はじめに - 急増するコンプライアンス違反倒産の現実

現代の企業経営において、コンプライアンス(法令遵守)は事業継続の生命線となっています。2024年のコンプライアンス違反による倒産は過去最多の388件を記録し、2023年度には351社がコンプライアンス違反が原因で倒産に至りました。この数字は、従来の日本型経営の限界を如実に示しています。

1.「日本型」ミウチ経営の特徴と過去の成功要因

身内の結束力・閉鎖性が生み出した組織力

これまでの日本型経営では、企業は村社会の中の「ウチ」であり、内における不祥事は家族の不祥事と同じく外に公表しないのが当たり前とされました。

もともと、子供の違法行為を外に向かって公表したがる親はいないように、企業内の問題は内部で解決するという考え方が支配的でした。それはそれで、ある種の道理に適っていたことは否定できません。

高度経済成長期における機能的側面

日本で終身雇用制度が導入され始めたのは1950年頃で、戦後の高度経済成長期において企業は優秀な人材を獲得し、他企業との獲得競争に勝つため、年功序列や新卒一括制度と同時に終身雇用制度を導入しました。経済が右肩上がりだった時代には、この「ミウチ」意識が組織の結束力を高め、企業の成長を支える重要な要素として機能していました。

2.身内意識の減少が進んだ現代の組織とコンプライアンス

雇用制度の根本的変化

しかし、これは今日の企業文化の中では崩壊してきています。会社は「ウチ」ではないのです。多くの従業員にとって、会社は給与をもらうところに過ぎないと考える傾向が強まっています。

終身雇用は崩壊し、年功序列型賃金と人事も変化し、能力主義の時代の雇用現場にすっかり変わってしまいました。一方で、日本の約半分の企業が現在も終身雇用制度を継続しているという現実もありますが、従業員の意識は大きく変化しています。

雇用形態の多様化と情報漏洩リスク

派遣やアルバイト、契約社員などの非正規雇用者が増加し、従来の「身内意識」を前提とした情報管理は困難になっています。身内意識の低下した職場環境では、違法行為を隠蔽する動機が薄れ、むしろコンプライアンス違反は外部に漏れやすい状況となっています。

なぜならば、身内意識の低いところで、何を庇う必要があるのでしょうか。コンプライアンス違反はコンプライアンス違反です。取り繕う必要はありません。

3.法規範社会における企業責任の重大化

都市型社会における法の支配

人と人との規範の慣習・風習等が希薄化した都市生活では、アメリカのように法が社会規範の中心となります。そのような社会では、国民は自分も法を守る以上、企業も法を守って当たり前と考えることは極めて自然な発想です。

生命・安全に関わる分野での厳格化

昨今においても、人の生命や身体に重大な影響を与える製品や食品分野で、組織的な違法行為が発覚し、企業活動を大幅に制限される事例が続発しています。これらの根本原因は、コンプライアンス態勢整備の不備にあります。

コンプライアンス違反は信用失墜につながり、業績不振や損害賠償によるダメージなど、経営にも大きな損失をもたらすことが、多くの事例で証明されています。

4.コンプライアンス違反職員への企業対応の変化

過去の庇護主義から厳格対応へ

かつてのコンプライアンス違反行為は、「会社のため」という大義名分があれば、企業も職員を救済する傾向がありました。

しかし、現代では状況が一変しています。談合に関与した職員をそのまま雇用し続けるでしょうか?会社の売上向上のために、規定のデータに「虚偽」を記載した職員を庇護するでしょうか?あるいは、業績向上を目的としてパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを行った職員を継続雇用するでしょうか?

企業リスク管理の観点

現代の企業経営においては、コンプライアンス違反を行った職員の庇護は、企業全体のリスクを増大させる行為として認識されています。むしろ、迅速かつ適切な処分により、企業の健全性を対外的に示すことが重要となっています。

5.日本の経営者のコンプライアンス意識と課題

認識不足が招く経営リスク

これらの問題の主因は、日本の経営者のコンプライアンス意識の低さにあります。

いまだに、コンプライアンスの本質的意味を理解していない経営者が存在します。コンプライアンスがCOSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)フレームワークでどう位置づけられるかを把握していない経営者も少なくありません。

手段と目的の取り違え

さらに深刻なのは、コンプライアンスを単なる「手段」と考えているアナクロニズム的思考です。現代においては、コンプライアンス経営こそが企業存続の前提条件なのです。

経営者としての適格性

コンプライアンス経営を怠ることは、企業活動の停止、ひいては企業生命の終焉を意味します。この重要性を理解しない経営者は、現代では経営者として不適格であると言わざるを得ません。

6.現代に求められるコンプライアンス経営の実践

組織風土の根本的変革

従来の「ミウチ」意識に依存した経営から脱却し、透明性と説明責任を重視した組織運営への転換が急務です。これには、以下の要素が不可欠です:

  • 透明性の確保: 意思決定プロセスの可視化
  • 説明責任の徹底: ステークホルダーへの適切な情報開示
  • 継続的改善: コンプライアンス態勢の定期的見直し

実効性のあるコンプライアンス体制構築

単なる規程整備に留まらず、実際に機能するコンプライアンス体制の構築が必要です。これには、適切な内部通報制度、定期的な研修実施、リスクアセスメントの実行などが含まれます。

まとめ - 時代に適応する企業経営への転換

「日本型」ミウチ経営の時代は終焉を迎えています。2024年にコンプライアンス違反による倒産が過去最多を記録した現実は、従来の経営手法の限界を明確に示しています。

現代の企業経営者には、コンプライアンスを経営の中核に据えた新しい経営パラダイムの構築が求められています。これは単なる制度変更ではなく、企業文化そのものの根本的変革を意味します。

適応できない企業は市場から退場し、適応した企業のみが持続的成長を遂げることができる時代となったのです。


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