条文原文
(特例)
第五十七条 職員のうち、公立学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園であつて地方公共団体の設置するものをいう。)の教職員(学校教育法第七条(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第二十六条において準用する場合を含む。)に規定する校長及び教員並びに学校教育法第二十七条第二項(同法第八十二条において準用する場合を含む。)、第三十七条第一項(同法第四十九条及び第八十二条において準用する場合を含む。)、第六十条第一項(同法第八十二条において準用する場合を含む。)、第六十九条第一項、第九十二条第一項及び第百二十条第一項並びに就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第十四条第二項に規定する事務職員をいう。)、単純な労務に雇用される者その他その職務と責任の特殊性に基づいてこの法律に対する特例を必要とするものについては、別に法律で定める。ただし、その特例は、第一条の精神に反するものであつてはならない。
趣旨・立法背景
統一法としての地方公務員法と特例の必要性
地方公務員法は、第4条第1項により一般職に属するすべての地方公務員(職員)に適用される統一法である。しかし、一般職といっても、その職務内容は多様である。児童生徒の教育に従事する教職員、バスや水道といった地方公営企業に勤務する職員、清掃や用務のような現場労務に従事する職員は、いずれも一般行政事務に従事する職員とは職務の性質も勤務の態様も異なる。
そこで本条は、「職務と責任の特殊性」に基づいて地方公務員法に対する特例を必要とする職員については、地方公務員法自体を細分化するのではなく、別の法律に委ねるという立法方式を採用した。昭和25年の制定当初から置かれている委任規定であり、地方公務員制度の骨格を一本の法律で維持しつつ、職種ごとの特殊性への対応を個別法に逃がす構造をつくっている。
ただし書の意味――特例の限界
ただし書は、特例が「第一条の精神」に反してはならないと定める。第1条は、地方公共団体の人事機関と人事行政の根本基準を確立し、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営を保障し、もつて地方自治の本旨の実現に資することを目的として掲げている。したがって、成績主義(メリット・システム)、公正な人事行政、全体の奉仕者としての服務規律という地方公務員法の基本原理そのものを否定するような特例は、本条の授権の範囲を超えることになる。特例法はあくまで基本法の枠内での修正であり、白紙委任ではない。
本条に基づく特例法の全体像
本条を根拠として、現在、次の三つの系統の特例法制が存在する。
- 教育公務員に関する特例
- 教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)。地方公務員法より先に制定され、地方公務員法施行後に本条の特例法として位置づけられた。任免、人事評価、給与、分限、懲戒、服務、研修について特例を定める。
- 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(昭和46年法律第77号。給特法)。時間外勤務手当と休日勤務手当を支給しない代わりに教職調整額を支給する給与の特例を定める。
- 地方教育行政の組織及び運営に関する法律。県費負担教職員の任命権を都道府県教育委員会に与えるなど、任用の特例を含む。
- 企業職員に関する特例
- 地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第39条は、地方公営企業に勤務する企業職員について、地方公務員法の相当部分(給与、勤務条件、労働関係に関する規定など)の適用を除外する。
- 地方公営企業等の労働関係に関する法律(昭和27年法律第289号。地公労法)は、企業職員に団体交渉権と労働協約締結権を認める。
- 単純労務職員に関する特例
- 本条は単純労務職員について「別に法律で定める」としたが、この特別法は制定されないまま今日に至っている。地公労法附則第5項が、特別の法律が制定施行されるまでの間、単純労務職員の労働関係その他身分取扱いについて地方公営企業法第37条から第39条までの規定を準用すると定めており、この経過措置が70年以上にわたり実質的な特例法として機能している。
改正の経緯
本条の骨格は制定当初から変わっていないが、「公立学校の教職員」の定義部分は、学校教育法の改正に伴う条項ずれの整理を重ねてきた。大きな内容変更としては、平成24年の子ども・子育て関連三法の整備に伴う改正により、幼保連携型認定こども園の教職員が対象に加えられ、平成27年4月1日に施行された。これにより、地方公共団体が設置する幼保連携型認定こども園の園長、保育教諭、事務職員も本条の「教職員」に含まれることが明文化された。
令和8年4月1日時点の特例法制の動き
本条自体に令和8年施行の改正はないが、本条に基づく特例法である給特法について、令和7年6月18日公布の給特法等一部改正法により約50年ぶりの大きな見直しが行われた。教職調整額は、令和8年1月1日から従来の給料月額4パーセントが5パーセントに引き上げられ、以後毎年1パーセントずつ段階的に引き上げて10パーセントとすることとされた。また、令和8年4月1日からは、校務の総合的な調整役を担う「主務教諭」の職の創設、教育委員会に対する業務量管理・健康確保措置実施計画の策定・公表の義務付けが施行されている。本条を入口とする特例法制が、教員の働き方改革を背景に現在進行形で動いていることを押さえておきたい。
用語解説
- 「公立学校」 学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、高等専門学校)と、認定こども園法(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律)第2条第7項の幼保連携型認定こども園のうち、地方公共団体が設置するものをいう。私立学校の教職員は地方公務員ではないため、そもそも本条の対象外である。
- 「教職員」 校長(園長を含む)および教員に加え、学校教育法の各条に規定する事務職員を含む点に注意を要する。条文が引用する学校教育法第27条第2項は幼稚園、第37条第1項は小学校(中学校、義務教育学校、特別支援学校に準用)、第60条第1項は高等学校、第69条第1項は中等教育学校、第92条第1項は大学、第120条第1項は高等専門学校の事務職員に関する規定であり、認定こども園法第14条第2項は幼保連携型認定こども園の事務職員に関する規定である。もっとも、事務職員には教育公務員特例法は適用されない(同法第2条の「教育公務員」は校長、教員、部局長、専門的教育職員に限られる)ため、実際に特例の中心となるのは校長と教員である。
- 「単純な労務に雇用される者」 守衛、給仕、小使、運転手、清掃作業員のような現場労務に従事する職員(現業職員のうち企業職員以外のもの)を指す。その範囲を定めていた「単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員の範囲を定める政令」(昭和26年政令第25号)は地公労法の制定に伴い失効したが、これに代わる政令が制定されていないため、実務上は旧政令の定めるところにより解釈して差し支えないと扱われている。
- 「別に法律で定める」 特例は条例や規則ではなく法律で定めなければならないという意味である。地方公務員の身分取扱いの基本を法律事項とする地方公務員法の建前(法定主義)の表れであり、各地方公共団体が独自の判断で地方公務員法の適用を除外することは許されない。
- 「第一条の精神」 人事行政の根本基準の確立、行政の民主的かつ能率的な運営の保障、地方自治の本旨の実現という地方公務員法の目的を指す。特例法の合憲性・適法性を判断する際の解釈基準として機能する。
単純労務職員の身分取扱い(実務上の要点)
地公労法附則第5項による地方公営企業法第37条から第39条までの準用の結果、単純労務職員の身分取扱いは一般行政職員と次の点で異なる。
- 給与は、条例では「給与の種類及び基準」のみを定め(地方公営企業法第38条第4項の準用)、具体的な額は労働協約や規程に委ねられる。一般行政職員のような給与額まで含めた完全な条例主義は妥当しない。
- 労働組合法・労働関係調整法が原則として適用され、労働組合の結成、団体交渉、労働協約の締結が認められる。一般行政職員の職員団体制度とは異なる枠組みである。
- 他方、争議行為は地公労法第11条により禁止されており、この点は公務員としての制約が維持されている。
- 勤務条件に関する措置要求や不利益処分の審査請求に関する地方公務員法の規定は適用が除外され、労働委員会による調整の仕組みに服する。
判例・裁判例
旭川学力テスト事件(最高裁大法廷判決昭和51年5月21日刑集30巻5号615頁)
全国中学校一斉学力調査の実施阻止行動をめぐる刑事事件において、最高裁大法廷は、普通教育における教師に一定の範囲の教授の自由が認められるとしつつ、児童生徒に批判能力が十分でないこと、教育の機会均等と全国的な教育水準確保の要請から、完全な教授の自由は認められず、国は必要かつ相当な範囲で教育内容を決定する権能を有すると判示した。教育公務員の職務の特殊性がいかなるもので、どこまで一般公務員と異なる取扱いを正当化するかを考えるうえで、本条の特例法制の背景を理解する出発点となる判例である。
埼玉県公立小学校教員超勤訴訟(さいたま地裁判決令和3年10月1日、東京高裁判決令和4年8月25日、令和5年3月最高裁で敗訴確定)
公立小学校の教員が、時間外勤務に対する割増賃金の支払いなどを求めた事案である。さいたま地裁は、給特法の下では超勤4項目(生徒の実習、学校行事、職員会議、非常災害)以外の時間外の業務は自発的なものと位置づけられるとして労働基準法37条に基づく請求を退け、国家賠償請求も認めなかった。ただし判決は、登校指導のような業務が労働時間に当たり得ることを認定したうえで、給特法がもはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ないと付言し、原告が訴訟を通じて問題を社会に提起したことに意義があると述べた。控訴審も結論を維持し、令和5年3月に最高裁が上告を退けて敗訴が確定したが、この付言は令和7年の給特法改正論議に影響を与えた裁判例として実務上参照されている。
単純労務職員に関する行政解釈
単純労務職員の範囲について、失効した昭和26年政令第25号の定めるところにより解釈して差し支えないとする行政解釈が確立しており、各地方公共団体の給与条例や人事実務はこれを前提に運用されている。また、単純労務職員の給与条例が「種類及び基準」のみを定める形式をとるのは地方公営企業法第38条第4項の準用によるものであり、全国の条例例(技能労務職員給与条例)はいずれもこの構造を反映している。
国家公務員法との比較
国家公務員法には本条に直接対応する規定として附則第13条があり、一般職の職員に関し、その職務と責任の特殊性に基づいて国家公務員法の特例を要する場合には別に法律で規定することができるとし、その特例は同法第1条の精神に反するものであってはならないと定める。委任の構造もただし書による限界の設定も、本条とほぼ同一である。
国家公務員における特例法の例としては、検察官について任免や身分保障の特例を定める検察庁法、外交領事業務の特殊性に対応する外務公務員法が挙げられる。他方、国立学校の教員はかつて教育公務員特例法の適用を受ける国家公務員であったが、平成16年の国立大学法人化により非公務員となったため、現在、教育公務員特例法は事実上、地方公務員である公立学校の教育公務員のための法律となっている。地方公務員の側では教育公務員と単純労務職員が特例の二本柱であるのに対し、国家公務員の側では検察官と外務公務員が典型例であるという対比を押さえておけば、昇任試験対策としては十分である。
なお、地方公営企業の企業職員に相当する国家公務員の現業部門(かつての郵政、国有林野など)は、民営化や独立行政法人化により大きく縮小しており、この分野の特例法制は地方公務員に固有の論点としての性格を強めている。
◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/


