序 四か条の位置づけ

消防組織法第3章「地方公共団体の機関」は、第6条から第8条までで市町村消防の責任・管理・費用負担という原則を置き、第9条から第13条までで消防機関の設置と組織上の頂点(消防長・消防署長)を定める。これに続く第14条から第17条までの四か条は、その組織を実際に動かす人、すなわち消防職員に関する規律をまとめて扱う部分である。

四か条の役割分担は次のとおり整理できる。

見出し規律の対象
第14条消防職員の職務職務遂行の基本原則(服務の側面)
第15条消防職員の任命任命権の所在と幹部職の資格要件
第16条消防職員の身分取扱い等地方公務員法との適用関係、階級・訓練・礼式・服制
第17条消防職員委員会職員の意見を消防事務に反映させる常設機関

消防団については第18条から第25条までに、これと対をなす規定が置かれる。第14条と第21条(消防団員の職務)、第15条と第22条(消防団員の任命)、第16条と第23条(消防団員の身分取扱い等)が、それぞれ条文構造上の姉妹規定である。消防職員側にのみ第17条(委員会)が置かれている点が、両者の顕著な差異となる。


第1章 条文原文

以下は、令和8年9月現在施行されている条文である。

第14条

(消防職員の職務) 第十四条 消防職員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する。

第15条

(消防職員の任命) 第十五条 消防長は、市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する。
2 消防長及び消防署長は、これらの職に必要な消防に関する知識及び経験を有する者の資格として市町村の条例で定める資格を有する者でなければならない。
3 市町村が前項の条例を定めるに当たつては、同項に規定する者の資格の基準として政令で定める基準を参酌するものとする。

第16条

(消防職員の身分取扱い等) 第十六条 消防職員に関する任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)の定めるところによる。
2 消防吏員の階級並びに訓練、礼式及び服制に関する事項は、消防庁の定める基準に従い、市町村の規則で定める。

第17条

(消防職員委員会) 第十七条 次に掲げる事項に関して消防職員から提出された意見を審議させ、その結果に基づき消防長に対して意見を述べさせ、もつて消防事務の円滑な運営に資するため、消防本部に消防職員委員会を置く。
一 消防職員の給与、勤務時間その他の勤務条件及び厚生福利に関すること。
二 消防職員の職務遂行上必要な被服及び装備品に関すること。
三 消防の用に供する設備、機械器具その他の施設に関すること。
2 消防職員委員会は、委員長及び委員をもつて組織する。
3 委員長は消防長に準ずる職のうち市町村の規則で定めるものにある消防職員のうちから消防長が指名する者をもつて充て、委員は消防職員(委員長として指名された消防職員及び消防長を除く。)のうちから消防長が指名する。
4 前三項に規定するもののほか、消防職員委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、消防庁の定める基準に従い、市町村の規則で定める。


第2章 趣旨・立法背景

2-1 自治体消防発足時の設計と国家公務員法モデル

昭和22年法律第226号の制定当時、消防職員に関する規定は現行とかなり異なる姿をしていた。制定時の第13条は「市町村の消防長は、市町村長の定める基準により、当該市町村の消防職員を任命し、一定の事由により罷免する。市町村の消防長は、これらの職員を指揮監督する」と定め、第14条は「消防署長は、上司の指揮監督を受け、管轄区域内における消防事務を執行し、部下の職員を指揮監督する」として、現在の第14条とは異なり消防署長の職務規定であった。身分取扱いは第15条が担い、「消防職員の任免、給與、服務その他の事項は、國家公務員法の精神に則り、市町村條例でこれを定める」とされていた。

地方公務員に関する一般法がまだ存在しなかった時期に、国家公務員法の理念を借りて市町村条例に委ねるという過渡的な構成が採られていたわけである。翌昭和23年法律第187号により、消防職員の任命・罷免は消防長が市町村長の承認を得て行うものと改められ、任命権の所在をめぐる現行第15条第1項の骨格がこの段階で形成された。

2-2 地方公務員法制の整備と一般法への接続

昭和25年に地方公務員法が制定されると、消防職員の身分取扱いを条例に丸投げしておく必要はなくなった。昭和26年法律第18号は、消防職員および消防団員の任免・給与・服務等について地方公務員法の各相当規定が適用されるよう改正を行い、その附則には、各市町村に地方公務員法の相当規定が適用されるまでの経過措置が置かれた。現行第16条第1項が「この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法……の定めるところによる」という一般法接続型の書き方をしているのは、この時期の転換に由来する。

2-3 昭和34年の任命資格制度と昭和38年の全面再編

消防本部・消防署の全国的な整備が進むにつれ、その長にどの程度の経験を求めるかが課題となった。昭和34年、消防長および消防署長の資格を政令で定める仕組みが導入され、これを受けて市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令(昭和34年政令第201号)が制定された。消防長は消防本部の事務を統括して消防職員を指揮監督する立場にあり、判断力・統率力・管理能力を担保する必要があるという説明が、後年の消防庁資料でも一貫して用いられている。

条文構造が現行の形にほぼ整うのは昭和38年法律第89号である。同法により、

  • 第14条の2 消防職員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する。
  • 第14条の3 消防長は、政令で定める資格を有する者のうちから市町村長が任命し、消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する。
  • 第14条の4 消防職員に関する任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法の定めるところによる。/消防吏員の階級並びに訓練、礼式及び服制に関する事項は、消防庁の定める基準に従い、市町村の規則で定める。

という三か条が置かれた。同時に消防団側にも第15条の4から第15条の6までの対応規定が設けられ、職員と団員を対称的に規律する構成が完成した。現行第14条・第15条・第16条は、この三か条を条番号の繰上げにより整理したものである。

2-4 消防職員委員会の創設と団結権問題

第17条は、四か条のなかで最も新しく、かつ最も政治的な経緯を背負う規定である。

地方公務員法第52条第5項は、警察職員と消防職員について、勤務条件の維持改善を目的として当局と交渉する団体の結成・加入を禁じている。日本政府は、ILO結社の自由委員会において日本の消防職員は警察と同視すべき職務に当たるとの見解を踏まえ、また労働問題懇談会条約小委員会の報告を踏まえて、昭和40年にILO第87号条約を批准した。ところが昭和48年、ILO条約勧告適用専門家委員会から、消防職員の職務が同条約第9条にいう軍隊・警察に当たるかについて疑義が示され、以後長く争点として残ることとなった。

この膠着を動かしたのが、平成7年6月の自治大臣と自治労委員長との合意である。地方公務員法を改正して団結権そのものを認めるのではなく、消防組織法を改正して各消防本部に職員の意思疎通を図る新たな組織を設けるという解決が選ばれた。ILO条約勧告適用委員会もこの合意を歓迎する旨の報告を採択した。これを受けて、消防組織法の一部を改正する法律が第134回国会で全会一致により成立し、平成7年10月27日法律第121号として公布された。消防庁長官通知(平成7年10月27日消防総第727号ほか)は、改正内容を消防職員委員会の設置と、災害の規模等に照らし緊急を要する場合等における消防の応援の特例の創設としている。委員会に関する部分は平成8年10月1日から施行された。

制度の目的として消防庁が掲げるのは、消防職員から広く意見を求めることで職員間の意思疎通を図り、消防事務に職員の意見を反映しやすくして士気を高め、消防事務の円滑な運営に資するという点である。第17条第1項柱書の文言はこの説明をそのまま条文化したものといえる。他方、消防庁自身の検討会報告書は、この制度が被服・装備品や施設・設備といったいわゆる管理運営事項をも調査審議の対象とすること、そして消防職員に団結権が認められていないことから実態に即した対応策として導入されたものであることに留意すべきだとしている。代償措置としての性格が公式に確認されている点は、条文解釈上も見落とせない。


第3章 文理解釈

3-1 第14条

条文はわずか一文であり、「消防職員」「上司の指揮監督を受け」「消防事務に従事する」の三要素からなる。

「消防職員」は第4条第2項第5号の括弧書きにより「消防吏員その他の職員」と定義されている。消防吏員に限られないから、消防本部の事務職員、通信員、技術職員も本条の適用対象である。

「上司」については法律上の定義がない。組織法上の指揮監督系統は、消防長が消防本部の事務を統括して消防職員を指揮監督し(第12条第2項)、消防署長が消防長の指揮監督を受けて消防署の事務を統括し所属の消防職員を指揮監督する(第13条第2項)という構造で示される。本条の「上司」はこれらの職に限られず、職制上その職員の職務を指揮監督する地位にある者を広く指すと解される。市町村規則や消防長の定める規程(消防本部組織規則、消防署の組織に関する規程等)で課長・係長・隊長といった中間の職が置かれ、それぞれが上司の命を受けて所属職員を指揮監督する旨が定められているのが実務の姿である。

「消防事務」は、第1条の任務規定に対応する市町村の消防に関する事務全般を指す。消火・救急・救助のような現場活動に限らず、予防査察、火災調査、庶務・人事・経理も含む。

本条は職務命令に従うべき義務を独立に創設した規定というより、地方公務員法第32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)を消防組織の実情に即して確認したものと位置づけるのが穏当である。第16条第1項が服務について地方公務員法の適用を明示していることと合わせて読めば、二重の根拠が用意されている構造が見えてくる。

3-2 第15条

第1項は任命権の所在を二段構えで定める。消防長は市町村長が任命する。消防長以外の消防職員は、市町村長の承認を得て消防長が任命する。

地方公務員法第6条第1項は、消防長(市町村が組合を組織して維持する消防の消防長を含む)を任命権者の一つとして明示している。したがって消防長以外の消防職員については、任命権者はあくまで消防長であり、市町村長の「承認」は任命権の帰属を移すものではなく、任命行為が効力を生ずるための手続要件と解される。市町村長は消防を管理する立場にあり(第7条)、定員は条例事項である(第11条第2項)から、その統制手段として承認が置かれている。

第2項は消防長および消防署長に資格要件を課す。「これらの職に必要な消防に関する知識及び経験を有する者の資格として市町村の条例で定める資格」という書き方から明らかなように、資格の内容決定権は市町村の条例に属する。

第3項は、その条例を定めるに当たって「政令で定める基準を参酌するものとする」と規定する。地方分権改革でいう義務付け・枠付けの類型のうち、最も緩やかな「参酌すべき基準」である。市町村は政令の基準を十分に参照して検討したうえであれば、地域の実情に応じて異なる内容を定めることが許容される。従うべき基準や標準とは拘束の度合いが異なる点は、条例立案の実務上、正確に押さえておく必要がある。

なお、資格要件が課されるのは消防長と消防署長に限られ、消防次長や出張所長には及ばない。

3-3 第16条

第1項は「任用、給与、分限及び懲戒、服務その他身分取扱い」を対象とし、「この法律に定めるものを除くほか」地方公務員法によるとする。除外される「この法律に定めるもの」の代表例が、第15条(任命権と資格)、第16条第2項(階級・訓練・礼式・服制)、第17条(委員会)である。逆にいえば、これら以外の局面では地方公務員法が全面的に適用される。分限(第27条・第28条)、懲戒(第29条)、服務(第30条以下)、勤務条件に関する措置要求(第46条)、不利益処分についての審査請求(第49条の2)はいずれも消防職員に及ぶ。適用が排除されるのは、職員団体に関する第52条第5項の場面である。

第2項は対象を「消防吏員」に限定している。第1項が「消防職員」であるのと対照的であり、階級制度は消防吏員のみを対象とすることが文理上明らかである。消防本部の一般事務職員に階級はない。

規範の階層は、消防庁の定める基準(告示)に従い、市町村の規則で定める、という構造である。市町村規則で定めるべき事項とされている以上、条例では代替できない。また「基準に従い」という文言は、参酌基準よりも強い拘束を意味する。

3-4 第17条

第1項柱書は、委員会の作用を「審議させ」「意見を述べさせ」と使役形で書き、その上位目的を「消防事務の円滑な運営に資するため」としている。委員会が意見を述べる相手方は消防長である。条文は消防長が委員会の意見に拘束される旨を定めておらず、諮問機関的な性格をもつ。

第1項各号は審議対象を三つに限定列挙する。第1号は勤務条件および厚生福利、第2号は被服および装備品、第3号は設備・機械器具その他の施設である。第2号・第3号は本来的な管理運営事項に踏み込む内容であり、職員団体との交渉事項から除かれるはずの領域が、あえて委員会の審議対象に取り込まれている。

第3項は人事の仕組みを定める。委員長は「消防長に準ずる職のうち市町村の規則で定めるもの」にある消防職員から消防長が指名する。委員は消防職員のうちから消防長が指名する。委員長として指名された者と消防長自身は委員から除かれる。法文上、委員の選出はすべて消防長の指名によっており、職員による選挙も推薦も規定されていない。職員の推薦に基づく指名という仕組みは、後述のとおり告示のレベルで補われている。

第4項は組織・運営の細目を、消防庁の定める基準に従い市町村規則に委ねる。この委任に基づくのが消防職員委員会の組織及び運営の基準(平成8年消防庁告示第5号)である。


第4章 用語解説

消防職員 消防吏員その他の職員(第4条第2項第5号)。消防本部および消防署に置かれ(第11条第1項)、定員は条例で定める。ただし臨時または非常勤の職はこの限りでない(同条第2項)。

消防吏員 消防職員のうち、階級を有し、消防活動に従事する職員。消防法上、立入検査(第4条)、火災警戒区域・消防警戒区域の設定(第23条の2、第28条)、火災原因調査(第31条以下)など、権力的作用の担い手として個別に位置づけられている。

上司 職制上、当該職員の職務を指揮監督する地位にある者。法律上の定義はなく、消防長・消防署長のほか、規則・規程で置かれる中間管理職を含む。

参酌すべき基準 地方分権改革において整理された義務付け・枠付けの類型の一つ。地方公共団体が条例を定めるに当たり、国の定める基準を十分参照した上で、地域の実情に応じて異なる内容を定めることが許される。従うべき基準(逸脱不可)、標準(合理的理由があれば異なる定めが可能)よりも拘束力が弱い。

消防吏員の階級 消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)第1条は、消防総監、消防司監、消防正監、消防監、消防司令長、消防司令、消防司令補、消防士長および消防士を掲げる。昭和43年の改正により、特に必要があるときは消防士の階級を消防副士長と消防士に区分できるものとされ、実務上は10階級として運用されている。同基準第2条は消防長の職にある者の階級を定めており、消防総監は特別区の消防長、消防司監は指定都市または人口70万人以上の市町村の消防長、消防正監は消防吏員200人以上または人口30万人以上、消防監は消防吏員100人以上または人口10万人以上、それ以外は消防司令長という対応になっている。消防庁資料によれば、全国728消防本部のうち消防長が消防司令長の階級にある本部は262本部(約36パーセント)であった。

意見取りまとめ者 消防職員から提出された意見を取りまとめて委員会に提出する者。消防長が消防職員の推薦に基づき指名し、委員との兼任はできない(平成8年消防庁告示第5号第5条の2)。平成17年の告示改正で創設された。任期は2年で、引き続き2期を超えることはできない。

消防職員委員会の組織及び運営の基準 平成8年7月5日消防庁告示第5号。第17条第4項の委任に基づく。平成17年、平成18年、平成30年、令和7年の各改正を経ている。


第5章 改正沿革

5-1 四か条に共通する条番号の変遷

平成18年法律第64号(平成18年6月14日公布・同日施行)は、消防組織法の全条文にわたって見出しおよび項番号を付し、表現の適正化と枝番号の整理を行った。市町村の消防の広域化に関する第4章(第31条から第35条まで)を新設したのに伴う大規模な再編である。四か条の対応関係は次のとおりである。

改正前改正後見出し
第14条の2第14条消防職員の職務
第14条の3第15条消防職員の任命
第14条の4第16条消防職員の身分取扱い等
第14条の5第17条消防職員委員会

同日、消防組織法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整理に関する政令(平成18年政令第214号)および同総務省関係省令の整理に関する省令(平成18年総務省令第96号)等により、条ずれの整理が一斉に行われた。市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令(当時の昭和34年政令第201号)の第1条・第2条第1項では「第14条の3第2項」が「第15条第2項」に改められ、消防職員委員会の組織及び運営の基準第6条第1項では「第14条の5第1項各号」が「第17条第1項各号」に改められた。市(町・村)消防本部消防職員委員会に関する規則(例)についても同様の整理が行われている。

この整理には、条文本体だけを追っていると気づきにくい範囲が含まれていた。船員保険法施行令、雇用保険法施行令、消費税法施行令、電波法施行規則、有線電気通信法施行規則、地方税法施行規則といった、消防と直接の関係が薄い法令群にも消防組織法の条項引用があり、いずれも同日付で改められている。消防組織法の条番号を引用する自治体例規を点検する際は、この平成18年6月14日という日付が一つの分水嶺となる。

5-2 第15条第2項・第3項の改正(平成25年)

四か条のうち、実体面で最も大きな変更を受けたのが第15条である。

改正前の第15条第2項は、消防長および消防署長を「政令で定める資格を有する者」でなければならないとしていた。その内容を定めていたのが市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令(昭和34年政令第201号)である。同政令は数次の改正を経ており、直近では平成21年政令第204号(平成21年8月14日公布・同日施行)が資格要件を拡大した。消防署長等の職にあったことを要する期間を2年以上から1年以上に、消防団長の職にあった期間を4年以上から2年以上に、市町村の部長・課長等の職にあった期間を4年以上から2年以上にそれぞれ短縮するとともに、消防本部・市町村行政のそれぞれについて「前号に規定する職を補佐する職」を条例で定める職として資格に加えるものであった。

その後、地方分権改革推進委員会の勧告を踏まえ、地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(平成25年法律第44号。いわゆる第3次一括法)により第15条が改正された。消防庁の説明によれば、政令制定当時に比べて消防技術の向上、災害対応事例の蓄積、教育訓練の充実により消防職員として錬成できる機会が増えており、かつその機会は市町村ごとに異なるため、国が一律に資格要件を定める必要性は低下しているという判断である。改正後は、消防長および消防署長の資格は政令で定める基準を参酌して各市町村が条例で定めることとなった。施行日は平成26年4月1日である。

参酌の対象となる新たな政令が、市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令(平成25年政令第263号。平成25年9月6日公布、平成26年4月1日施行)である。国の関与は極力抑制すべきという地方分権の趣旨に基づき、必要最小限の基準にとどめられた。

消防長の資格の基準(第1条)は次の三類型である。

  1. 消防職員として消防事務に従事した者で、消防署長等の職に1年以上あったもの
  2. 消防団員として消防事務に従事した者で、消防団長の職に2年以上あったもの
  3. 市町村の行政事務に従事した者で、市町村の長の直近下位の内部組織の長等の職に2年以上あったもの

消防署長の資格の基準(第2条)は次の三類型である。

  1. 消防吏員として消防事務に従事した者で、消防司令以上の階級に1年以上あったもの
  2. 消防吏員として消防事務に従事した者で、消防司令補以上の職に3年以上あったもの
  3. 消防団員として消防事務に従事した者であって、消防団の副団長等の職に3年以上あったもので、消防庁長官が定める教育訓練を消防大学校において受けたもの

第3号の教育訓練については、消防署長の資格の基準に係る教育訓練及びその期間を定める件(平成25年消防庁告示第15号)が定めている。新政令の施行に伴い、昭和34年政令第201号は廃止された。

旧政令が11号にわたる詳細な列挙であったのに対し、新政令が各3号の簡素な基準に絞られている点は、参酌基準という制度趣旨の表れである。市町村は、この3類型を出発点として、自らの組織規模や人事運用に即した資格要件を条例で組み立てることになる。

5-3 第16条第2項関係の告示の変遷

消防吏員の階級に関する告示は、昭和37年消防庁告示第6号として「消防吏員の階級準則」の名で制定された。昭和43年消防庁告示第3号により消防副士長の区分が可能となり、実質10階級となった。平成18年消防庁告示第11号は題名を「消防吏員の階級の基準」に改めている。消防組織法の条文が「消防庁の定める基準に従い」としているのに対し、告示の題名が「準則」のままであった不整合を、平成18年の法改正に合わせて解消したものである。その後、平成18年消防庁告示第29号、平成25年消防庁告示第5号による改正がある。

5-4 第17条関係の告示の変遷

消防職員委員会の組織及び運営の基準(平成8年消防庁告示第5号)は、これまで四度の改正を受けている。

  • 平成17年5月9日消防庁告示第6号(平成17年8月1日施行) 意見取りまとめ者制度を創設した。総務大臣と自治労委員長との定期協議における合意に基づく改正である。
  • 平成18年6月14日消防庁告示第31号 法改正に伴う引用条項の整理。
  • 平成30年9月6日消防庁告示第17号(平成31年4月1日施行) 委員長の任期を1年とする規定の整備等。同日付の消防消第243号により、市(町・村)消防本部消防職員委員会に関する規則(例)も示された。
  • 令和7年5月27日消防庁告示第4号(公布日施行) 委員会の会議の開催に関する規定を改めた。

令和7年改正の内容は、第7条第1項を「委員会の会議は、毎年度の前半に一回開催することを常例とするとともに、必要に応じ、開催するものとする」から「委員会の会議は、毎年度一回以上開催するものとする」に改めるというものである。消防庁消防・救急課長通知(令和7年5月27日消防消第174号)は、提出意見の内容・件数や審議に要する時間、業務の繁閑の状況に応じて適切かつ十分な審議を進めるため、任意の時期での開催や複数回開催といった柔軟な対応を促進する趣旨だと説明している。

同通知が公表した令和5年度の運営状況調査結果によれば、調査対象722消防本部のうち720本部が委員会を開催し(99.7パーセント)、うち681本部が年1回の開催であった。開催時期は677本部(94.0パーセント)が年度前半であった。従来の「年度前半に1回」という常例規定が、そのまま実務の定型となっていた実態がうかがえる。


第6章 法的性格と解釈上の論点

6-1 第14条にいう職務命令の限界

第14条は職務命令服従義務を確認する規定であるが、いかなる命令にも従わなければならないことを意味しない。地方公務員法第32条の解釈として、権限ある上司が発した、職務に関する、重大かつ明白な瑕疵のない命令に限って服従義務が生ずると解されている。

消防組織においては、災害現場という時間的余裕のない状況での命令、および訓練という身体的負荷を伴う場面での指導が日常的に存在する。この特性は、後述する最高裁令和7年9月2日判決が示すとおり、指揮監督権限の行使が広く許容される根拠にはならず、むしろ優越的関係を背景とした不適切な言動の危険をはらむ要素として評価されている。第14条の「上司の指揮監督」は、指揮する側の権限であると同時に、その権限の範囲を画する規範でもある。

6-2 市町村長の承認を欠く任命の効力

第15条第1項後段の「市町村長の承認」の性質については、任命行為の効力要件と解するのが通説的である。承認を欠く任命は瑕疵を帯びることになるが、その瑕疵が重大かつ明白といえるかは別問題である。任命が有効であることを前提に長期間職務が遂行され、給与が支払われ、対外的に権限が行使されてきたような場合には、いわゆる事実上の公務員の法理により、当該職員が行った処分等の効力を維持する必要が生ずる。この点は条文上明示がなく、逐条解説書でも扱いが薄い領域である。

6-3 資格要件を欠く消防長・消防署長の任命

第15条第2項が「有する者でなければならない」という強い書き方をしていることから、資格要件を欠く者を消防長または消防署長に任命することは違法である。もっとも、その違法が任命の無効をもたらすか、さらにその者が行った消防法上の処分(改善命令、使用停止命令、立入検査等)の効力にまで及ぶかは、別に検討を要する。

消防長・消防署長は、消防法上、建築同意(第7条)、防火管理者の選任命令(第8条第3項)、防火対象物に対する措置命令(第5条、第5条の2、第5条の3)、火災原因調査(第31条)など多数の権限主体として位置づけられている。これらの処分の効力を任命の瑕疵によって一律に覆すことは、法的安定性の観点から現実的ではない。事実上の公務員の法理の適用場面として、実務上は処分の効力を維持したうえで、任命行為自体の是正を図る扱いになると考えられる。

6-4 条例未制定の市町村における消防長の任命

平成25年改正により、資格要件の内容決定は条例に委ねられた。裏を返せば、条例を定めていない市町村では、第15条第2項が要求する「市町村の条例で定める資格」が存在しないことになる。条例制定は市町村の裁量ではなく、消防本部を置く以上は義務的なものと解さざるを得ない。広域化により消防事務を一部事務組合や広域連合が処理する場合には、当該組合等の条例で定めることになる。組合設立時の例規整備において見落とされやすい項目である。

6-5 階級を規則事項とすることの帰結

第16条第2項は階級を市町村規則の所管事項としている。消防吏員の階級の基準第2条が消防長の階級を消防本部の規模に対応させているため、規模の異なる消防本部が広域化により統合されると、統合前に消防長であった者の階級と、統合後の消防本部の規模に対応する階級とが食い違う事態が生ずる。

平成18年法律第64号の附則第2条は、この問題に対処する経過措置を置いた。新法第16条第2項に適合する消防長の階級を定めている広域化対象市町村が広域化を行った場合、広域化後の市町村は、同項の規定にかかわらず、市町村規則により、広域化前日に消防長であった者が当該市町村の消防吏員でなくなる日までの間、従前の階級を用いることができる旨の特例を定めることができる、という内容である。広域化の推進という政策目的のために、階級制度の統一性を一時的に譲った規定であり、広域化を検討する消防本部にとっては実務上の手当てとして意味をもつ。

もう一つの論点が役職定年制との関係である。令和5年4月1日から、消防職員を含む地方公務員の定年が60歳から65歳まで2年に1歳ずつ段階的に引き上げられ、管理監督職の職員が60歳となった場合にその翌日から最初の4月1日までの間に管理監督職以外の職へ異動させる役職定年制が導入された。消防庁の「定年引上げに伴う消防本部の課題に関する研究会」では、役職定年制に伴う消防吏員の階級の取扱いが独立の検討項目として扱われている。管理監督職から降任した職員の階級をどう扱うかは、第16条第2項に基づく市町村規則の設計問題として現れる。

6-6 消防職員委員会の限界と告示による補完

第17条の枠組みには、条文だけを読むと三つの構造的な限界がある。

第一に、委員はすべて消防長が指名する。第二に、委員会は意見を述べるだけで、消防長を拘束しない。第三に、委員会は消防本部に置かれるものであり、消防本部を置かない市町村(消防団のみを設ける市町村)の職員には制度が及ばない。

このうち第一の点は、告示によって相当程度補われている。消防職員委員会の組織及び運営の基準第4条は、消防長が組織区分ごとに委員を指名するに当たり、組織区分ごとに指名する委員の半数については当該組織区分に所属する消防職員の推薦に基づき指名するものとしている。第5条の2は、意見取りまとめ者を消防職員の推薦に基づき指名するものとする。

もっとも、これらはいずれも告示による基準にとどまり、法律上の権利ではない。令和7年5月27日消防消第174号が公表した令和5年度調査結果では、委員7,166人のうち職員の推薦に基づき指名された委員は3,673人(51.3パーセント)、女性委員は345人(4.8パーセント)、管理職の委員は607人(8.5パーセント)であった。委員の実際の推薦方法として「所属長による推薦」が158本部(21.9パーセント)、「所属長による職務命令」が13本部(1.8パーセント)を占めている。同通知は、委員の推薦は当該組織区分に所属する職員の話し合いにより行われることが望ましく、職員からの推薦が原則であるとして是正を求めている。

第二の点、すなわち委員会の意見が消防長を拘束しないことについては、告示第8条が委員会の審議結果を消防長に提出することを、第8条の2が意見提出者・意見取りまとめ者への通知と全職員への周知を定めることで、透明性による実効性確保が図られている。令和5年度の審議結果は、審議件数5,171件のうち「実施が適当」1,562件(30.2パーセント)、「諸課題を要検討」1,537件(29.7パーセント)、「実施は困難」239件(4.6パーセント)、「現行どおり」1,589件(30.7パーセント)であった。また令和4年度に審議された4,690件のうち、令和6年3月31日時点で実施に至ったものは1,327件(28.3パーセント)、「実施が適当」とされた1,420件に限れば818件(57.6パーセント)が実施されている。

制度発足以来の累計審議件数は146,782件、うち「実施が適当」とされたものは55,195件(37.6パーセント)である。開催率は平成8年度の85.5パーセントから平成15年度に100パーセントに達し、以後ほぼ全数開催が維持されている。

第三の点については、消防本部を置かない市町村の消防職員という概念自体が現行制度上は想定されにくい。第11条第1項が消防職員を置く場所を消防本部および消防署に限定しているためである。

6-7 団結権問題の現状

消防職員委員会制度の創設後も、ILO結社の自由委員会は平成14年に消防職員への団結権付与について全ての関係者との協議を強く勧告し、以後平成15年、平成18年、平成20年と同様の報告を繰り返している。

消防庁が設置した消防職員の団結権のあり方に関する検討会は、平成22年12月に報告書を取りまとめた。同報告書は、地方公務員法第52条第5項から「及び消防職員」を削除して職員団体の結成・加入を認め、同法第55条のルールに基づき当局と交渉できるようにする案を含む複数の選択肢を提示している。政府は平成23年に自律的労使関係制度に関する法案を国会に提出したが、成立には至らなかった。

現時点で地方公務員法第52条第5項は改正されておらず、消防職員委員会が唯一の制度的な意見反映経路である。第17条の解釈・運用にあたっては、この制度が代償措置として機能しているかどうかという視点が常に伴う。


第7章 裁判例

7-1 裁量統制の一般的枠組み

神戸税関事件(最大判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁)

公務員に対する懲戒処分について、懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分を行うか否か、いかなる処分を選ぶかを決定する裁量を有し、その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法となるとした。消防職員の懲戒をめぐる後掲各判決は、いずれもこの枠組みを前提としている。

分限処分に関する最判昭和48年9月14日(第二小法廷、民集27巻8号925頁)

地方公務員法第28条に基づく分限処分について任命権者に裁量権が認められること、および同条第1項第3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」の意義を示した先例である。分限処分は職員の責任を問う制裁ではなく公務能率の維持を目的とするものであり、その判断が合理性をもつものとして許容される限度を超える場合に違法となるとされる。

7-2 消防職員の懲戒処分

氷見市事件(最判令和4年6月14日、第三小法廷、令和3年(行ヒ)第164号、集民268号23頁)

氷見市の消防職員であった者が、上司および部下に対する暴行等を理由に停職2月の懲戒処分を受け、さらにその停職期間中に正当な理由なく暴行の被害者である部下に対して面会を求めたこと等を理由に停職6月の懲戒処分を受けた事案である。第一審は請求を棄却したが、原審(名古屋高裁金沢支部令和3年2月24日判決)は第2処分を取り消した。最高裁は、原判決中上告人敗訴部分を破棄して名古屋高等裁判所に差し戻した。停職期間中の被害者への働きかけを、処分に関する公正な審査を妨げる行為として重く評価した点に特徴がある。

糸島市事件(最判令和7年9月2日、第三小法廷、令和6年(行ヒ)第214号・第241号)

糸島市消防本部に勤務していた二名の消防職員が、部下に対する言動等を理由に、それぞれ停職6月の懲戒処分と懲戒免職処分を受けた事案である。第一審(福岡地判令和4年7月29日労働判例1279号5頁)および控訴審(福岡高判令和6年1月24日)はいずれも処分を裁量権の逸脱・濫用として取り消し、国家賠償請求も一部認容していた。最高裁は原判決を破棄し、両名の請求をいずれも棄却した。

判旨の骨格は次のとおりである。行為は訓練や指導の範疇を大きく逸脱し、部下に恐怖感・屈辱感を与えて人格を否定するにとどまらず家族を侮辱するものも含まれ、長期間にわたり多数回繰り返された非違の程度は重い。消防職員の職務上、厳しい訓練が必要となる場合があるとしても、指導の範疇を大きく逸脱する行為が許容される余地はない。消防組織においては職員間で緊密な意思疎通を図ることが職務の遂行上求められるところ、行為は著しく職場環境を悪化させ、消防組織の秩序や規律に看過し難い悪影響を及ぼす。多数の職員が職場復帰に反対する旨の書面を提出した事実も、その現れである。以上によれば、懲戒権者である消防長の判断は社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。

林道晴裁判官の補足意見は、消防組織が上下関係を基礎とした厳しい訓練を必要とする反面、優越的関係を背景とした不適切な言動の危険をはらむことを指摘し、対策の確実な実施を求めている。

この判決は、個々の行為の悪質性を切り分けて評価する原審の手法に対し、行為の継続期間、対象者の広がり、および組織全体に及ぶ影響という総体で評価する立場を示したものと読める。消防組織の特殊性が、行為者を免責する方向にではなく、悪影響を重く見る方向に働いている点は、第14条の指揮監督関係を考えるうえでも示唆的である。

7-3 消防職員の分限処分

長門市事件(最判令和4年9月13日、第三小法廷、令和4年(行ヒ)第7号、集民269号21頁)

長門市の消防職員が、平成24年以降、部下等の立場にあった約30人に対し、訓練中の暴行、「殺すぞ」等の暴言、卑わいな言動、土下座の強要など合計約80件の行為に及んだ事案である。消防長は、当該職員が消防職員としての資質を欠き、これは容易に矯正できない素質・性格によるもので配置転換を含め改善の余地がないこと、行為が職場の人間関係および秩序を著しく乱し消防組織全体への影響が大きいことを理由として、地方公務員法第28条第1項第3号に基づき分限免職処分を行った。

第一審(山口地判令和3年4月14日)および原審(広島高判令和3年9月30日)は、濃密な人間関係にある消防組織の独特な職場環境の存在と、処分前に改善の機会が与えられなかったことを理由に、行為が当該職員個人の矯正できない素質・性格のみに起因するとはいい難いとして、処分を取り消した。

最高裁はこれを破棄自判した。長期間にわたり多数の者に対して多岐にわたる悪質な行為を行ってきたこと、そこに表れた粗野な性格を簡単に矯正することはできず改善の余地がないとみることも不合理ではないこと、上司が部下に厳しく接する傾向等があったとしてもその判断は変わらないことを示している。

長期間にわたり悪質なハラスメントを繰り返し職場環境を著しく悪化させている場合には、改善矯正の機会を付与することなく能力・適格性の欠如を判断することも可能であるとした点、およびハラスメントの温床となる職場の雰囲気の存在が行為を容認する事情にはならないとした点が、実務への影響が大きい判示部分である。

7-4 四類型の関係

以上の裁判例は、次のように整理できる。

  1. 懲戒裁量の一般枠組み(神戸税関事件)
  2. 分限裁量の一般枠組み(最判昭和48年9月14日)
  3. 消防職員に対する懲戒処分への当てはめ(氷見市事件、糸島市事件)
  4. 消防職員に対する分限処分への当てはめ(長門市事件)

近年の一連の最高裁判決に共通するのは、ハラスメント行為を無効・違法と判断した原審を破棄する方向性である。消防に限らず、海遊館事件(最判平成27年2月26日)、加古川市事件(最判平成30年11月6日)と同じ流れに位置づけられる。消防固有の要素として付加されているのが、部隊活動を前提とする組織における規律と意思疎通の重み、および職務の危険性に由来する訓練の厳しさをどう評価するかという視点である。裁判所はこれを行為者に有利な事情としては扱っていない。


第8章 実務上の留意点

8-1 資格の基準を定める条例の点検

平成26年4月1日以降、消防長および消防署長の資格は市町村の条例事項である。条例が未制定であれば、第15条第2項が要求する資格そのものが存在しないことになる。次の点を確認しておきたい。

  • 条例が制定されているか。広域連合・一部事務組合の場合は当該団体の条例で定めているか。
  • 参酌の対象は平成25年政令第263号である。廃止された昭和34年政令第201号を引用したままの条例が残っていないか。
  • 平成21年政令第204号の改正時に「条例で定める職」「条例で定める期間」を定めた市町村は、その根拠条例が旧政令に基づくものであった可能性がある。新政令にはこの委任がないため、条例の建付けを見直す必要がある。
  • 参酌基準は逸脱を許容するが、逸脱するには地域の実情に照らした理由が要る。政令の3類型をそのまま条例化する例が多いものの、消防大学校の教育訓練の修了を加味するなど、独自の設計をしている団体もある。

8-2 階級に関する規則の点検

第16条第2項は市町村規則の所管事項である。消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)に従うことが求められるため、告示の階級名称および消防長の階級に関する対応関係と規則の内容が一致しているかを確認する。

役職定年制の導入により、管理監督職から降任した消防吏員の階級をどう扱うかという新たな課題が生じている。降任に伴って階級も引き下げるのか、階級は維持したまま職のみを異動させるのかは、規則の設計次第である。消防庁の研究会でも独立の検討項目とされており、団体ごとの整理が求められる。

8-3 消防職員委員会の運営における必須事項と推奨事項

令和7年5月27日消防消第174号は、令和5年度の運営状況調査を踏まえ、遵守すべき事項と望ましい取扱いとを区別して示している。実務上は次の区分を意識するとよい。

遵守すべき事項として通知が示すもの。

  • 委員の半数は、組織区分ごとに当該組織区分に所属する消防職員の推薦に基づき消防長が指名しなければならない。
  • 意見取りまとめ者は消防職員の推薦に基づき指名しなければならない。
  • 委員長の任期は1年としなければならない。再任は可能だが、委員の任期が2期を超えることが認められていないことから、2期を超えないことが望ましい。
  • 委員会の開催に当たり、消防職員全員に対しあらかじめ十分な期間を確保して日時および場所を周知し、意見を提出するための期間を十分に確保しなければならない。
  • 提出意見が審議事項に該当するかどうかは、消防長ではなく委員長が判断する。通常は委員会の庶務を担当する部課で判断して差し支えない。意見取りまとめ者等は、提出された意見をすべて委員会へ提出する。
  • 審議対象外とした場合は、意見提出者および意見取りまとめ者の双方に対し、その旨と理由を、会議を開く日までに通知しなければならない。
  • 消防長は、消防職員全員に対し、委員会の消防長に対する意見および処置の結果の要旨を周知する。

望ましい取扱いとして示されているもの。

  • 委員の推薦は、当該組織区分に所属する職員の話し合いにより行う。管理職による推薦は例外である。
  • 女性職員、若手職員、管理職員など幅広い人材が委員として参画できるよう努める。
  • 意見提出のための期間は、少なくとも1か月程度を確保する。
  • 匿名での意見提出が可能である旨を積極的に周知する。施錠した投函箱の休憩室設置、全職員宛て通知の発出、意見取りまとめ者に対する守秘の徹底といった取組例が挙げられている。
  • 議事録または議事概要を作成する。
  • 処置しなかった場合についても、その理由や進行状況を付して周知する。
  • 委員会事務局等は、毎年、新規採用者に対する説明会を実施するなど制度の周知に努める。

8-4 記名・匿名の取扱い

意見取りまとめ者を経由して意見を提出する場合、意見提出者の希望に応じて記名と匿名のいずれかを選択できる。職員個人の意見の提出であると認められる限り連名による提出も可能であり、記名希望者と匿名希望者が混在する場合は「記名を希望する意見提出者氏名ほか匿名○名」、全員が匿名を希望する場合は「匿名○名」という形で委員会に提出することができる。

令和5年度実績では、意見取りまとめ者を経由して提出された4,572件のうち、単独かつ匿名が2,044件(44.7パーセント)、連名かつ匿名が112件(2.4パーセント)であった。一方で、匿名で意見を提出しやすい環境づくりに資する取組を行っていない消防本部が474本部(65.7パーセント)にのぼっている。

8-5 令和7年告示改正への対応

第7条第1項が「毎年度一回以上開催する」に改められたことにより、開催時期の制約がなくなり、複数回開催も明示的に位置づけられた。従来の例規が「毎年度の前半に一回開催することを常例とする」という旧告示の文言をそのまま引き写している場合、規則の改正を要する。令和5年度調査では、平成30年告示改正に伴う規則改正を行っていない消防本部が14本部(1.9パーセント)存在した。告示改正のたびに規則を追随させる運用が定着していない団体があることを示している。

8-6 ハラスメント対応と懲戒・分限の選択

最高裁令和7年9月2日判決および同令和4年9月13日判決は、いずれも原審が処分を取り消した事案について、これを覆して処分を維持した。処分側にとっては追い風の判断であるが、実務上は次の点に留意する必要がある。

  • 両判決は、長期間・多数回・多数の被害者という事案の総体を評価した結果である。単発の行為について同様の結論が導かれるわけではない。
  • 分限免職(適格性の欠如)と懲戒免職(非違行為に対する制裁)は目的も要件も異なる。長門市事件は分限、糸島市事件は懲戒であり、同列に扱うことはできない。分限を選択する場合には、素質・性格に起因し矯正が容易でないという評価を裏づける事実の積み上げが要る。
  • 氷見市事件が示すとおり、処分後の言動、とりわけ被害者への接触は独立の懲戒事由となり得る。処分に伴う接触禁止の指示を明確にしておくことが実務的な備えとなる。
  • 林道晴裁判官の補足意見が対策の確実な実施を求めていることからすれば、研修の実施、相談窓口の整備、消防職員委員会を通じた職場環境に関する意見の把握といった予防措置の記録が、事後の処分の相当性判断に影響し得る。

8-7 消防職員委員会と勤務条件に関する措置要求の使い分け

消防職員には地方公務員法第46条の勤務条件に関する措置要求が認められている。人事委員会または公平委員会に対して行うものであり、審査と判定を経て、権限を有する機関に対する勧告等が行われる。

これに対し消防職員委員会は、消防長への意見具申にとどまり、法的な効果を伴わない。もっとも、審議対象が勤務条件にとどまらず被服・装備品・施設にまで及ぶ点は措置要求にない利点である。装備の更新や庁舎設備の改善といった課題は委員会に、給与・勤務時間に関する不満のうち法的な救済を求めるものは措置要求にというように、性質に応じた使い分けが可能である。令和5年度の審議結果でも、被服・装備品に関する意見1,391件のうち486件が「実施が適当」とされており、実現の経路として機能していることがうかがえる。


参考資料

法令

  • 消防組織法(昭和22年法律第226号) e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000226
  • 地方公務員法(昭和25年法律第261号) 特に第6条、第28条、第29条、第32条、第46条、第52条
  • 市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令(平成25年政令第263号) https://laws.e-gov.go.jp/law/425CO0000000263
  • 市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令(昭和34年政令第201号。平成26年3月31日限り廃止)

制定・改正法の原文

告示

通知・行政資料

裁判例


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