地方自治法第五章第二節「解散及び解職の請求」のうち、解職投票の効力、解職請求の期間制限、公職選挙法の準用、主要公務員の解職請求を定める第83条から第86条までを扱う。第76条から第82条までで解散請求及び議員・長の解職請求の手続を確認したので、本稿ではその効果と手続の骨格部分を扱う。地方公務員法上の分限・懲戒とは異なり、これらの条文は住民が直接に公職者の地位を失わせる制度であるという点を押さえておく必要がある。
第83条(解職の投票の効力)
条文原文
第八十三条 普通地方公共団体の議会の議員又は長は、第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票において、過半数の同意があつたときは、その職を失う。
趣旨・立法背景
第80条第3項は議員の解職投票、第81条第2項は長の解職投票の実施根拠であり、第83条はその投票結果の法的効果を定める。有効投票総数の過半数の同意があったときに議員又は長は当然に職を失うのであって、別途の失職決定処分は不要である。解職投票そのものが形成的効力を持つ点に特色がある。
なお、解職投票が行われる前に対象者が死亡し又は既に職を失った場合には投票自体を行わない扱いとなる。この点は地方自治法施行令に規定が置かれている。
用語解説
過半数の同意とは、有効投票総数のうち賛成票が2分の1を超えることをいう。棄権票や無効票は分母に含まれない。解職投票は住民投票の一種であるが、憲法上の国民投票のような特別多数決ではなく、単純過半数で足りる点が第86条の主要公務員解職請求(議会の4分の3以上の同意を要する)と対照的である。
地方公務員法との対比でいえば、一般職の地方公務員に対する分限免職・懲戒免職は任命権者の処分によって身分を失わせる仕組みであるのに対し、第83条の失職は住民の投票という直接民主制の手段によって生じる点で法的性質が異なる。
判例・裁判例
第83条自体を直接の争点とした著名な最高裁判例は見当たらないが、解職投票に至る手続の適法性、とりわけ署名収集の適法性が争われた事案は複数存在する。手続過程の瑕疵が投票の効力にどう影響するかは、第85条の判例とあわせて理解する必要がある。
第84条(解職請求期間の制限)
条文原文
第八十四条 第八十条第一項又は第八十一条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の議員又は長の解職の請求は、その就職の日から一年間及び第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票の日から一年間は、これをすることができない。ただし、公職選挙法第百条第六項の規定により当選人と定められ普通地方公共団体の議会の議員又は長となつた者に対する解職の請求は、その就職の日から一年以内においても、これをすることができる。
趣旨・立法背景
就任直後の解職請求や、一度解職投票で信任を得た者に対する繰り返しの請求を制限し、選挙で選ばれた地位の安定を図る規定である。就職の日から1年間、及び解職投票が行われた場合はその投票日から1年間、解職請求そのものを行うことができない。
ただし書は、公職選挙法第100条第6項の規定により無投票で当選人と定められた議員又は長について、就任1年以内であっても解職請求を認める例外である。無投票当選は候補者数が定数を超えなかったために投票を経ずに当選人が確定する制度であり、住民による信任の意思表示を経ていない。そのため、通常の選挙で選ばれた者と同様に1年間の請求禁止期間を設けることは、直接請求制度の趣旨に反すると考えられたことによる。
用語解説
無投票当選とは、公職選挙法第100条第1項及び第3項の規定により、立候補者数が議員定数を超えない場合等に投票を行わずに当選人を決定する制度をいう。同条第6項は、この場合に選挙期日から5日以内に選挙会を開いて当選人を決定すべき旨を定めている。
就職の日とは、議員又は長がその職に就いた日をいい、当選告示の日ではなく実際に職に就いた日を基準とする。
判例・裁判例
期間制限の起算点や無投票当選の該当性そのものが最高裁まで争われた事例は多くないが、解職請求の適法要件として下級審で就職日の認定が争点となった事案がある。実務上は、選挙管理委員会が告示する就職日を基準に請求期間の適否を審査する運用が定着している。
第85条(公職選挙法の準用)
条文原文
第八十五条 政令で特別の定をするものを除く外、公職選挙法中普通地方公共団体の選挙に関する規定は、第七十六条第三項の規定による解散の投票並びに第八十条第三項及び第八十一条第二項の規定による解職の投票にこれを準用する。 2 前項の投票は、政令の定めるところにより、普通地方公共団体の選挙と同時にこれを行うことができる。
趣旨・立法背景
解散投票及び解職投票は選挙そのものではないが、投票の実施手続、開票、効力の争訟といった技術的側面は通常の選挙と共通する部分が多い。そこで、政令で特別の定めをする場合を除き、公職選挙法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定を準用することとし、規定の重複を避けている。準用の具体的範囲及び読替えは地方自治法施行令に委任されている。
第2項は、解散投票又は解職投票を普通地方公共団体の選挙と同時に実施できることを定め、住民及び選挙管理委員会双方の負担軽減を図る。
用語解説
準用とは、ある事項について定められた規定を、性質の異なる別の事項に必要な読替えを行った上で適用することをいう。地方自治法施行令は、公職選挙法第89条第1項(公務員の立候補制限)を解職請求代表者にも準用する形で、公務員が解職請求代表者となることを一定範囲で制限してきた経緯がある。
判例・裁判例
最高裁判所大法廷判決(平成21年11月18日、平成21年(行ヒ)第83号、民集63巻9号2033頁)は、第85条第1項に基づく地方自治法施行令の規定が委任の範囲を超えていないかが争われた事案である。高知県内の町議会議員に係る解職請求において、非常勤の農業委員会委員であった請求代表者予定者が、公職選挙法第89条第1項の準用により解職請求代表者となる資格を欠くとして証明書交付を拒否されたことに端を発する。
最高裁は、公職選挙法第89条第1項が公務員の立候補を制限する趣旨は、公務員がその職務上の地位を利用して選挙の公正を害することを防止する点にあるところ、常勤ではなく職務執行の面でも影響力が限定される非常勤の公務員にまで一律にこの制限を及ぼす地方自治法施行令の規定は、地方自治法第85条第1項による委任の範囲を超えて違法であり、無効であると判断した。委任立法が政令に具体的内容を委ねる場合であっても、委任元の法律の趣旨・目的に照らして合理的な範囲にとどまらなければならないことを示した判例として位置付けられる。この判決を受けて地方自治法施行令の関係規定は改正され、非常勤の公務員について解職請求代表者となる資格制限が緩和された経緯がある。
第86条(主要公務員の解職請求)
条文原文
第八十六条 選挙権を有する者(第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市(以下この項において「指定都市」という。)の総合区長については当該総合区の区域内において選挙権を有する者、指定都市の区又は総合区の選挙管理委員については当該区又は総合区の区域内において選挙権を有する者、道の方面公安委員会の委員については当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内において選挙権を有する者)は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、副知事若しくは副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職の請求をすることができる。 2 前項の請求があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、直ちに請求の要旨を公表しなければならない。 3 第一項の請求があつたときは、当該普通地方公共団体の長は、これを議会に付議し、その結果を同項の代表者及び関係者に通知し、かつ、これを公表しなければならない。 4 第七十四条第五項の規定は第一項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)について、同条第六項の規定は第一項の代表者について、同条第七項から第九項まで及び第七十四条の二から第七十四条の四までの規定は第一項の規定による請求者の署名について準用する。この場合において、第七十四条第六項第三号中「区域内」とあるのは「区域内(道の方面公安委員会の委員に係る請求については、当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内)」と、「市の区及び総合区」とあるのは「市の区及び総合区(総合区長に係る請求については当該総合区、区又は総合区の選挙管理委員に係る請求については当該区又は総合区に限る。)」と読み替えるものとする。
趣旨・立法背景
議員及び長は住民の直接選挙で選ばれるため第80条・第81条により解職投票の対象となるのに対し、副知事、副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員は長が議会の同意を得て選任する、あるいは議会が選挙する職であり、住民による直接選挙を経ていない。第86条は、こうした選任職・議選職の主要公務員についても住民が解職を求める権利を保障する規定であり、直接選挙を経ない職の民主的統制を補う機能を持つ。
必要署名数は選挙権者総数の3分の1を基本とし、総数が40万人を超え80万人以下の場合、80万人を超える場合にはそれぞれ逓減する算式が適用される。この算式は第76条の解散請求、第80条・第81条の議員・長の解職請求と共通の構造であり、大規模団体において必要署名数が過大にならないよう配慮したものである。
解職の可否は住民投票ではなく議会の議決による点が第83条の議員・長の解職と異なる。長が議会に付議し、議員定数の3分の2以上の出席のもとその4分の3以上の同意があったときに解職されるという議決要件は第87条に定められており、通常の議決要件(過半数)よりも加重されている。これは、選任職の身分保障と住民統制のバランスを図る趣旨による。
用語解説
総合区長とは、指定都市が条例により設置する総合区の長であり、地方自治法第252条の20の2に基づき長が議会の同意を得て選任する特別職である。総合区長に係る解職請求は、当該総合区の区域内において選挙権を有する者を母数として計算する点が条文括弧書きに明記されている。
方面公安委員会とは、北海道警察本部の方面本部に対応して道に置かれる公安委員会であり、その委員に係る解職請求は当該方面本部の管轄区域内の選挙権者を母数とする。
第4項が準用する第74条第5項から第9項まで及び第74条の2から第74条の4までの規定は、条例制定改廃請求における署名収集期間、署名の効力審査、罰則等の規定であり、第86条の主要公務員解職請求にも同様の枠組みが適用されることを意味する。
地方公務員法との対比では、副知事・副市町村長等は地方公務員法上も特別職として同法の適用が除外される職であり(地方公務員法第3条第3項)、分限・懲戒に関する一般職向けの身分保障規定は及ばない。その代わりに、住民による直接的な解職請求という統制手段が地方自治法上用意されている点に留意する必要がある。
判例・裁判例
第86条に基づく主要公務員解職請求そのものを直接の争点とした最高裁判例は多くないが、必要署名数の算定基準日や選挙権者名簿の登録状況をめぐる争訟は各地の下級審で扱われてきた。署名収集手続の適法性が争われる場合の判断枠組みは、第74条の解説で扱った条例制定改廃請求に関する判例、及び第85条で扱った解職請求代表者の資格制限に関する最高裁大法廷判決の考え方が共通の参照軸となる。
まとめにかえて
第83条から第86条までは、解職投票の効果、請求期間の制限、公職選挙法の準用、主要公務員解職請求という一連の制度を構成する。次回は第87条以下、主要公務員解職の議決要件及び解職請求制限期間の詳細に進む。

