでは不正の発見が困難な場合、不正が発生すると個人の生命、身体、財産その他の利益が侵害されるおそれがある場合が挙げられている。

この働きかけは、地方公共団体が事業者に対して行う事実上の指導である。契約の締結や補助金の交付と結び付けて強制の色彩を帯びさせれば、前記の武蔵野市の事案が示した限界に触れる。要請の根拠と範囲を文書化し、応じないことを直ちに不利益に結び付けない運用が求められる。指定管理者や委託先の従業員が公益通報の主体となり得ることを踏まえ、協定書や仕様書に通報窓口の周知に関する条項を置く方法も検討に値する。

11-5 職員への説明

第20条の存在は、職員に対する研修において誤解を生みやすい論点である。消費者庁の行政措置が及ばないという説明が、義務が緩いという理解に転化しないよう、義務の内容と担保手段を分けて説明する必要がある。あわせて、令和7年改正により、公益通報を理由として分限免職又は懲戒処分が行われた場合には、任命権者であるか否かを問わず実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得ることを、ガイドラインが特に留意すべき事項として掲げている点も、同じ研修の中で扱うのが適切である。行政措置は及ばないが刑事罰は及ぶという非対称は、正確に伝えられなければならない。


12 経過措置

12-1 施行期日

改正法附則第1条は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する旨を定め、これを受けて施行日は令和8年12月1日とされた。

12-2 報告及び勧告に関する経過措置

改正法附則第6条は、旧第15条の権限のうち第16条及び第15条の2に移された部分について、次の経過措置を置く。

第六条 この法律の施行前に旧法第十五条の規定により報告を求められ、かつ、この法律の施行の際現に報告がされていないものについては、なお従前の例による。 2 この法律の施行前に旧法第十五条の規定による勧告を受けた事業者が当該勧告に従わなかった場合における公表については、なお従前の例による。

第1項により、施行前に旧第15条に基づいて報告を求められ、施行日の時点で未提出の報告は、旧法の規律に従う。この報告を怠り、又は虚偽の報告をした場合の過料は、改正法附則第7条によって旧第22条が適用され続ける。

第七条 この法律の施行前にした行為及び前条第一項の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

第2項により、施行前に旧第15条に基づいて勧告を受けた事業者が従わなかった場合の公表は、旧第16条の規律による。新第15条の2第3項及び第5項の公表ではない。

12-3 助言・指導に経過措置が置かれていない理由

附則第6条が触れているのは報告と勧告のみである。助言及び指導については経過措置がない。助言・指導は法的拘束力を持たず、応答義務も罰則も伴わないため、施行をまたいで継続する法律関係を観念する必要がないことによる。

施行前に旧第15条に基づいて行われた助言・指導は、施行後も事実として存続する。消費者庁が同一の事項について改めて働きかける場合、その根拠は新第15条となる。事業者としては、施行前に受けた指導への対応が未了であれば、施行日を待たずに完了させておくのが安全である。

12-4 施行前に受けた勧告と施行後の命令

新第15条の2第2項の命令は「前項の規定による勧告を受けた者」を名宛人とする。前項とは新第15条の2第1項であるから、施行前に旧第15条に基づいて行われた勧告を根拠として、施行後に直ちに命令をすることはできないと解される。附則第6条第2項が、施行前の勧告に対する不服従の効果を旧第16条の公表に限定していることも、この解釈を裏づける。命令に進むには、施行後に新第15条の2第1項の勧告を改めて行う必要がある。

12-5 施行日までに整えるべき状態

第11条の義務そのものは令和2年改正以来継続しており、令和7年改正によって新たな猶予期間が設けられたわけではない。令和8年12月1日の時点で求められるのは、第一に、従事者の指定が書面その他本人に地位が明らかとなる方法で行われ、指定の記録が保管されていること、第二に、改正後の指針が定める周知事項が周知資料に反映されていること、第三に、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置が内部規程に明記されていること、第四に、報告徴収を受けた場合に即座に提出できる形で体制の運用記録が整理されていることである。第16条第1項の立入検査が新設されたことにより、帳簿書類その他の物件が検査の対象となる点も、記録の整備水準を左右する。


13 実務チェックリスト

13-1 民間事業者向け

体制の現状把握

  1. 常時使用する労働者の数を基準に、自社が義務対象事業者と努力義務事業者のいずれに当たるかを確定しているか
  2. 努力義務事業者であっても第15条の助言・指導の対象となることを、経営層に説明しているか
  3. 従事者の指定が書面その他地位が明らかとなる方法で行われているか
  4. 従事者の指定台帳が最新の人事異動を反映しているか
  5. 指針第4が定める各項目について、自社の措置を対照表の形で整理しているか
  6. 令和7年改正で第11条第2項に明示された周知について、対象者、媒体、頻度を定めているか
  7. 周知の対象に退職者、特定受託業務従事者及び同従事者であった者が含まれているか

受入れ体制

  1. 消費者庁からの連絡を受け付ける部署と責任者を定め、社内に周知しているか
  2. 口頭で指導を受けた場合に書面の交付を求める手順を定めているか
  3. 受けた助言・指導を取締役会又は監査役等に報告する経路を定めているか
  4. 指導内容が第11条第1項及び第2項の施行という目的の範囲内かを確認する手順があるか
  5. 行政手続法第36条の2の中止等の求めについて、検討する主体と判断基準を定めているか

是正と記録

  1. 指導を受けた事項の是正計画を、期限と責任者を明示して作成する運用があるか
  2. 是正の実施状況を確認し、記録として保管する運用があるか
  3. 体制の定期的な評価・点検の項目に、過去に受けた助言・指導への対応状況が含まれているか
  4. 是正完了後に任意の報告を行うかどうかの判断基準を定めているか

第16条・第15条の2への備え

  1. 第16条第2項の報告要求を受けた場合に提出できる資料の一覧を作成しているか
  2. 立入検査の対象となり得る帳簿書類の所在と保管形式を把握しているか
  3. 報告懈怠及び虚偽報告に過料が科されることを、回答作成に関与する部署に周知しているか
  4. 勧告から命令に至った場合に公表がされることを、危機管理計画に織り込んでいるか

グループ・取引先

  1. 親会社が受けた助言・指導をグループ会社に展開する仕組みがあるか
  2. 関係会社・取引先の体制の整備・運用状況を定期的に確認・評価する運用があるか
  3. 業務委託先の特定受託業務従事者に対する窓口の周知方法を定めているか

13-2 地方公共団体向け

義務と担保手段の整理

  1. 第11条第1項及び第2項の義務が団体にも及ぶことを、幹部職員に説明しているか
  2. 第20条により消費者庁の助言・指導・勧告・命令・報告徴収・立入検査が及ばないことと、義務の内容が緩いことは別であることを、研修資料で区別して説明しているか
  3. 常時使用する労働者の数が300人を超える団体であるかを確認し、義務か努力義務かを確定しているか

代替統制の設計

  1. ガイドラインが求める運用状況の定期的な公表を実施しているか
  2. 公表項目に通報受付件数、事案の概要、調査結果の概要、とった措置、対応に要した期間が含まれているか
  3. 内部公益通報対応体制の運用状況について、職員等及び中立的な第三者の意見を踏まえた定期的な評価及び点検を行っているか
  4. 地方自治法第150条の内部統制体制の評価に、通報対応体制を組み込んでいるか
  5. 監査委員監査又は包括外部監査のテーマに通報対応体制を取り上げる余地を検討しているか

都道府県と市区町村

  1. 都道府県において、区域内の市区町村に対する連絡調整と助言の枠組みを整備しているか
  2. 市区町村において、都道府県からの助言を受ける窓口を定めているか
  3. 消費者庁の施行状況調査への回答内容を、庁内で事前に検証する手順があるか

契約相手方への働きかけ

  1. 契約相手方及び補助金交付先に対する取組の実施要請について、必要と認められる場合の判断基準を定めているか
  2. 要請に応じないことを契約上の不利益に直結させない運用となっているか
  3. 指定管理協定書及び業務委託契約書に、通報窓口の周知に関する条項を置いているか

職員への説明

  1. 令和7年改正により、公益通報を理由とする分限免職又は懲戒処分について、実質的な意思決定をした者や関与した者が罰則の対象となり得ることを周知しているか
  2. 行政措置が及ばないことと刑事罰が及ぶことの非対称を、管理職研修で扱っているか
  3. 会計年度任用職員、派遣労働者、委託先従事者を周知の対象に含めているか

経過措置

  1. 施行前に消費者庁から受けた助言・指導又は資料提供依頼への対応が完了しているか
  2. 施行日時点で必要な内部規程の改正手続の日程を確定しているか

14 次回

次回は第15条の2(勧告及び命令等)を扱う。令和7年改正で新設された条文であり、第1項の勧告、第2項の命令、第3項の命令の公表、第4項の努力義務事業者等に対する勧告、第5項の勧告不服従の公表という五段の構造を持つ。命令が第21条第2項第1号の罰金及び第23条第1項第2号の両罰規定に接続すること、第23条第2項が国及び地方公共団体を両罰規定の適用から除いていること、勧告に処分性が認められるかという行政法上の論点、命令に先立つ行政手続法上の不利益処分の手続、公表の法的性質と名誉毀損の成否について、条文の文言と立法過程に即して検討する。


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