1 条文原文
第二十四条 第十六条第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
参照される第16条第2項は次のとおりである。
2 内閣総理大臣は、第十一条第一項(同条第三項の規定により読み替えて適用する場合に限る。)及び第二項(同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に必要な限度において、事業者に対し、報告を求めることができる。
なお第19条により、この権限は政令で定めるものを除き消費者庁長官に委任される。
2 新旧対照
| 区分 | 令和7年改正前(旧法) | 令和8年12月1日施行法 |
|---|---|---|
| 条番号 | 第22条 | 第24条 |
| 引用先 | 第15条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) | 第16条第2項(報告) |
| 対象行為 | 報告をせず、又は虚偽の報告をした | 報告をせず、又は虚偽の報告をした |
| 制裁 | 20万円以下の過料 | 20万円以下の過料 |
旧法第22条の条文は「第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。」であった。金額も行為態様も動いていない。動いたのは、過料が担保する報告徴収の射程である。
旧法では、報告徴収は第15条に置かれ、従事者指定義務(第11条第1項)と体制整備義務(同条第2項)の双方について、規模を問わず一本の規定で行われていた。したがって、いずれの義務に関する報告であっても、応じなければ旧第22条の過料に一元的に接続していた。
令和7年改正は、この一本の報告徴収を二つに割った。
| 対象となる義務 | 調査権限 | 不応答・虚偽への制裁 |
|---|---|---|
| 第11条第1項本則(常時使用労働者301人以上の従事者指定義務) | 第16条第1項(報告徴収+立入検査) | 第21条第2項第2号 30万円以下の罰金/第23条第1項第2号により両罰 |
| 第11条第1項の読替適用(300人以下の従事者指定努力義務) | 第16条第2項(報告徴収のみ) | 第24条 20万円以下の過料 |
| 第11条第2項本則(301人以上の体制整備義務) | 第16条第2項(報告徴収のみ) | 第24条 20万円以下の過料 |
| 第11条第2項の読替適用(300人以下の体制整備努力義務) | 第16条第2項(報告徴収のみ) | 第24条 20万円以下の過料 |
この表から読み取るべき点が三つある。
第一に、刑事罰へ引き上げられたのは第11条第1項本則、すなわち301人以上の事業者の従事者指定義務に関する調査だけである。従事者指定義務は違反時に守秘義務(第12条)の担い手が存在しなくなる中核的な義務であり、命令(第15条の2第2項)と立入検査(第16条第1項)が組み合わされた。
第二に、体制整備義務は301人以上の事業者にとって法的義務であるにもかかわらず、その調査は第16条第2項にとどまり、担保は過料である。体制整備の内容は事業者の規模や業態によって幅があり、命令になじむ一義的な作為義務として構成しにくいという立法判断が背景にある。実効性確保は第15条の2第4項の勧告と同条第5項の公表が担う。
第三に、努力義務しか負わない300人以下の事業者も、第16条第2項の報告徴収の名宛人となる。義務が努力義務であることと、報告を求められたときに応じる義務があることは別である。この点は中小事業者の実務で見落とされやすい。
3 立法の背景
令和2年改正で体制整備義務と従事者指定義務が導入された際、行政の実効性確保手段として置かれたのは、報告徴収と助言・指導・勧告、勧告不服従時の公表であった。強制調査権も刑事罰もなく、報告徴収の担保として置かれたのが旧第22条の過料である。
令和7年改正に向けた議論では、行政措置の実績が限定的であることと、勧告・公表までしか手段がないために悪質な不作為に対応しきれないことが指摘された。改正法は、従事者指定義務については命令と刑事罰まで一段引き上げ、それ以外の部分については従前の枠組みを維持しつつ条番号を整理した。
消費者庁が公表している改正の要点整理では、301人以上の事業者に対する現行法の報告徴収権限に加えて立入検査権限を新設し、報告懈怠・虚偽報告・検査拒否等に対して30万円以下の罰金(両罰)を新設したことが挙げられている。裏を返せば、それ以外の領域では引き続き20万円以下の過料が担保として残った、という構造である。
4 用語解説
過料
行政上の義務違反に対する金銭的な制裁のうち、刑法に刑名のないものを秩序罰といい、その典型が過料である。刑罰ではないため、前科にならず、刑法総則(故意・共犯・累犯加重など)の適用もなく、刑事訴訟法による起訴・公判も行われない。
科料・罰金との区別
「科料」は刑法9条に定める刑罰であり、1000円以上1万円未満の財産刑である。読みが同じため実務で混同されるが、性質が異なる。「罰金」も刑罰であり、本法では第21条・第22条が定める。第24条の過料はこのいずれでもない。
行政刑罰・秩序罰・執行罰
行政上の義務違反への制裁は、刑罰を科す行政刑罰(本法第21条・第22条)と、刑罰以外の制裁である秩序罰(本法第24条)に分かれる。将来の義務履行を強制するために反復して課される執行罰は、現行法ではほとんど用いられていない。第24条は過去の不作為に対する制裁であって、報告を強制する仕組みではない。
非訟事件手続
争訟性の薄い事件について、公開・対審によらず、裁判所が後見的に処理する手続をいう。法律に基づく過料は、非訟事件手続法第5編(第119条から第122条まで)の定める過料事件として、裁判所が決定で科す。
「者」
第24条の名宛人は「報告をせず、又は虚偽の報告をした者」である。報告義務を負うのは第16条第2項により報告を求められた事業者であるから、法人の場合は法人自身が過料の名宛人となる。第23条の両罰規定は第21条第1項・第2項のみを対象としており、過料には及ばない。担当役員や担当者個人が第24条によって過料に処せられることはない。
5 構成要件の分解
主体
第16条第2項に基づき報告を求められた事業者。法人その他の団体および事業を行う個人が含まれる(第2条第1項括弧書)。国および地方公共団体は第20条により第16条の適用がないため、第24条の適用もない。
「報告をせず」
不作為が構成要件となる。報告徴収は通常、対象事項と提出期限を特定して行われるから、期限を徒過して提出がない状態が「報告をせず」に当たる。全部不提出のほか、求められた事項の一部について何ら回答しない場合も、その部分について報告がないと評価され得る。
「虚偽の報告」
客観的事実と異なる内容の報告をいう。虚偽であることの認識を要すると解される。整備の実態がないのに「整備済み」と回答する、規程が存在しないのに「規程あり」と回答するといった類型が想定される。事実誤認による不正確な回答が直ちに虚偽となるわけではないが、社内確認を怠ったまま断定的に回答することは、認識の認定において不利に働き得る。
「二十万円以下」
法定の上限額である。実際の額は裁判所が事案に応じて定める。反復性、事業規模、不応答の期間、その後の是正状況などが考慮要素となる。
過料と他の措置の併存
同一の事業者について、第15条の助言・指導、第15条の2第4項の勧告、同条第5項の公表と、第24条の過料は目的も要件も異なるから、併存し得る。刑罰との関係でも、行政上の秩序罰と刑罰は目的・要件・実現手続を異にするから、二重処罰には当たらないというのが判例の立場である。
6 過料が科されるまでの手続
第24条の過料は、消費者庁が自ら科すのではない。手続は次のように進む。
- 消費者庁長官が第16条第2項に基づき報告を求める。
- 事業者が期限までに報告しない、または虚偽の報告をする。
- 消費者庁が管轄地方裁判所に対応する検察官に通知する。
- 裁判所が非訟事件手続法第5編により過料事件として審理する。
- 裁判所が決定で過料を科す。
- 検察官の命令により執行される。
非訟事件手続法の主な規律は次のとおりである。過料事件は、他の法令に別段の定めがある場合を除き、過料に処せられるべき者の住所地の地方裁判所が管轄する(第119条)。過料についての裁判には理由を付さなければならず、裁判所はあらかじめ検察官の意見を聴くとともに当事者の陳述を聴かなければならない(第120条第1項・第2項)。裁判に対しては即時抗告をすることができ、執行停止の効力を有する(同条第3項)。過料の裁判は検察官の命令で執行され、この命令は執行力のある債務名義と同一の効力を有する(第121条)。裁判所は当事者の陳述を聴かないで過料の裁判をすることもでき、この略式の裁判に対しては当事者および検察官が一定期間内に異議を申し立てることができる(第122条)。
実務上の含意は次の三点である。
第一に、行政手続法の聴聞・弁明の機会付与の手続は介在しない。過料を科すのは行政庁ではなく裁判所だからである。事業者が言い分を述べる場は、裁判所における陳述聴取である。
第二に、行政不服審査法による審査請求も、行政事件訴訟法による取消訴訟もできない。不服申立ては即時抗告による。
第三に、略式の裁判がされた場合、異議申立期間を徒過すると裁判が確定する。過料の裁判書が届いた段階で放置することは避けなければならない。
7 判例・裁判例
非訟事件手続による過料の裁判の合憲性
最高裁昭和41年12月27日大法廷決定(民集20巻10号2279頁)は、非訟事件手続法による過料の裁判は憲法第31条、第32条、第82条に違反しないと判示し、その裁判に対する不服申立てについての裁判も、公開・対審の手続によらなくても憲法第32条、第82条に違反しないとした。財団法人の理事が理事就任の登記を法定期間内に怠り過料に処せられた事案で、公開法廷での審理を受ける権利の侵害が争われたものである。過料が刑罰と区別され、非公開の非訟手続で処理されることの憲法上の根拠を示した先例であり、第24条の手続を理解する出発点となる。
秩序罰と刑罰の併科
最高裁昭和39年6月5日第二小法廷判決(刑集18巻5号189頁)は、刑事訴訟法第160条による過料と同法第161条による罰金・拘留は二者択一の関係にあるものではなく併科を妨げないとし、その併科は憲法第31条、第39条後段に違反しないと判示した。行政上の秩序罰と行政刑罰の併科一般についても、この判断枠組みが参照される。
行政上の措置と刑罰の関係については、最高裁昭和33年4月30日大法廷判決(民集12巻6号938頁)が、法人税法の追徴税は納税義務違反の発生を防止するための行政上の措置であって刑罰として課すものではないから、罰金との併科は憲法第39条に違反しないと判示している。
本法の文脈では、第16条第1項に基づく報告と第2項に基づく報告は対象が異なるため、同一事業者に対して罰金と過料が同時に問題となる場面は限られる。もっとも、301人以上の事業者は従事者指定義務について第1項、体制整備義務について第2項の報告を同時に求められ得るから、一つの報告徴収文書に対する不応答が両方の制裁に接続する可能性は排除されない。
行政調査と憲法上の保障
最高裁昭和47年11月22日大法廷判決(刑集26巻9号554頁。川崎民商事件)は、憲法第35条・第38条第1項の保障が刑事手続以外の手続にも及び得ることを認めつつ、当該調査が実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有しない場合には、令状主義や供述拒否権の保障は及ばないとした。第16条第4項が立入検査権限を犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないと定めているのは、この枠組みを条文上明示したものである。
第16条第2項の報告徴収は立入りを伴わず、担保も刑罰ではなく過料である。行政目的の調査としての性格が一層明確であり、報告を求められた事業者が自己負罪拒否特権を理由に回答を拒むことは、通常は認められない。
最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定(刑集27巻7号1205頁。荒川民商事件)は、質問検査の範囲、程度、時期、場所等について、法令に特段の定めがない場合には権限ある職員の合理的な選択に委ねられているとした。報告徴収における求釈明事項の範囲についても、この裁量論が参照される。
内部通報体制の不備が問われた裁判例
第24条そのものが争われた公表裁判例は、令和8年8月時点で見当たらない。もっとも、内部通報への対応の適否が民事責任として問われた裁判例は蓄積している。従業員が社内のコンプライアンス窓口へ通報したことを契機とする配転等の適否が争われた事案(東京高裁平成23年8月31日判決・労働判例1035号42頁)は、通報を理由とする不利益取扱いを違法と評価した代表例であり、上告不受理により確定した。行政への報告に際して「体制は機能している」と回答する前提として、こうした運用実態の検証が求められる。
8 消費者庁の運用データ
是正指導の件数
消費者庁は令和8年4月15日、公益通報者保護法第15条に基づく是正指導(助言、指導および勧告)の件数を公表した。
| 期間 | 件数 |
|---|---|
| 令和5年度(令和5年4月1日~令和6年3月31日) | 24件 |
| 令和6年度(令和6年4月1日~令和7年3月31日) | 6件 |
| 令和7年度(令和7年4月1日~令和8年3月31日) | 17件 |
年度による振れが大きく、絶対数も限られている。これは、行政が体制整備の状況を網羅的に把握する手段を持たなかったことの反映でもある。令和7年改正が調査権限を強化した実務的な理由がここにある。
任意調査の限界
消費者庁が令和6年4月に公表した令和5年度の実態調査は、上場事業者3917社および非上場事業者6083者の計1万者に調査票を郵送し、上場事業者の有効回答率37.5%、非上場事業者の有効回答率31.5%を得たものである。回答は任意かつ無記名で行われた。
調査結果の概要では、「事業者調査への回答は任意(有効回答率は3割程度)であり、法律や法の指針に適切に対応し、運用実績のある事業者の方が、積極的に回答を提出する可能性がある(回答者バイアスを排除できない)」と自ら限界を述べている。
第16条第2項の報告徴収と第24条の過料は、この回答者バイアスを回避するための仕組みである。任意調査では回答しない層こそ体制整備が遅れている蓋然性が高く、そこに個別の報告義務を課す法的手段が用意されている。
体制整備の実態
同調査の主な数値は次のとおりである。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 従業員数300人超の内部通報制度導入率 | 91.5%(平成28年度調査 82.0%) |
| 従業員数300人以下の内部通報制度導入率 | 46.9%(平成28年度調査 26.3%) |
| 300人超の上場事業者の導入率 | 99.9% |
| 300人超の非上場事業者の導入率 | 82.6% |
| 300人超非上場事業者のうち従事者を指定している割合 | 81.6% |
| 同・従事者指定義務を知っているが指定していない割合 | 10.7% |
| 同・義務を知らず指定もしていない割合 | 7.6% |
| 同・内部規程を策定している割合 | 76.7% |
| 同・策定義務を知っているが策定していない割合 | 14.6% |
| 窓口の年間受付件数が0件・1~5件・未把握の合計 | 65%(平成28年度調査 77%) |
従事者を指定していない理由として最も多かったのは「上司などに直接情報が共有されており、特段、不都合もないため」であった。体制整備を「実質的に足りている」と自己評価する事業者が一定数存在することを示している。この自己評価をそのまま報告徴収への回答に転記すると、客観的事実との齟齬が生じかねない。
業種別では、医療・福祉分野の300人超事業者の導入率が52.6%、サービス業等が80.4%と、他業種に比して低い水準にとどまっている。報告徴収の実務上の照準がどこに向かうかを示唆する数値である。
9 企業実務への落とし込み
報告徴収が来る契機
第16条第2項の報告徴収は、無作為に行われるものではない。次のような契機が想定される。
- 通報者本人や元従業員から消費者庁の相談窓口へ、体制が機能していない旨の申出があった場合
- 報道や他の行政機関の処分により、法令違反行為と通報対応の不備がうかがわれる場合
- 過去に助言・指導を受けた事業者について、その後の改善状況を確認する場合
- 特定の業種・規模を対象とした重点的な実態把握を行う場合
いずれの場合も、報告徴収は文書で行われ、対象事項と提出期限が特定される。
回答体制の整備
報告徴収に耐える体制とは、報告を作成するための証跡が日常的に残っている状態を指す。指針が求める措置は、そのまま証跡の一覧になる。
- 内部公益通報受付窓口の設置に関する規程および連絡先の周知資料
- 従事者の指定書面(範囲、指定日、本人への通知方法)
- 組織の長その他幹部からの独立性を確保する措置の内容を示す文書
- 利益相反の排除、不利益な取扱いの防止、範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止に関する規程
- 是正措置等の通知の運用記録
- 内部公益通報への対応に関する記録と保管期間の定め
- 定期的な評価・点検の実施記録(アンケート、意見交換、内部監査、外部専門家による確認)
- 運用実績(通報件数、是正の有無、対応の概要、通報を行いやすくするための活動状況)
- 労働者等、役員、退職者、特定受託業務従事者への周知・研修の実施記録
これらが揃っていれば、報告徴収に対して事実に基づく回答を短期間で作成できる。揃っていない状態で回答を作れば、記憶と推測による記載が混入し、虚偽報告のリスクが生じる。
虚偽報告を生む典型的な社内プロセス
- 期限が迫ってから現場に照会し、確認の裏付けを取らずに担当者の記憶で回答欄を埋める
- 規程は存在するが実際には運用されていない事項について、規程の存在をもって「実施している」と回答する
- グループ会社の窓口を自社の窓口として計上し、実際には自社従業員が利用できない状態を看過する
- 前年の回答をそのまま流用し、その後の組織改編や担当者交代を反映しない
- 法務部門が作成した回答を、事実関係を把握している部門の確認を経ずに発出する
回答の作成主体を一元化し、回答内容ごとに根拠資料を紐づけ、事実関係を把握している部門の確認を経る手順を、あらかじめ社内規程に定めておくことが望ましい。
中小事業者の注意点
常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は、従事者指定も体制整備も努力義務にとどまる。しかし第16条第2項は、この努力義務の施行に必要な限度において報告を求めることを認めている。努力義務であることは、報告徴収に応じない理由にならない。
「まだ体制を整備していない」という回答自体は、それだけで違法とはならない。整備していないのに「整備している」と回答することが虚偽報告となり、回答しないことが不報告となる。実態をそのまま回答することが、最も安全な対応である。
報告義務の懈怠が通報対象事実になること
第2条第3項第1号は、通報対象事実として「この法律及び……別表に掲げるもの……に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実」を挙げている。「この法律」が対象法律に含まれ、かつ過料の理由とされている事実が対象に含まれるから、第24条の過料の理由とされている事実、すなわち第16条第2項の報告懈怠および虚偽報告は、それ自体が通報対象事実に当たる。
したがって、上司から虚偽の内容で報告書を作成するよう指示された担当者は、その事実を自社の窓口や消費者庁に公益通報することができ、通報を理由とする不利益取扱いから保護される。報告徴収への対応が不誠実であること自体が、新たな通報の火種になるという循環がここにある。
なお、過料対象行為が通報対象事実に含まれることとなったのは令和2年改正によるものであり、令和7年改正で新たに設けられた仕組みではない。
10 地方公共団体における適用
第20条による適用除外
第20条は「第十五条から第十六条までの規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。」と定める。第16条第2項が適用されない以上、その報告義務違反を前提とする第24条の過料も国および地方公共団体には及ばない。
旧法第20条は「第十五条及び第十六条の規定は」と規定していたところ、令和7年改正で第15条の2が新設されたため、「第十五条から第十六条まで」と改められた。除外の範囲が実質的に拡大したのではなく、新設された勧告・命令・公表の規定も除外に含める趣旨の技術的な改正である。
第23条第2項も、両罰規定のうち第21条第1項に係る部分(3000万円以下の罰金刑)について国および地方公共団体への適用を除外している。国・地方公共団体は、第11条の体制整備義務・従事者指定義務を負う一方で、行政措置と一部の罰則の対象からは外れる。
適用が及ぶ主体と及ばない主体
自治体のコンプライアンス担当者が実務で判断を誤りやすいのは、外郭団体の扱いである。
| 主体 | 第16条第2項・第24条の適用 |
|---|---|
| 都道府県、市町村、特別区 | 適用なし(第20条) |
| 一部事務組合、広域連合(特別地方公共団体) | 適用なし(第20条) |
| 地方独立行政法人 | 適用あり(地方公共団体とは別の法人) |
| 地方公社、第三セクター、外郭団体たる公益法人 | 適用あり |
| 指定管理者である民間法人 | 適用あり |
| 地方公営企業(水道事業等) | 適用なし(地方公共団体の事業として実施されるため) |
出資や人的関与の有無ではなく、法人格の帰属で判断する。自治体が設立した法人であっても、地方公共団体そのものでない限り、報告徴収の名宛人となり得るし、応じなければ過料の対象となる。自治体の所管課は、外郭団体に対して法の適用関係を周知しておく必要がある。
過料が及ばないことの代替
行政措置の対象外であることは、監視が及ばないことを意味しない。消費者庁は「行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査」を実施し、都道府県・市区町村の対応状況を個別に公表している。2023年度調査(2023年12月1日時点)では、公表後に神奈川県、長野県、鳥取県、奈良県、大阪府、山梨県、福岡県古賀市、兵庫県三木市から回答の誤りの申出があり、また岐阜県警察についてフォーム上で回答が正しく提出できていなかったとして、2024年7月から2025年1月にかけて順次修正が行われた。修正の経緯は団体名を明示したうえで注記されている。
過料という法的制裁がない代わりに、団体名を伴う公表が事実上の規律として働いている。回答の正確性が求められる度合いは、民間事業者に対する報告徴収と変わらない。
地方自治法上の過料との対比
自治体職員にとって身近な過料は、地方自治法に基づくものである。両者は科す主体も手続も異なる。
| 区分 | 公益通報者保護法第24条 | 地方自治法上の過料 |
|---|---|---|
| 根拠 | 法律 | 条例(第14条第3項・5万円以下)、規則(第15条第2項・5万円以下)、分担金等の徴収を免れた場合(第228条第3項) |
| 科す主体 | 裁判所(決定) | 普通地方公共団体の長(行政処分) |
| 事前手続 | 非訟事件手続法第120条第2項の陳述聴取 | 第255条の3による告知および弁明の機会の付与 |
| 不服申立て | 即時抗告 | 審査請求、取消訴訟 |
| 執行 | 検察官の命令 | 地方税の滞納処分の例による徴収 |
同じ「過料」という語でありながら、法律に基づく過料は裁判所が非訟手続で科し、条例・規則に基づく過料は長が行政処分として科す。自治体が条例で過料を定める際に法律上の過料の手続を援用してしまう誤りは避けなければならない。
11 指針および指針の解説との関係
第24条は指針の直接の対象ではない。指針は法第11条第4項に基づき、同条第1項の従事者の定めおよび同条第2項の体制整備について定めるものだからである。もっとも、第16条第2項の報告徴収は、その第11条第1項および第2項の施行に必要な限度で行われる。報告徴収で問われる事項は、指針が求める措置の実施状況にほかならない。
指針の解説は、指針の各規定について、「指針の本文」「指針の趣旨」「指針を遵守するための考え方や具体例」「その他に推奨される考え方や具体例」の四つの項目に分けて記述している。このうち「指針を遵守するための考え方や具体例」は指針を遵守するために参考となる考え方や具体的な取組例を、「その他に推奨される考え方や具体例」は遵守を超えて自主的に取り組むことが期待される事項を記載したものと位置づけられている。
報告徴収への回答を準備する際には、この二つの項目の性質の違いを踏まえる必要がある。前者に記載された事項を実施していない場合、指針を遵守していないと評価される余地がある。後者は推奨事項であり、実施していないことをもって義務違反とはならない。回答書において両者を区別せずに記載すると、実施していない推奨事項について不必要な指摘を招き、逆に遵守事項の不実施を推奨事項の不実施として説明すれば、事実と異なる説明となる。
記録の保管、見直し・改善および運用実績の開示に関する措置について、指針の本文は、内部公益通報への対応に関する記録を作成し適切な期間保管すること、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し必要に応じて改善を行うこと、内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行および利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等、特定受託業務従事者および役員に開示することを定めている。
その趣旨として、記録を適切に作成・保管し、当該記録に基づき評価・点検を定期的に実施し、その結果を踏まえ、組織の長や幹部の責任の下で対応の在り方の適切さについて再検討する措置が必要であると説明されている。
「指針を遵守するための考え方や具体例」では、記録の保管期間について、個々の事業者が評価点検や個別案件処理の必要性等を検討したうえで適切な期間を定めることが求められるとし、記録には公益通報者を特定させる事項等の機微な情報が記載されていることを踏まえ、文書記録の閲覧やデータへのアクセスに制限を付す等、慎重に保管する必要があるとしている。定期的な評価・点検の方法として、周知度等についての匿名を含むアンケート調査、担当の従事者間における改善点についての意見交換、内部監査および中立・公正な外部の専門家等による確認が挙げられている。運用実績の例としては、過去一定期間における通報件数、是正の有無、対応の概要、内部公益通報を行いやすくするための活動状況が挙げられている。
これらは、報告徴収に対して事実に基づく回答を作成するための素材そのものである。指針に沿って記録と評価・点検を積み上げていれば、報告徴収は既存資料の整理で足りる。積み上げがなければ、報告徴収を受けてから体制を遡って説明することになり、記載の正確性を担保できない。
「その他に推奨される考え方や具体例」では、運用実績の概要や評価・点検の結果をCSR報告書やウェブサイト等を活用して開示することが望ましいとされている。日常的に対外開示している事業者は、報告徴収に対しても既に整理された情報を提示できる。
地方公共団体については、消費者庁の地方公共団体向けガイドラインが国の指針と併せて参照される。第20条により行政措置は及ばないものの、ガイドラインが求める体制整備の水準は民間事業者と共通する部分が多い。
12 附則および経過措置
施行期日
令和7年法律第62号の附則第1条は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行すると定め、附則第8条の規定は公布の日から施行するとしている。令和7年政令第408号により、施行日は令和8年12月1日と定められた。
施行日をまたぐ報告徴収の扱い
附則第6条第1項は次のとおり定める。
第六条 この法律の施行前に旧法第十五条の規定により報告を求められ、かつ、この法律の施行の際現に報告がされていないものについては、なお従前の例による。
附則第7条は罰則の経過措置を定める。
第七条 この法律の施行前にした行為及び前条第一項の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
この二つの規定を組み合わせると、次の帰結が導かれる。
令和8年11月30日までに旧法第15条に基づいて報告を求められ、令和8年12月1日の時点でまだ報告していない事業者については、報告義務そのものが旧法の規律に従う。その状態で報告しないまま放置し、あるいは虚偽の報告をした場合、適用される罰則は新法第24条ではなく旧法第22条である。過料の上限額はいずれも20万円で同じだが、根拠条文が異なる。
施行日直前に報告徴収を受けた事業者は、施行日を境に義務がリセットされると誤解してはならない。旧法に基づく報告義務は施行後も存続する。
令和7年改正の一般的な経過措置
附則第2条は、新法の規定(罰則を除く)は、附則に特別の定めがある場合を除き、施行前にされた旧法第2条第1項に規定する公益通報にも適用すると定めている。罰則は括弧書で除外されており、施行前の行為に新設の罰則が遡って適用されることはない。第24条についても、施行前の報告懈怠に対して新条文が適用されることはない。
検討条項
附則第9条は、政府が施行後3年を目途として新法の施行の状況を勘案し、新法の規定について検討を加え、必要があると認めるときはその結果に基づいて必要な措置を講ずるものと定める。第16条第2項の報告徴収がどの程度活用され、第24条の過料が実際に適用されるかは、次の見直しにおける論点となり得る。
13 実務チェックリスト
民間事業者向け
- 自社の常時使用する労働者の数を確認し、第11条第1項本則の適用(301人以上)か読替適用(300人以下)かを判定しているか
- 従事者指定義務に関する報告は第16条第1項(罰金・両罰)、体制整備義務および300人以下の努力義務に関する報告は同条第2項(過料)であることを、社内の関係部署が理解しているか
- 報告徴収を受けた場合の社内対応手順(受領部署、回答作成責任者、事実確認手順、決裁権者、期限管理)を文書化しているか
- 回答の各項目に対応する根拠資料の所在一覧を整備しているか
- 従事者の指定書面、規程、周知・研修記録、運用実績、評価・点検記録を、直ちに提示できる形で保管しているか
- 指針の「指針を遵守するための考え方や具体例」に記載された事項と「その他に推奨される考え方や具体例」に記載された事項を区別して自己点検しているか
- グループ会社の窓口を自社の体制として説明する場合、自社の労働者等が実際に利用できる状態にあることを確認しているか
- 期限内に完全な回答が困難な場合、期限前に消費者庁へ連絡し、追加提出の取扱いを協議する運用としているか
- 過料の名宛人が法人自身であり、両罰規定が及ばないことを踏まえ、対応責任を組織として引き受ける体制になっているか
- 報告懈怠および虚偽報告が通報対象事実に当たることを、回答作成に関与する者に周知しているか
地方公共団体・公的機関向け
- 第20条により第15条から第16条までの規定が適用されないこと、したがって第24条の過料も及ばないことを正確に理解しているか
- 一方で第11条の体制整備義務・従事者指定義務は適用されることを、庁内および議会に対して説明できるか
- 地方独立行政法人、地方公社、第三セクター、指定管理者である民間法人については第16条第2項・第24条が適用されることを、所管課から当該法人へ周知しているか
- 消費者庁の施行状況調査への回答について、回答内容の根拠資料を確認する庁内手順を定めているか
- 過去の調査回答に誤りがあった場合の訂正手続と、訂正が団体名とともに公表されることを踏まえた確認体制を整えているか
- 条例・規則に基づく過料(地方自治法第14条第3項、第15条第2項)と法律に基づく過料の手続の違いを、法規担当部署が整理しているか
- 通報対応の記録、評価・点検、運用実績の開示について、国の指針および地方公共団体向けガイドラインに沿った運用となっているか
- 令和8年12月1日をまたぐ照会・調査について、施行前の依頼が施行後も存続することを前提とした管理をしているか
14 次回の予定
第24条をもって本則の逐条解説は終了する。次回は附則(施行期日、経過措置、検討条項)および別表(第2条関係)を扱い、別表第8号の政令で定める対象法律の範囲、令和8年12月11日施行分の政令改正を含めて整理する。
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