地方議会のコンプライアンスは、自治体職員のそれとは別物です

議会からご相談をいただくとき、最初に申し上げているのが次の点です。

議員は、当該地方公共団体に雇用される労働者ではありません。地方公務員法の適用もありません。したがって、職員向けに整備されたハラスメント要綱も、服務規律も、懲戒処分の枠組みも、議員には直接適用されません。2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法のカスタマーハラスメント措置義務についても、議会事務局職員は対象となりますが、議員は対象外です。

一方で、議員には議員固有の規律があります。地方自治法上の懲罰(134条・135条)、政治倫理条例、政務活動費の使途基準、委員会の秘密会に係る守秘義務、兼業禁止と利益相反。これらは職員向けの研修では一切扱われません。

つまり、職員研修をそのまま議員に流用しても機能しませんし、議員研修の内容を事務局職員に当てても実務の役に立ちません。議会のコンプライアンス研修は、両者を分けて設計する必要があります。

いま議会が直面している三つの期限

2026年10月1日 ― カスタマーハラスメント対策の義務化

改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、議会事務局職員に対するカスタマーハラスメント対策が法的義務となります。指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は方針の明確化、相談体制の整備、事後の対応、悪質事案への抑止体制を求めています。

議会事務局は、住民対応と議員対応が交錯する特殊な職場です。総務省が2026年8月22日に公表したマニュアル作成手引は対応打ち切り時間の目安を初めて示しましたが、議員からの要求にそのまま当てはめられるかは別途の判断を要します。

2026年12月1日 ― 改正公益通報者保護法の施行

改正法(令和7年法律第62号)が2026年12月1日に施行されます。ただし、地方公共団体および議会に及ぶ範囲は、民間企業向けの解説とは異なります。

第一に、一般職の地方公務員に対する免職その他不利益な取扱いの禁止については、法第9条により、第3条から第5条までの規定にかかわらず地方公務員法の定めるところによるとされています。任命権者は、公益通報をしたことを理由として職員に不利益な取扱いがされることのないよう、地方公務員法の規定を適用しなければなりません。改正で新設された解雇・懲戒に対する刑事罰をそのまま職員の懲戒処分に当てはめる説明が見られますが、公務員については適用の経路が異なります。処分の適否は地方公務員法の枠組みで判断されます。

第二に、議会は法律上の「行政機関」に含まれません。法第2条第4項第2号は、行政機関の定義から議会を除いています。外部の労働者から通報を受けたときに必要な調査を行い、法令に基づく措置その他適当な措置をとる義務(法第10条第1項)を負うのは執行機関であって、議会ではありません。

では議会に関係がないかというと、そうではありません。議会事務局の職員は当該地方公共団体に勤務する労働者であり、内部公益通報の主体となります。また、議員が住民や事業者から法令違反に関する情報を持ち込まれる場面は現実に生じます。制度上の受け皿が執行機関側にしか置かれていない中で、議会に持ち込まれた情報を誰がどう扱うのか、調査権をどう発動するのか、通報者の氏名をどこまで保護するのかを定めている議会はほとんどありません。

この空白は、事案が起きてから埋めることができません。

議会関係ハラスメント条例の広がり

地方議会のハラスメント防止条例は増加を続け、2025年2月時点で85議会が公布しています。福岡県議会が令和4年に制定した条例は、議長が委嘱する弁護士等の相談員が調査と助言を行い、議長が措置を講じ、受付・対応状況を公表するという設計を示しました。

制度を作ること自体は難しくありません。難しいのは、作った制度が実際に使われる状態にすることです。

研修メニュー

議員向け

議員のためのコンプライアンス総論(90分〜120分) なぜ議員に法令遵守以上のものが求められるのか。議会の信頼が失われたときに何が起きるか。他議会で実際に生じた事案から、判断の分かれ目を検討します。

議会関係ハラスメントの防止(90分〜120分) 議員間、議員から事務局職員、有権者から議員という三つの類型を切り分け、それぞれの根拠と処理経路を整理します。何がハラスメントに当たるかの線引きと、申立てを受けた側に保障される手続を扱います。政治分野における男女共同参画の推進に関する法律と内閣府の研修教材を踏まえた内容です。

政治倫理と説明責任(90分) 政治倫理条例の構造、政治倫理審査会の運用、資産等報告書、兼業と利益相反の判断基準を扱います。

政務活動費の適正執行(90分) 使途基準の考え方、住民監査請求・住民訴訟で争われた実例、按分の判断、収支報告と領収書の管理を扱います。

懲罰手続の適正 ― 最高裁令和2年判決以降(90分) 地方自治法134条・135条の懲罰について、最高裁大法廷判決令和2年11月25日により出席停止も司法審査の対象となりました。事実認定と手続の適正が事後に裁判所で検証されうる前提で、議会がどう手続を組むべきかを扱います。

議員のSNS・情報発信と法的リスク(90分) 名誉毀損、プライバシー侵害、著作権侵害、選挙運動との境界、批判に対する対応。著作権法務を専門領域とする立場から、引用と転載の線引きを実務水準で扱います。

議会事務局職員向け

議会事務局のためのカスタマーハラスメント対応(120分〜半日) 2026年10月1日施行に対応した内容です。住民対応と議員対応の双方を含め、記録の取り方、打ち切りの判断、上司への引き継ぎ、警察通報の判断権者までを扱います。

議会事務局の情報管理と守秘義務(90分) 秘密会の記録、個人情報保護法(行政機関等関係)、情報公開請求への対応、議員からの資料要求の限界を扱います。

改正公益通報者保護法と議会(90分) 2026年12月1日施行に対応した内容です。

議長会・研修会向け

複数議会の合同研修、議長会主催の研修会にも対応します。愛知県内での実施実績のある形態です。

講師について

行政書士 中川恒信(中川総合法務オフィス代表)

コンプライアンス研修850回超、40都道府県以上で実施。一つの県の市町村職員研修機関とは15年連続で研修を担当しています。

近年の主な実施先として、県知事および幹部職員120名を対象とした研修、政令指定都市の市長・副市長も任意参加した局長級職員80名を対象とした研修、県内消防組織の職員約300名を対象とした研修があります。首長自身が受講した事例は、組織の上位層から取り組む姿勢を示すものとして、他団体の参考にしていただいています。

大学院において消防法および消防組織法を研究しています。日本著作権法学会会員。株式会社ぎょうせいからの出版実績があります。

弁護士とは異なる立場から関与しています。訴訟を前提とせず、組織の内部で処理できる段階のうちに整理することを主眼としています。15年にわたり地方公共団体の内部で研修を続けてきたことから、条文の解釈だけでなく、組織内で誰がどう動くかを踏まえた助言ができます。

実施までの流れ

第一に、お問い合わせをいただきます。電話またはメールで結構です。この段階で費用は発生しません。

第二に、現在お困りの点をお聞かせください。研修の依頼という形でなくとも構いません。「こういう事案が起きているが、どう整理すべきか分からない」という段階でのご相談を数多くお受けしています。

第三に、内容と日程を調整します。既存の要綱・条例・マニュアルをお預かりし、それを前提とした内容に組み立てます。汎用の資料や研修会社作成テキスト等をそのまま使うことはありません。

第四に、実施します。資料は事前にお送りします。遅くとも1週間前が目安です。早期提出希望の場合は応じています。

費用の目安

議会研修は1回あたり200,000円(税別)からとし、内容に応じてご相談に応じています。交通費は別途申し受けます。

民間企業向けの研修は1回300,000円(税別)を標準としており、議会研修はこれとは別の体系としています。議会研修は議員定数に応じた少人数での実施が中心であり、実施時間も90分から120分が標準であること、公費による支出であることを踏まえたものです。

地方議会は、執行機関側と比べて研修予算が限られている場合が少なくありません。これまでご相談をいただく中でも、議会費に研修費の枠がそもそも設けられていない、あるいは単価の上限が決まっているという事情を数多く伺ってきました。予算の制約がある場合は、次のような方法をご案内しています。

近隣議会との合同実施により、1議会あたりの負担を分ける方法があります。議長会主催の研修会として組み立てれば、個別議会の予算を使わずに実施できる場合があります。オンライン実施により交通費相当分を圧縮する方法もあります。研修時間を90分に絞り、テーマを一つに限定する構成も可能です。

まずは現在確保できる予算額をお知らせください。その範囲で実施できる内容をご提案します。予算がつかない年度であっても、次年度の要求に向けた資料の作成についてはご相談に応じます。

個別の事案についてのご相談

研修とは別に、現に発生している事案についてのご相談をお受けしています。

「議員間のトラブルが起きているが、公にせずに収めたい」「ハラスメントの申立てがあったが、どう手続を進めるべきか分からない」「懲罰を検討しているが、後で争われないか不安がある」といったご相談です。

外部の第三者が入ることで、議会内部の力関係から独立した整理が可能になります。関係者が特定されない形でのご相談から結構です。

【実際の相談事例】

(1)女性議員の方から

 自分の家庭状況を議員間で共有する必要があるのか、公開する必要があるのか、といった相談だった。論点として指摘したのが、内部規定があるのか、議員のプライバシーの尊重は人格権であること等を指摘した。場合によっては、議長などによる場合で言動内容によっては、パワハラやセクハラ等のハラスメントとなり得ることの指摘もした。

(2)議員からの資料請求を受けた執行機関職員から

 地方自治法の説明したが、既に慣行的にずっとその地方公共団体では、個々の議員からの要求に応じてきた。再度、地方自治法で個別議員の要求権はないと強調したが、自分だけ応じないわけにはいかないと困惑していた。上司や長に一定の申し入れをしてもらう以外にないと。

(3)著作権法の絡む相談

(4)議員による執行機関職員へのハラスメント

(5)議員による執行機関職員への不当要求

その他がある。

よくあるご質問

議員だけ、事務局職員だけの実施も可能ですか。 可能です。むしろ分けて実施することをお勧めしています。議員と職員が同席すると、職員側が率直に質問できない場面があります。

議会運営委員会での事前説明は必要ですか。 議会によって異なります。必要な場合は、説明用の資料を作成してお渡しします。

オンラインでの実施は可能ですか。 可能です。ただし、ハラスメントや個別事案を扱う内容では、対面の方が質疑が出やすい傾向があります。

条例や要綱の作成そのものを依頼できますか。 制度設計の助言と原案の作成支援を行っています。議員提案条例として組み立てる場合の手順についてもご相談に応じます。

急ぎで対応してもらえますか。 日程次第です。まずはご連絡ください。


お問い合わせ

中川総合法務オフィス 電話 075-955-0307 京都府長岡京市


参考資料

  • 地方自治法134条・135条(懲罰)
  • 最高裁判所大法廷判決令和2年11月25日(出席停止の懲罰と司法審査)
  • 政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年法律第28号、令和3年6月改正)
  • 内閣府男女共同参画局「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」(令和4年4月)
  • 労働施策総合推進法の一部を改正する法律(令和7年法律第63号、2026年10月1日施行)
  • 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
  • 総務省 カスハラ対応マニュアル作成手引(2026年8月22日公表)
  • 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号、2026年12月1日施行)
  • 福岡県における議会関係ハラスメントを根絶するための条例(令和4年7月5日公布)
  • 一般財団法人地方自治研究機構「首長等や議員によるハラスメントに関する条例」

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