条文原文
第28条の2(管理監督職勤務上限年齢による降任等)
第一項 任命権者は、管理監督職(地方自治法第二百四条第二項に規定する管理職手当を支給される職員の職及びこれに準ずる職であつて条例で定める職をいう。以下この節において同じ。)を占める職員でその占める管理監督職に係る管理監督職勤務上限年齢に達している職員について、異動期間(当該管理監督職勤務上限年齢に達した日の翌日から同日以後における最初の四月一日までの間をいう。以下この節において同じ。)(第二十八条の五第一項から第四項までの規定により延長された期間を含む。以下この項において同じ。)に、管理監督職以外の職又は管理監督職勤務上限年齢が当該職員の年齢を超える管理監督職(以下この項及び第四項においてこれらの職を「他の職」という。)への降任又は転任(降給を伴う転任に限る。)をするものとする。ただし、異動期間に、この法律の他の規定により当該職員について他の職への昇任、降任若しくは転任をした場合又は第二十八条の七第一項の規定により当該職員を管理監督職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。
第二項 前項の管理監督職勤務上限年齢は、条例で定めるものとする。
第三項 管理監督職及び管理監督職勤務上限年齢を定めるに当たつては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。
第四項 第一項本文の規定による他の職への降任又は転任(以下この節及び第四十九条第一項ただし書において「他の職への降任等」という。)を行うに当たつて任命権者が遵守すべき基準に関する事項その他の他の職への降任等に関し必要な事項は、条例で定める。
第28条の3(管理監督職への任用の制限)
任命権者は、採用し、昇任し、降任し、又は転任しようとする管理監督職に係る管理監督職勤務上限年齢に達している者を、その者が当該管理監督職を占めているものとした場合における異動期間の末日の翌日(他の職への降任等をされた職員にあつては、当該他の職への降任等をされた日)以後、当該管理監督職に採用し、昇任し、降任し、又は転任することができない。
第28条の4(適用除外)
前二条の規定は、臨時的に任用される職員その他の法律により任期を定めて任用される職員には適用しない。
第28条の5(管理監督職勤務上限年齢による降任等及び管理監督職への任用の制限の特例)
第一項(略) 任命権者は、他の職への降任等をすべき管理監督職を占める職員について、次に掲げる事由があると認めるときは、条例で定めるところにより、異動期間の末日の翌日から起算して一年を超えない期間内で当該異動期間を延長し、引き続き当該管理監督職を占める職員に当該管理監督職を占めたまま勤務をさせることができる。
一 当該職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の他の職への降任等により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由
二 当該職員の職務の特殊性を勘案して、当該職員の他の職への降任等により当該管理監督職の欠員の補充が困難となることにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由
第二項(略) 任命権者は、延長された管理監督職を占める職員について前項各号に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、更に一年を超えない期間内で延長することができる。ただし、更に延長される異動期間の末日は、最初の異動期間の末日の翌日から起算して三年を超えることができない。
第三項(略) 任命権者は、特定管理監督職群に属する管理監督職を占める職員について条例で定める事由があると認めるときは、一年を超えない期間内で異動期間を延長し、引き続き当該管理監督職を占めたまま勤務させ、又は当該特定管理監督職群の他の管理監督職に降任・転任することができる。
第四項(略) 第一項・第二項の規定により延長された管理監督職を占める職員について第三項所定の事由があると認めるときは、更に一年を超えない期間内で延長することができる。
第五項 前各項に定めるもののほか、異動期間の延長及び当該延長に係る職員の降任又は転任に関し必要な事項は、条例で定める。
趣旨・立法背景
役職定年制の導入経緯
地方公務員法に管理監督職勤務上限年齢制度(以下「役職定年制」という)が導入されたのは、令和3年(2021年)の地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律(令和3年法律第63号)による。施行は令和5年(2023年)4月1日である。
同改正は、同年の国家公務員法等の一部を改正する法律(令和3年法律第61号)による国家公務員の役職定年制導入(国公法第81条の2以下)に対応したものである。
制度創設の背景には三つの要因がある。
第一に、少子高齢化の進行と定年延長への対応である。令和3年改正では定年を65歳まで段階的に引き上げることとした(地公法第28条の6)。定年延長後も高齢職員が管理監督職に長期在任すれば、組織の新陳代謝が停滞し、若手・中堅職員の昇任機会が閉塞するおそれがある。役職定年制はこの問題への対応として位置付けられる。
第二に、組織活力の維持である。管理監督職には組織の方針決定・部下育成・外部との折衝といった機能が集中する。加齢に伴い職務遂行能力に個人差が生じやすいポストを、一定の年齢基準に基づいて交代させることで、組織全体のパフォーマンスを安定させる趣旨がある。
第三に、国・他の地方公共団体との権衡(第28条の2第3項)である。条例で基準を定める際も、この権衡原則が適用されるため、国家公務員の60歳役職定年と大きく乖離した設計は困難となる。
用語解説
管理監督職
地方自治法第204条第2項に規定する「管理職手当」を支給される職員の職、及びこれに準ずる職として条例で定める職をいう(第28条の2第1項括弧書き)。
具体的には部長・課長相当職以上の管理職が典型例である。ただし、条例による追加が可能なため、団体によっては課長補佐・係長相当職を含む場合もある。
管理職手当の支給職を基軸としつつ条例で上乗せできる二層構造となっており、各地方公共団体が自律的に制度設計できるよう配慮されている。
管理監督職勤務上限年齢
条例で定める(第28条の2第2項)。国家公務員の役職定年は60歳(国公法第81条の2第2項)であり、地方公共団体も国との権衡(第28条の2第3項)上、60歳を基準として条例を制定している団体が大多数を占める。
異動期間
管理監督職勤務上限年齢に達した日の翌日から、同日以後における最初の4月1日までの期間をいう(第28条の2第1項括弧書き)。
たとえば、ある職員が令和7年(2025年)9月15日に60歳に達した場合、異動期間は同年9月16日から令和8年(2026年)3月31日までとなる。任命権者はこの期間内に他の職への降任等を完了しなければならない。
4月1日を基準としたのは、年度更新と人事異動のサイクルに合わせ、実務上の混乱を回避するためである。
他の職への降任等
第28条の2第1項本文に基づく降任または転任(降給を伴うものに限る)を指し、以下の類型がある。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 降任 | 管理監督職から非管理監督職への降任 |
| 転任(降給を伴うもの) | 管理監督職勤務上限年齢が当該職員の年齢を超える別の管理監督職への転任で、給与が低下するもの |
降給を伴わない転任は「他の職への降任等」に含まれない点に注意を要する。
特定管理監督職群(第28条の5第3項)
職務の内容が相互に類似する複数の管理監督職であって、欠員を容易に補充できない年齢別構成その他の特別の事情がある管理監督職として、人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては地方公共団体の規則)で定める管理監督職の群をいう。
特定の専門職領域(たとえば公衆衛生医師、技術系専門職)などで適用が想定されている。
制度の全体構造
役職定年制は、次の三層から成る。
第一層:義務的降任等(第28条の2第1項本文)
↓ 原則:異動期間内に降任等を実施
第二層:延長特例(第28条の5)
↓ 例外:公務の運営に著しい支障がある場合は最大3年延長
第三層:任用制限(第28条の3)
異動期間末日の翌日以降は当該管理監督職への任用不可
義務的発動の原則(第28条の2第1項)
管理監督職勤務上限年齢に達した職員に対する他の職への降任等は、任命権者に義務的に発動が求められる。条文が「するものとする」と規定することからも裁量の余地は原則として認められていない。
ただし、以下の二つの但し書き事由がある場合は適用されない。
- 異動期間中に法律の他の規定により昇任・降任・転任がなされた場合
- 第28条の7第1項(定年前再任用短時間勤務の特例)により管理監督職のまま勤務させることとした場合
延長特例(第28条の5)
延長の許容期間と回数は次のとおりである。
| 根拠条項 | 延長期間 | 上限の通算 |
|---|---|---|
| 第1項(職務遂行上の特別の事情・欠員補充困難) | 1年以内 | — |
| 第2項(第1項事由の継続) | さらに1年以内 | 合計3年以内(第2項但し書き) |
| 第3項(特定管理監督職群の特例) | 1年以内 | — |
| 第4項(第3項事由の継続) | さらに1年以内 | — |
第1項・第2項系統と第3項・第4項系統は、事由の性質が異なる別系統の延長根拠である。ただし、同一職員に第1項・第2項延長後に第3項事由が生じた場合の適用については第4項が調整規定を置いている。
判例・裁判例
役職定年制は令和5年(2023年)施行であるため、制度固有の最高裁判決は2026年6月時点で蓄積されていない。ただし、関連する先行判例を以下に整理する。
(1)降任処分の適法性に関する先行判例
最高裁判所第三小法廷平成16年(2004年)1月15日判決(民集58巻1号226頁)は、分限処分としての降任について、任命権者の裁量の範囲と逸脱・濫用の判断基準を示した判例として参照される。役職定年制による「他の職への降任等」が義務的な法効果である点では従来の分限降任とは性質が異なるが、処分の手続・基準の条例委任構造を論じる際に引用される。
なお、本条文に基づく具体的な処分の取消訴訟における判決は、中川総合法務オフィスが確認できる範囲では2026年6月時点で公刊されていない。実務上の参考に供する目的で上記先行判例を挙げるにとどめる。
(2)国家公務員制度との比較
国家公務員の役職定年制(国公法第81条の2以下)については、人事院規則11-11(役職定年による降任等及び管理職への任用の制限)が詳細を規定している。国家公務員においても制度施行(令和5年)後日が浅く、公刊された行政訴訟判例は限られる。
国家公務員法との比較
地方公務員法の役職定年制は、国家公務員法(国公法)の役職定年制(第81条の2〜第81条の7)を参考に立法されたため、基本構造は共通する。主要な相違点は以下のとおりである。
| 比較項目 | 地方公務員法 | 国家公務員法 |
|---|---|---|
| 勤務上限年齢の規定形式 | 条例で定める(第28条の2第2項) | 原則60歳と法律本体で明示(国公法第81条の2第2項) |
| 管理監督職の定義 | 管理職手当支給職+条例追加(第28条の2第1項括弧書き) | 官職の職制上の段階の最高段階の職制上の地位に就くべきもの等(国公法第81条の2第1項) |
| 延長事由・延長手続 | 条例委任(第28条の5各項) | 内閣総理大臣との協議・同意(国公法第81条の4〜第81条の5) |
| 特定管理監督職群の規定主体 | 人事委員会規則又は地公団体の規則 | 人事院規則 |
| 延長上限 | 通算3年以内(第28条の5第2項但し書き) | 通算3年以内(国公法第81条の4第2項) |
最大の差異は、勤務上限年齢そのものを条例に委任している点である。国家公務員は法律で60歳と明定されているが、地方公務員は条例で各団体が定める。ただし権衡原則(第28条の2第3項)により、国との整合性が求められるため、実態上60歳を採用する団体が大半である。
補論:行政法上の論点
1. 「他の職への降任等」の処分性
役職定年制に基づく降任・転任が抗告訴訟の対象たる「処分」(行政事件訴訟法第3条第2項)に当たるかは実務上問題となる。
通説・判例上、降任処分は職員の公務員たる身分に直接影響を及ぼす公権力の行使として処分性が肯定される(前掲最判平成16年1月15日参照)。役職定年制による降任も、職員の意に反する給与・職位の変動をもたらす点で同様に処分性が認められると解するのが自然である。
もっとも、役職定年制による降任等は法律上「するものとする」と義務付けられており、分限降任(第28条第1項)のような個別的・裁量的な性格は薄い。この義務的降任を不服申し立ての対象とできるかは、(a)手続的適正(条例に基づく基準の遵守)、(b)延長特例の不行使の違法性、(c)異動先の職位の不当性という観点から争われうる。
2. 裁量統制論
任命権者が延長特例(第28条の5第1項・第2項)を発動するか否かは、条例所定の事由に該当するかの認定を含む行政裁量に属する。
裁量の逸脱・濫用の審査においては、最高裁判所第三小法廷昭和52年(1977年)12月20日判決(民集31巻7号1101頁、神戸税関事件)が示した「社会通念上著しく妥当性を欠く」という審査基準が参照される。延長事由の認定に際し、任命権者が恣意的または合理的根拠なく延長を拒否・付与した場合には、この基準に照らした違法性の評価が生じうる。
3. 条例委任の射程
管理監督職勤務上限年齢(第28条の2第2項)、他の職への降任等に係る遵守基準(同第4項)、延長特例の要件・手続(第28条の5第5項)はすべて条例に委任されている。
地方公務員法は国家公務員法と異なり地方自治を前提とした法構造をとるため、これらの条例委任は立法政策として整合的である。ただし、権衡原則(第28条の2第3項)が条例制定権を事実上拘束する点で、「地方自治体の自律的設計」には構造的制約がある。
実務上の留意点
第一に、条例整備の確認である。役職定年制は条例なく機能しない。施行団体においては、(a)管理監督職の範囲、(b)勤務上限年齢、(c)降任等基準、(d)延長事由の条例規定の有無を確認する必要がある。
第二に、異動期間の計算である。上限年齢到達日の翌日から最初の4月1日まで、という計算は年度内到達か年度外到達かで異動期間の長短が大きく変わる。たとえば4月2日に上限年齢に達した職員の異動期間はほぼ1年(翌年3月31日まで)となるが、3月31日に達した職員の異動期間は翌日の4月1日が「最初の4月1日」となるため、実質1日となりうる。この点の解釈については総務省通知(令和3年8月31日付総行公第118号等)を参照されたい。
第三に、任用制限(第28条の3)との関係である。異動期間末日の翌日以降は同一管理監督職への再任用が禁止される。再任用短時間勤務・定年前再任用等の人事上の選択肢は、この制限を前提に組み立てる必要がある。


