はじめに:なぜ今、「食のコンプライアンス」が企業の命運を握るのか
現代社会において、企業のコンプライアンス(法令遵守)は、その社会的責任の根幹をなすものです。特に、人々の生命と健康に直結する「食」の分野においては、ひとたび信頼が失われれば、企業の存続そのものが危ぶまれる事態を招きかねません。
食料自給率が4割程度に留まる我が国では、国内外から多種多様な食品が供給されています。消費者は、その食品が安全であると信じ、パッケージに記載された表示を頼りに商品を選択します。この「信頼」こそが、食品関連事業者が何よりも守るべき最大の価値であり、その根幹を支えるのが「食のコンプライアンス」なのです。
本稿では、食のコンプライアンスの中でも特に問題となりやすい「食品表示」に焦点を当て、関連法規の変遷と現在の中心である「食品表示法」の要諦を解説し、企業が取るべき具体的な対策を提言します。
第一章:消費者の選択の礎「食品表示」とその重要性
食品表示は、単なるラベルではありません。消費者が食品の素性を理解し、アレルギーや健康状態に応じて安全なものを選択し、適切に保存・調理するための、事業者から消費者への最も重要な情報伝達手段です。
この情報に誤りや偽りがあれば、消費者の安全を脅かすだけでなく、公正な市場競争を阻害し、最終的には事業者自身の首を絞めることになります。そのため、食品表示は複数の法律によって厳格に規制されてきました。
第二章:複雑な規制から一元化へ「食品表示法」制定の経緯
かつて食品表示は、主に以下の法律によって多角的に規制されていました。
- 食品衛生法: 食中毒など衛生上の危害防止を目的とし、添加物や消費期限等の表示を規定。
- JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律): 品質の適正表示による消費者の選択支援を目的とし、原材料名や原産地等の表示を規定。
- 健康増進法: 国民の健康増進を目的とし、栄養成分表示や虚偽・誇大表示の禁止を規定。
- 景品表示法: 不当表示による顧客誘引を禁じ、公正な競争を確保。
- 計量法: 内容量の正確な表示を規定。
- 薬事法(現:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律): 食品が医薬品と誤認されるような効能効果の表示を禁止。
これらの法律はそれぞれ目的が異なり、規制が重複・錯綜していました。この複雑さを解消し、消費者と事業者の双方にとって分かりやすく、実効性のある制度を目指して、平成27年(2015年)4月1日に**「食品表示法」**が施行されました。これにより、食品衛生法、JAS法、健康増進法の表示に関する規定が統合され、一元的なルールが構築されたのです。
第三章:食品表示法の核心と企業に課せられる義務
食品表示法は、消費者庁を主管官庁とし、「食品を安全に摂取し、自主的かつ合理的に選択する機会の確保」を目的としています。この法律に基づき、内閣総理大臣が策定する「食品表示基準」に従って、食品関連事業者は正確な表示を行う義務を負います。
近年では、アレルギー表示義務品目に「くるみ」が追加(2025年3月末経過措置期間終了)され、「カシューナッツ」も追加が検討されるなど、社会情勢に応じて基準は常に見直されています。また、遺伝子組換え表示制度の厳格化や、科学的根拠に基づかない「無添加」表示等を規制するガイドラインの策定など、より一層の透明性と正確性が求められる潮流にあります。
表示違反が発覚した場合、行政からの指示や命令、罰金、さらには懲役といった厳しい罰則が科せられます。しかし、それ以上に深刻なのは、ブランドイメージの失墜や顧客離れといった、目に見えない経営へのダメージです。
第四章:信頼を築くためのコンプライアンス体制構築
では、企業はどのようにして食品表示コンプライアンスを徹底すればよいのでしょうか。それは、単に表示ラベルの担当者任せにするのではなく、組織全体で取り組むべき経営課題です。
- 経営トップの強いコミットメント: 経営者がコンプライアンスの重要性を理解し、率先してその姿勢を内外に示すことが全ての出発点となります。
- 全社的な管理体制の構築: 表示内容の作成・チェック・承認プロセスを明確化し、複数部門・複数人によるダブルチェック、トリプルチェックが機能する体制を構築します。
- 継続的な従業員教育: 法改正や社内ルールの変更点について、全従業員を対象とした研修を定期的に実施し、一人ひとりの意識を高めます。
- サプライヤーとの連携強化: 原材料の正確な情報を入手するため、仕入先との情報連携を密にし、定期的な確認を怠りません。
- 有事の際の迅速な対応: 万が一、表示ミスが発覚した場合に備え、迅速な情報開示と製品回収が行えるよう、リコール対応のマニュアルを整備し、訓練しておくことが不可欠です。
コンプライアンスとは、単なる「守り」の活動ではありません。それは、消費者の信頼を勝ち取り、企業の持続的な成長を支えるための、積極的な「攻め」の投資なのです。
コンプライアンス体制の構築・強化は、経験豊富な専門家にご相談ください
食品表示をはじめとするコンプライアンス体制の構築は、一朝一夕には実現できません。組織の隅々にまで法令遵守の精神を浸透させ、不正の芽を自ら摘み取れるような強靭な組織風土をいかにして育むか。それが最も重要な鍵となります。
中川総合法務オフィス代表の中川恒信は、これまで850回を超えるコンプライアンス・ハラスメント研修を通じて、数多くの企業の組織風土改革に貢献してまいりました。
【中川総合法務オフィスの強み】
- 組織風土改革の実績: 心理的安全性を確保し、活発な意見交換を促す「相談型リーダーシップ」を浸透させ、風通しの良い職場環境を構築します。
- 多様な研修プログラム: ハラスメントやクレーム対応に不可欠な「アンガーマネジメント」の導入など、企業の課題に応じた最適な研修をご提供します。
- 不祥事対応の豊富な経験: 不祥事を起こした組織のコンプライアンス態勢再構築を支援した経験に基づき、実効性のある再発防止策を策定します。
- 「生きた」リスク管理: 現に複数社の「内部通報外部窓口」を担当しており、不正の早期発見と自浄作用の向上をサポート。マスコミから不祥事企業の再発防止策について意見を求められることも多数あります。
ルールを整備するだけでは、コンプライアンスは形骸化します。真に価値があるのは、従業員一人ひとりが当事者意識を持ち、誠実に行動する企業文化です。
貴社の持続的な成長と社会からの揺るぎない信頼獲得のために、私たちの知見と経験をぜひご活用ください。
コンプライアンス研修・コンサルティング 費用:1回 300,000円(税別)~
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