条文
第八条(市及び町となるべき要件)
第八条 市となるべき普通地方公共団体は、左に掲げる要件を具えていなければならない。
一 人口五万以上を有すること。
二 当該普通地方公共団体の中心の市街地を形成している区域内に在る戸数が、全戸数の六割以上であること。
三 商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること。
四 前各号に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること。
② 町となるべき普通地方公共団体は、当該都道府県の条例で定める町としての要件を具えていなければならない。
③ 町村を市とし又は市を町村とする処分は第七条第一項、第二項及び第六項から第八項までの例により、村を町とし又は町を村とする処分は同条第一項及び第六項から第八項までの例により、これを行うものとする。
第八条の二(市町村の廃置分合等に関する計画の勧告)
第八条の二 都道府県知事は、市町村が第二条第十五項の規定によりその規模の適正化を図るのを援助するため、市町村の廃置分合又は市町村の境界変更の計画を定め、これを関係市町村に勧告することができる。
② 前項の計画を定め又はこれを変更しようとするときは、都道府県知事は、関係市町村、当該都道府県の議会、当該都道府県の区域内の市町村の議会又は長の連合組織その他の関係のある機関及び学識経験を有する者等の意見を聴かなければならない。
③ 前項の関係市町村の意見については、当該市町村の議会の議決を経なければならない。
④ 都道府県知事は、第一項の規定により勧告をしたときは、直ちにその旨を公表するとともに、総務大臣に報告しなければならない。
⑤ 総務大臣は、前項の規定による報告を受けたときは、国の関係行政機関の長に対し直ちにその旨を通知するものとする。
⑥ 第一項の規定による勧告に基く市町村の廃置分合又は市町村の境界変更については、国の関係行政機関は、これを促進するため必要な措置を講じなければならない。
趣旨・立法背景
第八条の趣旨
地方自治法(昭和22年法律第67号)は、市・町・村という3段階の市町村区分を前提とし、それぞれに異なる事務処理権限と制度的待遇を付与している。このため、「市」と「町村」の間には法的に明確な線引きが必要となる。第8条は、その要件を国法レベルで統一的に定める規定である。
明治22年の市制・町村制は人口2万5千人を市制施行の目安とした。昭和22年の地方自治法制定に際して5万人以上への引上げが行われ、都市規模の実態に即した基準が設けられた。同時に、人口の数値だけでなく都市的集積の質を問う第2号・第3号要件、および各都道府県の地域実情を反映できる第4号要件(条例委任)が設けられた構成となっている。
人口の判定基準については、地方自治法第254条が「官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準じる全国的な人口調査の結果による」と定めており、5年ごとの国勢調査確定値が基礎となる。
第二条第十五項との関係
第8条の2が援用する第2条第15項は、「市町村は、その規模の適正化を図るよう努めなければならない」と定める。この努力義務に対する都道府県の側からの援助手段として、第8条の2の勧告制度が位置づけられている。「昭和の大合併」(昭和28年〜35年)および「平成の大合併」(平成11年〜22年)の各局面で実際に機能した条文である。
平成11年に3,232あった市町村数は、市町村合併特例新法の期限切れとなる平成22年3月末までに1,727まで減少した。令和2年国勢調査時点では1,741団体(市792・町743・村183、同年10月1日現在)が存在している。
用語解説
「普通地方公共団体」
第2条第1項に列挙される都道府県・市町村の総称。特別区・一部事務組合等の「特別地方公共団体」(同条第3項)とは区別される。第8条の「市となるべき普通地方公共団体」は、市制施行前の町又は村を指す。
「人口五万以上」(第1号)
国勢調査公示人口による(地自法第254条)。市町村合併による場合には、市町村の合併の特例に関する法律(平成16年法律第59号)第7条が人口要件の特例を定め、合算後の人口が5万人未満でも市制施行を可能にしている。逆に、一度市となった団体がその後5万人を下回っても、自動的に町村へ降格することはない。
「中心の市街地を形成している区域内に在る戸数」(第2号)
当該普通地方公共団体において最も都市的集積が進んだ連続市街地の区域内の住宅・世帯数を指す。「中心の市街地」の外縁の確定は処分ごとの事実認定による。全戸数に対して6割以上という比率要件は、市の本質的性格である都市的集中居住の実態を数値で担保するものである。
「商工業その他の都市的業態に従事する者」(第3号)
農業・林業・漁業等の第1次産業を主業とする者を除く、いわゆる非農村的業態の従事者を指す。同一世帯に属する非就業者(家族・配偶者等)も算入される点が特徴であり、世帯単位で都市的生活圏にあるかを問うている。第2号が「居住地」の集積を、第3号が「生業の性格」の集積をそれぞれ問うものとして、相互補完的な要件となっている。
「当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件」(第4号)
官公署数、文化・教育・保健・衛生施設の整備状況、財政力等、各都道府県が地域の実情に合わせて定める付加要件である。例えば和歌山県の条例は、官公共署の概ね5以上の設置、文化・経済・教育・保健・衛生等の都市的施設の保有等を要件とする(地方自治法第8条第1項第4号の規定による都市的施設その他の都市としての要件に関する条例)。
「廃置分合」
市町村の廃止・設置・分割・合体の総称。複数の市町村を廃止して一つの新市町村を設置する「合体」、他の市町村に区域の全部を組み入れる「編入」、一の市町村を分割して複数の市町村を設置する「分割」、区域の一部を他に移す「分割(分離)」などが含まれる。
「境界変更」
市町村の廃置分合を伴わず、区域の一部を他の市町村の区域に移す処分。廃置分合と並んで第7条が処分手続を定め、第8条の2も両者を並列で規定している。
「勧告」
行政法上、相手方に法的義務を課さず、一定の行為を促す非権力的な行為形式である。第8条の2第1項の勧告は都道府県知事が関係市町村に対して行うものであり、受け取った市町村はこれに拘束されない。ただし第6項により国の関係行政機関は促進措置の義務を負うため、実際上の政治的重量は小さくない。
第八条の解説
第1項各号の関係
第1号(人口5万以上)・第2号(中心市街地戸数集積)・第3号(都市的業態人口集積)・第4号(条例要件)は累積要件である。すなわち、4要件すべてを充足しなければ市制施行の要件を満たさない。
実際の運用では、人口5万人という数値要件が最も目立つ指標として機能しているが、第2号・第3号の充足も都道府県知事の処分判断において確認される。ただし近年の単独市制施行事例では、農村的業態従事者の減少により、第2号・第3号を充足していない団体が実態としてほとんど存在しなくなっており、制度上の意義を保ちつつも実務上の障壁となることは稀になっている。
第2項(町の要件の条例委任)
市の要件(第1項)が法律で直接4号列挙される構造と対照的に、町の要件は都道府県条例に全面委任されている。これは、市ほど国法上の統一的処遇を与える必要がなく、農業地帯・過疎地域・島嶼部といった地域差を条例レベルで柔軟に対応させるためである。
各都道府県の条例は概ね、人口要件(多くは2,000〜5,000人程度)、中心市街地への戸数集積(全戸数の6割程度)、非農村的業態従事者の割合(全人口の6割程度)、都市的施設の整備といった項目を規定する構造となっており、第8条第1項の市の要件を縮小した形となっているものが多い。
第3項(処分の手続準用)
市制施行・市廃止(町村への降格)、町制施行・村への降格の各処分について、第7条の廃置分合・境界変更手続を準用する旨を定める。第7条第1項は、廃置分合または境界変更の処分を関係市町村の申請に基づき都道府県知事が都道府県議会の議決を経て定め、直ちに総務大臣へ届け出ることを規定している。
市を町村にする処分は現行法上も法律上の手続としては存在するが、先述のとおり一度市となった団体が人口減少によって自動的に町村に戻ることはなく、第7条の手続によって初めて町村化される。実際に市から町村へ降格した事例は現行地方自治法制定(昭和22年)以降に存在しない。
第八条の二の解説
第1項(勧告の根拠)
都道府県知事が関係市町村に対して廃置分合または境界変更の「計画」を定めて「勧告」できる制度である。廃置分合・境界変更の「処分」を行う主体は都道府県知事(第7条第1項)であるが、その前段階における促進的働きかけとして、本条の勧告制度が設けられている。
「市町村が第二条第十五項の規定によりその規模の適正化を図るのを援助するため」という目的規定が置かれており、主体的な合併の意思を持つ市町村を都道府県が側面支援する建前となっている。この構成は、昭和28年の町村合併促進法や平成の合併特例法のような強制的な枠組みとは性格が異なり、あくまで任意の誘導にとどまる。
第2項(計画策定・変更における意見聴取)
計画の策定または変更に際し、知事は以下の者の意見を聴かなければならない。
- 関係市町村(第3項による議会議決を経た意見)
- 当該都道府県の議会
- 都道府県区域内の市町村の議会又は長の連合組織(全国市長会・全国町村会の都道府県組織等に相当する機関)
- その他関係機関および学識経験を有する者等
この列挙は例示的な部分を含んでおり、「その他の関係のある機関及び学識経験を有する者等」という包括的文言が追加されている。意見聴取は手続的瑕疵の問題に直結するため、実務上は漏れなく実施することが求められる。
第3項(関係市町村の意見と議会議決)
第2項の手続のうち関係市町村の意見については、当該市町村の議会の議決を経ることが義務付けられている。合併は市町村の組織の存廃に直結するため、首長の意見だけでなく住民代表機関たる議会の民主的正統性を経た意見表明を求めるものである。
第4項(公表・報告)
勧告を行った知事は、直ちに公表するとともに総務大臣に報告しなければならない。「直ちに」は行政手続の即時性を要求する文言であり、相当の期間を置いた事後公表は許容されない。
第5項(総務大臣から国の関係行政機関への通知)
総務大臣は報告を受けたとき、国の関係行政機関の長に通知する。廃置分合は、固定資産税・地方交付税・許認可事務の引継ぎなど複数の省庁に関わるため、各府省が準備・対応できるよう情報共有を義務付けたものである。
第6項(国の関係行政機関の促進措置義務)
勧告に基づく廃置分合・境界変更については、国の関係行政機関が促進に必要な措置を講じる義務を負う。この義務は法律上の「しなければならない」形式であるが、具体的な措置内容は各機関の裁量に委ねられており、促進措置の不履行が直接違法とされる事例は確認されていない。実際上は合併特例債の発行許可(総務省)・国庫補助事業の優先配分等の財政的支援として機能してきた。
判例・行政実例
市制施行要件の充足判断と行政裁量
市制施行の処分(第8条・第7条)は都道府県知事の裁量処分であるが、要件を充足しない団体への市制施行は違法となる。逆に、要件を充足しているにもかかわらず処分を拒絶することが許されるかについては、要件の性質上、充足が認められれば処分義務が生じるとする解釈が有力である。ただし、第4号の条例要件の判断に一定の行政裁量が認められることは否定しがたい。
「平成の大合併」と第8条の2の活用
平成11年から平成22年にかけての合併推進過程では、多くの都道府県が第8条の2に基づく廃置分合計画を策定し関係市町村に勧告した。この勧告を受けた市町村が議会議決を経て意見を提出するプロセスが、合併論議の制度的枠組みとして機能した。最終的な廃置分合処分は関係市町村の申請に基づく任意合併の形式をとったため、勧告制度は直接的に合併を強制するものではなかった。
行政不服申立て・取消訴訟の可否
廃置分合処分(第7条)は行政処分であり、処分の名宛人である関係市町村は原則として抗告訴訟(処分取消訴訟)を提起しうる。これに対し、第8条の2の「勧告」それ自体は法的効果を有しない事実行為に類する行為であり、行政処分性は認められない。したがって、知事の勧告に対して取消訴訟を提起することはできない。
なお、都道府県知事の廃置分合処分に対し関係住民が処分取消しを求めた事例として、最判昭和39年11月18日(昭和34年(行ツ)第113号)がある。同判決は、廃置分合の処分要件の充足を法律問題として審査しつつも、事実認定において行政の裁量を認め、処分を適法と判断した。
補論:行政法上の論点
第4号条例要件の委任の範囲と条例の合憲性
第8条第1項第4号は「当該都道府県の条例で定める」として白地委任に近い形をとる。条例が法律の委任の範囲を逸脱して恣意的な要件を定めた場合、地方自治法に違反し無効となる余地がある。委任の趣旨は「都市的施設その他の都市としての要件」という限定的な列挙に示されており、財政的要件や政治的要件を無制限に加えることは趣旨逸脱となりうる。
第8条の2の勧告と「関与の一般原則」
平成11年の地方分権一括法は、国・都道府県から市町村に対する「関与」について第245条以下で類型と原則を定めた。勧告は同法第245条の4に規定される「技術的な助言及び勧告」に相当するが、第8条の2の勧告は固有の根拠条文を持つ特則的な関与である。関与の一般原則(必要最小限・相互信頼・透明性確保)はこの場合にも妥当し、手続を定める第2項・第3項はその具体化として位置づけられる。
実務上のポイント(地方公務員向け)
市制施行の事務を担当する町村職員にとって、第8条の要件確認は市制施行申請の前提となる。具体的には以下の確認作業が実務上求められる。
第一に、直近の国勢調査確定値(官報公示済み)による人口が5万人以上であることを確認する。国勢調査の結果公示前に人口が5万人を超えたと推定される場合は、国勢調査の結果が公示されるまで申請ができない点に留意する。
第二に、第2号・第3号については、都市的集積の実態調査(住宅地図・就業構造基本調査等の補完資料)により充足を確認し、申請書類に根拠資料を添付する。
第三に、第4号については当該都道府県の条例の要件を事前に確認し、未充足の事項があれば施設整備等の事前対応を検討する。
第8条の2の勧告を受けた市町村の担当職員は、第3項の議会議決の手続を遅滞なく進めるとともに、第4項の公表・報告が知事によって行われた後は国の関係機関との調整が始まる点(第5項・第6項)を念頭に、庁内横断的な合併準備体制を早期に整備することが求められる。
関連条文
- 地方自治法第2条第1項・第15項(普通地方公共団体・市町村の規模適正化努力義務)
- 地方自治法第7条(廃置分合・境界変更の手続)
- 地方自治法第254条(人口の定義)
- 市町村の合併の特例に関する法律(平成16年法律第59号)第7条(市となるべき要件の特例)
- 地方自治法第245条の4(技術的な助言及び勧告)

