企業を取り巻く環境は日々変化し、その中で「コンプライアンス(法令遵守)」の重要性はますます高まっています。特に近年は、企業不祥事の防止や社会からの信頼確保のため、法的な義務化が進み、その内容は多岐にわたるようになりました。
1.企業におけるコンプライアンス=法令遵守活動の進展とその背景
企業内におけるコンプライアンス、すなわち法令遵守活動の重要性は、現代社会において不可欠な経営課題となっています。平成バブル経済の崩壊後、多くの企業が経営コスト削減の波の中で、総務や法務といった「間接部門」の人員削減を進めました。しかし、現在では企業の健全な運営と持続的な成長のためには、これらの部門への優秀な人材の配置が必須であるという認識が広がり、欧米諸国と同様に、日本国内でも社内弁護士の増加傾向が顕著になっています。
また、法科大学院制度の導入に見られるように、法律専門家の数はかつてない規模で増加しており、社会の秩序が伝統や慣習に依存するのではなく、法に基づいた解決へと本格的に移行する時代が到来しています。弁護士による法的サービスをより利用しやすくするため、全国の裁判所周辺には「法テラス」が設置され、法的アクセス環境が整備されています。
企業内での不正行為を是正し、被害の拡大を防ぐために、労働者による内部告発を保護する法律である「公益通報者保護法」も制定されました。この法律は、2022年6月に改正法が施行され、従業員数301人以上の事業者に対し、内部通報に適切に対応するための体制整備が義務化され、内部通報担当者には守秘義務と罰則規定が設けられるなど、その実効性がさらに強化されています。直近では、公益通報者保護法の一部改正案が2025年通常国会で成立し、通報者への不利益な処分を行った事業者への刑事罰導入がなされることになったなど、通報者保護の動きは一層強まっています。
これからの企業活動においては、適法性、すなわちコンプライアンス経営が、かつて環境保護活動が社会的な注目を集めたように、その企業にとって市場での存続を左右するほどの重要性を増していくでしょう。
現代の企業運営では、紙の文書管理に留まらず、電子メールの保存、電子帳簿の保存、e-文書法の活用などを通じて、あらゆる記録を正確に管理することが求められます。これにより、コンプライアンスの透明性を確保し、万が一の事態にも迅速かつ適切に対応できる体制を構築することが不可欠となっています。
2.コンプライアンス経営=市場存続条件:最新の動向
このように企業内における法令遵守活動が社会通念として極めて重要な位置を占めるようになると、コンプライアンス経営ができない会社は市場から完全に閉め出される時代になったと言えるでしょう。2024年度にはコンプライアンス違反による倒産が過去最多を記録しており、特に粉飾決算や各種補助金の不正受給が増加傾向にあり、サービス業や建設業での発生が目立つなど、その深刻な影響が顕在化しています。
こうした状況を受け、企業ではコンプライアンス研修が活発化し、専門的なコンプライアンス資格の取得も盛んになっています。
「会社法」や「金融商品取引法(J-SOX法)」等の法令を遵守した経営、財務書類の詳細かつ正確な作成、独占禁止法の遵守など、企業と法との関わりはもはや密接不可分であり、これを疎かにすることは企業の存続を脅かす事態に直結します。特に、J-SOX法(内部統制報告制度)は2024年4月1日以後に開始する事業年度から15年ぶりに大きく改訂され、「財務報告の信頼性」が非財務情報を含む「報告の信頼性」へと拡大されたほか、不正リスクへの評価・対応の重要性やIT統制の強化が明記されるなど、より包括的かつ実効性の高い内部統制システムの構築が求められています。
3.内部統制:業務の適正を確保する体制の法制化と近年の改正
会社法で規定されている「業務の適正」とは、違法行為や不正、ミスやエラーなどが行われることなく、組織が健全かつ有効・効率的に運営されるよう、各業務で所定の基準や手続きを定め、それに基づいて管理・監視・保証を行うことを意味します。この概念は、単なる法令遵守にとどまらず、情報管理や危機管理も包含する、より広範な「内部統制システム」の一部と位置づけられます。
2006年6月に成立した金融商品取引法(いわゆる日本版SOX法)では、「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制」という概念を新たに用いています。
この体制の整備は、会社の業務に関する重要な決定事項であるため、取締役の過半数で決定され、各取締役への委任はできません(会社法348条2項・3項4号)。取締役会設置会社では取締役会でこれを決定する必要があり(会社法362条4項6号)、大会社である取締役会設置会社ではその決定が義務付けられています(同条5項)。委員会設置会社においては、決定内容が執行役の業務執行の適正確保という内容に若干異なり(会社法416条1項1号ホ)、大会社か否かにかかわらず決定が義務付けられます(会社法416条2項)。
それぞれ、条文上は「業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」とあるように、具体的な内容は法務省令(会社法施行規則)に委任されています。
◆「法務省令で列挙されている内容」(会社法施行規則98条、100条より)
- 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
- 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
- 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
- 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
- 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
(委員会設置会社では若干内容が異なります。)この他、会社の機関構成によって若干異なる場合があります。
◆監査役設置会社以外では、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとします。
監査役設置会社では、以下の体制を含むものとします。
- 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
- 前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項
- 取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制
- その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制
近年の内部統制基準の改訂(2023年4月改訂、2024年4月1日以後始まる事業年度より適用)では、不正リスクへの評価・対応がより重要視され、IT活用におけるセキュリティ確保の重要性も追記されました。また、内部統制の評価範囲は「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」へと拡大され、非財務情報も含まれるようになっています。これらの改正は、企業のガバナンスとリスク管理を一層強化し、社会の変化に対応するためのものです。
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組織風土の改善に不可欠な「心理的安全性」と「相談型リーダーシップ」の浸透、ハラスメントやクレーム対応における「アンガーマネジメント」の導入など、具体的な課題解決に繋がる実践的な指導を行います。これまでに850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当し、多くの企業で不祥事発生後のコンプライアンス態勢再構築を成功させてきた実績があります。また、内部通報の外部窓口を現に担当しており、マスコミからも不祥事企業の再発防止に関する意見をしばしば求められるなど、その専門性と経験は確かなものです。
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