はじめに
著作権法第2条第1項は、同法全体で用いられる用語の定義規定である。第20号から第25号までは、デジタル技術の発達に対応するために段階的に追加されてきた条項であり、いわゆるDRM(デジタル著作権管理)、ライセンス認証技術、権利管理情報、著作権等管理事業者、属地主義の範囲といった、現代の企業活動に直結する概念を定めている。本稿では、社内のコンテンツ管理体制やソフトウェアライセンス、生成AIサービスの利用規約整備を担う企業の法務・知財担当者を主な読者として、各号を条文原文・趣旨・立法背景・用語解説・改正経緯と裁判例の順に解説する。
第20号 技術的保護手段
条文原文
二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号及び第二十二号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号、第百十三条第七項並びに第百二十条の二第一号及び第四号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(以下「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
趣旨・立法背景
技術的保護手段の定義は、平成11年(1999年)改正により導入された。背景には、平成8年(1996年)にWIPOで採択された新条約(著作権に関する世界知的所有権機関条約等)があり、同条約は加盟国に対して技術的手段の回避規制の整備を義務付けた。日本はこの条約への対応として、著作権法上は複製等の権利行使を支える「コピーコントロール」のみを保護対象とする一方、視聴行為そのものを制限する「アクセスコントロール」については、伝統的に著作権の範囲外とされる知覚行為(読む・聴く・視る)に関わるという理論的な理由から、不正競争防止法側の保護に委ねるという役割分担がとられた。この立法時の切り分けが、後年のマジコン事件における判断の前提となっている。
用語解説
定義文は読みにくいが、要素を分解すると次の三点に整理できる。第一に「電磁的方法」によるものであること。第二に、著作権等を侵害する行為の防止または抑止をする手段であること(ここでいう「抑止」とは、侵害行為の結果に著しい障害を生じさせることで行為そのものを思いとどまらせる効果を指し、暗号化のように侵害結果(視聴不能な乱れた音や影像)を生じさせる方式が念頭にある)。第三に、機器が特定の信号を検知して動作する「信号方式」、または機器が復号等の特定の変換を要するように著作物等を変換して記録・送信する「暗号方式」のいずれかの技術方式によるものであること。具体例としては、音楽CDのコピーコントロールや、放送のスクランブルが信号方式の典型であり、DVDのCSSやBlu-rayのAACSは暗号方式の典型である。
改正の内容や変化と最新の動向
平成11年の制定当初、技術的保護手段の対象は信号方式のみであった。平成24年(2012年)改正により、暗号方式(機器が特定の変換を要するように音・影像を変換して記録・送信する方式)が新たに追加され、これに伴い第30条第1項第2号(私的使用目的の複製の権利制限の除外規定)にも、暗号の復元によって可能となった複製を私的使用目的であっても違法とする規定が整備された。さらに第120条の2第1号により、暗号方式による技術的保護手段の回避を可能とする装置・プログラムの譲渡等には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(又はこれらの併科)という刑事罰が科されることとなった。
実務上重要なのは、技術的保護手段がコピーコントロールに限定される概念であり、視聴等のアクセス自体を制限する技術(アクセスコントロール)は対象外とされてきた点である。この限界が顕在化したのが、いわゆるマジコン事件である。ニンテンドーDS用の機器(マジコン)の輸入・販売行為について、東京地方裁判所平成21年2月27日判決は不正競争防止法第2条第1項第10号の「技術的制限手段」(コピーコントロールとアクセスコントロールの双方を含む概念)への該当性を認め、輸入販売業者に対する差止め及び損害賠償を命じた。この訴訟は最終的に最高裁判所が上告を棄却して確定している。しかし、当時の著作権法第120条の2第1号が保護していたのはコピー管理技術のみであり、マジコンが回避していたのはゲーム機側のアクセス管理技術にとどまるとして、著作権法違反は問われなかった。この役割分担を解消する形で導入されたのが次に解説する第21号の技術的利用制限手段である。
第21号 技術的利用制限手段
条文原文
二十一 技術的利用制限手段 電磁的方法により、著作物等の視聴(プログラムの著作物にあつては、当該著作物を電子計算機において実行する行為を含む。以下この号及び第百十三条第六項において同じ。)を制限する手段(著作権者等の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
趣旨・立法背景
技術的利用制限手段は、平成30年(2018年)改正により新設された定義であり、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)への対応として整備された。第20号の技術的保護手段が著作権等の侵害行為の防止・抑止という権利侵害との結び付きを要件とするのに対し、第21号は著作物等の「視聴」を制限する手段そのものを対象とする点で異なる。視聴の制限にはプログラムの著作物を電子計算機で実行する行為も含まれると明記されており、ソフトウェアのライセンス認証技術が射程に入ることが明確になっている。これにより、従来は不正競争防止法でのみ対応されていたアクセスコントロール回避が、著作権法の体系内でも直接の規制対象となった。
用語解説
定義の骨格は第20号と並行的であり、信号方式と暗号方式の二類型からなる。相違点は、保護対象が「著作権等の侵害行為の防止・抑止」ではなく「視聴の制限」であること、すなわち権利侵害との連動を要件としない点にある。これは、視聴行為自体は伝統的な著作権の対象外であるため、技術的利用制限手段の回避規制は著作権の権利範囲を実体的に拡張するものではなく、視聴制限技術という独立した保護対象を設けたものと位置付けられる。
改正の内容や変化と最新の動向
令和2年(2020年)改正では、第2条第1項第20号・第21号の双方について、アクセスコントロールに関する保護がさらに強化された。具体的には、コンテンツ提供方法がパッケージ販売からインターネット配信に移行する中で普及したシリアルコード等によるライセンス認証技術(いわゆるアクティベーション方式)が保護対象に含まれることを明確化する定義規定の改正が行われ、併せて、ライセンス認証等を回避するための不正なシリアルコードの提供等を著作権等を侵害する行為とみなす規定(第113条第7項)が整備された。これにより、ライセンス認証回避用のシリアルコードを提供する行為について、差止請求・損害賠償請求の対象とするとともに、故意犯について第120条の2第4号の刑事罰の対象とすることが定められた。
平成30年改正でアクセスコントロール回避規制が著作権法に取り込まれたことの実務的な意味は大きい。マジコン事件で問題となったようなゲーム機の起動制限回避装置や、ソフトウェアのライセンス認証回避ツール(クラック・パッチ等)の頒布は、現行法では第21号の技術的利用制限手段の回避を「専ら」その機能とする装置・プログラムの提供として、第120条の2の刑事罰の対象となり得る。企業がBtoB・BtoCでソフトウェア製品やSaaSにライセンス認証機能を実装する場合、この規定が自社の保護技術の法的根拠となる一方、自社製品の検証・リバースエンジニアリング(市販ソフトを分解・解析)を行う際には回避規制との関係を確認する必要がある。
第22号 権利管理情報
条文原文
二十二 権利管理情報 第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項から第四項までの権利(以下この号において「著作権等」という。)に関する情報であつて、イからハまでのいずれかに該当するもののうち、電磁的方法により著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録され、又は送信されるもの(著作物等の利用状況の把握、著作物等の利用の許諾に係る事務処理その他の著作権等の管理(電子計算機によるものに限る。)に用いられていないものを除く。)をいう。
イ 著作物等、著作権等を有する者その他政令で定める事項を特定する情報
ロ 著作物等の利用を許諾する場合の利用方法及び条件に関する情報
ハ 他の情報と照合することによりイ又はロに掲げる事項を特定することができることとなる情報
趣旨・立法背景
権利管理情報も平成11年改正で導入された定義であり、前述のWIPO新条約が要求する三つの対応事項(インタラクティブ送信に関する権利の創設、技術的手段の回避規制の導入、権利管理情報の改ざん等からの保護制度の導入)のうち、第三の柱に対応するものである。デジタルコンテンツに著作者名・利用許諾条件等の情報を電子的に埋め込み、電子計算機による著作権等の管理に活用する仕組みが普及したことを受け、その情報の除去・改変等を規制する前提として定義規定が置かれた。
用語解説
権利管理情報に該当するためには、イ(著作物等や権利者を特定する情報)、ロ(利用許諾の方法・条件に関する情報)、ハ(イ・ロの事項を他の情報と照合して特定できることとなる情報)のいずれかに当たることに加え、電磁的方法により音や影像とともに記録・送信されるものであることが必要である。さらに、かっこ書きにより、電子計算機による著作権等の管理に用いられていない情報は除外される。したがって、単に作品名や著作者名が表示されているだけでは直ちに権利管理情報とはならず、利用状況の把握や許諾手続といった管理目的での電子的な利用が伴っていることが要件となる。具体例としては、音楽ファイルのメタデータに埋め込まれたISRCコード(国際標準レコーディングコード)や、デジタル画像のEXIF情報に記録された著作者・利用条件情報などが挙げられる。
権利管理情報を故意に除去・改変する行為や、除去・改変された情報を保持したまま著作物等を頒布する行為は、第113条第8項により著作権等を侵害する行為とみなされる。企業がウェブサイトや社内システムで画像・音声等のコンテンツを取り扱う際、外部から提供されたファイルのメタデータを一律に削除する処理を自動化している場合には、当該処理が権利管理情報の除去に該当しないか確認する必要がある。
第23号 著作権等管理事業者
条文原文
二十三 著作権等管理事業者 著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第三項に規定する著作権等管理事業者をいう。
趣旨・立法背景
本号は著作権法独自の定義を置くものではなく、著作権等管理事業法上の概念を引用する規定である。同法は、JASRAC(日本音楽著作権協会)など、著作権・著作隣接権の管理を委託に基づき集中的に行う事業者を登録制の下で規律するために平成12年(2000年)に制定された。著作権法側で著作権等管理事業者という用語を用いる条文(例えば私的録音録画補償金制度や授業目的公衆送信補償金制度に関する規定など)において、著作権等管理事業法上の定義をそのまま取り込むために本号が設けられている。
実務上の留意点
企業が音楽・映像・出版物等のコンテンツ利用許諾を受ける際、相手方が著作権等管理事業者として登録されているか、また管理委託の範囲(著作権・著作隣接権のいずれを管理しているか)を確認することは、許諾の有効性を判断する基本的な実務である。著作権等管理事業者の登録状況は文化庁のウェブサイトで確認できる。下記は令和8年4月1日現在。
著作権等管理事業者一覧(全28事業者)
01001:一般社団法人日本音楽著作権協会(音楽)
01002:公益社団法人日本文藝家協会(言語)
01003:協同組合日本脚本家連盟(言語)
01004:協同組合日本シナリオ作家協会(言語)
01005:株式会社NexTone(音楽,レコード)
01006:株式会社東京美術倶楽部(美術,言語)
01008:公益社団法人日本複製権センター(言語,美術,図形,写真,音楽,舞踊又は無言劇,プログラム,編集著作物)
02001:一般社団法人日本レコード協会(レコード,実演)
02004:一般社団法人学術著作権協会(言語,図形,写真,プログラム,編集著作物,美術,建築,映画,音楽,舞踊又は無言劇)
02005:公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(実演)
02006:一般社団法人日本美術家連盟(美術)
02007:株式会社メディアリンクス・ジャパン(美術,写真,言語)
02010:一般社団法人教科書著作権協会(言語,音楽,美術,図形,写真)
02013:有限会社コーベット・フォトエージェンシー(写真,言語,美術,図形)
03010:一般社団法人日本出版著作権協会(言語,写真,図形,美術)
04001:一般社団法人出版物貸与権管理センター(言語,美術,写真,図形)
05001:株式会社International Copyright Association(音楽,レコード)
06001:協同組合日本写真家ユニオン(写真)
07002:一般社団法人出版者著作権管理機構(言語,美術,図形,写真,編集著作物)
08001:株式会社アイ・シー・エージェンシー(音楽,レコード,実演)
09002:株式会社日本ビジュアル著作権協会(言語,美術,図形,映画,写真)
12001:一般社団法人日本美術著作権協会(美術)
13001:一般社団法人日本テレビジョン放送著作権協会(映画,放送)
14001:一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構(実演)
18001:公益社団法人日本漫画家協会(言語,美術)
22001:株式会社かぜつち(美術)
22002:一般社団法人障がい者アート協会(美術,写真)
著作権等管理事業の開始準備中の事業者 ※管理委託契約約款及び使用料規程を定め、文化庁へ届出をしなければ事業を開始できません。
20001:一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(言語,音楽,舞踊又は無言劇,美術,建築,図形,映画,写真,プログラム,実演,レコード,放送,有線放送)
第24号・第25号 国内・国外
条文原文
二十四 国内 この法律の施行地をいう。 二十五 国外 この法律の施行地外の地域をいう。
趣旨・立法背景
この二つの号は、著作権法の属地的な適用範囲を画定するための定義である。著作権法は基本的に日本国内における著作物等の利用行為を規律する法律であるが、第6条(保護を受ける著作物)や第8条(保護を受ける実演)、第30条第1項第3号(国外で行われた自動公衆送信を国内で受信して行う私的複製の取扱い)など、国内・国外の区別が要件となる条文が多数存在するため、その前提となる用語を統一的に定義している。
実務上の留意点
「国内」とは著作権法の施行地、すなわち日本国の領域をいい、「国外」とはそれ以外の地域をいう。海外のサーバーから配信されるコンテンツの取扱いや、海外子会社・海外取引先との間でのコンテンツライセンス契約を検討する企業にとって、国内・国外の区別は侵害の成否や権利制限規定の適用可否を左右する基礎的な前提となる。例えば、国外で行われた自動公衆送信であっても、国内で行われたとすれば著作権侵害となるべきものを受信して行う録音・録画は、私的使用目的であっても著作権法上の規制対象となる場合がある。
企業の実務上の留意点
第20号から第25号までの規定は、いずれも直接に権利義務を創設する条文ではなく、第30条・第113条・第120条の2など実体規定の前提となる定義規定である。そのため、これらの号自体を読むだけでは規制内容が見えにくいが、実体規定と併せて読むことで、ソフトウェアやデジタルコンテンツに実装するDRM・ライセンス認証技術がどの範囲で法的保護を受けるか、また自社が他社製品の保護技術を回避するツールを開発・提供する場合にどのような法的リスクが生じるかが明確になる。生成AIサービスを提供・利用する企業や自治体にとっても、学習データや出力物に付随する権利管理情報の取扱い、AIサービスの利用制限技術(API利用制限やウォーターマーク等)の位置付けを検討する際の出発点として、これらの定義規定の理解が前提となる。
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