条文原文

第十六条 普通地方公共団体の議会の議長は、条例の制定又は改廃の議決があつたときは、その日から三日以内にこれを当該普通地方公共団体の長に送付しなければならない。

② 普通地方公共団体の長は、前項の規定により条例の送付を受けた場合は、その日から二十日以内にこれを公布しなければならない。ただし、再議その他の措置を講じた場合は、この限りでない。

③ 条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して十日を経過した日から、これを施行する。

④ 当該普通地方公共団体の長の署名(総務省令で定める署名に代わる措置を含む。)、施行期日の特例その他条例の公布に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならない。

⑤ 前二項の規定は、普通地方公共団体の規則並びにその機関の定める規則及びその他の規程で公表を要するものにこれを準用する。但し、法令又は条例に特別の定があるときは、この限りでない。


趣旨・立法背景

条例は、議会の議決だけでは住民を拘束する効力を持たない。住民に対して法的拘束力を持たせるには、その内容を広く知らせる行為——公布——が不可欠である。本条は、議決から公布・施行に至るまでの手続的枠組みを一括して定め、地方立法手続の完結性を確保する。

立法的基盤としては、憲法94条が地方公共団体に「法律の範囲内で条例を制定する権能」を保障しており、制定された条例が適正に公示されなければ、住民の予見可能性と法的安定性を損なう。国法においては、国会が可決した法律を内閣が天皇の名において公布する(憲法7条1号)という手続と並行する構造であり、本条はその地方版として機能する。

昭和22年制定当初は、議長から長への送付義務期間は「遅滞なく」という曖昧な定めであったが、昭和38年改正で「3日以内」と数値化された。長の公布義務期間は当初から20日を基本としつつ、再議制度との整合が逐次整備されてきた。

令和7年(2025年)5月16日公布の「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第15次地方分権一括法・令和7年法律第35号)により、第4項に「総務省令で定める署名に代わる措置」が追加された。具体的には、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行する電子証明書に基づく電子署名、または電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第2条第1項に規定する電子署名が、長の自署に代わる措置として認められる(地方自治法施行規則第1条)。同改正は令和7年5月16日から施行されている。


逐項解説

第1項——議長の送付義務(3日以内)

議会の議決があった日から3日以内に、議長は条例を長に送付する義務を負う。「3日以内」は暦日計算であり、議決の翌日を起算日として3日目の終了時が期限となる(民法140条類推)。

送付は、議決の内容と議決日を明示した文書で行われるのが実務上の通例であり、実際には会議録の謄本を添付して送付する団体が多い。この送付義務は議長固有の職務であり、事務局を通じた事務処理によっても義務の主体は議長にある。

議決があった日の解釈については、正式な会議録が作成された日ではなく、議場での表決が成立した日を指すと解されている(行政実例:昭和26年12月17日自行行発第248号)。

第2項——長の公布義務(20日以内)・再議等の例外

送付を受けた長は、その日から20日以内に公布しなければならない。この義務は原則として覊束的であり、長が条例の内容に同意しない場合であっても、20日以内に公布するか再議に付すかのいずれかを選択しなければならない。単純に公布を放置することは義務違反となる。

ただし書が定める「再議その他の措置」には以下のものが含まれる。

第1に、一般再議(法176条)。長が議決に異議がある場合、10日以内に理由を示して再議に付すことができる。再議で出席議員の3分の2以上が原議決を支持すれば条例は確定し、長は公布義務を負う。

第2に、違法性を理由とする再議(法176条4項)。長が条例を法令に違反すると判断した場合、20日以内に再議に付さなければならない(義務的再議)。再議でも同様の議決がなされた場合、長は都道府県知事(市町村の場合)または総務大臣(都道府県の場合)に審査を申し立てることができる。

第3に、専決処分等の措置。これらの措置を講じた期間中は20日の期限が進行しないと解される。

再議等を経て条例が確定した後は、長は改めて送付を受けた日から20日ではなく、再確定の日から合理的期間内に公布する義務を負うと解されている。

第3項——施行期日の原則(公布日から起算して10日経過後)

「公布の日から起算して十日を経過した日」から施行するのが原則である。起算は公布の日の翌日(民法140条本文)からではなく、公布の日から「起算して」と明示されているため、公布日そのものを第1日として数える点に注意が必要である(行政実例多数)。すなわち、3月1日に公布された条例は、3月11日(10日を経過した日)から施行される。

条例に特別の定めを置けば施行期日を繰り上げることも繰り下げることも可能であり、多くの条例が「公布の日から施行する」と定めて即日施行とする例が見られる。施行期日を将来の特定日に設定する場合も適法である。

第4項——公告式事項の条例委任・令和7年改正

公布に必要な事項——長の署名(電子署名を含む)、施行期日の特例規定の様式、公告の媒体・方法——は条例で定めなければならない。これを「公告式条例」という。大部分の自治体が「○○市(町村)公告式条例」を制定し、条例・規則の公布様式や掲示場の指定等を定めている。

令和7年改正前は、長の「自署」が条例原本への記入要件とされており、電子的手続が介在する余地がなかった。改正後は総務省令が定める電子署名——具体的にはJ-LIS認証の電子証明書またはeKYC準拠の電子署名——によることが可能となり、条例原本の電磁的記録による管理が制度化された。なお、電子署名は長自らが措置を講ずるものであり、補助職員による代行は認められない(令和7年5月16日付総務省通知・総行行第208号)。

同通知は、電子署名が付された条例原本の電磁的記録について、不正アクセス等による改変を防ぐため、情報セキュリティポリシーに基づく適切な管理を求めている。

第5項——規則・その他規程への準用

第3項(施行期日の原則)と第4項(公告式条例委任)は、普通地方公共団体の長が制定する規則(法15条1項)、その他の機関が定める規則(行政委員会規則等)および公表を要する規程に準用される。ただし、法令または条例に特別の定めがあれば、その定めが優先する。

「公表を要するもの」の判断は、その規程の性質(住民の権利義務を規律するか否か)によるが、公表の必要がないとされる内部規程には本条の準用は及ばない。


用語解説

公布  制定された条例・規則の内容を一般に周知させる公的行為をいう。公布によって条例は法的効力を持つ(最判昭和25年10月10日民集4巻10号462頁)。国における官報への登載に相当するが、地方公共団体では公告式条例が定める方法(掲示場への掲示・自治体ホームページへの掲載等)による。

施行  条例・規則が現実に効力を発し、適用されることをいう。公布によって条例が存在するものとして確定し、施行によってその内容が住民を拘束する。「公布」と「施行」は必ずしも同時ではなく、本条3項が10日の標準猶予期間を設けているのは、住民が内容を知り、準備する機会を確保するためである。

再議  長が議会の議決に対して再度の審議を求める制度。法176条の一般的拒否権的再議と、法176条4項の違法性を理由とする義務的再議がある。国法における内閣の「法律案の送付拒否」に類似するが、地方自治法上の再議は一定の条件のもとで議会の再可決が可能な点で異なる。

公告式条例  本条4項に基づき、条例・規則の公布に関する具体的手続を定める条例。公布の様式(表題、公布の年月日、長の署名・電子署名)、掲示場の設置場所、掲示期間等を定める。地方自治法施行規則1条は、令和7年改正後、電子署名の具体的要件を規定する。

電子署名(令和7年改正追加)  「電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年法律第102号)2条1項に規定する電子署名、またはJ-LIS認証に基づく電子証明書を用いたものを指す。条例原本の電磁的記録に付すことで、従来の紙媒体への自署に代わる法的効果を持つ。


判例・裁判例・行政実例

最判昭和25年10月10日民集4巻10号462頁

条例は公布によって効力を生ずるとの原則を示した判例として、公告式条例の解説において繰り返し引用されている(大和市公告式条例逐条解説参照)。公布行為の法的位置づけを確認した先駆的判例であり、施行期日が別途定められている場合でも、条例の「存在」は公布時点で確定するという解釈の出発点となっている。

行政実例・昭和26年12月17日自行行発第248号

議決があった日の解釈について、会議録の作成日ではなく表決が成立した日を基準とすることを明らかにした行政実例。送付期限(3日以内)の起算点に直結するため、実務上の参照頻度が高い。

行政実例・昭和30年5月20日自行行発第98号

長が公布義務を負う20日の期間は、再議に付した期間中は進行しないとする解釈を示した行政実例。再議期間中の公布義務の停止という実務解釈の根拠として機能している。

最判平成2年1月18日民集44巻1号1頁(墓地条例事件)

条例が施行される前に行われた行為に対して施行後の条例を遡及適用することは、特段の規定がない限り許されないとする原則を示した。本条3項が定める施行期日制度の実質的意義——遡及効の原則禁止——を裏付ける判例として位置づけられる。


国法・他法令との比較

国の立法手続では、国会が可決した法律を内閣が連署した上で天皇が公布し(憲法7条1号・73条1号)、官報に登載される。地方の場合は長が公布権者であり、公布媒体は公告式条例が定める。国においては内閣が公布を拒否する制度は存在しないとされているが、地方自治法は長に再議権を認め、その間の公布義務を停止する構造をとっている点で独自の制度設計となっている。

地方公務員法との関係では、条例は職員の任用・給与・服務・懲戒等の根拠規範となり(地公法24条3項・29条等)、その条例が適法に公布・施行されていることが、職員に対する拘束力の前提条件となる。公布手続に瑕疵があった場合の条例の効力については、学説上は手続的無効説と治癒説が対立しているが、判例は個別事案の瑕疵の重大性・明白性を基準として判断する傾向にある。


実務上の留意点

第1に、議長から長への送付が3日の期限内に行われなかった場合であっても、条例の公布自体が直ちに無効とはならないとする行政解釈が定着している。ただし、期限超過は手続的瑕疵であり、不作為の違法と評価される余地がある。

第2に、長が20日以内に公布も再議もしなかった場合、住民訴訟(法242条の2)や義務付け訴訟(行訴法3条6項)の対象となりうる。議決により権利利益を有する住民または団体が当事者適格を持つかは争いがあるが、手続的違法の問題として議論される。

第3に、令和7年改正により電子署名が解禁されたが、各自治体は公告式条例を改正して電子署名を公布手続に組み込む必要がある。施行に向けた準備が整い次第、電子掲示場を活用した公布が可能となる(世田谷区が令和7年第4回区議会定例会に提案した公告式条例改正が実例)。インターネット環境を持たない住民への配慮として、従来の紙媒体による掲示との並行運用が当面は必要とされる。

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