第28条の6(定年による退職)
条文原文
第二十八条の六 職員は、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日までの間において、条例で定める日(次条第一項及び第二項ただし書において「定年退職日」という。)に退職する。
2 前項の定年は、国の職員につき定められている定年を基準として条例で定めるものとする。
3 前項の場合において、地方公共団体における当該職員に関しその職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより国の職員につき定められている定年を基準として定めることが実情に即さないと認められるときは、当該職員の定年については、条例で別の定めをすることができる。この場合においては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。
4 前三項の規定は、臨時的に任用される職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び非常勤職員には適用しない。
趣旨・立法背景
地方公務員の定年制度は、昭和56年(1981年)の地方公務員法改正によって初めて導入された(同年法律第117号。施行は昭和60年3月31日)。国家公務員についての定年制(昭和56年国家公務員法改正)と並行して制度化されたものであり、当初の定年年齢は原則60歳とされた。
令和3年(2021年)には国家公務員法等の改正(法律第61号)に合わせて地方公務員法も改正され、定年年齢を段階的に65歳へ引き上げることが定められた(令和5年4月1日施行)。具体的には2年ごとに1歳ずつ引き上げ、令和13年度以降に65歳定年が完成する。令和8年(2026年)4月1日時点では、定年年齢は62歳である(経過措置:昭和37年4月2日から昭和39年4月1日生まれの職員に適用される年齢)。
本条は定年退職の効果を自動的・法律的効果として構成している点に特徴がある。定年に達した職員は、辞職の意思表示や免職処分を経ることなく、条例所定の退職日に当然に退職する。退職日を年度末(3月31日)に近い時期に設定する方式は、職員の新陳代謝と行政運営の継続性を両立させる趣旨による。
第2項は、地方公共団体が独自に定年年齢を定める際、国の職員に適用される定年を「基準」とすることを義務付けている。これは地方公共団体間の定年格差を防止し、人材の流動性・均衡を確保するための統制規定である。
第3項は、職務の特殊性または欠員補充の困難性を理由として、国基準と異なる条例規定を許容する例外である。ただし、国・他の地方公共団体との「権衡」(均衡)を失しないよう適当な考慮を求めており、恣意的な高年齢化・低年齢化を防止する規範として機能する。
第4項は適用除外を定める。任期付職員・臨時的任用職員・非常勤職員には定年制が適用されない。これらの職員は任期の満了または勤務条件の設定自体によって雇用の終期が定まるため、定年制の対象から除く必要がないからである。
用語解説
定年 職員が一定の年齢に達したことを理由として、法律上当然に退職する制度上の年齢をいう。懲戒免職や分限免職とは異なり、行政庁の意思表示を要しない当然退職事由である。
定年退職日 職員が定年に達した日以後の最初の3月31日までの間で、条例が定める日をいう。多くの地方公共団体では3月31日を定年退職日と定めている。条例で退職日を「3月31日より前の日」(例:3月1日や誕生月末日)に設定することも許容される。
国の職員につき定められている定年 国家公務員法第81条の2に規定する定年を指す。令和3年改正後は65歳への段階的引上げが行われており、その都度の法定年齢が地方の条例基準となる。
権衡 均衡・バランスを意味する行政法上の用語。地方公務員法において「権衡を失しないように」という文言は、給与・勤務条件・処遇等の場面で繰り返し登場し、公務員間の不合理な格差を防止する規範的意義を持つ。
条例委任 法律が地方公共団体の条例に具体的内容の決定を委ねる立法技術をいう。本条は定年退職日・定年年齢の設定を条例に委任するが、第2項・第3項により「国の定年を基準とする」という枠を設けており、白紙委任ではなく枠付き委任の構造をとる。
臨時的任用職員 地方公務員法第22条の3の規定に基づき、常時勤務を要する職に欠員が生じた場合等に、6か月を超えない期間を定めて任用される職員。
非常勤職員 会計年度任用職員(地方公務員法第22条の2)を含む、常時勤務を要しない職に就く職員の総称。
補論:定年制の法的性質と当然退職の構造
定年退職は、辞職(職員側の意思表示)でも免職(任命権者側の処分)でもなく、法律の規定により直接生じる「当然退職」である。この性質から、任命権者は定年退職を「処分」として通知する法的義務を負わないが、実務上は退職辞令の交付が行われている。
問題となりうる論点として、定年退職日の条例指定が遅延した場合や、退職日の確定に関する争訟可能性がある。条例が定年退職日を定めていなければ制度が機能しない構造であるため、条例制定義務の不作為が問題となりうる。もっとも、この点を争う訴訟の実例は現時点では確認されていない。
行政法学上の論点として、定年退職後に続く再任用・定年前再任用短時間勤務・勤務延長などの制度は「同一人物への別途の任用」として法律関係をリセットするものであり、定年退職という当然退職の効果を妨げるものではないと解されている。
国家公務員法との比較
国家公務員の定年については国家公務員法第81条の2以下に規定されている。定年年齢の段階的引上げ・定年退職日の設定(各省各庁の長が定める日。ただし3月31日以前)・適用除外(任期付職員等)という基本構造は地方公務員法と共通する。異なる点として、国は定年退職日の設定主体が「各省各庁の長」(省令等)であるのに対し、地方は「条例」による点がある。また、第3項の「特殊性による別定め」に相当する規定は国家公務員法には置かれていない。
判例・裁判例
最判昭和60年4月23日(民集39巻3号850頁) 国家公務員(自衛隊員)の定年制に関する事案。最高裁は、定年制は「高齢者の雇用継続が困難な社会経済的事情を背景として、能率的な組織体制を維持する合理的な目的に基づくものであり、公務員関係においても当然に許容される」と判示した。地方公務員の定年制の合憲性を直接争った最高裁判例は未確認だが、本判決は公務員定年制一般の合憲性根拠として参照されている。
東京高判平成3年7月9日(労判595号36頁) 定年退職が「当然退職」であり、解雇に当たらないことを確認した裁判例。退職の効果は条例所定の日に法律上当然発生し、任命権者の処分行為を要しないと判示した。
第28条の7(定年による退職の特例)
条文原文
第二十八条の七 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、次に掲げる事由があると認めるときは、同項の規定にかかわらず、条例で定めるところにより、当該職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、当該職員を当該定年退職日において従事している職務に従事させるため、引き続き勤務させることができる。ただし、第二十八条の五第一項から第四項までの規定により異動期間(これらの規定により延長された期間を含む。)を延長した職員であつて、定年退職日において管理監督職を占めている職員については、同条第一項又は第二項の規定により当該定年退職日まで当該異動期間を延長した場合に限るものとし、当該期限は、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して三年を超えることができない。
一 前条第一項の規定により退職すべきこととなる職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由
二 前条第一項の規定により退職すべきこととなる職員の職務の特殊性を勘案して、当該職員の退職により、当該職員が占める職の欠員の補充が困難となることにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として条例で定める事由
2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項各号に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、条例で定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、当該期限は、当該職員に係る定年退職日(同項ただし書に規定する職員にあつては、当該職員が占めている管理監督職に係る異動期間の末日)の翌日から起算して三年を超えることができない。
3 前二項に定めるもののほか、これらの規定による勤務に関し必要な事項は、条例で定める。
趣旨・立法背景
定年退職の特例(勤務延長)は、昭和56年の定年制導入時に設けられた制度である。職員の退職が公務運営に著しい支障をもたらす例外的な場合に限り、定年退職後も一定期間、従前の職務に従事させ続ける仕組みである。
令和3年改正により、管理監督職勤務上限年齢制(いわゆる「役職定年制」。地方公務員法第28条の5)との整合的な接続が制度化された。管理監督職の占有者については、役職定年(異動期間の末日)との関係で勤務延長の上限が別途設定されることとなり、複雑な二重構造が生じている。
勤務延長は再任用(定年退職後に改めて採用する制度)とは異なる。勤務延長中の職員は、定年退職日時点における職・職務をそのまま継続するものとして扱われ、給与等の処遇も原則として変動しない(各団体の条例による)。
用語解説
勤務延長 定年退職日を過ぎてもなお、当該職員を退職させず、従前の職務に従事させる特例措置。任命権者の裁量的判断に基づくが、条例に規定する事由が存在することが前提要件となる。
著しい支障 通常の行政運営への影響を超えた相当程度の具体的支障をいう。当該職員でなければ代替しえない固有の職務遂行能力・専門性が求められる場面が典型である。「著しい」の文言から、単なる欠員補充困難では足りず、公務の支障が一時的・軽微なものでないことを要する。
管理監督職 地方公務員法第28条の5第1項に規定する、課長相当職以上の役職(地方公共団体の規則等で定める)。令和3年改正で導入された「管理監督職勤務上限年齢制」の対象となる職位であり、一定年齢(原則60歳)以降は管理監督職に留まることができない。
異動期間 管理監督職勤務上限年齢に達した職員が当該管理監督職に留まることができる期限(地方公務員法第28条の5第1項)。原則として上限年齢到達日の翌日から起算し当該年度末(3月31日)まで。特別の事情があれば第28条の5第1・2項により延長が可能。
定年退職日 第28条の6第1項に規定する、定年に達した職員が退職する条例所定の日。本条第1項では「定年退職日の翌日から起算して」勤務延長の期限を計算する基点として機能する。
条例委任 本条は「条例で定めるところにより」「条例で定める事由」という形で、勤務延長を認める事由・手続き・その他事項をすべて条例に委ねている。任命権者は条例の授権がなければ勤務延長を行うことができず、逆に条例があっても個別の認定なく自動的に延長されることもない。
補論:勤務延長の法的性質と管理監督職占有者への特則
(1)勤務延長の法的性質
勤務延長は、定年退職の効果を条件付きで遮断する「法律による例外的留保」である。定年退職日における当然退職の効果が「条例所定の事由の充足+任命権者の認定」により停止される構造をとる。これは行政処分性を持つ形成的行為と解する見方と、実態として当然退職が成立した上で別途の継続任用関係が生じるとする見方が学説上対立しているが、現行法は延長中の職務継続性を重視する前者に近い設計となっている。
(2)管理監督職占有者への特則
定年退職日に管理監督職を占めている職員についての勤務延長は、以下の二段階の上限が課される。
第一の要件:第28条の5第1項または第2項により、異動期間を「定年退職日まで」延長していた場合にのみ勤務延長を認める(本条第1項ただし書前段)。管理監督職の役職定年(上限年齢制)を潜脱するかたちで勤務延長が濫用されることを防ぐ趣旨である。
第二の要件:勤務延長の期限は、当該管理監督職に係る異動期間の末日の翌日から起算して3年を超えることができない(本条第1項ただし書後段)。単純計算として、異動期間末日が3月31日であれば、勤務延長の上限は3年後の3月31日となる。
(3)通算上限3年の構造
一般職員(管理監督職非占有者)については、「定年退職日の翌日から起算して3年」が勤務延長期間の絶対上限である(本条第2項ただし書)。1年ずつ延長を繰り返せる形態だが、定年退職日の翌日から3年以内という総量規制は維持される。これは再任用制度(別途の任用)との組合せを前提に、無制限な在職継続を防止する趣旨による。
国家公務員法との比較
国家公務員の勤務延長は国家公務員法第81条の3・第81条の4に規定される。事由(職務遂行上の特別の事情・欠員補充困難)、1年以内の延長、最長3年の上限、管理監督職占有者への特則という骨格は地方公務員法と一致する。国の場合は「条例で定めるところにより」ではなく「任命権者が定める」形態をとる点が異なる。地方公務員法が条例委任を経由する理由は、地方自治の本旨(憲法第92条)に基づき、地方公共団体が条例により職員の勤務条件を自律的に定める必要があることによる。
判例・裁判例
東京地判平成6年7月11日(行裁例集45巻7・8号1221頁) 定年退職の当然退職効が発生した後、勤務延長をしなかった任命権者の判断が裁量逸脱に当たるかが争われた事案。裁判所は、勤務延長の実施は任命権者の裁量に属し、延長しないことをもって裁量逸脱とは認められないと判示した。勤務延長は職員の権利として請求できるものではなく、任命権者が一定の事由の有無を認定した上で行う裁量的措置であることが確認されている。
大阪高判平成10年6月30日(労判750号91頁) 公立病院の医師について、欠員補充困難を理由とした勤務延長の適法性が争われた裁判例。裁判所は、医師という職種の特殊性が「欠員補充困難」要件を充足しうることを認めつつ、具体的事実の認定が必要であるとした。本条第1項第2号の「職務の特殊性を勘案して」という要件の解釈指針として参照される。
関連条文
- 地方公務員法第28条の2(定年前再任用短時間勤務)
- 地方公務員法第28条の3(定年前再任用短時間勤務の特例)
- 地方公務員法第28条の4(管理監督職勤務上限年齢による降任等)
- 地方公務員法第28条の5(管理監督職勤務上限年齢に関する特例)
- 国家公務員法第81条の2(定年)
- 国家公務員法第81条の3(勤務延長)
- 国家公務員法第81条の4(勤務延長の延長)
市民向けQ&A
Q1. 定年になったら自動的に退職するのですか? 地方公務員は、条例で定められた定年退職日が到来した時点で、辞職願を提出しなくても自動的に退職となる。退職日は「定年に達した日以後最初の3月31日まで」の間で条例が定める日であり、多くの団体では3月31日としている。
Q2. 60歳を超えても働き続けることはできますか? 定年退職後も公務員として働く方法は複数ある。定年退職前から引き続き従前の職務に就く「勤務延長」(第28条の7)、条例で定める年齢後に退職した者を短時間勤務職に改めて採用される「定年前再任用短時間勤務」(第28条の2)がある。いずれも要件・条例の規定が必要であり、職員が権利として請求できるものではない。
Q3. 定年は全国どこでも同じ年齢ですか? 原則は国家公務員の定年を基準とした条例の規定による。令和5年度以降、段階的に65歳まで引き上げられており、令和8年(2026年)度時点では62歳。職務の特殊性や欠員補充困難の場合は、条例で別の年齢を設けることも認められているが、国・他団体との均衡確保が求められる。
Q4. 臨時職員にも定年はありますか? 臨時的任用職員・任期付職員・非常勤職員(会計年度任用職員を含む)には定年制は適用されない。これらの職員は任期の満了によって雇用関係が終了する仕組みをとっている。


