条文

(消防の任務) 第1条 消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。

1 本条の趣旨

消防組織法(昭和22年法律第226号)は、消防の任務の範囲、消防責任の帰属、消防機関の組織を定める消防の基本法である。防火・予防・危険物規制など消防作用の実体を定める消防法(昭和23年法律第186号)と対をなし、組織法と作用法の関係に立つ。

本条は、その冒頭で消防の任務を三つの要素で画定する。
第一に火災からの国民の生命・身体・財産の保護、
第二に水火災・地震等の災害の防除と被害の軽減、
第三に災害等による傷病者の搬送である。

 戦前の消防が警察組織の一部門とされていたのに対し、戦後、連合国軍総司令部の指導の下で警察から分離され、市町村を責任主体とする自治体消防として再出発した。本法の公布日である昭和22年12月23日を起点に、翌昭和23年3月7日の施行日は今日「消防記念日」とされている。本条の「消防」が国の機関ではなく制度としての消防全体を指すのは、この自治体消防の理念を反映したものであり、責任主体を市町村と定める第6条以下の規定へと接続していく。

2 用語の解説

「その施設及び人員を活用して」とは、消防が任務遂行の手段として自らの物的・人的資源によることを明らかにした文言である。消防機関の具体的な構成(消防本部、消防署、消防団)は第9条が定める。

「水火災又は地震等の災害」の文言により、消防の任務は火災に限定されず、風水害・地震その他の災害一般に及ぶ。「防除」は災害の発生の防止と拡大の阻止を含む概念であり、「被害を軽減する」は発生後の減災活動を指す。

「災害等による傷病者の搬送」は、平成21年の改正(消防法と一体の救急搬送制度改正)により本条に明記された文言である。救急業務は実務上早くから消防の中核業務であったが、任務規定のレベルで搬送の適切な実施が位置付けられたことにより、救急・救助を含む今日の消防の実像と条文が一致した。救急業務の定義は消防法第2条第9項が定めており、両法を併せて読む必要がある。

3 論点――任務規定の法的性格(補論)

本条は消防の任務を宣明する規定であり、個別の権限や義務を直接創設する規定ではない。行政法学における任務規定と権限規定の区別がここで意味を持つ。消防が立入検査を行い、措置命令を発し、消火活動のために処分を行う権限は、消防法その他の作用法規に個別の根拠を要する。本条を根拠に住民が特定の消防活動を請求する具体的権利を導くことも、原則としてできない。

もっとも、任務規定は無内容ではない。

第一に、消防の権限行使の目的を画する解釈基準として機能し、権限の逸脱・濫用の判断枠組みに組み込まれる。

第二に、規制権限の不行使が国家賠償法第1条第1項の適用上違法となるか(権限不行使の違法)を判断する際、権限の趣旨・目的を確定する出発点となる。危険物規制や防火対象物への是正措置をめぐる訴訟で、裁判所は権限の根拠規定とともに消防の任務に遡って判断を組み立てる。

任務規定は、訴訟の場では生きた条文である。

4 判例・裁判例

消火活動と損害賠償の関係では、最高裁昭和53年7月17日判決が重要である。

 消防職員の消火活動後の残り火から再出火し延焼した事案について、最高裁は、国家賠償法第4条にいう「民法の規定」には失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)が含まれるとし、消防職員の消火活動上の過失による失火については、重大な過失がある場合に限り国・公共団体が賠償責任を負うと判断した。任務の遂行過程で生じた損害について、一般の過失ではなく重過失を要求することで、迅速性が求められる消防活動の萎縮を避けた判例と位置付けられる。

他方、消火活動に伴う破壊消防等の損失補償は消防法第29条の問題であり、賠償と補償の区別は本条の任務論とあわせて整理しておくべき基本論点である。この点は消防法の該当条文を扱う際に詳述する。

5 実務への示唆

本条の三要素は、消防職員の服務・研修の体系にそのまま対応する。

火災対応、風水害・地震対応、救急搬送のいずれもが法律上の任務である以上、いずれかに偏った教育訓練は任務規定の要請を満たさない。

また、任務の公共性の高さは、職員の規律保持や組織のコンプライアンスが厳しく問われる根拠でもある。

消防組織のハラスメント問題や通報体制の整備を論じる際、出発点となる条文は常に本条である。

次回は第2条以下、消防庁の設置と所掌事務の規定を扱う。

参考資料

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