最初に切り分けるべきこと――議員は「労働者」ではない
議会でハラスメント事案が生じたとき、担当者が最初につまずくのがこの点である。
2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法は、カスタマーハラスメントにつき事業主に対して雇用管理上の措置を義務づける法律である。対象は「労働者」であり、議会事務局の職員は当然に含まれる。しかし議員は当該地方公共団体に雇用される労働者ではない。議員から議員に対するハラスメント、議員から事務局職員に対するハラスメント、有権者から議員に対するハラスメントは、それぞれ適用関係が異なる。
整理すると次のようになる。議員から事務局職員への言動は、職員側から見れば職場のハラスメントであり、任命権者である長または議長の措置義務の問題となる。議員間の言動は、労働関係の枠外にあり、労働施策総合推進法では捕捉できない。有権者から議員への言動――いわゆる票ハラスメント――は、そもそも職場の概念に収まらない。
同じ「議会のハラスメント」という言葉で括られていても、根拠法と処理経路が別である。この切り分けをせずに一つの相談窓口を設けると、受け付けた後に処理できない類型が必ず出る。
議員間ハラスメントの法的根拠はどこにあるか
議員間の事案を扱う直接の根拠は、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年法律第28号)に求められる。令和3年6月の改正により、男女を問わず立候補や議員活動をしやすい環境を整備するため、性的な言動等に起因する問題への対応を含む国および地方公共団体の施策が強化された。内閣府男女共同参画局は2022年4月に「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」構成案を公表している。下記サイト参照。
⇒ https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/politics-harassment/2nd/index.html
もっとも、この法律が定めるのは施策の方向であり、個別の事案処理の手続まで規定するものではない。実際の処理は条例と規程で組み立てることになる。
条例による設計例――福岡県が示した型
福岡県議会は、議員提案により「福岡県における議会関係ハラスメントを根絶するための条例」を令和4年6月21日に可決・成立させ、同年7月5日に公布した。地方議会のハラスメント条例は増加を続け、2025年2月時点で85議会が公布している。
福岡県条例の設計は、他議会が参照しやすい構造を持つ。
対象範囲は、県議会議員だけでなく、県議会議員になろうとする者、県内市町村議会におけるハラスメント、さらに有権者から議員や議員となろうとする者に対するハラスメントにまで及ぶ。議員を補助する者に対するハラスメントも相談の対象としている。
処理の主体は、議長が委嘱する弁護士等の相談員である。被害の申立てがあった場合、相談員が必要な調査を行い、助言する。県議会関係の事案は必要に応じて議長に報告され、議長は報告を踏まえて注意喚起等の被害防止措置を講じる。議長は相談の受付・対応状況を随時公表する。
この設計の要点は三つある。第一に、調査主体を議会の外に置いている。第二に、相談員の権限を調査と助言にとどめ、処分権限は議長に残している。第三に、受付・対応状況の公表を制度に組み込み、握りつぶしを構造的に困難にしている。
懲罰手続との関係――ここを誤ると処分が覆る
第三者委員会と混同されやすいのが、地方自治法上の懲罰である。地方自治法134条は議会の懲罰権を定め、135条1項は懲罰の種類として戒告、陳謝、出席停止、除名を規定する。除名には出席議員の3分の2以上の同意が必要である(135条3項)。
かつて、除名以外の懲罰は議会の内部自律に属し司法審査の対象外とされていた。この扱いは、最高裁大法廷判決令和2年11月25日により変更された。出席停止の懲罰も司法審査の対象となる。議員が住民の負託を受けて活動する権能を制約する以上、その適否は司法によって判断されうるという理解である。
実務上の帰結は重い。出席停止を含む懲罰を科す場合、事実認定の過程と手続の適正が事後に裁判所で検証されうる。「議会の多数決で決めたことだから」という説明は成り立たない。
ここに第三者委員会を置く実質的な意味がある。議会内部の多数派が事実認定まで行えば、処分の正当性は常に党派性の疑いにさらされる。外部の第三者が事実関係を調査し、その結果を踏まえて議会が処分を判断するという二段構えにすることで、手続の適正が担保される。第三者委員会は被害者を守る制度であると同時に、議会自身を訴訟リスクから守る制度でもある。
立ち上げの手順
第一段階 対象範囲の確定
議員間、議員から事務局職員、有権者から議員、議員から住民のうち、どこまでを制度の対象とするかを最初に決める。ここが曖昧なまま条例案の文言に進むと、審議の途中で必ず紛糾する。
第二段階 根拠形式の選択
条例で定めるか、議会基本条例の改正で対応するか、会議規則および要綱で運用するかを選ぶ。条例は議決を要するため議員の合意形成が必要になるが、拘束力と対外的な説明力が最も強い。要綱による運用は迅速だが、議長交代で扱いが変わりうる。既にハラスメント事案が顕在化している議会では、条例まで進めないと収まらないことが多い。
第三段階 委員の人選
弁護士、大学教員、社会保険労務士、行政実務経験者などから選任する。決定的に重要なのは、当該議会の会派・議員と利害関係を持たない者を選ぶことである。顧問弁護士や、議会答弁の作成に関与してきた者は避ける。人選そのものが制度の信頼性を決める。
第四段階 申立てから措置までの流れの明文化
受付方法(書面・口頭・匿名の可否)、受理の判断、調査の方法と期間、被申立人の弁明の機会、報告書の様式、議長への報告、措置の種類、公表の範囲を規程で定める。被申立人の弁明の機会を欠いた手続は、後に処分の効力を争われたときに致命的な瑕疵となる。
第五段階 秘密保持と不利益取扱い禁止の担保
申立てをした議員や職員が、その後の委員会配属や質問順で不利益を受けない仕組みを明記する。小規模議会では申立人の特定が容易であり、この担保がなければ制度は使われない。
第六段階 研修による周知
制度を作っただけでは機能しない。何がハラスメントに当たるか、申立てをするとどうなるか、申立てを受けた側にどのような手続が保障されるかを、全議員と事務局職員に説明する。福岡県が内閣府の研修教材を活用しているように、既存の教材を土台にできる。
失敗する三つの型
第一に、議員だけで委員会を構成する型である。事実認定に党派性が入り、結論が出ても当事者が納得しない。
第二に、事案が発生してから設置する型である。制度設計と個別事案の処理を同時に進めることになり、「特定の議員を狙った制度だ」という反発を招く。平時に作っておく以外にない。
第三に、公表基準を定めない型である。何をどこまで公表するかを事前に決めていないと、事案ごとに判断がぶれ、その判断自体が新たな紛争の火種になる。
【実際の相談事例】
(1)女性議員の方から
自分の家庭状況を議員間で共有する必要があるのか、公開する必要があるのか、といった相談だった。論点として指摘したのが、内部規定があるのか、議員のプライバシーの尊重は人格権であること等を指摘した。場合によっては、議長などによる場合で言動内容によっては、パワハラやセクハラ等のハラスメントとなり得ることの指摘もした。
(2)議員からの資料請求を受けた執行機関職員から
地方自治法の説明したが、既に慣行的にずっとその地方公共団体では、個々の議員からの要求に応じてきた。再度、地方自治法で個別議員の要求権はないと強調したが、自分だけ応じないわけにはいかないと困惑していた。上司や長に一定の申し入れをしてもらう以外にないと。
(3)著作権法の絡む相談
(4)議員による執行機関職員へのハラスメント
(5)議員による執行機関職員への不当要求
その他がある。守秘義務の範囲内ではここにある通りである。随時、詳細を加筆する。
参考資料
- 地方自治法134条・135条(懲罰)
- 最高裁判所大法廷判決令和2年11月25日(議員に対する出席停止の懲罰と司法審査)
- 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年法律第28号、令和3年6月改正)
- 福岡県における議会関係ハラスメントを根絶するための条例(令和4年6月21日可決、7月5日公布)、同条例施行規程、福岡県議会関係ハラスメント相談処理規程
- 内閣府男女共同参画局「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」(令和4年4月)
- 内閣府男女共同参画局「女性の政治参画への障壁等に関する調査研究」(令和7年3月)
- 総務省 地方制度調査会専門小委員会資料「地方議会の課題に係る対応等について」
- 一般財団法人地方自治研究機構「首長等や議員によるハラスメントに関する条例」


