条文原文
第四条の二(レコードの発行)
レコードは、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、第九十六条に規定する権利を有する者又はその許諾(第百三条において準用する第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。第四章第二節及び第三節において同じ。)を得た者によつて作成され、頒布された場合(第九十七条の二第一項又は第九十七条の三第一項に規定する権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)において、発行されたものとする。
趣旨・立法背景
第4条の2は、著作隣接権の客体であるレコードについて、「発行」の概念を定義する規定である。著作物の発行については第3条が既に定義を置いているが、レコードはレコード製作者の著作隣接権(第96条の複製権)の対象であって著作物そのものではないため、第3条の適用対象に含まれない。そこで別途、レコードに固有の発行概念を定めたのが本条である。
この規定が設けられた背景には、日本が実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約)に加入した経緯がある。日本政府は昭和36年に作成された同条約の加入書を平成元年7月26日に寄託し、条約は同年10月26日に日本について効力を生じた。ローマ条約は締約国のレコード製作者に対して内国民待遇を義務付けており、これに対応するため、国内法においてもレコードの保護要件(第8条)や発行概念(第4条の2)を条約の水準に合わせて整備する必要が生じた。著作物における発行概念(第3条)が、ベルヌ条約上の内国民待遇の基準となる「最初の発行地」を確定するために機能してきたのと同様に、第4条の2はレコードについて同様の機能を果たす規定として新設されたものである。
なお、条文中に第97条の2第1項(レコードの商業用貸与に関する報酬請求権等)及び第97条の3第1項(同期間経過後の貸与についての規定)への言及があるが、これらは本条制定後の著作隣接権整備の過程で追加された規定であり、レコードの複製物が権利者の許諾を得て作成・頒布されても、貸与に係る別途の権利を害する場合には「発行」の要件を満たさないことを明確にする趣旨で挿入されたものである。条文の構造自体は当初から変わらず、関連条文の新設に伴い括弧書きの引用条文が追加される形で改正されてきた。
用語解説
レコード:第2条第1項第5号において、蓄音機用レコード、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く)と定義される。CDやレコード盤に限らず、音楽配信用の音源データなども実質的にこの概念に含まれ得る。
相当程度の部数:公衆の需要を満たすに足りる数量を指し、レコードの性質(商業用か非営利頒布用かなど)に応じて相対的に判断される。画一的な数量基準は存在しない。
第96条に規定する権利を有する者:レコード製作者を指す。レコード製作者は自らそのレコードを複製する権利(複製権)を専有する。
その許諾を得た者:レコード製作者から、第103条において準用される第63条第1項の規定による利用許諾を得た者をいう。出版権類似の許諾構造を前提とする。
頒布:有償・無償を問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいう(第2条第1項第19号参照)。
第97条の2第1項又は第97条の3第1項に規定する権利を有する者の権利を害しない場合:商業用レコードの貸与に関する報酬請求権・許諾権を侵害する態様での頒布であった場合には、たとえ前段の要件を満たしても「発行」とは扱われないことを意味する。
実務上の意義と関連する解釈上の留意点
企業実務における本条の主な適用場面は、レコード(音源)の「最初の発行地」の認定である。第8条は、日本国民をレコード製作者とするレコードのほか、「レコードでこれに固定されている音が最初に国内において固定されたもの」等を保護対象としており、国際的な音源ライセンス契約や外国レコード会社とのプロモーション企画において、あるレコードがいつ・どこで「発行」されたと扱われるかは、保護の準拠法や条約上の保護義務の有無を左右する重要な争点となり得る。
もっとも、本条自体を直接の争点として判断した裁判例は多くない。実務上は、著作物の発行に関する第3条の解釈(複製物が権利者の意思に基づき相当程度の部数で市場に置かれたかどうかを実質的に判断する枠組み)が、レコードの発行の解釈においても参考にされる場面が多い。企業がレコード・音源の権利関係を検討する際は、本条の文言のみならず、第8条(レコードの保護を受ける要件)、第96条から第97条の3まで(レコード製作者の権利群)を一体として確認する必要がある。
なお、生成AIによる音源生成・音源学習との関係では、学習用データセットに組み込まれた既存のレコードが本条にいう「発行」された状態にあるか否かが、第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)の適用範囲や、海外レコード製作者の保護の要否を検討する前提として問題になり得る。AIガバナンス体制を検討する自治体・企業においては、学習対象となる音源データの発行地・発行時期の管理も、権利処理の実務上の確認事項の一つに位置付けておくことが望ましい。
参考資料・参考サイト:
- 文化庁「著作権法」(e-Gov法令検索、japaneselawtranslation.go.jp 対訳データベース)
- 文化庁「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約)」関係資料
- 公益社団法人著作権情報センター(CRIC)著作権データベース
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