一 条文原文

第九条(消防機関)

第九条 市町村は、その消防事務を処理するため、次に掲げる機関の全部又は一部を設けなければならない。  一 消防本部  二 消防署  三 消防団

第十条(消防本部及び消防署)

第十条 消防本部及び消防署の設置、位置及び名称並びに消防署の管轄区域は、条例で定める。 2 消防本部の組織は市町村の規則で定め、消防署の組織は市町村長の承認を得て消防長が定める。

第十一条(消防職員)

第十一条 消防本部及び消防署に消防職員を置く。 2 消防職員の定員は、条例で定める。ただし、臨時又は非常勤の職については、この限りでない。

第十二条(消防長)

第十二条 消防本部の長は、消防長とする。 2 消防長は、消防本部の事務を統括し、消防職員を指揮監督する。

第十三条(消防署長)

第十三条 消防署の長は、消防署長とする。 2 消防署長は、消防長の指揮監督を受け、消防署の事務を統括し、所属の消防職員を指揮監督する。


二 趣旨・立法背景

1 第6条〜第8条からの接続

第6条は市町村に消防責任を負わせ、第7条はその管理を市町村長に委ね、第8条は費用を市町村負担とした。第9条以下は、この責任・管理・費用の帰属を受けて、責任を現実に果たすための組織を市町村内部にどう作るかを定める規定群である。第9条が機関の種類を示し、第10条が設置手続の法形式を定め、第11条が人的構成を、第12条・第13条が指揮系統の頂点を規律するという配列になっている。

2 昭和22年制定時の姿

制定時の第9条は「市町村の消防事務を処理するため、市町村に、消防団の外、その必要に応じ、左に掲げる機関の全部又は一部を設けることができる」と定め、列挙されたのは消防本部、消防署、消防職員及び消防団員の訓練機関の三つであった。消防団は列挙の外に置かれ、その存在が当然の前提とされていた。他方、消防本部と消防署は「その必要に応じ」「設けることができる」任意設置にとどまった。

これは、消防を警察から分離して市町村に移管した制定当時の状況を反映している。警察機構から切り離された直後の市町村に常備の消防組織を一律に義務づけることは現実的でなく、当面は消防団が実働の中心を担わざるを得なかった。制定時第11条が「消防本部を置く市町村に、消防長及び……消防吏員を置く」と条件つきの規定であったことも、常備消防が例外的存在であった当時の想定を示している。

3 昭和38年改正による現行構造の成立

現行の第10条から第13条までの骨格は、昭和38年4月15日法律第89号(消防組織法及び消防団員等公務災害補償責任共済基金法の一部を改正する法律)によって作られた。同法は制定時の第10条から第15条の3までを全面的に書き改め、次の体系を導入した。

  • 旧第10条 政令で定める市町村に消防本部及び消防署の設置を義務づける(常備化の義務づけ)
  • 旧第11条 消防本部・消防署の設置、位置、名称、管轄区域を条例事項とする(現行第10条)
  • 旧第12条 消防職員の設置と条例定数(現行第11条)
  • 旧第13条 消防本部の長を消防長とし、事務統括権と指揮監督権を付与(現行第12条)
  • 旧第14条 消防署の長を消防署長とし、消防長の指揮監督下に置く(現行第13条)

制定時の第11条から第14条までは、消防長・消防吏員の任免と罷免を中心に据えた人事規定であった。昭和38年改正は、これを「組織としての機関の長」を法定する規定へと組み替えた。消防長・消防署長が単なる上級職員ではなく、法律上の職として位置づけられたのはこの改正による。同改正の提案理由は、市町村の消防体制の充実強化を掲げている。

なお、旧第10条による常備化の義務づけには経過措置が置かれ、施行日から4年を超えない範囲内で政令の定める日まで猶予された(同法附則2項)。既存の消防本部・消防署・消防団は改正後の条例により置かれたものとみなされた(同附則3項)。

4 平成15年の常備化義務規定の削除

昭和38年に導入された旧第10条は、平成15年6月18日法律第84号(消防組織法及び消防法の一部を改正する法律)第1条により「第十条 削除」とされた。政令指定による常備化の義務づけは、この時点で法律上の根拠を失っている。もっとも、削除の時点で常備化はほぼ全国に及んでおり、実態面での影響は限定的であった。

5 平成18年の条番号整理

現在の条番号は、平成18年6月14日法律第64号(消防組織法の一部を改正する法律)による。同法は市町村の消防の広域化に関する第4章を新設するとともに、法律全体に目次と条見出しを付し、削除条を除いて条を繰り上げた。第9条に見出し「(消防機関)」が付され、同条中の「左に」が「次に」に改められ、削除済みの旧第10条が除かれた結果、旧第11条から旧第14条までがそれぞれ現行第10条から第13条までとなった。平成18年6月14日の公布日施行である。


三 文理解釈

1 第9条

(1)「設けなければならない」

制定時の「設けることができる」から現行の「設けなければならない」への転換により、第9条は市町村に対する作為義務を課す規定となっている。義務の内容は、列挙された三機関の「全部又は一部」を設けることである。

(2)「全部又は一部」の意味

「一部」を設ければ足りる以上、消防団のみを置く市町村も第9条には違反しない。実際、消防団のみが存する非常備町村は令和7年4月1日現在で29町村(7都県)存在する。他方、三機関のいずれも置かない選択は許されない。第9条が最低限要求しているのは、消防事務を処理する何らかの機関を市町村内に置くことである。

条文上は消防署のみを置き消防本部を置かない構成も排除されていないが、第13条第2項が消防署長を消防長の指揮監督下に置く構造を前提としている以上、消防本部を欠く消防署は指揮系統を欠くことになる。消防法上も「消防本部及び消防署を置く市町村」(同法第11条第1項第1号)が許可権者の判定基準とされており、消防本部と消防署は一体で設置されることが制度の前提とされている。

(3)「その消防事務を処理するため」

目的規定として置かれた文言である。第31条が「消防事務(消防団の事務を除く。)」と括弧書きで限定していることから、第9条の「消防事務」には消防団の事務も含まれると解される。

2 第10条

(1) 条例事項と規則事項の切り分け

第1項の条例事項は、①消防本部の設置・位置・名称、②消防署の設置・位置・名称、③消防署の管轄区域である。「並びに」の直前で①②と③が区切られており、管轄区域は消防署についてのみ条例事項とされている。消防本部に管轄区域の定めがないのは、消防本部が市町村(または一部事務組合等)の区域全体を所管する統括機関だからである。

(2) 組織の定め方の非対称

第2項は、消防本部の組織を市町村の規則事項とする一方、消防署の組織については市町村長の承認を得て消防長が定めるものとしている。消防署の組織は規則という法形式を要しない。市町村長の承認という関与を残しつつ、日々の運用に近い部分の裁量を消防長に委ねる構造である。

この非対称は実務上見落とされやすい。消防署の課・係の改編は消防長の定めと市町村長の承認で足り、規則改正を要しない。

3 第11条

(1) 設置場所の限定

「消防本部及び消防署に」置くとされている。消防団に置かれるのは消防職員ではなく消防団員である(第19条)。

(2) 定数の条例主義とその例外

第2項本文は消防職員の定員を条例事項とする。ただし書は「臨時又は非常勤の職」を条例定数の対象から除く。地方公務員法上の会計年度任用職員は非常勤の職に当たるため、同ただし書の適用により条例定数の枠外に置かれるのが通常の運用である。

4 第12条・第13条

(1) 職の法定と権限の内容

第12条第1項・第13条第1項はいずれも「……の長は、○○とする」という形式で職の名称を法定する。実質的な権限は各第2項が定める。

消防長の権限は、①消防本部の事務の統括、②消防職員の指揮監督である。②の対象は「消防職員」であり、消防本部の職員に限定されていない。消防署に所属する職員も消防長の指揮監督に服する。

消防署長の権限は、①消防長の指揮監督を受けること、②消防署の事務の統括、③所属の消防職員の指揮監督である。③に「所属の」という限定が付されている点が消防長と異なる。消防署長の指揮監督は当該消防署に所属する職員に及ぶにとどまる。

(2) 消防長と消防署長の関係

第13条第2項冒頭の「消防長の指揮監督を受け」は、消防署長が消防長の下位にあることを明示する。消防長の消防職員に対する指揮監督権(第12条第2項)と、消防署長の所属職員に対する指揮監督権(第13条第2項)は競合するが、競合する場面では消防長の指揮監督が優先する。


四 用語解説

消防機関 第9条に掲げる消防本部、消防署、消防団の総称。第44条第3項が「消防機関(第九条に規定する機関をいう。以下同じ。)」と定義しており、法律上の定義規定は第9条ではなく第44条第3項に置かれている。

消防本部 市町村の消防事務を統括する機関。東京消防庁、横浜市消防局のように「消防局」の名称を用いる例が多いが、法律上はいずれも第9条第1号の消防本部である。名称は条例で定める(第10条第1項)。

消防署 消防本部の下に置かれ、管轄区域を単位として現場活動を担う機関。出張所・分署は消防署の内部組織であり、第9条にいう消防署そのものではない。

消防団 非常備の消防機関。団員は非常勤特別職の地方公務員であり、その身分取扱いは非常勤の者について条例で定める(第23条第1項)。

消防職員 第4条第2項第5号が「消防吏員その他の職員をいう」と定義する。消防吏員のほか、消防本部・消防署に勤務する事務職員、技術職員等を含む。昭和38年改正時にはこの定義が消防職員設置条文(当時の第12条第1項)に置かれていたが、現在は消防庁の所掌事務規定である第4条に移されており、第11条第1項は簡潔な設置規定となっている。

消防吏員 消防職員のうち、階級を有し消防活動に従事する職員。階級は消防庁の定める基準に従い市町村の規則で定める(第16条第2項)。

常備消防・非常備町村 消防本部及び消防署を置く体制を常備消防、消防団のみが存する町村を非常備町村と呼ぶ。法律上の用語ではなく、消防行政上の実務用語である。


五 改正の内容と沿革

改正法令主な内容
昭和22年法律第226号(制定)第9条は任意設置。列挙は消防本部、消防署、訓練機関。消防団は列挙外。第11条〜第14条は消防長・消防吏員の任免を中心とする規定
昭和38年法律第89号第10条〜第15条の3を全面改正。政令指定市町村に常備化を義務づける旧第10条を新設。条例事項・規則事項の切り分け、消防職員の条例定数、消防長・消防署長の職の法定を導入
平成15年法律第84号旧第10条(常備化の義務づけ)を削除
平成18年法律第64号目次・条見出しの付加、条番号の整理。旧第11条〜第14条を現行第10条〜第13条に繰り上げ。第9条の「左に」を「次に」に改正

第9条本体の実質的内容がいつ任意設置から義務設置に転じたかは、法文の変遷から段階的に読み取れる。昭和38年法律第89号は第4条第5号を改正して「消防職員」の定義括弧書きに「第九条第四号において同じ」と加えており、同改正時点で第9条には第4号が存在していたことが分かる。すなわち昭和38年より前の段階で、第9条は消防団を号に取り込み訓練機関を第4号とする四号構成に改められていた。その後、訓練機関に関する号が削られ、消防学校等に関する現行第51条の規定へ機能が引き継がれて、現在の三号構成に至っている。この経過は、既存の解説において十分に説明されていない点である。

なお、第12条・第13条自体は昭和38年改正で成立して以降、平成18年の見出し付加と項番号付加を除き実質的な改正を受けていない。制定から60年以上、消防長と消防署長の職務規定は文言を変えていない。


六 法的性格と解釈上の論点

1 第9条の義務規定としての性格

第9条は市町村に対する組織編成上の義務を課す規定であるが、義務の履行方法に「全部又は一部」という幅を与えている。この幅は、地理的条件により常備化が困難な離島・山間地の存在を前提とする。非常備町村29町村のうち21町村が島しょである事実は、この立法上の割り切りが現に機能していることを示す。

義務違反に対する制裁規定は置かれていない。第37条・第38条による消防庁長官・都道府県知事の助言・勧告・指導が事実上の是正手段となるが、第36条が市町村の消防は消防庁長官・都道府県知事の運営管理・行政管理に服さない旨を定めているため、指揮命令による是正はできない。

2 共同処理形態における第9条の読替え

一部事務組合または広域連合が消防事務を共同処理する場合、消防本部・消防署は組合または広域連合が設置する。地方自治法の規定により、これらの特別地方公共団体には市町村に関する規定が準用されるため、第10条の条例は組合の条例、第10条第2項の規則は組合の規則、承認権者たる「市町村長」は組合の管理者または広域連合長となる。第15条の消防長の任命権者も同様である。

事務委託の場合は、委託した市町村の区域における消防事務を受託市町村の消防本部が処理する。委託市町村自身は消防本部を置かないことになるが、消防団は自ら設置するのが通例であり、第9条の義務は充足される。

令和7年4月1日現在、一部事務組合・広域連合により設置されている消防本部は288本部(うち広域連合22本部)、その構成市町村は1,114市町村で常備化市町村の65.9パーセントに当たる。事務委託をしている市町村は144市町村である。単独設置の消防本部が多数派ではないという実態は、第9条の解釈において常に念頭に置く必要がある。

3 消防長・消防署長の二面性

消防長・消防署長は、消防組織法上は市町村の内部組織の長であるが、消防法上は独立した行政庁として位置づけられる。消防法第3条以下の措置命令、第4条の立入検査、第5条の防火対象物に対する命令、第7条の消防同意など、多数の権限が消防長または消防署長に帰属する。

ここに解釈上の交錯が生じる。消防法上の権限は消防長または消防署長に法律上帰属しているから、消防署長がその権限を行使した場合、処分の名義人は消防署長であり、行政不服審査や取消訴訟における処分庁も消防署長である。他方、第13条第2項により消防署長は消防長の指揮監督に服するから、消防長は消防署長に対して権限行使の方針を示すことができる。権限の帰属と内部的指揮監督は別次元の問題であり、消防長の指揮監督は処分の効力に影響しない。

消防本部を置かない市町村では、消防法第3条の括弧書きにより「消防長」を「市町村長」と読み替える。非常備町村においては、火災予防に関する行政庁は市町村長となる。

4 消防長の人事権と組織管理責任

第12条第2項の指揮監督権は、第15条の任命権、第16条の身分取扱いに関する規定と結合して、消防長を消防職員の人事全般の責任者とする。地方公務員法上の任命権者として、消防長は懲戒処分(同法第29条)および分限処分(同法第28条)の権限を有する。後述の裁判例は、いずれもこの権限行使の適法性を争ったものである。

5 消防職員の定数と消防力の整備指針との関係

第11条第2項の条例定数は、消防力の整備指針(平成12年消防庁告示第1号)が示す消防吏員数の算定と別個の概念である。整備指針は目標を示す告示であり、法的拘束力を持たない。条例定数を整備指針の水準に満たない数で定めても、第11条第2項に反するものではない。ただし、火災や訓練事故に起因する国家賠償請求において、体制の不備が過失判断の一要素とされる可能性は残る。


七 裁判例

1 消防長の分限免職処分の適法性

長門市(消防職員分限免職処分)事件・最三小判令和4年9月13日

消防職員が、任命権者である長門市消防長から地方公務員法第28条第1項第3号等に基づく分限免職処分を受け、その取消しを求めた事案である。当該職員は平成20年から平成29年までの間、消防職員約70人のうち部下等の立場にある約30人に対しハラスメント行為を繰り返し、部下に対する暴行罪で罰金の略式命令を受けていた。

原審は処分を取り消したが、最高裁は原判決を破棄した。公務員としての適格性を欠き、その性格が矯正されて改善される余地がないとみることも不合理とはいえないとし、報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、当該職員を消防組織内に配置しつつ組織としての適正な運営を確保することは困難であると判断した。

第12条第2項の指揮監督権を実効あらしめる前提として、消防組織の指揮命令系統が維持されていることが要求されるという理解を、分限処分の適法性判断に反映させた判断といえる。

2 消防長の懲戒処分の適法性

糸島市事件・最三小判令和7年9月2日

糸島市消防本部の係長級の消防職員が、部下に対するハラスメントを理由に消防長から懲戒免職処分を受けた事案(併せて停職6月の処分を受けた別の職員の事案も審理された)。行為には、採用後間もない部下を鉄棒に掛けたロープで縛って懸垂させ、力尽きた後も数分間宙づりにして更に懸垂を指示する、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させるといったものが含まれていた。

第一審(福岡地判令和4年7月29日)および原審(福岡高判令和6年1月24日)は、個々の行為を評価すると免職は重きに失するとして処分を取り消し損害賠償を認めたが、最高裁は原判決を破棄し、請求を棄却した。各行為が消防組織や職場環境に及ぼした悪影響は、行為態様の不適切さのみならず、期間の長さ、回数、被害者の多さから明らかであるとし、原審は各行為が全体としてどのような悪影響をもたらすかを十分に評価すべきであったのにこれを怠ったと指摘した上で、懲戒権者である消防長の判断は社会観念上著しく妥当を欠くとはいえず、裁量権の逸脱・濫用に当たらないと結論づけた。

処分歴のない職員に対する初回の懲戒免職を適法とした点、および個別行為ごとの均衡ではなく行為全体の組織への影響から量定の適否を判断した点に意義がある。消防長の懲戒権行使の裁量を広く認めた最新の判断として、実務上の参照価値が高い。

3 消防署長の指揮監督義務と刑事責任

宮崎市消防訓練事故事件・宮崎地判昭和57年3月30日

特別救助隊員がロープブリッジ訓練中に転落死した事故につき、消防署長が業務上過失致死罪に問われ、罰金10万円が科された事案である。判決は、消防署長が署の事務を統括し所属の消防署員を指揮監督する業務に従事していることを前提に、高所訓練では死傷事故発生のおそれがあるから、安全網を張るなど転落しても負傷しない措置をとり、その措置がとれない以上は訓練を差し控える業務上の注意義務があるとした。

第13条第2項の指揮監督権が、権限であると同時に安全確保上の義務の根拠となることを示した先例である。

4 消防職員の消防活動と国家賠償

最判昭和53年7月17日(民集32巻5号1000頁)

消防職員の消火活動後の再燃により損害が生じた事案において、公権力の行使に当たる公務員の失火による国または公共団体の損害賠償責任については、国家賠償法第4条により失火ノ責任ニ関スル法律が適用され、当該公務員に重大な過失があることを要すると判示した。

消防職員の消火活動上の過誤について、市町村の賠償責任の成立要件を重過失に限定する判断であり、第11条・第14条に基づき職務に従事する消防職員の行為責任を考える際の出発点となる。

5 消防長の消防同意と国家賠償

神戸地判平成15年5月20日

火災被害者が市に対し国家賠償を求めた事案において、建築確認の対象は申請に係る建物の計画が建築関係規定に適合するか否かにとどまり、消防長の同意は建築主事に対する行政相互間の行為であって建築主事の確認処分と独立に違法を論ずる意味はないとした。是正措置命令についても、権限不行使に著しい裁量権の濫用があったとはいえないと判断されている。

消防長の権限行使のうち、消防同意のように行政機関相互の内部行為に位置づけられるものについては、対外的な違法性判断の対象とならないことを示す。


八 実務上の留意点

1 条例・規則の整備点検

第10条第1項の条例事項(消防本部・消防署の設置、位置、名称、消防署の管轄区域)と第11条第2項の条例事項(消防職員の定員)は、いずれも議会の議決を要する。庁舎移転、署所の統廃合、管轄区域の変更を行う場合、条例改正の手当てを欠くと組織の設置根拠に瑕疵が生じる。広域化や庁舎の建替えの検討にあたっては、早い段階で条例改正のスケジュールを工程に組み込む必要がある。

一方、消防署の内部組織は消防長が市町村長の承認を得て定めれば足りる(第10条第2項後段)。ここを規則事項と誤解して不要な規則改正を繰り返している例、逆に市町村長の承認を得ずに消防長限りで組織を改編している例のいずれも見受けられる。

2 定数条例と会計年度任用職員

第11条第2項ただし書により、臨時または非常勤の職は条例定数の対象外である。会計年度任用職員を活用して事務職員を配置する場合、定数条例の改正を要しないが、常勤職への転換を行う際には定数枠の確認が必要となる。定数超過のまま常勤職を任用した場合、任用行為の効力に疑義が生じ得る。

3 共同処理形態における名義の確認

一部事務組合・広域連合が消防本部を設置している場合、条例・規則の制定主体、消防長の任命権者、承認権者はいずれも組合側である。構成市町村の長ではない。文書の名義、処分庁の表示、審査請求の教示文で誤りが生じやすい箇所であり、規約と組合条例の確認を怠らないことが求められる。

事務委託の場合、委託市町村の区域における消防法上の権限は受託市町村の消防長・消防署長が行使する。処分の名義と管轄の確認は、事案ごとに委託の範囲を規約に遡って確認するのが安全である。

4 消防法上の権限主体の特定

消防法上の措置命令、立入検査、消防同意等の権限は消防長または消防署長に帰属する。訴訟・審査請求の被告・処分庁の特定にあたっては、市町村長ではなく消防長または消防署長を確認する。消防本部を置かない市町村では消防法第3条の読替えにより市町村長が権限主体となるため、非常備町村の事案では取扱いが逆転する。

5 ハラスメント事案への対応

長門市事件と糸島市事件は、いずれも消防長が任命権者として重い処分を選択し、下級審で取り消された後に最高裁で処分が是認されたという経過をたどっている。糸島市事件の最高裁判断は、行為を個別に切り分けて量定を検討する手法を退け、行為の期間・回数・被害者数を通じた組織全体への影響から評価すべきものとした。

実務上は、①ハラスメント行為の記録を期間・回数・対象者の広がりが分かる形で蓄積すること、②消防組織の指揮命令系統と職務の危険性を踏まえた影響評価を処分理由書に反映させること、③処分後の職場復帰可能性についても資料を整えておくことが、処分の適法性を支える。訓練と指導の名を借りた行為が問題となる場面が多く、第13条第2項の指揮監督権が濫用に転化しないよう、訓練計画そのものの適正確保が予防策となる。

6 訓練事故と安全配慮義務

宮崎市消防訓練事故事件が示すとおり、消防署長は所属職員に対する指揮監督権を有する以上、訓練の危険性に応じた安全措置を講ずる義務を負う。安全措置を講じられない場合には訓練を実施しない判断が求められる。訓練計画の決裁、安全管理者の指定、危険度に応じた立会いの記録は、事故発生時の責任判断を左右する。

7 現況データの把握

令和7年4月1日現在の主な数値は次のとおりである(令和7年版消防白書)。

  • 消防本部 720本部
  • 消防署 1,716署
  • 消防職員 169,730人(うち消防吏員168,230人、女性消防職員6,993人)
  • 常備化市町村 1,690市町村
  • 非常備町村 29町村(7都県、うち21町村が島しょ)
  • 消防団 2,169団、消防団員732,223人

消防団員数は減少傾向が続いており、第9条第3号の機関が実質的に機能し得る人員をいかに確保するかが、第9条の義務履行の実質面での課題となっている。


参考資料


無料相談をご利用ください。 https://compliance21.com/contact/

Follow me!