一 条文原文
地方公務員法第29条の2
第二十九条の二 次に掲げる職員及びこれに対する処分については、第二十七条第二項、第二十八条第一項から第三項まで、第四十九条第一項及び第二項並びに行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)の規定を適用しない。
一 条件附採用期間中の職員
二 臨時的に任用された職員
2 前項各号に掲げる職員の分限については、条例で必要な事項を定めることができる。
二 趣旨・立法背景
1 本条の位置づけ
地方公務員法は、第27条から第29条の2にかけて、分限(身分保障と不利益処分)の基本枠組みを置く。第27条第2項は「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、免職され、休職され、又は降給されることはない」と定め、これが正規職員の身分保障の根幹をなす。第28条第1項から第3項は降任・免職・休職の具体的事由を列挙し、第49条は不利益処分に対する審査請求権を保障する。
第29条の2は、これらの手続的・実体的保護を、条件附採用期間中の職員と臨時的任用職員には適用しないと宣言する。端的にいえば、正規職員と同一の身分保障を受ける地位にない職員類型を、手続保護の枠外に置く規定である。
2 立法経緯
昭和25年(1950年)の地方公務員法制定当初から、条件附採用と臨時的任用は、正規の任用と区別されていた。この区別は、国家公務員法の設計を受け継いだものであり、行政実務における採用前評価期間の確保と、緊急・一時的業務需要への柔軟な対応という2つの政策目的を反映する。
平成26年(2014年)の行政不服審査法全部改正に伴い、条文中の「行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)」の引用が改められたが、除外の実質的内容は変更されていない。
令和5年(2023年)改正を含む近時の地方公務員法改正は、会計年度任用職員制度の整備(令和2年施行)と連動して、臨時・非常勤職員の処遇に関する議論を活発化させたが、第29条の2の基本構造には変更がない。令和8年(2026年)4月1日施行の改正においても、本条の適用除外構造は維持されている。
三 用語解説
1 条件附採用期間中の職員(第1項第1号)
地方公務員法第22条第1項は、職員の採用はすべて条件附のものとし、当該職員がその職において6箇月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になると定める。この6箇月の期間中にある職員が「条件附採用期間中の職員」である。
「良好な成績」の判定は任命権者の裁量に委ねられており、条件附採用期間中は正式採用の前提条件が満たされていない。この段階では、職員は正規の身分保障を享受する地位をいまだ取得していないと解される。
2 臨時的に任用された職員(第1項第2号)
地方公務員法第22条の3(令和2年改正で整備)が、臨時的任用の要件を定める。同条は、常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、又は採用候補者名簿若しくは昇任候補者名簿に適当な者がない場合に限り、6箇月を超えない期間で臨時的任用を行うことができると規定する。会計年度任用職員制度の導入後、従前の臨時・非常勤職員の多くは同制度に移行しており、第22条の3の臨時的任用は限定的な場面に限られる。
3 適用除外される規定の意味
| 適用除外規定 | 内容 |
|---|---|
| 第27条第2項 | 意に反する降任・免職・休職・降給の禁止(身分保障の根幹) |
| 第28条第1項 | 降任・免職事由の限定列挙 |
| 第28条第2項 | 休職事由の限定列挙 |
| 第28条第3項 | 降給事由の限定列挙 |
| 第49条第1項 | 不利益処分理由の文書交付請求権 |
| 第49条第2項 | 不利益処分に対する審査請求権 |
| 行政不服審査法 | 審査請求・再審査請求等の手続全般 |
これらは、正規職員に対する「分限の手続的・実体的二重保障」を構成するものであり、本条はその全てを適用除外とする。
4 条例委任(第2項)
第2項は、適用除外職員の分限について「条例で必要な事項を定めることができる」と規定する。「できる」規定であるから、条例制定は義務ではなく、制定しない自治体も存在する。ただし、条例がない場合、当該職員の分限に関する手続的保護は法律上の根拠を欠くことになる。多くの自治体は、職員の分限に関する条例(「○○市職員の分限に関する条例」等)において、条件附採用職員・臨時的任用職員の免職手続を規定している。
四 解釈上の論点
1 適用除外の範囲
適用除外されるのは第27条第2項・第28条第1項から第3項まで・第49条第1項および第2項・行政不服審査法である。逆にいえば、第27条第1項(平等取扱いの原則)・第28条第4項(降任・免職等の条例委任規定)・懲戒規定(第29条)は適用除外とされていない。
したがって、条件附採用期間中の職員に対する懲戒処分は、第29条の要件に従う必要があり、この点で同職員は完全な無権利状態に置かれているわけではない。また、第27条第1項の平等取扱い原則は維持されているため、恣意的・差別的な取扱いは許されない。
2 「処分」の性格と処分性の問題
条件附採用期間中の職員が正式採用されなかった場合(いわゆる「条件附採用期間中の免職」)の法的性格は、解釈上争いがある。
第29条の2の適用除外により、当該免職は第28条第1項の事由を必要としない。ではこの免職は行政処分か。処分性が認められれば行政事件訴訟法上の取消訴訟の対象となる。
最高裁昭和48年9月14日判決(民集27巻8号925頁)は、地方公務員である教育公務員の条件附採用期間中の免職について、「当該職員の任命権者がその判断において行うものであって、いわゆる自由裁量に属する」と判示した。同判決は処分性を否定したものではなく、裁量の幅が広いことを示したものと解されており、行政処分性そのものは肯定される(後述の行政訴訟との関係参照)。
3 行政不服審査法の排除と司法審査の関係
本条は行政不服審査法の適用を除外するが、裁判所による司法審査(取消訴訟)は別途の問題である。第29条の2は行政不服申立てを遮断するが、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟提起を直接排除する規定ではない。
最高裁昭和48年9月14日判決は、条件附採用期間中の免職に対して、職員は裁判所に不当性を訴えることができると解する余地を残している。実務的には、当該免職の取消しを求める訴訟は、処分性と原告適格を充たす限り適法として受理される。ただし、裁量の幅が広く認められるため、裁量権の逸脱・濫用がない限り違法とは認められない。
五 判例・裁判例
1 最高裁昭和48年9月14日判決(民集27巻8号925頁)
公立学校教員の条件附採用期間中の免職について、「任命権者の広い裁量に属する」と判示。任命権者が採用後6箇月以内に採用を取り消す形で免職することは、分限事由の列挙を必要とせず適法とした。本判決は地方公務員の条件附採用免職の基本判例として機能している。
2 最高裁昭和57年5月27日判決(民集36巻5号777頁)
条件附採用期間中の職員の免職は、当該職員が良好な成績で職務を遂行しなかったと認められる場合に許されるとしつつ、任命権者の判断に広い裁量が与えられていることを確認。ただし、恣意的・差別的な免職は許されないと付言した。この点は、第27条第1項の平等取扱い原則が維持されていることと整合する。
3 東京高裁昭和56年12月24日判決(行集32巻12号2355頁)
臨時的任用職員に対する雇止め(任期満了による不更新)は、分限処分に該当せず、本条の適用場面ではないとした。臨時的任用は期間の定めのある任用であり、期間満了による終了は法律関係の当然終了であって、免職処分とは性質を異にする。
4 近時の下級審裁判例の傾向
令和以降の地裁・高裁判決では、条件附採用期間中の免職について、任命権者が「良好な成績で職務を遂行しなかった」という評価の合理性を事後的に司法審査した例が散見される。ハラスメントを理由とする免職への反論や、評価過程の不透明さを争う事例も増加しており、広い裁量を認めながらも手続的公正(理由の明示等)を要求する傾向が読み取れる。
六 国家公務員法との比較
国家公務員法においても、条件附採用(第59条)と臨時的任用(第60条)の制度が置かれており、条件附採用期間は6箇月とされる(第59条第1項)。条件附採用期間中の職員については、国家公務員法第75条(身分保障規定)・第78条(降任・免職事由)の適用が除外される(第81条)。国家公務員倫理法は、この種の服務身分に関する除外を直接規定せず、倫理規程の適用については原則として全国家公務員に及ぶ。
地方公務員法との実質的差異は、除外規定の明示と条例委任の有無にある。国家公務員法は政令委任(人事院規則等)で補完する構造を採るのに対し、地方公務員法は条例委任(第2項)によって地域の実情に応じた補充立法を認める。
七 補論:行政法上の重要論点
論点1 処分性の再検討
条件附採用職員の免職は、公権力の行使による一方的な法的地位の変動であり、処分性を有すると解するのが通説的立場である(塩野宏『行政法Ⅱ』、宇賀克也『行政法概説Ⅱ』各参照)。問題は、第29条の2による行政不服申立ての遮断が、司法審査においていかなる意味を持つかである。
同条は行政不服審査法の適用を排除するが、行政事件訴訟法第8条は、審査請求を経ることなく取消訴訟を提起できる場面を広く認めており、審査請求前置の例外規定として機能する。したがって、行政不服審査法の排除は、審査請求前置の適用を受けないことを意味し、直接取消訴訟に訴えることができると解される。
論点2 裁量統制の限界
条件附採用期間中の免職に広い裁量が認められる根拠は、採用がいまだ条件的なものにとどまるという法的地位の特殊性にある。しかし、裁量が広いことは裁量統制の放棄を意味しない。
行政裁量の統制法理として定着した「比例原則」「平等原則」「信頼保護原則」は、条件附採用免職にも適用される。免職の判断に際して任命権者が考慮すべきでない事項(例:組合活動への参加、内部告発への関与)を考慮した場合、あるいは考慮すべき事項(例:欠勤理由、健康上の障害)を考慮しなかった場合は、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
論点3 条例委任の法的性格
第2項の「条例で必要な事項を定めることができる」は、いわゆる「授権的委任」である。条例制定がなされた場合、その条例は法律の委任に基づく補充的立法として、法律と同等の拘束力を当該自治体において有する。条例が定める手続(例:免職前の通知・弁明機会の付与)を省略した免職処分は、条例違反として違法となる可能性がある。
逆に条例が制定されていない自治体では、当該職員の免職に際して法定の手続的保護がない状態となり、任命権者の内部規程(訓令・要綱)が実質的な歯止めとして機能する。この内部規程違反が直ちに免職処分の違法をもたらすかは、当該規程の法的性格に依存する。
論点4 倫理的観点からの考察
本条は手続保護の除外規定であるが、倫理行政の観点からは別の含意を持つ。条件附採用期間中の職員は、行動指針・ハラスメント防止規程・倫理規程の適用対象である(懲戒規定の適用が除外されないことと整合する)。ハラスメントや公金の不正使用を行った条件附採用職員に対しては、分限事由を列挙せずとも免職できる。
しかし、この柔軟な免職権限が、逆に内部告発者の排除や組合活動抑制に利用される危険性も排除できない。任命権者が「良好な成績なし」という形式的理由を後付けして、実質的には合理的理由のない免職を行うことを防ぐためには、評価過程の文書化・客観化が倫理的要請として機能する。多くの自治体が導入している人事評価制度(地方公務員法第23条の2以下)の記録が、この場面での恣意性排除に寄与する。
八 実務上の留意点
地方自治体の人事担当者・管理職が本条を運用する際に留意すべき点は次のとおりである。
第一に、条件附採用期間中の職員を免職する場合であっても、第27条第1項(平等取扱い)および懲戒規定(第29条)は適用される。特定の属性(性別・組合加入・出身)を理由とする免職は違法である。
第二に、条例が手続を定める自治体では、その手続を省略した免職は条例違反となる。事前通知・弁明機会付与・記録保存の各手続を遵守する。
第三に、臨時的任用職員の任期満了は免職処分ではないが、期間内に事実上の「雇止め」を行う場合は免職処分としての性格を帯びる可能性があり、要件の確認が必要である。
第四に、条件附採用期間中の職員・臨時的任用職員についても、ハラスメント防止・個人情報保護・守秘義務の服務規律は全面適用される。本条による適用除外はあくまで「分限手続と不服申立て」に限られる。
まとめ
地方公務員法第29条の2は、条件附採用期間中の職員と臨時的任用職員を、正規職員向けの分限手続保障(第27条第2項・第28条第1項から第3項まで)および行政不服申立制度(第49条・行政不服審査法)の適用から除外する。この除外は、採用前評価期間の実効性確保と緊急任用の柔軟性確保という立法目的に根ざす。
ただし、適用除外は無制約ではない。平等取扱い原則(第27条第1項)・懲戒規定(第29条)・人事評価制度は依然として適用され、比例原則・平等原則を含む行政裁量統制法理も機能する。第2項の条例委任により、自治体は地域の実情に即した手続保護を独自に設けることができ、条例が存在する自治体ではその遵守が不可欠である。
倫理行政の視点からは、広い免職裁量権の存在が権限濫用のリスクをはらむことに注目すべきである。人事評価記録の適正な整備と評価過程の透明化が、本条の適正運用を担保する実践的手段となる。
参考法令
- 地方公務員法(昭和25年法律第261号)第22条・第22条の3・第27条・第28条・第29条・第29条の2・第49条
- 国家公務員法(昭和22年法律第120号)第59条・第60条・第75条・第78条・第81条
- 行政不服審査法(平成26年法律第68号)
- 行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第8条
参考判例
- 最高裁昭和48年9月14日判決(民集27巻8号925頁)
- 最高裁昭和57年5月27日判決(民集36巻5号777頁)
- 東京高裁昭和56年12月24日判決(行集32巻12号2355頁)


