第1部 本稿の位置づけと読み方

1.1 シリーズにおける位置

本シリーズでは、公益通報者保護法(平成16年法律第122号。令和7年法律第62号による改正後のもの。以下「法」という。)の第1条から第24条まで、附則、別表、および別表第八号の法律を定める政令について、条文ごとの解説を終えた。応用編では、解説した規範を組織の内部文書と業務プロセスに変換する作業を扱っている。

対象は4類型である。企業のうち常時使用する労働者300人超の組織(第1回)、同300人以下の組織(第2回)、地方公共団体のうち職員300人超の団体(本稿)、同300人以下の団体(第4回)。

本稿は、公益通報者保護法という法律の存在自体を今日はじめて知った職員が、最後まで読めば自団体の規程案と書式一式を起案できる状態になることを目標とする。用語はすべて初出時に定義し、条文は原文を掲げてから噛み砕く。既に体制を有する団体は、第4部以降の点検表から入ってもよい。

1.2 地方公共団体を規律する三つの規範

民間事業者を規律するのは法と指針、そして指針の解説である。地方公共団体には、これに加えて消費者庁の地方公共団体向けガイドラインが重なる。

第一に、法。国会が定めた法律であり、違反には民事上の効果、刑事罰、行政上の措置が結びつく。

第二に、指針。正式名称は「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号。以下「指針」という。)である。法第11条第4項に基づく告示であり、指針に定める事項は法第11条第1項・第2項の義務の内容そのものとなる。指針違反は法違反である。

第三に、指針の解説。「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(令和8年3月31日一部改正、令和8年12月1日施行。以下「指針の解説」という。)は、告示ではなく消費者庁の行政解釈文書である。その記述は、指針本文、指針の趣旨、指針を遵守するための考え方や具体例、その他に推奨される考え方や具体例という四つの項目に分かれて示される。前三者が義務の内容に関わり、最後の項目は推奨にとどまる。本稿では、この区別を条ごとに明示する。両者を混同すると、義務でないものを義務と誤認して過大な体制を組むか、推奨事項を軽視して実効性を落とすかのいずれかに陥る。

第四に、地方公共団体向けガイドライン。「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」(平成29年7月31日制定、令和8年5月29日最終改正。以下「内部ガイドライン」という。)と、同(外部の労働者等からの通報)(同日最終改正。以下「外部ガイドライン」という。)の二本がある。いずれも地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の技術的な助言として位置付けられる。法的拘束力はないが、これに従わずに事故を起こした団体が、議会や住民、報道、訴訟の場で説明責任を果たすことは難しい。実務上は遵守を前提に設計する。

内部ガイドラインは、その位置付けについて次のとおり述べる。

なお、本ガイドラインは、地方自治法第 245 条の4第1項の規定に基づく技術的な助言として位置付けられるものであり、各地方公共団体において一層充実した通報対応の仕組みを整備及び運用すること、又は各地方公共団体の規模等の実情に応じた適切な取組を行うことを妨げるものではない。

本稿が扱うのは主として内部ガイドラインの領域、すなわち自団体の職員等からの通報である。ただし、都道府県や政令指定都市、中核市は、事業者に対する処分権限を有する行政機関として、外部の労働者等からの通報を受ける立場も併有する。この二つの立場は所管課も手続も別であり、混同は事故の原因となる。第2部で切り分ける。


第2部 地方公共団体はなぜ「事業者」なのか

2.1 「事業者」の定義

法第2条第1項は、「事業者」を「法人その他の団体及び事業を行う個人」と定義する。地方自治法第2条第1項は「地方公共団体は、法人とする」と定める。したがって地方公共団体は法にいう事業者に当たる。

指針も、用語の説明において次のとおり述べている。

「事業者」とは、法第2条第1項に定める「事業者」をいい、営利の有無を問わず、一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行を行う法人その他の団体及び事業を行う個人であり、法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれる。

指針の解説も、法第11条第1項及び第2項が事業者に義務を課すことを述べる際、その事業者に国の行政機関及び地方公共団体が含まれることを明記している。

「うちは民間企業ではないから関係ない」という理解は誤りである。地方公共団体は、法第11条の名宛人として、民間企業とまったく同じ体制整備義務を負う。

2.2 二つの顔──事業者としての顔と行政機関としての顔

地方公共団体は、公益通報者保護法において二つの立場に立つ。

第一に、事業者としての立場。自団体の職員が自団体の法令違反を通報してきた場合、その団体は法第11条の義務を負う事業者である。根拠は法第11条第1項・第2項、指針、内部ガイドライン。所管は通常、総務部門またはコンプライアンス所管部門である。

第二に、行政機関としての立場。ある民間事業者の従業員が、その事業者の法令違反を、処分権限を有する自治体に通報してきた場合、その団体は法第13条の義務を負う行政機関である。根拠は法第13条第1項・第2項、外部ガイドライン。所管は当該法令を所管する原課である。

法第13条第2項は次のとおり定める。

通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関(第二条第四項第一号に規定する職員を除く。)は、前項に規定する措置の適切な実施を図るため、第三条第一項第二号及び第六条第一項第二号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。

食品衛生法、廃棄物処理法、労働関係法令の一部、建築基準法、旅館業法、介護保険法など、都道府県・政令市・中核市・保健所設置市が処分権限を有する法律は多い。別表第八号の法律を定める政令が掲げる法律群のうち相当数が自治体の所管に係る。外部ガイドラインは、内部規程を作成したうえでウェブサイト等により外部に公表することを求めている。

各地方公共団体は、通報対応の仕組みについて、内部規程(条例を含む。)を作成し、ウェブサイト等を用いる方法により、外部の労働者等に対して公表する

内部の職員向け窓口は庁内周知で足りるのに対し、外部の労働者向け窓口は対外公表が求められる。この非対称を取り違え、外部向け窓口をウェブサイトに掲載していない団体は少なくない。設計の初期段階で確認しておきたい。

2.3 議会が「行政機関」から除外されている意味

法第2条第4項第2号は、行政機関の定義として次のとおり定める。

二 地方公共団体の機関(議会を除く。)

議会は法にいう行政機関ではない。したがって、職員が議会や議員に対して法令違反を伝えた行為は、法第3条第1項第2号の通報(いわゆる2号通報。処分等の権限を有する行政機関への通報)には当たらない。同項第3号の通報(いわゆる3号通報。その者に通報することが被害の発生・拡大の防止に必要と認められる者への通報)に該当するかどうかを個別に判断することになる。

他方、議会事務局の職員は当該地方公共団体の職員であり、その者の自団体への通報は内部公益通報となる。議会事務局を内部公益通報受付窓口の対象範囲から落としている規程が散見される。適用範囲条項の点検を要する。

2.4 「常時使用する労働者の数が300人超」の判定

法第11条第3項は、義務と努力義務の分水嶺を定める。

常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。

地方公共団体は一個の法人であるから、判定は団体単位で行う。知事部局だけ、あるいは市長部局だけを取り出して数えるのではない。都道府県はすべて、政令指定都市、中核市、施行時特例市、および人口おおむね数万人以上の市は、通常300人を超える。町村では300人以下となる団体が多い。

数え方で判断を要するのは次の類型である。

会計年度任用職員。常態として任用している限り算入する。繁忙期のみ一時的に任用する者は含まれない。実務上は、4月1日時点の任用者数を基礎に、年度を通じた実勢で判断する。

派遣労働者。指揮命令関係がある以上、派遣先である団体の側で算入する。

任期付職員、再任用職員、非常勤特別職。労働基準法第9条の労働者に当たるかを実質で判断する。特別職非常勤のうち、勤務時間の管理を受けず、団体の指揮命令に服さない委員等は労働者に当たらない。

公営企業職員、消防職員、警察職員。いずれも当該地方公共団体の職員であり算入する。都道府県警察の職員は都道府県の職員として算入される。

県費負担教職員。市町村立学校の教職員は、給与を都道府県が負担し、任命権は都道府県教育委員会にあるが、服務の監督は市町村教育委員会が行う(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)。この者からの通報について、都道府県と市町村のいずれの内部公益通報受付窓口が対応するのかは、両者で協議して規程に明記しておかないと、通報が宙に浮く。少なくとも、どちらの窓口に持ち込まれても受け付け、事後に所管を調整する取扱いを定めるべきである。

指定管理者の従業員、業務委託先の労働者。当該団体に雇用されていないので職員数には算入しない。ただし、法第2条第1項第4号により、団体が請負契約その他の契約に基づいて事業を行っている場合、その事業に従事する労働者等の当該団体への通報は内部公益通報となり得る。窓口の利用対象者からこれらを外すと、法が保護する通報を受け付けない窓口ができあがる。

判定に迷う場合、300人超として設計しておくのが安全である。300人以下と誤って判断し、実際は300人超であったときの帰結は義務違反だが、逆であっても失うものは設計コストにとどまる。

2.5 三つの通報先──法が用意した経路

法は通報先を三つに区分し、それぞれ保護の要件を変えている。この構造を職員に理解させることが、内部通報を庁内にとどめる唯一の方法である。

1号通報は、役務提供先等への通報である。自団体の内部公益通報受付窓口、上司、あらかじめ定めた者への通報がこれに当たる。要件は「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」であり、思っていれば足りる。三つの中で最も要件が緩い。

2号通報は、処分または勧告等をする権限を有する行政機関等への通報である。真実相当性、すなわち「通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」があれば保護される。真実相当性がなくとも、氏名住所、通報対象事実の内容、そう思料する理由、措置がとられるべきと思料する理由の四項目を記載した書面を提出すれば保護される。

3号通報は、報道機関、消費者団体、労働組合など、通報することが被害の発生・拡大防止に必要と認められる者への通報である。真実相当性に加えて、法第3条第1項第3号イからヘまでのいずれかに該当することが必要となる。

自治体にとって最も警戒すべきはホである。

ホ 書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合

庁内窓口に書面で通報が入り、20日間何の通知も出さずに放置すると、その職員は報道機関に持ち込んでも保護される。20日は暦日である。年末年始や年度末の繁忙期をまたぐと簡単に経過する。標準手順に20日を明示的な管理点として組み込む必要がある(第7部参照)。

ハも自治体で現実味がある。第1号通報をすれば役務提供先が公益通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合である。過去に庁内で通報者が特定され噂が広まった前例があれば、次の通報者はいきなり外に出る。範囲外共有の防止は、通報者保護の問題であると同時に、庁内で情報を止めるための組織防衛の問題でもある。


第3部 民間事業者と決定的に異なる4点

体制設計に入る前に、公務員に対する法の適用が民間労働者と大きく異なることを押さえる。ここを飛ばして民間向けの規程例を流用すると、規程が法の構造と合わなくなる。

3.1 法第9条の読替え

法第9条は次のとおり定める。

第九条 一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員及び一般職の地方公務員については、第三条第二項及び第三項の規定は適用せず、同条第一項及び第二十一条第一項の規定の適用については、第三条第一項中「解雇」とあるのは「懲戒免職、分限免職」と、第二十一条第一項中「解雇等特定不利益取扱い」とあるのは「分限免職又は懲戒処分」とする。

この一箇条から四つの帰結が導かれる。

3.2 相違点その1──無効の規定と1年の推定が適用されない

法第3条第2項は、公益通報を理由とする解雇および懲戒を無効とする。同条第3項は、公益通報の日から1年以内にされた解雇等特定不利益取扱いを、公益通報を理由としてされたものと推定する。この二つが、一般職の地方公務員には適用されない。

理由は救済経路の違いにある。公務員に対する分限処分・懲戒処分は行政処分であり、その効力を争う手続は地方公務員法(昭和25年法律第261号)第49条の2の審査請求と、これを経た後の取消訴訟である。民事上の無効確認や地位確認とは別系統の争訟制度が用意されているため、法は民事上の無効規定を重ねなかった。

消費者庁の公益通報ハンドブック(改正法準拠版)も、解雇・懲戒の無効および1年の推定について、公務員には適用されない旨を明記している。

これは通報者の保護が薄いということではなく、救済の窓口が違うということである。内部ガイドラインは、この点を職員に周知するよう求めている。

各地方公共団体は、職員が、不利益な取扱いの内容等に応じて、人事委員会又は公平委員会に対する不利益処分についての審査請求(地方公務員法(昭和25年法律第261号)第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)、苦情相談制度等を利用することができる旨を周知する。

規程と職員向け周知資料に、この三つの救済経路を書き込む。書いていない団体が多い。周知資料に一行加えるだけの作業であり、点検の初手として費用対効果が高い。

なお、法第3条第1項の禁止規定そのもの(不利益な取扱いをしてはならないという行為規範)は、読替えを経て公務員にも適用される。禁止されていることに変わりはない。禁止に違反した処分の効力を争う手続が、民事訴訟ではなく行政不服審査と抗告訴訟だという違いである。

3.3 相違点その2──刑事罰は戒告にまで及ぶ

法第21条第1項は次のとおり定める。

第二十一条 第三条第一項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたときは、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

民間においては、「解雇等特定不利益取扱い」は解雇と懲戒に限定される。降格、配転、減給であっても、懲戒としてされたものでなければ刑事罰の対象外である。

公務員については、法第9条の読替えにより、第21条第1項中の「解雇等特定不利益取扱い」は「分限免職又は懲戒処分」となる。地方公務員法第29条第1項の懲戒処分は、免職、停職、減給、戒告の四種である。すなわち、公益通報を理由とする戒告処分であっても、その処分を行った者は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となり得る。

民間より処罰範囲が広い。人事担当者と任命権者に対する研修では、この点を最初に伝えるべきである。

内部ガイドラインは、誰が処罰され得るかについて踏み込んだ記述を置いている。

加えて、令和7年6月の法改正により、公益通報を理由として分限免職又は懲戒処分が行われた場合、任命権者であるか否かを問わず、実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得る(ただし、形式的に分限免職又は懲戒処分の意思表示をした者が直ちに罰則の対象となるわけではない)ことにも特に留意されたい。

処分の名義人が誰であるかは決め手にならない。処分の実質的な意思決定を行った者、およびその意思決定に関与した者が対象となる。逆に、上からの指示に従って発令文書を起案し決裁を回しただけの担当者が、それだけで直ちに処罰されるわけでもない。

実務上の含意は二つある。第一に、懲戒処分の意思形成過程を記録に残すこと。誰がいつ何を提案し、誰が決めたのかが後日再現できなければ、実質的な意思決定者の特定は関係者の供述に委ねられる。第二に、通報者に対する処分案が上がってきた場合、人事担当者は「指示されたから起案した」では免責されないと理解しておくこと。少なくとも、通報との関連性を検討した記録を残す義務がある。

3.4 相違点その3──団体は罰金を科されず、個人が科される

法第23条は両罰規定である。第1項第1号は、法第21条第1項の違反行為について、行為者を罰するほか法人に3千万円以下の罰金刑を科すと定める。ところが同条第2項は次のとおり定める。

2 前項(第一号に係る部分に限る。)の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

団体そのものに3千万円の罰金が科されることはない。一方で、行為者個人の処罰は残る。民間企業では法人が3千万円を負担するのに対し、自治体では首長や部長個人が刑事被告人になる。組織で受け止める仕組みがないという意味で、個人にとってはむしろ過酷である。

第23条第1項第2号(法第21条第2項に係る両罰)は文言上除外されていないが、後述のとおり法第20条により第15条から第16条までが地方公共団体に適用されない結果、第21条第2項の構成要件も自治体では成立しない。

3.5 相違点その4──消費者庁の行政措置が及ばない

法第20条は次のとおり定める。

第二十条 第十五条から第十六条までの規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

第15条は助言・指導、第15条の2は勧告・命令および命令をした旨の公表、第16条は報告徴収・立入検査である。これらが地方公共団体に適用されない。したがって、地方公共団体が体制整備を怠っても、消費者庁が勧告や命令を出すことはなく、立入検査を受けることもない。法第16条第2項の報告に係る法第24条の20万円の過料も、第16条自体が適用されない以上、及ばない。

一方、第17条(関係行政機関への照会等)と第18条(内閣総理大臣による情報の収集、整理及び提供)は適用除外に含まれていない。消費者庁は自治体に対し照会し協力を求めることができ、内部ガイドラインも消費者庁が各地方公共団体における窓口の設置及び運用状況、通報への対応状況、職員等への研修の実施状況等について調査を行い結果を公表するとしている。

行政的な強制力がない分、統制は別の経路から働く。住民監査請求と住民訴訟、議会の百条調査権(地方自治法第100条)、情報公開請求、監査委員および外部監査、そして報道と選挙である。兵庫県の事案が示したとおり、これらの経路による負荷は、消費者庁の勧告一本よりはるかに重い。

3.6 4点の整理

論点民間事業者(300人超)地方公共団体(職員300人超)根拠
従事者指定義務ありあり法11条1項
体制整備・周知義務ありあり法11条2項
通報を理由とする解雇・懲戒の無効あり適用なし(審査請求・取消訴訟による)法3条2項、法9条
1年以内の不利益取扱いの推定あり適用なし法3条3項、法9条
直罰の対象行為解雇・懲戒分限免職・懲戒処分(戒告を含む)法21条1項、法9条
法人に対する3千万円の罰金あり適用なし法23条1項1号・2項
従事者の守秘義務違反の罰金ありあり法12条、22条
助言・指導・勧告・命令・公表あり適用なし法15条、15条の2、20条
報告徴収・立入検査・過料あり適用なし法16条、20条、24条
通報妨害の禁止ありあり法11条の2
通報者探索の禁止ありあり法11条の3
上乗せ規範指針の解説指針の解説+地方公共団体向けガイドライン地方自治法245条の4第1項

第4部 300人超の団体が満たすべき要求事項の一覧

指針が求める事項に、内部ガイドラインの上乗せを重ねると、次の表になる。設計はこの表を潰す作業である。

4.1 従事者の定め(法第11条第1項関係)

番号要求事項出典区分
1-1内部公益通報受付窓口で受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行い、かつ公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定める指針第3の1、内部GL2(3)①義務
1-2書面による指定など、従事者の地位に就くことが本人に明らかとなる方法により定める指針第3の2、内部GL2(3)②義務
1-3公益通報対応業務に必要な適性及び能力を有する者を従事者として定める内部GL2(3)③技術的助言
1-4従事者に対する教育・研修を十分に行い、公益通報対応業務の内容および公益通報者を特定させる事項の取扱いについては特に十分に教育する指針第4の3(5)、内部GL2(3)④義務

4.2 体制の整備(法第11条第2項関係)

番号要求事項出典区分
2-1部門横断的に受け付ける内部公益通報受付窓口を設置し、受付・調査・是正の部署及び責任者を明確に定める指針第4の1(1)義務
2-2責任者は幹部とする内部GL2(1)①技術的助言
2-3窓口を全部局の総合調整を行う部局またはコンプライアンスを所掌する部局等に設置する内部GL2(2)①技術的助言
2-4庁内窓口に加えて、外部に弁護士等を配置した窓口を設けるよう努める内部GL2(2)①努力(技術的助言)
2-5組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置をとる指針第4の1(2)、内部GL2(2)③義務
2-6相談窓口(体制の仕組みや不利益取扱いに関する質問・相談に応じる窓口)を設置する指針第4の3(4)、内部GL2(2)②義務
2-7出先機関等においても適切に通報対応を行うための周知、体制整備その他必要な措置をとる内部GL2(1)③技術的助言
2-8単独設置が困難な場合、協議会の設置、機関等の共同設置、事務の委託または代替執行等を活用できる内部GL2(2)⑤選択肢
2-9正当な理由がある場合を除いて必要な調査を実施し、法令違反行為が明らかになった場合は速やかに是正措置をとり、その機能を確認する指針第4の1(3)義務
2-10事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない指針第4の1(4)、内部GL2(5)①義務
2-11通報対応の各段階で、関与者が利益相反関係を有していないかを確認する内部GL2(5)②技術的助言
2-12匿名による通報についても実名による通報と同様の取扱いを行い、情報伝達の仕組みを整備する内部GL2(8)技術的助言(民間より強い)
2-13職員等のほか、法令遵守を確保する上で必要と認められるその他の者からの通報を受け付ける。住民等からの通報も受け付けることができる内部GL2(7)技術的助言

4.3 通報者の保護(法第11条第2項関係)

番号要求事項出典区分
3-1不利益な取扱いを防ぐ措置をとり、把握する措置をとり、把握した場合は救済・回復の措置をとる指針第4の2(1)イ、内部GL4(1)①義務
3-2不利益取扱いを行った者に対し懲戒処分その他適切な措置をとる指針第4の2(1)ロ、内部GL4(1)②義務
3-3範囲外共有を防ぐ措置をとり、行われた場合は救済・回復の措置をとる指針第4の2(2)イ、内部GL2(4)①義務
3-4通報妨害行為を防ぐ措置をとる指針第4の2(2)ロ、内部GL2(4)②義務
3-5通報者探索を防ぐ措置をとる指針第4の2(2)ハ、内部GL2(4)③義務
3-6範囲外共有・通報妨害・通報者探索を行った者に懲戒処分その他適切な措置をとる指針第4の2(2)ニ、内部GL4(1)②義務
3-7通報対応の各段階で遵守すべき事項をあらかじめ取り決め、関与者に周知する内部GL2(4)⑤技術的助言
3-8通報対応終了後、不利益取扱いが行われていないかを適宜確認するフォローアップを行う内部GL4(2)技術的助言
3-9人事委員会・公平委員会への審査請求、措置要求、苦情相談制度を利用できる旨を周知する内部GL4(3)技術的助言

4.4 実効性の確保(法第11条第2項関係)

番号要求事項出典区分
4-1書面による内部公益通報について、是正措置の内容または通報対象事実がない旨を速やかに通知する指針第4の3(1)、内部GL3(4)①義務
4-2受理・不受理を遅滞なく通知し、不受理の場合は理由を示す内部GL3(1)④技術的助言
4-3調査を行う旨および着手時期、または行わない旨および理由を遅滞なく通知する内部GL3(2)①技術的助言
4-4標準的な期間を定め、または必要と見込まれる期間を遅滞なく通知するよう努める内部GL3(4)②努力(技術的助言)
4-5記録を作成し適切な期間保管する指針第4の3(2)イ、内部GL5(1)義務
4-6体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じ改善する指針第4の3(2)ロ義務
4-7職員等および中立的な第三者の意見等を踏まえて定期的に評価・点検する内部GL5(4)②技術的助言
4-8運用実績の概要を職員等に開示する指針第4の3(2)ハ、内部GL5(2)③義務
4-9運用状況に関する情報を定期的に公表する内部GL5(4)①技術的助言(対外公表)
4-10法および指針第4の3(3)イからリまでの事項を全職員等に周知・啓発する指針第4の3(3)、内部GL5(2)①義務
4-11上司が通報を受けた場合の対応(自ら行える範囲での調査、上司への報告、窓口への通報)を周知する内部GL5(2)②技術的助言
4-12職員は正当な理由がある場合を除き調査に誠実に協力する旨を定める内部GL5(3)①技術的助言
4-13他の行政機関その他公の機関から調査等の協力を求められたときは必要な協力を行う内部GL5(3)②技術的助言
4-14指針が求める事項を内部規程(条例を含む。)に定め、規程どおり運用する指針第4の3(6)、内部GL2(1)②義務

4.5 義務規定の核心

指針第4の3(6)は次のとおり定める。

この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。

内部ガイドラインは、これを地方公共団体向けに次のとおり言い換える。

各地方公共団体は、法、指針及び本ガイドラインにおいて求められる事項について、内部規程(条例を含む。)を作成し、また、当該規程の定めに従って運用する。

指針が求める全事項を規程に落とし込むことが義務である。逆に言えば、第5部の規程例を自団体の実情に合わせて調整すれば、指針適合性の相当部分を機械的に確保できる。


第5部 内部公益通報対応規程(例)──全32条と設計注記

5.1 条例か、規則か、訓令か

内部ガイドラインは「内部規程(条例を含む。)」とするのみで、形式を特定していない。実務上の選択肢は四つある。

条例。議会の議決を要する。住民代表機関の関与により正統性が高く、首長が被通報者となる事案でも制度の安定性が保たれる。改正に議会の議決を要するため、機動性は落ちる。首長部局以外の執行機関(教育委員会、選挙管理委員会、監査委員、農業委員会、公営企業管理者等)を一体的に規律しやすい。

規則。首長が定める。制定改廃が機動的である。他の執行機関には及ばないため、各執行機関が同旨の規則を定めるか、共同で定める必要がある。

訓令・要綱。最も機動的だが、対外的な規範性は弱い。職員に対する内部規律としては足りる。

条例と規則・要綱の組み合わせ。基本事項(目的、窓口の設置、不利益取扱いの禁止、通報者探索の禁止、独立性の確保、公表)を条例に置き、手続の細目を規則または要綱に委任する形式。300人超の団体ではこの形式を推奨する。首長が被通報者となる事案において、首長の一存で手続を変更できない構造を作れるためである。

以下の規程例は、条例に置くことを想定した本則の形で示す。要綱で定める場合は「この条例」を「この要綱」に読み替えればよい。

5.2 規程例

第1章 総則

第1条(目的) この条例は、公益通報者保護法(平成16年法律第122号。以下「法」という。)第11条第1項及び第2項の規定に基づき、○○県(市・町・村)の職員等からの公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置に関し必要な事項を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、本県(市・町・村)の法令遵守を推進し、もって県(市・町・村)政に対する県民(市民・町民・村民)の信頼を確保することを目的とする。

[注記]指針第4の3(6)および内部ガイドライン2(1)②が要求する内部規程の根拠条である。目的規定に「住民の信頼の確保」を書き込む点が、民間の規程例と異なる。内部ガイドラインは制度の意義として、内部監査機能の強化および組織の自浄作用の向上に寄与し、地方自治に対する住民の信頼の確保に資すると述べており、これを目的規定に反映させる。

第2条(定義) この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 公益通報 法第2条第1項に規定する公益通報をいう。 二 内部公益通報 法第3条第1項第1号及び第6条第1項第1号に定める公益通報をいう。 三 通報対象事実 法第2条第3項に規定する通報対象事実をいう。 四 職員等 法第2条第1項各号に掲げる者であって、本県(市・町・村)の機関を同項に規定する役務提供先等とするものをいう。 五 従事者 法第11条第1項に規定する公益通報対応業務従事者をいう。 六 公益通報対応業務 法第11条第1項に規定する公益通報対応業務をいう。 七 範囲外共有 公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為をいう。 八 通報妨害 法第11条の2第1項に規定する行為によって公益通報を妨げることをいう。 九 通報者探索 法第11条の3に規定する、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をいう。 十 幹部 副知事(副市長・副町長・副村長)、部長級の職にある者その他の本県(市・町・村)の重要な業務執行の決定を行い又はその決定につき執行する者をいう。

[注記]七号から九号は指針第2の用語説明に対応する。十号の「幹部」は指針の解説が「役員等の事業者の重要な業務執行の決定を行い又はその決定につき執行する者」とする定義を自治体組織に移したものである。誰が幹部に当たるかを規程上特定しておかないと、第7条の独立性確保措置の発動要件が曖昧になる。

第3条(適用範囲) この条例は、知事(市長・町長・村長)の事務部局のほか、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会(公平委員会)、監査委員、農業委員会、固定資産評価審査委員会、公営企業管理者及び議会の事務部局並びに消防機関(都道府県にあっては警察本部を除く。)の職員等に適用する。

[注記]執行機関ごとに窓口を分断すると、部門横断性という指針第4の1(1)の核心が損なわれる。一元的な窓口を置いたうえで、各執行機関がこの条例に基づく取扱いに従う旨を各機関の規程で受ける形が実務的である。都道府県警察は独自の監察制度と国家公安委員会規則の体系を持つため、別建てとするか、本条例の対象に含めるかを警察本部と協議のうえ明記する。

第2章 内部公益通報対応体制

第4条(内部公益通報受付窓口) 本県(市・町・村)に、内部公益通報を部署間横断的に受け付ける窓口(以下「受付窓口」という。)を置く。 2 受付窓口は、次に掲げるものとする。 一 庁内窓口 総務部○○課に置く窓口 二 外部窓口 弁護士その他の外部の者に委託して置く窓口 3 職員等は、庁内窓口及び外部窓口のいずれにも通報することができる。 4 受付窓口の連絡先及び連絡方法は、別に定め、職員等に周知する。

[注記]指針第4の1(1)および内部ガイドライン2(2)①に対応する。内部ガイドラインは庁内窓口の設置場所について「全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等」を指定し、これに加えて外部に弁護士等を配置した窓口を設けるよう努めるとしている。人事課に置く例が見られるが、人事課は懲戒処分の起案部門であり、通報者が処分の相手方となり得る部門に通報するという構造が生まれる。総務課、法務課、行政経営課、コンプライアンス推進課などが適する。

第5条(部署及び責任者) 受付窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署は、総務部○○課とする。 2 前項の業務を管理し、及び統括する責任者は、総務部長とする。 3 前項の責任者は、調査及び是正に必要な措置の実施状況について適宜確認を行い、通報事案を適切に管理する。

[注記]指針第4の1(1)は部署および責任者を明確に定めることを求め、内部ガイドライン2(1)①は「なお、責任者は幹部とする。」と補足する。課長級を責任者とする規程は、この技術的助言に適合しない。内部ガイドライン3(2)③は、責任者が調査について適宜確認を行う等の方法により通報事案を適切に管理することを求めており、第3項はこれに対応する。

第6条(相談窓口) 本県(市・町・村)に、職員等から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組み、不利益な取扱いその他通報に関連する質問及び相談に応じる窓口(以下「相談窓口」という。)を置く。 2 相談窓口は、総務部○○課及び外部窓口とする。 3 相談窓口に寄せられた相談が内部公益通報に該当するときは、受付窓口が受け付けたものとして取り扱う。

[注記]指針第4の3(4)および内部ガイドライン2(2)②に対応する。第3項は実務上不可欠である。職員は「相談」のつもりで話すことが多く、その内容が通報対象事実に及んでいれば、名称にかかわらず内部公益通報として処理しなければならない。指針の解説も、窓口該当性はその名称ではなく部門横断的に内部公益通報を受け付けるという実質の有無により判断されるとしている。

第7条(組織の長その他幹部からの独立性の確保) 知事(市長・町長・村長)その他の幹部に関係する事案に係る公益通報対応業務については、次に掲げる措置をとる。 一 外部窓口において受け付け、及び調査を行うものとし、庁内窓口及び第5条第1項の部署は関与しない。 二 前号の調査の結果は、監査委員及び議会に報告する。 三 是正に必要な措置の決定は、外部窓口を担当する弁護士及び外部の有識者を含む合議体において審議したうえで行う。 2 前項の措置は、受付窓口を経由しない公益通報及び内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合においても、同様にとるものとする。

[注記]指針第4の1(2)に対応する。この条が本規程で最も設計を要する箇所である。首長が被通報者である場合、庁内のいかなる部署も首長の指揮監督下にあるため、庁内だけでは独立性を確保できない。指針の解説は、独立性を確保する方法として、監査機関にも報告する、監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う、窓口を事業者外部に設置する、といった例を挙げる。自治体においてこれに対応するのは監査委員、外部監査人、議会、および外部窓口である。第1項第2号で監査委員および議会への報告を規定しておくと、首長が調査結果を握り潰す構造を防げる。第2項は指針本文の第2文に対応し、報道機関等への3号通報や上司への直接報告があった場合にも同じ独立性措置を及ぼす趣旨である。兵庫県の事案では、疑惑の当事者である知事および副知事が調査に直接関与したことが第三者調査委員会により極めて不当と評価された。第7条と第8条は、その事態を制度的に不可能にするための条項である。

第8条(利益相反の排除) 事案に関係する者は、当該事案に係る公益通報対応業務に関与してはならない。 2 公益通報対応業務に関与する者は、通報対応の各段階において、当該事案に利益相反関係を有していないことを別に定める様式により確認し、責任者に提出しなければならない。 3 責任者が事案に関係する者であるときは、当該事案に係る責任者の職務は、監査委員が指名する者が行う。

[注記]指針第4の1(4)および内部ガイドライン2(5)①②に対応する。第2項の様式化は、確認を口頭で済ませないための仕掛けである。第3項は責任者自身が被通報者となる場合の代替を定める。この定めを欠く規程が多い。

第9条(出先機関等における対応) 支庁、地方事務所、支所、出張所、県立(市立)学校、試験研究機関、病院、消防署その他の出先機関等においても、この条例に定める体制の下で適切に通報対応が行われるよう、周知、体制整備その他必要な措置をとる。 2 出先機関等の長は、職員等から通報を受けたときは、自ら行える範囲で必要に応じ調査を行うとともに、受付窓口への通報その他適切な措置を遅滞なくとらなければならない。

[注記]内部ガイドライン2(1)③に対応する。出先機関は本庁から物理的に離れており、周知が届きにくく、通報者が特定されやすい。学校、消防、病院、児童相談所、福祉事務所は、通報対象事実が住民の生命・身体に直結する場面が多い。第2項は内部ガイドライン5(2)②が求める上司の対応義務を条文化したものであり、内部ガイドラインは、この場合の上司について、必ずしも職制上直接に指揮監督を行う地位にある者であることを要しないとしている。

第10条(他の団体との連携) 人員、予算その他の事情により単独で受付窓口又は相談窓口を設置することが困難な場合には、通報に関する秘密の保持及び個人情報の保護に留意した上で、他の地方公共団体と連携し、及び協力して事務を行う仕組みを活用して受付窓口又は相談窓口を設置することができる。

[注記]内部ガイドライン2(2)⑤は、協議会の設置、機関等の共同設置、事務の委託または代替執行等を例示する。300人超の団体では単独設置が原則であるが、都道府県が区域内の市町村のために共同窓口を提供する場合の受け皿条項として置く価値がある。内部ガイドライン5(6)は、各都道府県が区域内の市区町村における体制の適切な整備及び運用を確保するため、市区町村相互間の連絡調整および必要な助言、協力、情報の提供その他の援助を行うよう努めるとしている。都道府県が第4回で扱う300人以下の町村を支援する枠組みは、この条と5(6)を根拠に組み立てられる。

第3章 従事者

第11条(従事者の指定) 任命権者は、受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として指定する。 2 前項の指定は、別に定める様式による書面により行う。当該書面には、従事者の地位に就くこと、これに伴い法第12条に定める守秘義務が課されること及び法第22条に定める罰則の適用対象となり得ることを記載する。 3 総務部○○課の職員のうち公益通報対応業務を主たる職務とするものは、あらかじめ従事者として指定する。 4 前項に定めるもののほか、個別の事案において第1項に該当することとなった者は、その都度従事者として指定する。 5 外部窓口を担当する者についても、第1項及び第2項に準じて従事者として指定する。 6 従事者の氏名、所属、指定した日その他必要な事項を記載した名簿を作成し、これを管理する。 7 従事者の指定を解除するときは、書面により通知する。

[注記]法第11条第1項、指針第3の1・第3の2、内部ガイドライン2(3)①②に対応する。指針の解説は、コンプライアンス部、総務部等の所属部署の名称にかかわらず、指針本文が定める事項に該当する者であるかを実質的に判断して定める必要があるとしている。あわせて、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全部またはいずれかを主体的に行う業務および当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に公益通報対応業務に当たるとする。ヒアリング対象者や、公益通報の内容を伝えられたにとどまる者は従事者ではない。指定の判断で悩んだ場合、「この人は通報者が誰かを知る立場か」「その人は調査や是正の中身に主体的に関わるか」の二問で切り分ける。第5項は指針の解説が、従事者を事業者外部に委託する際にも同様に本人に明らかとなる方法で定める必要があるとしていることに対応する。第6項の名簿は、指針の解説が指定の事実を記録する観点から挙げる取組例に沿う。

第12条(従事者の適性及び能力) 任命権者は、公益通報対応業務に必要な適性及び能力を有する者を従事者として指定する。 2 人事異動に当たっては、従事者の配置について、公益通報対応業務の継続性が確保されるよう配慮する。

[注記]内部ガイドライン2(3)③に対応する。第2項は自治体固有の問題への対応である。3年から4年で異動する人事慣行の下では、経験が蓄積しない。異動時期をずらす、複数名を重ねて配置する、外部窓口に継続性を担わせる、といった措置を運用で補う。

第13条(守秘義務) 従事者又は従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。 2 通報又は相談への対応に関与した者は、通報又は相談に関する秘密を漏らしてはならず、知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせ、又は不当な目的に利用してはならない。

[注記]第1項は法第12条の確認規定である。従事者には地方公務員法第34条の守秘義務が既に及ぶが、法第12条の守秘義務は保護法益も罰則も異なる。地方公務員法第60条第2号の秘密漏示は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金であるのに対し、法第22条は30万円以下の罰金である。両者は競合し得る。第2項は内部ガイドライン2(4)④に対応し、従事者でない関与者にも規程上の義務を及ぼす。

第4章 通報への対応

第14条(通報の受付) 受付窓口は、通報の受付を拒んではならない。 2 受付窓口は、通報を受け付けたときは、通報者の氏名及び連絡先(匿名による通報の場合を除く。)並びに通報の内容となる事実等を把握するとともに、次に掲げる事項を通報者に説明する。 一 通報者に対して不利益な取扱いは行われないこと。 二 通報に関する秘密は保持されること。 三 個人情報は保護されること。 四 通報受付後の手続の流れ 3 書面、電子メールその他通報者が通報の到着を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに通報を受け付けた旨を通知するよう努める。 4 前2項の規定は、通報者が説明又は通知を望まない場合、匿名による通報であるため通報者への説明又は通知が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合には、適用しない。

[注記]内部ガイドライン3(1)①②③に対応する。第1項の「受付を拒んではならない」は内部ガイドラインの文言をそのまま採ったものである。窓口担当者が「それは公益通報ではない」と判断して門前払いすることを禁ずる趣旨であり、該当性の判断は受付後に行う。

第15条(受理の決定及び通知) 通報を受け付けたときは、法、指針、地方公共団体向けガイドライン及びこの条例を踏まえて当該通報に対応する必要性を検討し、受理したときは受理した旨を、受理しないときは受理しない旨及びその理由を、通報者に対し、遅滞なく通知する。

[注記]内部ガイドライン3(1)④に対応する。不受理の場合に理由を示すことが要点である。理由を示さない不受理は、通報者に「握り潰された」という認識を生み、3号通報を誘発する。

第16条(匿名による通報) 匿名による通報についても、実名による通報と同様の取扱いを行う。 2 匿名による通報を受け付けたときは、通報者との間で適切に情報の伝達を行い得る仕組みを用いる。

[注記]内部ガイドライン2(8)に対応する。民間向けの指針の解説は匿名の内部公益通報も受け付けることが必要であるとするにとどまるのに対し、内部ガイドラインは実名と同様の取扱いを行うと踏み込んでいる。第2項の仕組みとしては、外部窓口が通報者の氏名を庁内に伝えずに仲介する方式、個人が特定できないメールアドレスを用いる方式、匿名連絡用のシステムを用いる方式がある。指針の解説はこれらを具体例として挙げる。

第17条(通報者の範囲) 受付窓口は、職員等のほか、本県(市・町・村)の法令遵守を確保する上で必要と認められるその他の者からの通報を受け付ける。 2 前項に定めるもののほか、住民等からの通報も受け付けることができる。この場合の通報対応の手続については、別に定める。

[注記]内部ガイドライン2(7)①②に対応する。第1項の「その他の者」には、退職して1年を超える元職員、指定管理者や委託先の従業員、派遣元事業者の労働者などが含まれ得る。第2項の住民等からの通報は、既存の住民相談窓口や市長への手紙の制度と重なる。重複する制度を並列させると通報が迷子になるため、内部公益通報として扱う範囲と一般の陳情・要望として扱う範囲の切り分けを別に定める。

第18条(通報対象の範囲) 受付窓口は、次に掲げる通報を受け付ける。 一 本県(市・町・村)(本県(市・町・村)の事業に従事する場合における職員等を含む。)についての法令違反行為(当該法令違反行為が生ずるおそれを含む。) 二 前号のほか、適正な業務の推進のために別に定める事実

[注記]内部ガイドライン2(6)に対応する。第2号を活用し、法の通報対象事実に限らず、条例・規則違反、公金の不適正処理、ハラスメント、公文書の不適正管理などを対象に加える例が一般的である。兵庫県は、法令違反の事実、職務上の義務違反の事実に加え、これらに準じ県政を推進するに当たり県民の信頼を損なうおそれのある事実についての通報も保護の対象としていた。制度の対象を広げること自体は評価されるべき設計であり、事案の問題は対象範囲ではなく運用にあった。

第19条(調査の実施) 受理した通報については、正当な理由がある場合を除き、必要な調査を実施する。 2 調査を行う場合はその旨及び着手の時期を、調査を行わない場合はその旨及び理由を、通報者に対し、遅滞なく通知する。ただし、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がある場合は、この限りでない。 3 調査は、通報に関する秘密を保持し、個人情報を保護するため、通報者が特定されないよう十分に留意しつつ、遅滞なく、必要かつ相当と認められる方法で行う。 4 調査中は、調査の進捗状況について通報者に適宜通知するとともに、調査結果は速やかに取りまとめ、その結果を遅滞なく通知する。

[注記]指針第4の1(3)および内部ガイドライン3(2)に対応する。第1項の「正当な理由」について、指針の解説は、解決済みの案件に関する情報が寄せられた場合、公益通報者と連絡がとれず事実確認が困難である場合などを挙げる。第3項の「通報者が特定されないよう」は、調査手法の設計に直結する。通報内容をそのまま被通報者に示すと、その情報を知り得る者が限られる場合には通報者が特定される。調査対象を広げる、定期監査に紛れ込ませる、複数部署を同時に対象とする、といった手法を検討する。

第20条(調査への協力) 職員は、正当な理由がある場合を除き、通報に関する調査に誠実に協力しなければならない。 2 本県(市・町・村)及びその職員は、他の行政機関その他公の機関から調査等の協力を求められたときは、正当な理由がある場合を除き、必要な協力を行う。

[注記]内部ガイドライン5(3)①②に対応する。指針第4の3(3)リは、公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項を周知事項に掲げている。協力義務を規程上の義務としておくことで、調査非協力を服務上の問題として扱う根拠が生まれる。

第21条(是正措置等) 調査の結果、法令違反等の事実が明らかになったときは、速やかに是正措置及び再発防止策(以下「是正措置等」という。)をとるとともに、必要があるときは関係者の処分を行う。 2 是正措置等をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

[注記]指針第4の1(3)および内部ガイドライン3(3)に対応する。第2項の事後確認は、指針が明示的に求める要素である。是正措置から一定期間経過後に能動的に改善状況に関する調査を行う、という指針の解説の例に従い、6か月後の確認を標準手順に組み込む(第7部参照)。

第22条(是正措置等の通知) 是正措置等をとったときはその内容を、通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、通報者に対し、速やかに通知する。 2 通報の受理から通報対応の終了までに要する標準的な期間を定め、又は必要と見込まれる期間を、通報者に対し、遅滞なく通知するよう努める。

[注記]指針第4の3(1)は、書面により内部公益通報を受けた場合の通知を義務とする。内部ガイドライン3(4)①は書面に限定していない。第2項は内部ガイドライン3(4)②に対応する。標準的な期間として、受理から3か月を定める団体が多い。

第23条(関係事項の公表) 通報対応に関し必要と認める事項は、適宜公表する。

[注記]内部ガイドライン3(5)に対応する。個別事案の公表は、通報者の特定につながる危険と、住民に対する説明責任との衡量になる。公表の判断基準をあらかじめ定め、判断過程を記録する。

第24条(意見又は苦情への対応) 通報対応に関して通報者又は相談者から意見又は苦情の申出を受けたときは、迅速かつ適切に対応するよう努める。

[注記]内部ガイドライン3(7)に対応する。

第5章 通報者の保護

第25条(不利益な取扱いの禁止) 何人も、職員等が公益通報をしたことを理由として、当該職員等に対し、不利益な取扱いをしてはならない。 2 前項の不利益な取扱いには、分限処分、懲戒処分、人事評価において不当に低い評語を付すこと、昇任又は昇格において不利益な取扱いをすること、不利益な配置換え又は派遣、給与上の不利益な取扱い、事実上の嫌がらせその他の精神上又は生活上の不利益な取扱いを含む。 3 公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済及び回復の措置をとる。 4 不利益な取扱いを行った者に対しては、行為態様、被害の程度その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

[注記]法第3条第1項(法第9条による読替え後)、指針第4の2(1)イロ、内部ガイドライン4(1)①②に対応する。第2項の例示は、指針第2の用語説明が挙げる不利益な取扱いの類型を公務員の人事制度に置き換えたものである。公益通報ハンドブックも、公務員に対する不利益な取扱いの例として、懲戒処分(免職)、分限処分(免職)、懲戒処分(停職・戒告)、人事評価において不当に低い評語を付すこと、懲戒処分(減給)等を挙げている。人事評価の評語が明示されている点に留意する。自治体の報復は、免職より人事評価と配置で行われることが多い。

第26条(通報後の人事措置の事前確認) 通報者に対する分限処分、懲戒処分、配置換えその他の人事上の措置を行おうとするときは、当該通報の日から1年間、あらかじめ第5条第2項の責任者に協議し、当該措置が公益通報を理由とするものでないことを確認しなければならない。 2 前項の確認の経過及び結果は、記録し、保存する。

[注記]法および指針が明示的に求める措置ではないが、実務上の必要から置く条である。法第3条第3項の1年推定は公務員に適用されないため、民間のような立証責任の転換は生じない。しかし、人事委員会または公平委員会に対する審査請求、および国家賠償請求訴訟において、通報と処分の時間的接着は事実上の推認を働かせる。愛媛県警の事案では、内部告発の記者会見の直後に行われた配置換えについて、松山地方裁判所が報復として行われたことが推認されると判断し、県警本部長も関与して行われたと認定している。処分の適法性を後日説明できる記録を、処分の前に作っておくことが唯一の防御である。第2項の記録は、第3.3で述べた「実質的な意思決定をした者」の特定にも資する。

第27条(範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の禁止) 何人も、範囲外共有を行ってはならない。 2 何人も、正当な理由がなく、通報妨害を行ってはならない。 3 何人も、正当な理由がなく、通報者探索を行ってはならない。 4 範囲外共有が行われた場合には、適切な救済及び回復の措置をとる。 5 第1項から第3項までに違反した者に対しては、行為態様、被害の程度その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。 6 通報者探索の「正当な理由」の有無は、第5条第2項の責任者が判断し、その判断の経過及び結果を記録する。

[注記]法第11条の2、法第11条の3、指針第4の2(2)、内部ガイドライン2(4)①②③に対応する。第6項が実務上の要点である。法第11条の3は通報者探索を「正当な理由がなく」行うことを禁ずるが、正当な理由の該当性を現場が独自に判断すると、必ず拡大解釈される。「文書の真偽を確認するため」「誹謗中傷の拡散を防ぐため」といった説明は、探索を正当化しない。兵庫県の第三者調査委員会は、通報者探索の理由として挙げられた誹謗中傷の拡大阻止について、指針が示すやむを得ない場合に該当しないと指摘している。判断権限を責任者に集中させ、記録を残す設計とする。

第28条(通報者のフォローアップ) 通報対応の終了後、通報者に対し、不利益な取扱いが行われていないかを適宜確認する。 2 前項の確認は、通報対応の終了後3か月、6か月及び1年を経過した時点において行う。 3 確認の結果、不利益な取扱いが認められる場合には、適切な救済及び回復の措置をとる。

[注記]内部ガイドライン4(2)に対応する。時点を条文で特定することにより、実施漏れを防ぐ。

第29条(救済制度の周知) 職員が、不利益な取扱いの内容等に応じて、人事委員会(公平委員会)に対する不利益処分についての審査請求(地方公務員法第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)、苦情相談制度等を利用することができる旨を周知する。

[注記]内部ガイドライン4(3)に対応する。第3.2で述べたとおり、公務員には法第3条第2項の無効規定が適用されないため、この周知が救済経路の唯一の案内となる。

第6章 記録、評価及び公表

第30条(記録の作成及び保管) 通報事案への対応に係る記録及び関係資料を作成し、5年間保管する。 2 前項の記録及び資料は、閲覧及びアクセスの権限を従事者に限定し、人事異動に伴う権限の解除を適時に行うなど、慎重に管理する。

[注記]指針第4の3(2)イおよび内部ガイドライン5(1)に対応する。指針の解説は、保管期間について個々の事業者が評価点検や個別案件処理の必要性等を検討した上で適切な期間を定めることを求め、文書記録の閲覧やデータへのアクセスに制限を付す例を挙げる。5年としたのは、公文書管理条例および人事記録の保存期間との整合を図る趣旨である。自団体の文書管理規程との突合を要する。あわせて、情報公開条例に基づく開示請求に備え、通報関係文書の不開示情報該当性(個人に関する情報、事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある情報)についての判断基準を、情報公開担当課と事前に整理しておく。

第31条(評価及び点検並びに公表) 内部公益通報対応体制の運用状況について、職員等及び中立的な第三者の意見等を踏まえ、毎年度1回以上、評価及び点検を行い、必要に応じて体制を改善する。 2 運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、職員等に開示する。 3 内部公益通報対応体制の運用状況に関する情報(通報受付件数、通報事案の概要、通報事案の調査結果の概要、調査の結果とった措置、調査対応状況の概要、通報対応に要した期間等)を、通報に関する秘密の保持及び個人情報の保護並びに適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障が生じない範囲において、毎年度1回以上、公表する。

[注記]指針第4の3(2)ロハ、内部ガイドライン5(2)③および5(4)①②に対応する。第2項の職員等への開示(指針の義務)と第3項の対外的な公表(内部ガイドラインの技術的助言)を書き分ける点が、民間の規程例との相違である。第3項が挙げる項目は内部ガイドライン5(4)①の例示に沿う。公表の場は、ウェブサイトのほか、行政評価報告、コンプライアンス推進計画の年次報告などが考えられる。

第7章 周知及び教育

第32条(周知及び教育) 幹部職員等の指導の下、職員等に対する定期的な研修の実施、説明会の開催その他適切な方法により、法、指針、地方公共団体向けガイドライン及びこの条例の内容並びに受付窓口及び内部公益通報対応体制について、全ての職員等に対し、十分に周知し、及び啓発する。 2 前項の周知の内容には、指針第4の3(3)イからリまでに定める事項を含める。 3 従事者に対しては、公益通報対応業務の内容及び公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。当該教育は、従事者に指定した時及び毎年度1回以上実施する。 4 退職者及び特定受託業務従事者であった者に対しても、第1項の周知を行う。この場合において、指針第4の3(3)チに掲げる事項は除くことができる。

[注記]指針第4の3(3)(5)、内部ガイドライン5(2)①に対応する。第4項の退職者への周知は見落とされやすい。退職後1年以内の元職員による自団体への通報は内部公益通報である。退職手続の書類に一枚挟む、退職者説明会で触れる、といった運用で足りる。

5.3 規程に書いてはならないこと

規程例と併せて、書いてはならない条項を挙げる。

「まず所属長に報告し、解決しない場合に窓口へ通報するものとする」という前置条項。指針の解説は、職制上のレポーティングラインにおける報告は内部公益通報受付窓口に相談するに当たって必須の要件ではなく、報告をせずに最初から窓口に相談することも可能であるとしている。前置を書けば、その規程自体が指針違反となる。

「通報は原則として実名で行うものとする」という条項。内部ガイドラインは匿名通報を実名と同様に取り扱うことを求めている。

「虚偽の通報を行った職員は懲戒処分とする」という条項。真実相当性を欠く通報であっても、法第3条第1項第1号の1号通報は「思料する場合」で足りる。萎縮効果が大きく、この条項の存在自体が3号通報を促す。「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的による通報」に限定した表現とする。

「通報内容を他に漏らした通報者は懲戒処分とする」という条項。通報者が自ら外部に語ることは、3号通報の要件を満たせば保護される。

「退職時に一切の通報を行わない旨を確認する」という退職時の合意書式。法第11条の2第1項の通報妨害に当たり、同条第2項により当該合意は無効となる。定型の退職合意書、示談書、和解書に包括的守秘条項を置いている団体は、施行日までに文言を点検する。


第6部 書式集

6.1 公益通報対応業務従事者指定書兼確認書

                                    ○○第○○号
                                    令和○年○月○日

      殿

                    ○○県知事(○○市長・○○教育委員会教育長)

        公益通報対応業務従事者指定書

 公益通報者保護法(平成16年法律第122号)第11条第1項及び○○県(市)
内部公益通報対応条例第11条第1項の規定に基づき、貴殿を公益通報対応業務
従事者に指定します。

1 指定年月日  令和○年○月○日
2 指定の範囲  □ 常時(総務部○○課の職務に伴うもの)
                 □ 個別事案(受付番号      に係るもの)
3 従事する公益通報対応業務の内容
   □ 内部公益通報の受付 □ 調査 □ 是正に必要な措置 □ その他(  )

【指定に伴い貴殿に生ずる法律上の効果】
(1) 公益通報者保護法第12条により、貴殿は、正当な理由がなく、その公益
    通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの
    を漏らしてはならない義務を負います。この義務は、従事者でなくなった
    後も、また、退職した後も存続します。
(2) 前号の義務に違反したときは、同法第22条により、30万円以下の罰金に
    処せられることがあります。
(3) 前号の罰則は、地方公務員法第34条の守秘義務及び同法第60条第2号の
    罰則とは別に適用されます。
(4) 範囲外共有、通報妨害又は通報者探索を行ったときは、条例第27条第5項
    により懲戒処分その他の措置の対象となります。

──────────────────────────────
                    確 認 書

 上記の指定を受けたこと、及び上記【指定に伴い貴殿に生ずる法律上の効果】
に記載された内容を理解したことを確認します。

 令和○年○月○日

  所属       職名       氏名         ㊞

[設計注記]指針第3の2は、従事者の地位に就くこと、法第12条の守秘義務が課されること、法第22条の罰則の適用対象となり得ることが本人に明らかとなる方法により定めることを求める。この三点を書面に明記し、本人の確認欄を設けることで、要件充足を証拠として残す。地方公務員法との関係を(3)に書いたのは、「公務員はもともと守秘義務があるから同じこと」という誤解を断つためである。

6.2 公益通報対応業務従事者名簿

番号所属職名氏名指定年月日指定の範囲指定書番号確認書受領日教育実施日解除年月日
1総務部○○課課長常時
2総務部○○課課長補佐常時
3○○法律事務所弁護士常時(外部窓口)
4○○部○○課主幹個別(受付第○号)

[設計注記]名簿は従事者本人以外がアクセスできない場所に保管する。誰が従事者かという情報自体は職員に周知してよい。指針の解説は、周知の内容として、内部公益通報受付窓口の担当者は従事者であることを伝えることを挙げている。他方、個別事案のために都度指定した従事者の氏名は、その事案の存在を推知させるため、周知しない。

6.3 内部公益通報受付票

受付番号          受付日時 令和○年○月○日  時  分
受付方法 □来庁 □電話 □郵送 □電子メール □専用フォーム □外部窓口経由
受付者(従事者)氏名                    

1 通報者
  □実名(氏名       所属       連絡先      )
  □匿名(連絡方法                       )
  区分:□職員 □会計年度任用職員 □派遣労働者 □退職者(退職日  )
        □特定受託業務従事者 □委託先・指定管理者の従業員 □その他

2 通報の内容
  対象部署          対象者(判明している範囲)     
  事実の概要(いつ・どこで・誰が・何を)

  根拠資料の有無 □あり(         ) □なし

3 該当性の一次判断(受付時点の暫定)
  通報対象事実に該当する可能性 □高 □中 □低 □不明
  該当し得る法令                    
  条例第18条第2号の事実に該当 □該当 □非該当

4 通報者への説明の実施(条例第14条第2項)
  □不利益取扱いの禁止 □秘密保持 □個人情報保護 □手続の流れ
  □説明不実施(理由:                  )

5 独立性確保の要否(条例第7条)
  被通報者に知事(市長)その他の幹部が含まれるか □含む □含まない
  → 含む場合、直ちに外部窓口へ移送し、庁内での取扱いを停止する

6 利益相反の確認(条例第8条)
  受付者と事案との関係 □なし □あり(内容         )

7 20日ルールの管理(法第3条第1項第3号ホ)
  書面による通報か □書面 □書面以外
  書面の場合、調査を行う旨の通知期限 令和○年○月○日(受付日+20日)

[設計注記]5と7を受付票に組み込む点が要点である。独立性確保の要否は、受付の瞬間に判断しなければ意味がない。幹部が被通報者であることが判明してから庁内で情報が回った後に外部窓口へ移しても、すでに範囲外共有が起きている。20日の期限は受付票に日付で書き込み、進行管理表に転記する。

6.4 利益相反確認書

                  利益相反関係確認書

受付番号           確認日 令和○年○月○日
氏名             所属・職名        

下記のいずれにも該当しないことを確認します。該当する項目がある場合は
チェックの上、責任者に申し出てください。

□ 私は、本件通報に係る事実の当事者である。
□ 私は、本件通報に係る事実について、決裁、指示、承認その他の関与を
   した。
□ 私は、被通報者の直近上位又は下位の指揮監督関係にある。
□ 私は、被通報者と三親等以内の親族である。
□ 私は、本件通報に係る事案の結果により、自らの人事評価、懲戒その他の
   処遇に影響を受けるおそれがある。
□ その他、本件通報への対応の中立性又は公正性について疑いを生じさせる
   おそれのある事情がある(内容:               )

                   署名

[設計注記]条例第8条第2項に対応する。通報対応の各段階、すなわち受付、調査、是正措置の決定、事後確認のそれぞれで提出させる。人事異動により関与者が入れ替わるため、都度の確認が要る。

6.5 組織の長その他幹部に関係する事案の取扱記録票

              独立性確保措置の実施記録

受付番号            判定日 令和○年○月○日

1 判定
  被通報者又は関係者に幹部が含まれる □はい □いいえ
  該当する者の職名                 
  条例第2条第10号の「幹部」該当性の判断理由

2 とった措置(条例第7条第1項)
  □ 外部窓口へ移送した(移送日     委託先      )
  □ 庁内窓口及び所管課の関与を停止した(停止日     )
  □ 当該幹部及びその指揮監督下にある職員を調査から除外した
  □ 監査委員へ報告した(報告日     )
  □ 議会へ報告した(報告日      方法       )
  □ 是正措置の決定を合議体に付した(開催日     構成   )

3 当該幹部に対する情報遮断
  当該幹部に本件の存在を知らせたか □知らせていない
                                    □知らせた(理由     )
  当該幹部から本件に関する指示又は問合せがあったか
    □なし □あり(日時・内容          対応    )

4 記録者(従事者)氏名

[設計注記]この書式は本稿の書式集で最も自治体固有の性格が強い。首長や副首長が被通報者となる事案で、庁内の誰が何を知り、当該幹部からどのような働きかけがあったかを、リアルタイムで記録に残す。3の記録は、後日、通報者探索や範囲外共有が問題になった際の唯一の客観証拠となる。同時に、担当職員が「首長から指示されたので従った」という説明を、記録という形で残すことにより、法第21条第1項の「実質的な意思決定をした者」の所在を明らかにする防御手段にもなる。

6.6 是正措置等通知書

                                        令和○年○月○日
 通報者 様(受付番号    )

                    ○○県総務部長

          調査結果及び是正措置等について(通知)

 令和○年○月○日に受け付けました通報について、○○県内部公益通報対応
条例第22条第1項の規定により、次のとおり通知します。

1 調査の期間 令和○年○月○日から令和○年○月○日まで
2 調査の結果
  □ 通報対象事実が認められました。
  □ 通報対象事実は認められませんでした。
  □ 通報対象事実の一部が認められました。
3 とった是正措置及び再発防止策
  (1)
  (2)
4 関係者の処分 □あり(概要        ) □なし □検討中
5 是正措置の機能確認 令和○年○月頃に実施する予定です(条例第21条第2項)
6 不利益取扱いの確認 通報対応終了後3か月、6か月及び1年を経過した時点で
  確認します(条例第28条第2項)。この間に不利益な取扱いを受けたと感じた
  場合は、相談窓口へ御連絡ください。
7 救済制度 不利益な処分を受けた場合、人事委員会への審査請求(地方公務員
  法第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)等を利用する
  ことができます(条例第29条)。

 なお、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等
の保護のため、記載を差し控えた事項があります。

 問合せ先 総務部○○課(従事者) 電話

[設計注記]指針第4の3(1)および内部ガイドライン3(4)①に対応する。5、6、7を通知書の定型に組み込んでおくと、条例第21条第2項の機能確認、第28条のフォローアップ、第29条の救済制度周知が、通知書の発出という一つの行為で同時に履行される。

6.7 外部窓口(弁護士)委託契約条項例

第○条(受託業務の範囲)
 乙は、甲の内部公益通報対応条例第4条第2項第2号に定める外部窓口として、
次の業務を行う。
(1) 甲の職員等からの内部公益通報及び相談の受付
(2) 受付内容の記録及び甲への報告
(3) 甲の内部公益通報対応条例第7条に定める事案に係る調査
(4) 通報者との連絡の仲介(匿名を希望する通報者に係るものを含む。)

第○条(従事者としての指定)
 乙及び乙の使用人のうち前条の業務に従事する者は、公益通報者保護法第11条
第1項の公益通報対応業務従事者として甲の指定を受けるものとし、同法第12条
の守秘義務及び同法第22条の罰則の適用を受けることを確認する。

第○条(甲への報告における通報者情報の取扱い)
 乙は、甲に対する報告に当たり、通報者が実名の開示に明示に同意した場合を
除き、通報者を特定させる事項を甲に伝達してはならない。
2 前項の同意は、開示する目的、情報の範囲及び開示により生じ得る不利益に
ついて説明した上で、書面又は電子メールにより取得する。

第○条(幹部に関係する事案の取扱い)
 乙は、甲の内部公益通報対応条例第2条第10号に定める幹部が被通報者又は
関係者である事案については、甲の職員に当該事案の存在を知らせることなく、
同条例第7条に定める手続により処理する。
2 乙は、前項の事案について、甲の監査委員に対し直接報告する。

第○条(利益相反の禁止)
 乙は、本契約の期間中及び終了後3年間、甲を相手方とする事件その他甲と
利益が相反する事件を受任してはならない。
2 乙は、甲の顧問弁護士の職を兼ねてはならない。

第○条(評価及び点検への協力)
 乙は、甲が行う内部公益通報対応体制の評価及び点検の対象に外部窓口が
含まれることを了承し、甲の求めに応じ、受付件数、対応状況その他必要な
情報を提供する。

第○条(再委託の禁止)
第○条(記録の引渡し)
第○条(秘密保持)

[設計注記]自治体の外部窓口委託で最も見落とされるのが利益相反の禁止条項である。顧問弁護士を外部窓口に指定している団体は少なくないが、顧問弁護士は当該団体の利益を守る立場にあり、通報者と団体の利害が対立する事案において中立ではない。首長のパワーハラスメントが通報された場合、顧問弁護士は誰の代理人として振る舞うのか。契約段階で兼職を禁じておく。評価及び点検への協力条項は、指針の解説が評価・点検の対象に外部窓口も含むとしていることに対応する。

6.8 職員向け周知文(庁内掲示・ポータル掲載用)

      内部公益通報の窓口について

 ○○県では、職員の皆さんからの法令違反等に関する通報を受け付ける窓口を
設けています。

【誰が使えるか】
 県の職員(会計年度任用職員、派遣労働者、非常勤の方を含みます)、退職して
1年以内の方、県から業務委託を受けているフリーランスの方、県の事業に従事
している委託先・指定管理者の従業員の方。

【どこへ通報するか】
 庁内窓口 総務部○○課 電話○○ メール○○ 専用フォーム○○
 外部窓口 ○○法律事務所(弁護士) 電話○○ メール○○
 どちらへ通報しても構いません。庁内窓口を経由せず、直接、外部窓口へ通報
することができます。
 上司へ報告してからでなければ窓口へ通報できない、ということはありません。
最初から窓口へ通報して構いません。

【何を通報できるか】
 法令に違反する行為(そのおそれを含みます)、条例・規則に違反する行為、
公金の不適正な処理、職務上の義務違反など。「たぶん違反ではないか」という
段階でも通報できます。確証は要りません。

【匿名で通報できます】
 匿名の通報も、実名の通報とまったく同じように取り扱います。匿名のまま
連絡を取り合える仕組みも用意しています。

【通報した人はどう守られるか】
・通報したことを理由に、分限処分、懲戒処分、人事評価での不利益な評価、
 不利益な配置換え、嫌がらせなどを行うことは禁止されています。
・窓口の担当者には、公益通報者保護法第12条により、通報者が誰であるかを
 漏らしてはならない義務が課されています。違反すると罰金が科されます。
・通報者が誰かを探す行為(通報者探索)は禁止されています。
・通報しないよう求めたり、通報したら不利益があると告げたりする行為
 (通報妨害)は禁止されています。
・通報対応が終わった後も、3か月・6か月・1年の時点で、不利益な取扱いが
 ないかを確認します。
・不利益な処分を受けた場合は、人事委員会への審査請求(地方公務員法
 第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)などを利用でき
 ます。

【通報を受けた上司の皆さんへ】
 部下から通報を受けた場合は、自ら行える範囲で必要に応じ調査を行うととも
に、上司への報告、窓口への連絡など、適切な対応を遅滞なくとってください。
「自分のところで止める」ことはしないでください。

【調査への協力】
 職員は、正当な理由がある場合を除き、通報に関する調査に誠実に協力する
必要があります。

【質問・相談】
 制度の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談は、相談窓口で受け付けて
います。通報するかどうか決めていない段階でも構いません。

[設計注記]指針第4の3(3)イからリまでの9項目を、職員が読む文章として展開したものである。周知はこの一枚では足りない。指針の解説は、単に規程の内容を形式的に知らせるだけではなく、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛ける等の手段を通じて、公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等を十分に認識させることを求めている。首長名義のメッセージを年1回発出することが、この要求に応える最も簡便な方法である。


第7部 受付から是正までの標準手順

7.1 タイムライン

時点実施事項担当根拠
D+0受付、受付票作成、受付番号採番従事者条例14条
D+0幹部関係事案の判定。該当すれば直ちに外部窓口へ移送し庁内処理を停止従事者条例7条
D+0利益相反確認書の徴取従事者条例8条2項
D+0〜D+1通報者への説明(不利益取扱い禁止・秘密保持・個人情報保護・手続の流れ)従事者条例14条2項
D+1〜D+3到達確認できない方法による通報について、受付通知従事者条例14条3項
D+3〜D+7責任者への報告、受理・不受理の決定責任者条例15条
D+7受理・不受理の通知(不受理は理由付き)従事者条例15条
D+7調査班の編成、範囲外共有防止のための情報共有範囲の確定と記録責任者条例19条3項
D+10調査を行う旨および着手時期の通知、または行わない旨および理由の通知従事者条例19条2項
D+20書面通報について、調査を行う旨の通知が発出済みであることの確認責任者法3条1項3号ホ
D+20〜D+60調査の実施。証拠の保全、関係者聴取、被通報者聴取調査班条例19条
D+30進捗の中間通知従事者条例19条4項
D+60調査結果の取りまとめ、責任者への報告調査班条例19条4項
D+70是正措置等の決定。幹部関係事案は合議体審議責任者・合議体条例7条1項3号、21条
D+75通報者への是正措置等通知従事者条例22条
D+75関係者の処分の要否検討。処分を行う場合、通報者の特定につながらない処分理由の記載を検討責任者・人事条例21条1項
D+90記録の確定、アクセス権限の設定従事者条例30条
D+90通報対応終了責任者
D+180不利益取扱いの確認(3か月)従事者条例28条2項
D+270是正措置の機能確認責任者条例21条2項
D+270不利益取扱いの確認(6か月)従事者条例28条2項
D+455不利益取扱いの確認(1年)従事者条例28条2項
D+0〜D+365通報者への人事措置について事前確認責任者・人事条例26条
毎年度評価・点検、職員への開示、対外公表責任者条例31条

7.2 自治体固有の交錯点

情報公開請求との交錯。通報関係文書に対する開示請求が行われた場合、情報公開条例の不開示情報該当性を判断することになる。個人に関する情報、および事務または事業に関する情報であって公にすることにより当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが典型的な不開示理由となる。通報者を特定させる事項の開示は、法第12条の守秘義務違反を構成し得るため、従事者は情報公開担当課の判断に委ねず、自ら意見を述べる必要がある。判断の枠組みを事前に文書化し、情報公開審査会の答申実務も確認しておく。

議会からの資料要求との交錯。地方自治法第100条の調査(百条調査)に基づく記録の提出要求があった場合の取扱いは、事前に整理を要する。通報者を特定させる事項の提出は、法第12条の「正当な理由」の有無が問題となる。議会に対しては、通報者を特定させる事項を除いた形で提出する運用を原則とし、判断の経過を記録する。

住民監査請求・住民訴訟との交錯。公金の不適正処理に関する通報は、住民監査請求の対象事実と重なる。監査委員が独自に監査を行う一方で、通報に基づく庁内調査が並行するという状態が生じる。二重調査により通報者が特定される危険があるため、監査委員事務局との連絡調整の手順を定めておく。

人事異動との交錯。4月1日の異動により、従事者、調査班員、被通報者、通報者のいずれもが所属を変える。3月に受け付けた通報は、4月にはまったく別の体制で処理されることになる。年度をまたぐ事案について、引継書式と、通報者を特定させる事項の引継範囲を定める。

会計年度任用職員の任用更新との交錯。通報者が会計年度任用職員である場合、翌年度の任用がされないことは、法第3条第1項の不利益な取扱いに当たり得る。指針第2の用語説明は、不利益な取扱いの例として、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないことを挙げている。任用更新の判断は、条例第26条の事前確認の対象に含める。


第8部 教育研修の設計

8.1 年間設計

対象時期時間形式内容
全職員4月・10月30分eラーニング制度の概要、窓口、通報者の保護、上司の対応義務、調査協力義務
新規採用職員4月45分集合上記に加え、公務員に特有の適用関係(無効規定の不適用と救済経路)
課長級以上6月90分集合・演習部下から通報を受けた場合の対応、通報者探索の禁止、範囲外共有、人事措置の事前確認
部長級・特別職6月60分集合自らが被通報者となる場合の振る舞い、独立性確保措置、法第21条第1項の刑事責任
従事者指定時・毎年度180分集合・演習法第12条・第22条、範囲外共有の実務、匿名対応、調査技法、記録
人事・給与担当6月90分集合・演習分限・懲戒と法第21条第1項、実質的意思決定者の責任、記録の作成
出先機関の長7月60分オンライン出先機関における周知、小規模職場での特定リスク、本庁への連絡手順
会計年度任用職員任用時20分資料配付・説明制度の概要、窓口、任用更新と不利益取扱い
指定管理者・委託先契約時・年1回30分説明会自らの通報が内部公益通報となり得ること、窓口の利用方法
議会事務局・各行政委員会事務局8月60分集合適用範囲、執行機関ごとの窓口の一元化、議会と行政機関の区別

指針第4の3(5)は、従事者に対しては、公益通報対応業務の内容および公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行うことを義務として定める。内部ガイドライン2(3)④も同旨である。「特に十分に」の意味は、全職員向け研修と同じ内容を受けさせるのでは足りないということである。

8.2 幹部・特別職向け研修の要点

首長、副首長、部局長に対する研修は、他の階層と内容を変える。

第一に、自分が被通報者となる可能性を前提として話す。通報対象事実には、収賄、背任、公文書偽造といった刑法犯のほか、別表および政令が掲げる法律に規定する罪が広く含まれる。幹部が関与する形態の違反は、権限の行使に伴うものである以上、構造的に生じ得る。

第二に、被通報者となった場合の振る舞いを具体的に示す。調査に対して指示を出さない。担当職員に事案の内容を尋ねない。通報者が誰かを推測する発言をしない。記者会見や議会答弁で通報者を推知させる情報に触れない。これらはいずれも、法第11条の3の通報者探索、または範囲外共有に当たり得る。

第三に、法第21条第1項の刑事責任を説明する。通報を理由とする戒告処分でも構成要件を満たす。内部ガイドラインが述べるとおり、任命権者であるか否かを問わず、実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が対象となる。法第23条第2項により団体は罰金を科されないため、責任は個人に帰属する。

第四に、指針の解説が求める組織の長の役割を伝える。指針の解説は、周知・啓発に当たって、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛ける等の手段を通じて、公益通報の意義や組織にとっての内部公益通報の重要性等を十分に認識させることを求めている。制度を作った側の長が制度を使うよう呼び掛けるという構図が、職員の信頼を左右する。

8.3 従事者向け演習

演習1。県立高校の事務職員から、匿名の電子メールで「学校徴収金の一部が校長の私的な支出に充てられている。証拠として通帳の写しがある」との通報が入った。当該高校の事務職員は3名である。通報者を特定せずに調査を進める手順を設計せよ。あわせて、通報者が特定される危険が生じた場合に調査を中断すべきかを検討せよ。

論点。3名の職場では、調査対象を当該高校に限定した時点で通報者が絞られる。同一学区の複数校を対象とする定期監査の枠組みを用いる、教育委員会の別件監査に合わせる、といった手法を検討する。通帳の写しの提出を求めれば、その保管者から特定される。証拠の提出方法についても通報者と協議する。調査中断の判断は、通報者の意向を確認したうえで責任者が行い、記録に残す。指針の解説は、公益通報者の意向に反して調査を行うことも原則として可能としつつ、調査の前後においてコミュニケーションを十分にとるよう努め、プライバシー等の公益通報者の利益が害されないよう配慮することを求めている。

演習2。庁内窓口に、「副市長が特定の業者に便宜を図るよう指示している」との通報が、実名で入った。通報者は本庁契約課の職員である。受付から24時間以内にとるべき措置を列挙せよ。

論点。条例第7条の幹部関係事案に該当するため、直ちに外部窓口へ移送し、庁内での取扱いを停止する。契約課の職員が通報者であることから、契約課への照会は行わない。副市長の指揮監督下にある部局の職員を調査に関与させない。監査委員への報告の要否を判断する。取扱記録票を作成し、副市長からの問合せの有無を記録する。市長への報告を行うかどうかは、市長が副市長の任命に関わる立場にあることを踏まえ、慎重に判断する。

演習3。通報対応が終了して4か月後、通報者が本庁から遠隔地の出先機関へ配置換えとなった。人事課は「定期異動であり通報とは無関係」と説明している。従事者としてとるべき対応を述べよ。

論点。条例第26条の事前確認が行われていたかを確認する。行われていなければ、その事実自体が手続違反である。異動の実質的な意思決定者を特定し、通報の存在を知っていたかを確認する。過去の同種異動の実績と比較し、当該異動が通常の人事慣行の範囲内かを検証する。愛媛県警の事案では、配置換えについて報復として行われたことが推認されると判断され、県警本部長も関与して行われたと認定されている。通報者に対しては、人事委員会への審査請求および措置要求の制度を案内する。確認の結果、不利益な取扱いが認められる場合には、条例第25条第3項に基づき救済・回復の措置をとる。


第9部 実効性評価の設計

9.1 評価の根拠と2つの出口

指針第4の3(2)ロは、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて改善を行うことを義務として定める。内部ガイドライン5(4)②はこれを次のとおり具体化する。

各地方公共団体は、内部公益通報対応体制の運用状況について、職員等及び中立的な第三者の意見等を踏まえて定期的に評価及び点検を行うとともに、指針の解説や行政機関及び事業者による先進的な取組事例等も参考にした上で、必要に応じて、内部公益通報対応体制を継続的に改善する。

評価結果には二つの出口がある。一つは指針第4の3(2)ハに基づく職員等への開示。もう一つは内部ガイドライン5(4)①に基づく対外的な公表である。

内部公益通報対応体制の運用状況についての透明性を高めるとともに、客観的な評価を行うことを可能とするため、各地方公共団体は、通報に関する秘密保持及び個人情報の保護並びに適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障が生じない範囲において、当該地方公共団体における内部公益通報対応体制の運用状況に関する情報(例えば、通報受付件数、通報事案の概要、通報事案の調査結果の概要、調査の結果とった措置、調査対応状況の概要、通報対応に要した期間等)を、定期的に公表する。

民間事業者には対外公表の要求はない。自治体には住民に対する説明責任があるため、内部ガイドラインは公表まで求めている。

9.2 評価指標

指標測定方法目安
規範適合指針が求める全事項が条例・規則に定められているか条項対応表による突合全項目充足
規範適合内部ガイドラインの各項目に対応する定めがあるか条項対応表による突合全項目充足または不採用理由の記録
規範適合従事者の指定が書面で行われ、確認書が全員分あるか名簿と確認書の照合100%
規範適合外部窓口が設置され、契約に利益相反禁止条項があるか契約書の点検設置済
運用品質受理・不受理の通知が受付から何日で発出されているか受付票と発送記録中央値7日以内
運用品質書面通報について20日以内に調査着手通知が発出された割合進行管理表100%
運用品質受理から対応終了までの日数進行管理表中央値90日以内
運用品質幹部関係事案の判定が受付当日に行われた割合受付票100%
運用品質利益相反確認書が各段階で徴取された割合記録の点検100%
運用品質是正措置の機能確認が実施された割合記録の点検100%
運用品質通報者フォローアップが3回とも実施された割合記録の点検100%
職員の信頼窓口の存在を知っている職員の割合匿名アンケート90%以上
職員の信頼外部窓口の連絡先を知っている職員の割合匿名アンケート70%以上
職員の信頼通報しても不利益を受けないと思う職員の割合匿名アンケート経年で上昇
職員の信頼上司に報告せずに直接窓口へ通報できると理解している割合匿名アンケート80%以上
職員の信頼通報件数(職員1000人当たり)受付台帳経年で把握
外部視点中立的な第三者による点検の実施実施記録年1回
外部視点外部窓口を評価・点検の対象に含めたか点検記録実施
外部視点運用状況の対外公表ウェブサイト年1回

指針の解説は、定期的な評価・点検の方法として、周知度等についての匿名アンケート、担当の従事者間における改善点についての意見交換、内部監査および中立・公正な外部の専門家等による確認を例示する。あわせて、評価・点検の対象には外部窓口も含むとしている。

通報件数を評価指標に用いる際は方向性の解釈に注意を要する。件数が少ないことは、法令違反が少ないことを意味するのか、制度が信頼されていないことを意味するのか、単独では判別できない。窓口の認知度、不利益を受けないという信頼度と組み合わせて読む。認知度が高く信頼度も高いのに件数が極端に少ない場合ははじめて健全と評価できる。

9.3 中立的な第三者の関与

内部ガイドラインが求める「中立的な第三者」を誰に担わせるかは、団体ごとに選択肢がある。外部監査人、コンプライアンス推進委員会の外部委員、監査委員のうち識見を有する者、弁護士会に推薦を求めた弁護士、他団体の担当者による相互点検。いずれの場合も、外部窓口の受託者と同一の者を評価者に充てると自己点検になるため、分離する。


第10部 事例研究

10.1 兵庫県文書問題

事案の経過。兵庫県西播磨県民局長であった職員が、2024年3月、知事のハラスメント疑惑等を含む複数の項目を挙げた文書を作成し、報道機関等に送付した。県は文書の作成者を特定するため公用パソコン等の調査に着手し、作成者を特定した。知事は記者会見で文書の内容を否定した。同職員は4月、県の公益通報窓口にも同内容を通報した。県は5月、当該職員に対し停職3か月の懲戒処分を行った。県議会は6月、調査特別委員会(百条委員会)を設置した。同職員は7月に死亡した。県議会の調査特別委員会は令和7年3月4日に調査報告書を、県が設置した第三者調査委員会は同月19日に調査報告書を、それぞれ公表した。

県議会調査特別委員会の報告書は、記者会見で文書作成者を公にしたことおよび元県民局長のプライバシー情報の漏洩について、指針第4の2(2)の範囲外共有等の防止に関する措置を怠った対応であるとし、違法状態が継続している可能性を指摘した。

第三者調査委員会の報告書は、文書の配布が公益通報に該当すると認定したうえで、県が通報者探索を行ったことおよび元局長の公用パソコンを回収したことを極めて不当な行為であり公益通報者保護法に違反すると認定した。通報者探索の理由として挙げられた誹謗中傷の拡大阻止については、指針が示すやむを得ない場合に該当しないと指摘した。また、疑惑を指摘された当事者が直接調査に関与したことを問題とした。同報告書は、背景と原因として、ハラスメント防止規定や公益通報制度実施要綱は定められていたが十分には機能していなかったことを挙げている。

設計上の教訓を五点に整理する。

第一に、規程があることと機能することは別である。兵庫県は法令違反の事実および職務上の義務違反の事実に加え、これらに準じ県政を推進するに当たり県民の信頼を損なうおそれのある事実についての通報も保護の対象とする、法より広い制度を有していた。制度の対象範囲は先進的であった。問題は、幹部が被通報者となる事案において独立性を確保する手続が働かなかったことにある。規程例第7条を置き、受付票(書式6.3)の項目5で受付当日に判定させる設計は、この教訓に対応する。

第二に、通報者探索の「正当な理由」を現場に判断させてはならない。文書の真偽を確かめる、誹謗中傷の拡散を防ぐ、といった説明は探索を正当化しない。規程例第27条第6項が判断権限を責任者に集中させ、記録を義務付けるのはこのためである。

第三に、当事者を調査から排除する手続を、人ではなく仕組みで担保する。被通報者が自ら「私は関与しない」と述べても、庁内の指揮命令系統が残っている限り実質的な関与は生じる。外部窓口への移送と、監査委員および議会への報告を規程上の効果として自動的に発動させる。

第四に、記者会見と議会答弁が範囲外共有の場になる。首長は日常的に報道対応を行う立場にあり、通報の存在や内容に触れる機会が多い。幹部・特別職向け研修(8.2)で、被通報者となった場合の対外発言のルールを具体的に示す必要がある。

第五に、3号通報を前提とした設計を行う。当該事案では文書が報道機関等に送付された後に庁内窓口への通報が行われた。指針第4の1(2)および(3)は、内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査および是正等の対応が必要な場合においても同様の措置をとることを求めている。外部に出た通報だからといって、独立性確保や利益相反排除の措置を緩めてよいわけではない。規程例第7条第2項および第19条は、この要求に対応する。

なお、当該事案については、公益通報該当性の評価自体に異論を述べる論者もあり、県議会調査特別委員会と第三者調査委員会とで認定の断定度にも差がある。個別事案の当否の評価は本稿の目的ではない。体制設計の観点から確実に言えるのは、幹部が被通報者となる事案について事前に手続を確定しておかなければ、事後にどの立場からも正当化できない対応が生じるということである。

10.2 愛媛県警の内部告発と配置換え

2005年1月、愛媛県警鉄道警察隊に所属する巡査部長が、県警における捜査費の不適正処理について記者会見を行い、直後に配置換えを受けた。愛媛県人事委員会は2006年6月6日の裁決において、業務の割り付けや処遇が正常なものであったとは認め難いとし、告発会見との間に強い関連性があるものと認められると判断した。国家賠償請求訴訟において、松山地方裁判所は2007年9月11日の判決で、配置換えについて報復として行われたことが推認されるとし、県警本部長も関与して行われたと認定した。

この事案は、公益通報者保護法が施行された直後のものであり、法の直罰規定が存在しない時期のものである。2026年12月1日以降に同種の事案が生じた場合、配置換えそのものは分限免職または懲戒処分に当たらないため法第21条第1項の直罰の対象とはならないが、法第3条第1項の禁止に違反する不利益な取扱いであり、国家賠償責任と、行為者に対する懲戒処分の対象となる。

設計上の含意は三点ある。第一に、人事委員会・公平委員会の裁決が救済の実効的な経路として機能し得ること。規程例第29条の周知は形式的な義務ではない。第二に、通報から不利益な取扱いまでの時間的接着が、事実上の推認を働かせること。法第3条第3項の推定が公務員に適用されないとしても、審査請求および国家賠償請求の実務においては、時間的接着が判断の重い要素となる。規程例第26条の1年間の事前確認は、この実務を前提とした防御である。第三に、組織の長の関与が認定され得ること。本部長も関与して行われたと認定された点は、法第21条第1項の「実質的な意思決定をした者」の判断枠組みと連続する。

10.3 京都市の児童福祉施設をめぐる事案

市の児童福祉施設に勤務する職員に対する停職処分の効力が争われた事案において、京都地方裁判所は令和元年8月8日、処分を取り消す判決を言い渡した(労働判例1217号67頁)。大阪高等裁判所は令和2年6月19日に控訴審判決を言い渡している。

自治体における懲戒処分の司法審査は、任命権者の裁量を前提としつつも、社会観念上著しく妥当を欠き裁量権の範囲を逸脱・濫用した場合には違法となるという枠組みで行われる。公益通報を契機とする処分は、通報との関連性が認定されれば、処分理由の合理性そのものが疑われる構造にある。処分の起案段階で、通報との関連性を検討した記録を作成しておくことが、裁量権の適正な行使を示す唯一の資料となる。

10.4 民間の事例から自治体が学ぶもの

オリンパス事件(東京高判平成23年8月31日労働判例1035号42頁。最高裁判所平成24年6月28日上告不受理により確定)は、社内のコンプライアンス窓口への通報を契機とする配転命令が人事権の濫用として無効とされ、上司個人に対する損害賠償も命じられた事案である。組織だけでなく個人が責任を負うという構造は、法第21条第1項が個人を処罰対象とし、法第23条第2項が地方公共団体を両罰の対象から外している改正法の下で、自治体においていっそう鮮明になる。

トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日労働判例891号12頁)は、内部告発後に長期間の閑職配置と昇給・昇格差別が続いた事案である。免職や停職といった目に見える処分ではなく、日常の処遇によって不利益が加えられる形態は、自治体でも生じ得る。人事評価の評語、業務の割り付け、研修受講機会、庁内公募への応募機会などを、フォローアップ(規程例第28条)の確認項目に含める。


第11部 施行日までの工程表

2026年12月1日の施行まで、本稿執筆時点で残る期間は限られる。300人超の団体は、次の工程で進める。

工程内容所要主担当
1職員数の確定(会計年度任用職員、派遣、県費負担教職員の整理)2週人事課
2現行制度の棚卸し(既存の要綱、窓口、ハラスメント相談窓口との関係)2週所管課
3指針・内部ガイドラインの各項目と現行規程の対応表作成(第4部の表を使用)3週所管課
4規程の形式の決定(条例か規則か要綱か)、議会日程の逆算2週所管課・議会事務局
5各執行機関との協議(教育委員会、公営企業、議会事務局、消防、警察)4週所管課
6外部窓口の選定と契約(利益相反禁止条項を含む)4週所管課・契約担当
7規程案の作成、法制執務審査4週所管課・法務担当
8書式一式の整備(指定書、名簿、受付票、利益相反確認書、記録票、通知書)2週所管課
9議会提案・議決(条例による場合)議会日程所管課
10従事者の指定と確認書の徴取2週任命権者
11従事者研修の実施1週所管課
12幹部・特別職研修、管理職研修、人事担当研修3週所管課
13全職員への周知(ポータル掲載、掲示、eラーニング、首長メッセージ)3週所管課
14退職合意書等の定型書式の点検(法第11条の2との適合)2週人事課
15外部の労働者等からの通報に係る仕組みの点検とウェブサイト公表3週各原課
16施行後3か月時点での初回点検施行後所管課

工程5と工程9が律速となる。執行機関ごとに人事委員会規則や教育委員会規則の改正を要する場合、所要期間は上表を超える。工程4の段階で議会日程を確認し、逆算して着手する。


第12部 点検表

適用と体制

  • 自団体の職員数を確定し、300人超であることを文書で確認したか
  • 会計年度任用職員、派遣労働者、任期付職員を算入したか
  • 県費負担教職員の取扱いを都道府県・市町村間で協議し、規程に明記したか
  • 議会事務局、各行政委員会事務局、公営企業、消防を適用範囲に含めたか
  • 部門横断的な内部公益通報受付窓口を設置したか
  • 窓口を全部局の総合調整部局またはコンプライアンス所管部局に置いたか
  • 人事課を窓口としていないか、または通報者が不利益を受ける構造がないか
  • 外部に弁護士等を配置した窓口を設けたか
  • 受付・調査・是正を行う部署および責任者を明確に定めたか
  • 責任者を幹部としたか
  • 相談窓口を設置したか
  • 出先機関等への周知および体制整備の措置をとったか

従事者

  • 従事者を書面により指定したか
  • 指定書に法第12条の守秘義務と法第22条の罰則を記載したか
  • 確認書を全従事者から徴取したか
  • 従事者名簿を作成し、限定された者のみがアクセスできる形で管理しているか
  • 外部窓口の担当者を従事者として指定したか
  • 個別事案で都度指定する場合の手続を定めたか
  • 従事者に対する教育を指定時および毎年度実施しているか
  • 人事異動時の指定解除と再指定の手順を定めたか

独立性と利益相反

  • 幹部が被通報者となる場合の手続を規程で定めたか
  • 「幹部」の範囲を規程上特定したか
  • 幹部関係事案の判定を受付当日に行う運用としたか
  • 監査委員または議会への報告を規程上の効果としたか
  • 責任者自身が事案関係者である場合の代替を定めたか
  • 利益相反確認を各段階で書面により行っているか
  • 外部窓口の委託先が顧問弁護士を兼ねていないか

通報者の保護

  • 不利益な取扱いの例示に人事評価の評語を含めたか
  • 通報後1年間の人事措置について事前確認の手順を定めたか
  • 会計年度任用職員の任用更新を事前確認の対象に含めたか
  • 通報者探索の「正当な理由」の判断権限を責任者に集中させたか
  • 判断の経過を記録する定めを置いたか
  • 範囲外共有・通報妨害・通報者探索に対する懲戒処分の定めを置いたか
  • 退職合意書等の定型書式から通報を妨げる条項を削除したか
  • フォローアップの実施時点を規程で特定したか
  • 人事委員会・公平委員会への審査請求、措置要求、苦情相談を周知したか

手続

  • 受付を拒まない旨を規程に定めたか
  • 受理・不受理の通知(不受理は理由付き)の手順を定めたか
  • 書面通報について20日の管理点を進行管理に組み込んだか
  • 匿名通報を実名と同様に取り扱う旨を定めたか
  • 匿名通報者と連絡を取り合う仕組みを用意したか
  • 調査を行う旨・行わない旨の通知手順を定めたか
  • 是正措置等の通知書式を用意したか
  • 是正措置の機能確認の時期を定めたか
  • 標準的な期間を定め、または見込み期間を通知する運用としたか

記録・評価・周知

  • 記録の保管期間を定め、文書管理規程と整合させたか
  • 記録へのアクセス権限を従事者に限定し、異動時に解除しているか
  • 情報公開請求への対応方針を情報公開担当課と整理したか
  • 議会からの資料要求への対応方針を整理したか
  • 定期的な評価・点検の方法を4手法以上で設計したか
  • 中立的な第三者を評価に関与させる仕組みを定めたか
  • 外部窓口を評価・点検の対象に含めたか
  • 運用実績の概要を職員等に開示しているか
  • 運用状況を対外的に公表しているか
  • 指針第4の3(3)イからリまでの9項目すべてを周知したか
  • 退職者および特定受託業務従事者であった者を周知対象に含めたか
  • 上司が通報を受けた場合の対応義務を周知したか
  • 調査協力義務を周知したか
  • 首長名義のメッセージを発出したか

行政機関としての立場

  • 外部の労働者等からの通報を受け付ける窓口を設置したか
  • その仕組みを内部規程として定めたか
  • ウェブサイト等により外部に公表したか
  • 権限を有しない場合の教示の手順を定めたか
  • 権限を有する法律の一覧を作成し、原課と共有したか

第13部 Q&A

Q1 町村と同じ内容の要綱を作れば足りるか。 A 足りない。300人超の団体は法第11条第1項・第2項の義務主体であり、努力義務ではない。指針が求める全事項を規程に定める必要がある。

Q2 既にハラスメント相談窓口があるが、これを内部公益通報受付窓口として使えるか。 A 可能である。指針の解説は、組織の実態に応じて内部公益通報受付窓口が他の通報窓口を兼ねることが可能としている。ただし、当該窓口がハラスメント関連のみを対象としているものと誤解されないよう周知に留意することが求められる。窓口の名称と周知文の表現を点検する。

Q3 従事者を何人指定すればよいか。 A 人数の基準はない。指針は、公益通報対応業務を行い、かつ公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定めることを求めるのみである。300人超の団体では、庁内窓口の担当者2〜4名、外部窓口の担当弁護士、および個別事案で都度指定する者、という構成が一般的である。

Q4 従事者を副業的に兼務させてよいか。 A 差し支えない。ただし、指針の解説は、必要な能力・適性を有する者を従事者として配置することの必要性を説いており、内部ガイドラインも公益通報対応業務に必要な適性及び能力を有する者を従事者として定めることを求めている。年間180分の教育を受ける時間を確保できない配置は、実質的に要件を欠く。

Q5 外部窓口を設けないと法違反になるか。 A 法および指針は外部窓口の設置を義務としていない。内部ガイドライン2(2)①が「設けるよう努める」としているにとどまる。ただし、幹部が被通報者となる事案における独立性の確保(指針第4の1(2)、これは義務)を庁内だけで実現することは困難であり、実際上は外部窓口が独立性確保の主要な手段となる。

Q6 通報者が特定されてしまった場合、何をすべきか。 A 指針第4の2(2)イは、範囲外共有が行われた場合に適切な救済・回復の措置をとることを求める。具体的には、拡散の停止、関係者への注意喚起、通報者への謝罪と説明、通報者の意向を踏まえた配置上の配慮、行為者に対する懲戒処分の検討である。あわせて、なぜ特定されたのかを検証し、手順を改める。

Q7 通報内容が公益通報者保護法の通報対象事実に当たらない場合、どうするか。 A 受付を拒んではならない。内部ガイドライン2(6)イは、法令違反行為のほか、適正な業務の推進のために各地方公共団体において定める事実を通報対象に含めることとしている。規程で対象を広く設定しておき、該当性の判断は受付後に行う。

Q8 住民からの通報を受け付ける必要があるか。 A 内部ガイドライン2(7)②は、住民等からの通報も受け付けることが「できる」としている。義務ではない。受け付ける場合、通報対応の手続は別に定める必要がある。既存の市民相談、市長への手紙、住民監査請求との切り分けを整理してから制度化する。

Q9 通報を受けた課長が自分で調査してよいか。 A 内部ガイドライン5(2)②は、上司が通報を受けた場合、自ら行える範囲で必要に応じ調査を行うとともに、上司への報告、内部公益通報受付窓口への通報その他適切な措置を遅滞なくとるべき旨を周知することを求めている。自ら調査すること自体は許容されるが、窓口への連絡を怠って自己完結させることは想定されていない。研修でこの区別を伝える。

Q10 匿名通報で、内容が具体的でない場合はどうするか。 A 内部ガイドライン2(8)は匿名通報を実名と同様に取り扱うことを求める。連絡手段が確保されていれば追加情報を求める。指針の解説は、調査を実施しない正当な理由の例として、公益通報者と連絡がとれず事実確認が困難である場合を挙げている。連絡手段がなく、内容から調査の端緒が得られない場合、調査を行わない判断はあり得るが、その理由を記録に残す。

Q11 議会の百条委員会から通報記録の提出を求められたら応じるべきか。 A 法第12条の守秘義務は「正当な理由」がある場合の開示を許容する。通報者を特定させる事項を除いた形での提出を原則とし、通報者を特定させる事項の提出については、通報者本人の明示の同意を得るか、開示しない理由を説明する。判断の経過を記録し、必要に応じて外部の弁護士の意見を徴する。

Q12 施行日前にされた通報にはどう対応するか。 A 令和7年法律第62号の附則には経過措置が置かれており、施行前にされた公益通報についても改正後の規定が適用される場面がある。本シリーズの附則の回で扱った。ただし、公務員については法第3条第2項・第3項が適用されないため、遡及構造の実際上の意味は限定的である。実務としては、施行日前に受け付けて施行日をまたいで継続している事案について、施行日以降の対応を改正後の規程に従わせる運用が安全である。


第14部 自団体だけでは詰めにくい論点

以下は、条文と指針を読んだだけでは判断が定まらず、他団体の実例と訴訟実務の知見を要する論点である。

第一に、県費負担教職員の帰属。都道府県と市町村のいずれの体制で対応するかは、任命権と服務監督権の分属という地方教育行政の構造に由来する。両者の協議が調わないまま施行日を迎える団体が生じ得る。

第二に、条例か規則かの選択と、各執行機関の規程の整合。教育委員会規則、人事委員会規則、公営企業管理規程、議会事務局の規程を、一つの体制の下にどう束ねるか。

第三に、首長が被通報者となる場合の合議体の設計。構成員の選定、招集権者、議事の公開・非公開、答申の拘束力をどう定めるか。首長の任命によらない構成員をどう確保するか。

第四に、外部窓口の受託者選定と契約条項。顧問弁護士との兼職禁止、通報者情報の非開示、監査委員への直接報告、評価・点検への協力といった条項は、標準的な業務委託契約書には存在しない。

第五に、情報公開条例および議会の調査権と、法第12条の守秘義務との調整。

第六に、既存の要綱・実施要領の廃止・改正に伴う経過措置。

当事務所では、内部公益通報受付窓口の受任のほか、条例・規則案の起案、書式一式の整備、従事者研修および階層別研修の設計と実施、年1回の評価・点検の受託を行っている。リモートによる個別相談にも対応する。


第15部 次回予告

第4回は「地方公共団体編・職員300人以下の団体」を扱う。町村を主たる対象とし、努力義務の実質、限られた人員での従事者指定と兼務の限界、首長・副首長・総務課長がすべて同一の意思決定系統にある小規模団体での独立性の確保、都道府県による共同窓口の活用、協議会の設置・機関等の共同設置・事務の委託・代替執行という地方自治法上の連携手法の使い分け、住民との距離が近い環境での匿名性の確保を、本稿の規程例を圧縮する形で示す。300人以下であっても、法第3条第1項の禁止、法第11条の2の通報妨害の禁止、法第11条の3の通報者探索の禁止、法第12条の守秘義務、法第21条第1項および第22条の罰則は、300人超の団体とまったく同じに適用される。


参考資料

法令・告示

  • 公益通報者保護法(平成16年法律第122号。令和7年法律第62号による改正後。2026年12月1日施行)
  • 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)
  • 公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令(2026年12月11日施行分)
  • 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号、令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)
  • 地方自治法(昭和22年法律第67号)第2条第1項、第100条、第245条の4第1項
  • 地方公務員法(昭和25年法律第261号)第29条、第34条、第46条、第49条の2、第60条
  • 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)

行政資料

  • 消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(令和8年3月31日一部改正、令和8年12月1日施行)
  • 消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」(平成29年7月31日制定、令和8年5月29日最終改正)
  • 消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)」(平成29年7月31日制定、令和8年5月29日最終改正)
  • 消費者庁「公益通報ハンドブック」(改正法準拠版、令和8年6月30日)
  • 消費者庁「公益通報者保護法(平成16年法律第122号)の概要」(令和8年5月1日)
  • 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律新旧対照条文」
  • 消費者庁「地方公共団体における公益通報者保護制度の運用について」(令和4年3月29日、参事官(公益通報・協働担当)室)
  • 消費者庁「不利益取扱いが通報を理由とすることが争点となった裁判例について」(令和6年10月)
  • 消費者庁「公益通報者保護制度に関する近時の裁判例」

調査報告書

  • 兵庫県議会文書問題調査特別委員会「調査報告書」(令和7年3月4日)
  • 兵庫県「文書問題に関する第三者調査委員会 調査報告書」(令和7年3月19日)

裁判例・裁決

  • 富山地方裁判所判決平成17年2月23日労働判例891号12頁(トナミ運輸事件)
  • 愛媛県人事委員会裁決平成18年6月6日
  • 松山地方裁判所判決平成19年9月11日(愛媛県警配置換え国家賠償請求事件)
  • 東京高等裁判所判決平成23年8月31日労働判例1035号42頁(オリンパス事件。最高裁判所平成24年6月28日上告不受理により確定)
  • 京都地方裁判所判決令和元年8月8日労働判例1217号67頁
  • 大阪高等裁判所判決令和2年6月19日

◆通報窓口を受任中。希望組織はまず問い合わせを。https://compliance21.com/contact/

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